老犬は半年に1回の健康診断を!
老犬における具体的な健康チェック法としては、動物病院で定期的に健康診断を受けるというのがゴールドスタンダードです。病院で行われる血液検査、尿検査により、肉眼では気づくことができない体内の変化もいち早く発見できるでしょう。健康診断の頻度は半年に1回が目安です。これまで1年に1回だったものを倍に増やしましょう。では犬における「シニア」とか「老境」とはいったいいつから始まるのでしょうか?
犬における「高齢」と「老齢」
下で示した表は犬の体型に合わせて考案された「老い」の目安です。カンザス州立大学の老齢医学専門家が考案したものが元になっています(W.D.Fortney, 2012年)。
犬の体型別に見た高齢期
- 【小型】9kg未満→8歳以降
- 【中型】9~23kg未満→7歳以降
- 【大型】23~54kg未満→6歳以降
- 【超大型】54kg以上→4歳以降
老犬の検査項目
体内の微妙な病変は、人間の五感だけではとらえることができません。血液検査や精密機械を用いれば、そうした病変もいち早く発見することができます。また健康診断と同時に、ワクチン接種の相談も行うようにしましょう。以下は、健康診断で行われる一般的な検査項目です。
老犬の飼い方(文一総合出版)
検査項目と正常値
- 血中の総タンパク量血中の総タンパク量はTPとも呼ばれ、正常値は5.4~8.2g/dlです。
数値が正常値より高い場合は高たんぱく血症、脱水、腫瘍、感染症、逆に低い場合は肝臓疾患、腎臓疾患、栄養不良などの可能性を示唆します。 - 血中アルブミン値
血中アルブミン値はALBとも呼ばれ、正常値は2.5~4.4g/dlです。
数値が正常値より高い場合は慢性の感染症や脱水、逆に低い場合は栄養不良、消化不良、慢性腎不全、肝硬変、寄生虫症、ストレス性疾患などの可能性を示唆します。 - AST
ASTはGOTとも呼ばれ、正常値は14~45U/lです。
数値が正常値より高い場合は慢性肝炎、肝硬変、筋肉疾患、急性心筋梗塞などの可能性を示唆します。 - ALT
ALTはGPTとも呼ばれ、正常値は10~118U/lです。
数値が正常値より高い場合は肝硬変、脂肪肝、肝胆道疾患などの可能性を示唆します。 - ビリルビン
ビリルビンはBILとも呼ばれ、正常値は0.1~0.6mg/dlです。
数値が正常値より高い場合は黄疸、溶血、肝障害、胆道閉塞などの可能性を示唆します。 - 尿素窒素
尿素窒素はBUNとも呼ばれ、正常値は7~25mg/dlです。
数値が正常値より高い場合は下痢、嘔吐、発熱、尿路閉塞、慢性腎不全、尿毒症、脱水、糖尿病、消化管出血、栄養不良、逆に低い場合は肝硬変、尿崩症、妊娠、低タンパクなどの可能性を示唆します。 - クレアチニン
クレアチニンはCREとも呼ばれ、正常値は0.3~1.3mg/dlです。
数値が正常値より高い場合は急性糸球体腎炎、腎結石、腎盂腎炎、脱水、ヤケド、尿路閉塞、逆に低い場合は筋萎縮小、尿崩症などの可能性を示唆します。 - 心臓の検査 心電計、超音波によるエコースキャン、レントゲンなどで心臓の状態を検査します。
- レントゲン検査 筋骨格系疾患のほか、内臓疾患を検査するときにも用いられます。
- 尿検査 テストペーパーを用いて、朝一で出た尿を検査します。尿タンパク、尿糖、尿中ビリルビン、潜血などをチェックします。
健康診断の重要性
一見健康そうな老犬でも、飼い主によって見過ごされている病気を密かに抱えている可能性が高いようです。例えば過去に行われた調査では、以下のような傾向が確認されています。
老犬と病気の見落とし
見過ごされがちな犬の病気を早期発見するためには、飼い主が正常と異常の違いをしっかりと把握すると同時に、老犬の体や動きを日常的にチェックし、異常が見つかり次第すみやかに健康診断を受けることが必要です。
高齢犬と老齢犬の違い?
