手作りごはんに使える食材
犬の手作りごはんに取り掛かる前に抑えておくべきポイントは以下の2点です。
まずは「犬に必要な栄養」を読み、一体何をどのくらい犬に与えればよいのかをざっとシミュレーションしてみましょう。また「犬の毒になる食物」で用いてはならない食材を把握しておくことも必須です。
- 体を動かすエネルギー源であるカロリーをどうやって確保するか?
- 体の調子を整えるビタミン、ミネラルをどうやって補給するか?

エネルギー源にしやすい食材
犬が消費するエネルギー(カロリー)は、黙っていても消費する基礎代謝と、運動に伴って消費するものとがあります。こうした日々の必要エネルギーになりやすい食材を以下でご紹介します。
炭水化物
「炭水化物」(たんすいかぶつ)は読んで字のごとく、主として炭素(C)と水分(H2O)からなる化合物の総称で、 単糖類、二糖類、多糖類など種類は色々あり、カロリーは1gでおよそ4kcalです。各食材に関し、以下のような注意点がありますのでご確認ください。
炭水化物の注意点
- じゃがいもじゃがいもの芽には「ソラニン」という有毒物質が含まれていますので、必ず取り除いてから与えてください。
- さつまいも同じイモ類でもジャガイモよりグラム当たりのカロリーが約1.5倍あります。カルシウムも比較的多く含まれていますが、一日の必要量を満たすには程遠いのでカルシウムは別の食材で与えることを考えましょう。
- 精白米(ごはん)余ったごはんを「残飯」として与えると言うと聞こえは悪いですが、エネルギー源としては十分利用できる食材です。ただし食感がやわらかいため、歯の隙間にカスがたまりやすいという難点があります。
- うどんごはんと同様、エネルギー源として利用できる食材ですが、あらかじめ塩分を練りこんでいる場合は、体の小さな犬にとって塩分の過剰摂取になるため要注意です。
- パスタ(スパゲティ・マカロニ)ゆでても水分含量が少ないので、うどんなどより高カロリーになります。
- 食パン塩分(塩化ナトリウム)含量が多いのが特徴です。高血圧など、体に及ぼしうる悪影響を考慮すると、主食というより他の食材の補助として考えたほうが良いでしょう。
タンパク質
「タンパク質」は約20種類のアミノ酸が複雑に結合しあってできた化合物です。エネルギー源になると同時に筋肉や骨、ホルモンの元となる重要な栄養素ですので不足は厳禁です。カロリーは1gでおよそ4kcalです。各食材に関し、以下のような注意点がありますのでご確認ください。なおタンパク質を構成しているアミノ酸の中には、絶対に摂取しなければならない「必須アミノ酸」というものがあります。AAFCO(米国飼料検査官協会)が最低摂取量を公開していますので、不足がないよう事前にご確認ください(リストのうち下段の3つを除く全て)。
タンパク質の注意点
- 牛肉バラ肉の脂身は取り除いて余分な脂質を与えないほうが良いでしょう。肝臓には脂溶性で体内に蓄積するビタミンAが豊富です。肝臓ばかり与えすぎると過剰症を引き起こすこともありますので必要量を把握しておいて下さい。
- 豚肉豚肉だけは寄生虫の問題がありますので加熱調理して与えましょう。もも肉、バラ肉ともにやや脂質が多いようなので、脂身の大きな部分は取り除いてから与えましょう。
- 鶏肉安価な食材なので最も手に入れやすいでしょう。骨は基本的に与えない方が無難です。
- 馬肉食卓ではなじみが薄いですが犬に与えても大丈夫です。
- 羊肉(ラム)食卓ではなじみが薄いですが犬に与えても大丈夫です。
脂質
「脂質」(ししつ)は単純脂質、複合脂質、誘導脂質などたくさんの種類がありますが、中性脂肪(ちゅうせいしぼう=いわゆる肉の脂身)が最も馴染み深いでしょう。カロリーは1gでおよそ9kcalです。ですので、過剰摂取は肥満の元になりますから注意が必要です。なお脂質を構成している脂肪酸の中には、絶対に摂取しなければならない「必須脂肪酸」というものがあります。AAFCO(米国飼料検査官協会)が最低摂取量を公開していますので、不足がないよう事前にご確認ください(リストのうち最下段の3つ)。
脂質の注意点
