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犬の膝蓋骨脱臼(パテラ)~症状・原因から治療法まで筋骨格系の病気を知る

 犬の膝蓋骨脱臼(しつがいこつだっきゅう)について病態、症状、原因、治療法別に解説します。病気を自己診断するためではなく、あくまでも獣医さんに飼い犬の症状を説明するときの参考としてお読みください。なお当サイト内の医療情報は各種の医学書を元にしています。出典一覧はこちら

犬の膝蓋骨脱臼の病態と症状

 犬の膝蓋骨脱臼とは、膝のお皿である膝蓋骨(しつがいこつ)が太ももの骨からずれてしまう状態を言います。
 完全に外れた状態を脱臼というのに対し、不完全に外れた状態を亜脱臼(あだっきゅう)と言い、ポメラニアンチワワヨークシャーテリアなどの小型犬で多く見受けられます。またお皿が内側にずれた状態を内方脱臼、外側にずれた状態を外方脱臼として分類します。 膝関節の構造と膝蓋骨内方脱臼の模式図  全症例の内、約75%は内方脱臼で、50%は両側性です。また症状が現れるのは生後4ヶ月齢ころからで、メス犬の方がオス犬よりも1.5倍ほど発症しやすいと言われています。犬の膝蓋骨脱臼の主な症状は以下です。
犬の膝蓋骨脱臼の主症状
  • 重症度I 膝蓋骨を手で脱臼させることはできるが、圧迫を解除すると自力で正常な位置に戻る。
  • 重症度II 膝蓋骨を手で脱臼させることはできる or 膝関節を曲げたときに自然に脱臼する。脱臼した膝蓋骨は手で押し戻すか関節を伸ばすまで戻らない。
  • 重症度III 脱臼した膝蓋骨は、関節を伸ばして手で押し戻すまで戻らない。膝関節を曲げたりのばしたりすることで、膝蓋骨が容易に再脱臼する。
  • 重症度IV 膝蓋骨が常に脱臼状態にあり、手で押し戻すことができない。膝蓋骨が滑る溝(大腿骨滑車溝)は浅いか欠損している。
  • 足を引きずって歩く
  • 痛み(触ると痛がる)
  • すねの捻れ
  • 極端なX脚(外方脱臼)やO脚(内方脱臼)
  • 太ももと脛の骨をつないでいる前十字靭帯の断裂
  • お皿をつないでいる膝蓋靭帯の断裂
  • 膝の変形性関節症
  • 太もも筋肉付着部の剥離骨折

犬の膝蓋骨脱臼の原因

 犬の膝蓋骨脱臼の原因としては、主に以下のようなものが考えられます。予防できそうなものは飼い主の側であらかじめ原因を取り除いておきましょう。
犬の膝蓋骨脱臼の主な原因
 後ろ足の正常な並び方(アライメント)を狂わせる全ての要因が、膝蓋骨脱臼の直接的・間接的原因になりえます。具体的には、大腿骨の付け根の角度異常(前捻角異常)、骨盤と大腿骨の結合異常(大腿骨頭被覆異常)、股関節形成不全、大腿骨下部の異常な捻れ、すねの骨の異常(脛骨突起の偏位)、太ももの筋肉の異常(大腿四頭筋の肥大や硬直)、お皿が滑る溝の異常(大腿骨滑車溝異常)などです。こうした各種の異常が下肢のアライメントに影響を及ぼし、極端な「O脚」や「X脚」を招いて最終的には膝蓋骨脱臼を引き起こしてしまいます。 犬の下肢アライメント~正常とO脚・X脚の比較図  フラットコーテッドレトリバーやポメラニアンを用いた過去の調査では、第7染色体に原因遺伝子があるのではないかと推測されていますが、詳しい発症メカニズムに関してはよくわかっていません。ただ2016年にイギリスで行われた大規模な罹患率調査の結果を見る限り、「人為的な小型化」が病気の発症率を高めていることは間違いないようです。詳しくはこちらの記事をご参照ください。

犬の膝蓋骨脱臼の治療

 犬の膝蓋骨脱臼の治療法としては、主に以下のようなものがあります。当症は若い頃から発症し、命を脅かすことがないまま徐々に悪化していく疾患です。犬に対しては十字靭帯の損傷、骨関節炎、疼痛、不自由な動きという形で、そして飼い主に対しては心理的+経済的負担という形でじわじわとのしかかってきます。
犬の膝蓋骨脱臼の主な治療法
膝蓋骨脱臼に対する外科的なアプローチ法
  • 外科治療  膝蓋骨の脱臼はその程度に応じて4段階に区分されますが、どの段階にあったとしても基本的には手術療法が薦められます。これは、脱臼を習慣的に繰り返すものの、自力で治せる軽い程度のもの(重症度I・II)であっても、加齢や肥満など他の要因によって症状が悪化することがあるためです。基本的に手術は早ければ早いほどよいとされます。
     具体的な方法は、ひざのお皿がはまっている溝を削って深くしたり、筋肉の付着点を骨ごとずらして脱臼が起こりにくくしたり、骨をけずってお皿の位置を強引に溝にはまるようにしたりなど、いろいろあります。