2016年、老犬たちの年齢層を「高齢」と「老齢」とに分け、両グループの検査結果にどのような違いが見られるのかという調査がベルギーで行われました。犬の区分は「小型犬=9kg未満」、「中型犬=9~23kg未満」、「大型犬=23~54kg未満」、「超大型犬=54kg以上」で、以下は主な結果です(※こちらの調査では小型犬の高齢期が9歳からになっています)。
調査を行ったベルギーのチームは、若い犬から取った単一の参照値を絶対基準として用いるのではなく、高齢犬には高齢犬専用の、老齢犬には老齢犬専用の参照値があったほうがよいと言っています。つまり若い犬を元にして決めた「正常範囲」をそっくりそのまま老犬に当てはめてしまうと、正常な老化現象まで病気として誤解してしまう可能性があるということです。これは獣医学における今後の課題かもしれません。 NEXT:家でできる健康チェック
高齢犬と老齢犬の検査値一覧
- 基本検査項目→HTML版・PDF版
- 身体検査値→HTML版・PDF版
- 血液検査値→HTML版・PDF版
- 肝臓の酵素→HTML版・PDF版
- 尿比重(USG)→HTML版・PDF版
- 尿中タンパク:クレアチニン比(UPC)→HTML版・PDF版
調査を行ったベルギーのチームは、若い犬から取った単一の参照値を絶対基準として用いるのではなく、高齢犬には高齢犬専用の、老齢犬には老齢犬専用の参照値があったほうがよいと言っています。つまり若い犬を元にして決めた「正常範囲」をそっくりそのまま老犬に当てはめてしまうと、正常な老化現象まで病気として誤解してしまう可能性があるということです。これは獣医学における今後の課題かもしれません。 NEXT:家でできる健康チェック
老犬の体をチェックする方法
老犬を長生きさせるためには、飼い主が自宅において犬の体を頻繁にチェックし、病変にいち早く気づいてあげなければなりません。
老犬の天敵は「腫瘍」
以下のグラフは老犬における死亡原因として多い疾患カテゴリを示したものです。元データはアニコム損保の「家庭どうぶつ白書2017年度版」を使わせていただきました。
家庭どうぶつ白書2017(アニコム)
犬の死亡原因【10歳】
- 腫瘍=19.8%
- 循環器=19.2%
- 呼吸器=7.9%
- 泌尿器=7.7%
- 消化器=6.9%
- 肝・胆・膵=5.7%
犬の死亡原因【12歳以降】
- 泌尿器=15.6%
- 腫瘍=15.1%
- 循環器=13.1%
- 肝・胆・膵=8.1%
- 呼吸器=7.9%
- 神経=4.7%
犬の体チェックリスト
犬のガンに対する最も効果的な治療法は、早期発見・早期対処です。日々犬の体を検査するときのチェックポイントをリスト化しましたので、ぜひ習慣化してください。
NEXT:年齢別疾患データ
犬のガン・早期発見チェックリスト
- 目のチェック白目が黄色くなっていないか?
- 耳・鼻のチェック妙なできものができていないか?
- 口のチェック口の中が腫れたり、舌に黒いできものはないか?口臭はないか?
- 足のチェック腫れていたり足を引きずっていないか?
- 腹のチェック触ると痛がったり不自然な腫れはないか?
- おしっこのチェックおしっこの色は正常か?血が混じっていないか?
- 便のチェック下痢や血便は出ていないか?
- リンパ節のチェック体表からタッチできるリンパ節はコリコリしていないか?
- 皮膚のチェックただれ、腫れ、出血や触ると痛がる部分はないか?
- 呼吸のチェック咳や息切れはないか?
- 食事のチェック食べるのが遅くないか?食欲はあるか?
- 動きのチェックどこかをかばうようなしぐさはないか?すぐ疲れていないか?
悪性腫瘍に関しては犬のガンでも詳しく解説してあります。
老犬に多い病気・年齢別データ
老犬に多い病気を年齢別に示した一覧表です。疾患名は各区分中における代表的な疾患、グラフは犬の年齢によって発症率がどのように変化するかを示しています。統計グラフは、2016年4月1日~2017年3月31日までの期間、アニコム損保の保険契約を開始した犬50万頭以上のデータを元にしたものです。より詳しく知りたい方は以下のページをご参照下さい。
家庭どうぶつ白書2018(アニコム)
呼吸器系の病気
循環器系の病気
感覚器系の病気
消化器系の病気
泌尿器系の病気
生殖器系の病気
内分泌系の病気
神経系の病気
筋骨格系の病気
ガン | 悪性腫瘍
生活習慣病
老犬に多い病気・犬種別データ
以下はある特定の犬種に多い病気を示した一覧表です。データは全年齢層を含んだものですが、病気の発症頻度は基本的に年齢が上がるに連れて上がるため、老犬に多く発症する病気と読み替えることもできるでしょう。犬種は日本国内で多く飼育されている代表的な18種です。統計グラフは、2016年4月1日~2017年3月31日までの期間、アニコム損保の保険契約を開始した犬50万頭以上のデータを元にしています。より詳しく知りたい方は以下のページをご参照下さい。
家庭どうぶつ白書2018(アニコム)