犬の甲状腺機能低下症の病態と症状
犬の甲状腺機能低下症とは、のどにある甲状腺から分泌される甲状腺ホルモンの機能が弱まることで発症する病気を言います。
甲状腺ホルモンは、全身の細胞に作用して代謝を上げる働きを持つホルモンで、機能が強くなりすぎると甲状腺機能亢進症(こうじょうせんきのうこうしんしょう)、弱くなりすぎると甲状腺機能低下症が発症します。前者の場合は体温の上昇、呼吸数の増加、心拍数と血圧の増加、食べているのにやせていく等の症状が見られますが、犬では極めてまれ(1~2%)とされており、圧倒的に低下症の方が多いというのが特徴です。
犬の甲状腺機能低下症の症状としては以下のようなものが挙げられます。
犬の甲状腺機能低下症の症状としては以下のようなものが挙げられます。
犬の甲状腺機能低下症の主症状
- 胴体の左右対称性脱毛
- 動作が鈍くなる
- 体温が低下し寒さに弱くなる
- 全身がぶよぶよむくんだようになる
- 顔のむくみによる悲劇的顔貌
- 脱毛部に色素が沈着する
- 心拍数と血圧の低下
- 脂漏症や膿皮症などの皮膚疾患
- 粘液水腫性昏睡
- 粘液水腫性昏睡とは、甲状腺機能低下症を放置した場合に起こる重症例のことです。その多くは、飼い主が病気の兆候に気づかないまま長期間放置してしまうことで発症します。性別による発症率に差はありませんが、症例のほとんどはドーベルマンだとされます。治療開始から12~24時間でほとんどの患犬が死亡するといわれていますので、絶対に避けたい病状の一つです。
犬の甲状腺機能低下症の原因
犬の甲状腺機能低下症の原因としては、主に以下のようなものが考えられます。生まれつきこの病気を発症することは極めてまれで、95%近くが後天性です。好発年齢は4~10歳とされています。
犬の甲状腺機能低下症の主な原因
- 自己免疫疾患 本来体内に入ってきた異物を排除するための免疫系が、なぜか自分の体の一部である甲状腺を攻撃することで炎症が起こり、機能が低下してしまうことがあります。
- 甲状腺の萎縮 原因は定かではないものの、甲状腺が萎縮してしまうことでホルモンの作用が低下してしまうことがあります。犬種としてはアフガンハウンド、アイリッシュセッター、ゴールデンレトリバー、ラブラドールレトリバー、ブルドッグ、コッカーースパニエル、エアデールテリア、シェットランドシープドッグ、ボクサー、チャウチャウ、プードル、ダックスフンドなどに多いとされます。
- クッシング症候群の影響 副腎皮質ホルモンの異常で起こるクッシング症候群に併発する形で発症することがあります。確率はおよそ50%ともいわれます。
犬の甲状腺機能低下症の治療
犬の甲状腺機能低下症の治療法としては、主に以下のようなものがあります。
犬の甲状腺機能低下症の主な治療法
- 投薬治療 体内で不足している甲状腺ホルモンを、人工の甲状腺ホルモン製剤(レポチロキシンなど)を投与することで補います。ただし量を間違えると逆に甲状腺機能亢進症(代謝が上がりすぎて心拍、脈拍、血圧、体温が過剰に上がってしまう)の症状が現れますので要注意です。投薬後、1~2週間で表情や活動性が改善し、1~4ヶ月で皮膚症状が緩やかに消えていきます。ただし、投薬は一生続けなければなりません。
- 基礎疾患の治療 クッシング症候群など、別の疾病によって甲状腺機能低下症が引き起こされている場合は、それらの基礎疾患への治療が施されます。