犬のクッシング症候群の病態と症状
犬のクッシング症候群とは、副腎皮質ホルモン(ふくじんひしつほるもん)の過剰分泌によって引き起こされる症状をいい、副腎皮質機能亢進症(ふくじんひしつきのうこうしんしょう)とも呼ばれます。
副腎皮質ホルモン(コルチゾール)とは、腎臓の上にある副腎と呼ばれる小さな分泌器官で生成されるホルモンで、炎症の制御、炭水化物の代謝、タンパク質の異化、血液の電解質のレベル、免疫反応など広範囲の生理学系に深く関わっています。このホルモンが慢性的に過剰状態になると、皮膚や筋肉の分解が促進されると同時に肝臓におけるグルコースの生成が促進され、高血糖を引き起こします。そして高血糖に反応して分泌されたインスリンと呼ばれるホルモンがグルコースを細胞内に取り込むことで、脂肪の沈着が促されるようになります。
こうしたメカニズムを通して現れる、クッシング症候群の主症状は以下です。
こうしたメカニズムを通して現れる、クッシング症候群の主症状は以下です。
犬のクッシング症候群の主症状
犬のクッシング症候群の原因
犬のクッシング症候群の原因としては、主に以下のようなものが考えられます。予防できそうなものは飼い主の側であらかじめ原因を取り除いておきましょう。
犬のクッシング症候群の主な原因
- 年齢 8~12歳の老犬に最も頻繁に発症します。
- 犬種 そもそも犬のクッシング症候群発症率は、人間や猫よりも高いとされており、1982年に行われた調査では0.1~0.2%(1,000頭中1~2頭)と推定されています(Willeberg, 1982)。また犬の中でも、かかりやすい犬種としてはプードル、ダックスフント、 ボクサー、 ボストンテリア、 ポメラニアン、テリア種が有名です。
- 脳内の腫瘍 腎臓の上にちょこんと乗っかった副腎(ふくじん)と呼ばれる分泌器官をつかさどるのは、脳内の脳下垂体(のうかすいたい)という部位です。この脳下垂体に腫瘍ができると副腎を制御している「副腎皮質刺激ホルモン」(ACTH)の統制が失われ、ホルモンが過剰生成されてクッシング症候群を発症します。脳内の腫瘍を原因とする当症の発症率は、全体の8割以上と言われていますので、ほとんどがこのパターンと言ってよいでしょう。このような発症パターンを「副腎皮質刺激ホルモン依存性」(ACTH依存性)のクッシング症候群と呼ぶこともあります。
- 副腎の腫瘍 全体の20%未満ですが、副腎そのものに腫瘍ができることでホルモンが過剰生成され、クッシング症候群を発症するというパターンがあります。そのうちの9割が片側性、残り1割が両側性です。「副腎皮質刺激ホルモン依存性」(ACTH依存性)に対し「副腎皮質刺激ホルモン非依存性」(ACTH非依存性)と呼ばれることもあります。
- 薬の副作用 腫瘍、アレルギー、自己免疫疾患、炎症などの治療に、副腎皮質ホルモンと同じ働きを持ったグルココルチコイドが用いられることがあります。長期的な薬剤投与の結果、クッシング症候群の症状が現れてしまうことがあり、これを「医原性のクッシング症候群」といいます。
- その他 極めてまれなケースとしては、「異所性」と「食餌依存性」があります。前者は脳でも副腎でもない部位からなぜかコルチゾールが分泌される状態で、後者は特殊な消化ホルモンに対する受容体がなぜか副腎の表面に出現し、インスリンの代わりにコルチゾールを放出してしまう状態です。
犬のクッシング症候群の治療
犬のクッシング症候群の治療法としては、主に以下のようなものがあります。なおクッシング症候群の診断では、「尿検査でコルチゾール:クレアチニン比が上昇」、「低用量デキサメタゾン抑制試験で注射後8時間で抑制がない」、「ACTH刺激試験で正常値より大きな反応が出る」といった指標が用いられます。しかしどの検査にしても確実に病気を検知することはできません。この疾患が強く疑われる場合は、X線撮影や超音波検査のほか、全身麻酔をした上でCTスキャンやMRIが用いられることもあります。
犬のクッシング症候群の主な治療法
- 基礎疾患の治療 別の疾病によってクッシング症候群が引き起こされている場合は、まずそれらの基礎疾患への治療が施されます。腫瘍が原因の場合は外科手術となりますが、手技が困難なためできないこともしばしばです。脳内の下垂体腫瘍に対しては放射線療法が行われることもあります(要全身麻酔)。
- 投薬治療 腫瘍を切除できない場合は、副腎皮質の働きを弱める薬剤が投与されます。具体的にはミトタンやプレドニゾンなどです。一般的に、ひとたび投薬治療を始めると、一生涯薬が必要となります。
- グルココルチコイドの中止 他の病気の治療としてグルココルチコイドを使用している場合は、徐々に使用量を減らしていきます。