- 菜種油(キャノーラ油)生でも加熱調理しても成分変化の少ない万能油です。風味は淡白で、オレイン酸の含有率が非常に高く、リノレン酸の含有量も高めです。リノール酸含有率は23%です。
- 紅花油べに花の種子が原料で風味はまろやか。リノール酸やオレイン酸の含有量が豊富で、リノール酸含有率は77%です。
- 綿実油風味はさっぱりしており、ビタミンEが100g中約30mgとふんだんに含まれています。リノール酸も豊富で、含有率は57%です。
- コーン油とうもろこしの胚芽から作られる油で、風味は甘くまろやか。リノール酸が豊富で、含有率は53%です。
- ひまわり油ひまわりの種子から作られる油で風味は淡白。ビタミンEの含有量が100 g中39mgと豊富で、リノール酸含有率は69%です。
- ごま油セサミノールなど抗酸化物質が豊富に含まれているため、体内での活性酸素の生成を抑制します。カルシウム、マグネシウム、鉄、銅、亜鉛などのミネラル類、ビタミンA、B1、B2、Eなどビタミンも豊富で、リノール酸含有率は45%です。
- オリーブオイルオレイン酸、ビタミンA、ポリフェノールなどを含有しています。リノール酸含有率は13%です。
ビタミンを補給しやすい食材
生存に欠くことのできない微量な分子成分を「ビタミン」と総称します。ビタミンは不足すると体調不良をきたしますが、脂に溶ける脂溶性ビタミンには過剰症があるため、ただ闇雲に大量投与すばよいというわけでもありません。以下ではビタミンを摂取しやすい食材、および不足症と過剰症についてご紹介します。またAAFCO(米国飼料検査官協会)が最低摂取量を公開していますので、不足がないよう事前にご確認ください。
ビタミンの働きと不足・過剰症
- ビタミンAビタミンAは皮膚や粘膜を丈夫に保ち、感染予防に効果があります。不足すると夜盲症(やもうしょう=いわゆる鳥目のことで、夜になるとものが見えにくくなること)、免疫力の低下、皮膚や粘膜の角質化をきたし、過剰摂取すると脱毛、骨や四肢の痛み、吐き気や嘔吐など多様な症状を発現します。
- ビタミンB1チアミンとも呼ばれ、糖質をエネルギーに変える作用があります。不足すると脚気(かっけ=腱の反射が弱くなること)やウェルニッケ脳症、心臓の肥大などをきたします。水溶性のため過剰症の報告はありません。
- ビタミンB2リボフラビンとも呼ばれ、体毛、皮膚、脂質の代謝を促進し抗酸化作用があります。不足すると角膜炎や皮膚炎、脱毛症、早期老化をきたします。水溶性のため過剰症の報告はありません。
- ビタミンB6歯、皮膚の代謝を促進し胃酸の分泌を活性化します。不足するとアミノ酸代謝に異常をきたし、成長の抑制や体重の減少、免疫力低下やアレルギー症状などを引き起こします。水溶性のため過剰症はきわめてまれとされています。
- ビタミンB12血液中のヘモグロビンやアミノ酸の生成を促進します。不足すると悪性貧血、脳や神経への障害、抑うつや疲労などをきたします。水溶性のため過剰症の報告はありません。
- ビタミンD腸管からのカルシウムの吸収を促進します。不足するとクル病(骨の形成が阻害される病気)、骨軟化症、骨粗しょう症などをきたし、過剰摂取すると肝機能障害、腎臓障害、尿路結石や高血圧など多種多様な症状をきたします。
- ビタミンE血管壁を丈夫に保ち、動脈硬化を予防する効果があります。不足すると溶血性貧血をきたすといわれており、過剰摂取すると骨粗しょう症になる危険性が指摘されています。
- パントテン酸副腎皮質ホルモンの合成を促進します。不足すると成長停止や体重減少、皮膚炎や末梢神経障害をきたします。水溶性のため過剰症の報告はありません。
- ナイアシン血管拡張作用と性ホルモンの合成を促進します。不足するとペラグラ(光に敏感になり、左右対称の発疹、消化管障害などを特徴とする)、皮膚炎、胃腸障害などをきたし、過剰摂取すると皮膚紅潮や肝機能障害の危険性が指摘されています。
- 葉酸DNAと赤血球の合成を促進します。不足すると貧血や免疫力の低下、消化管の機能障害などをきたし、過剰摂取すると紅斑、発熱、じんましん、かゆみ、呼吸障害などを起こすとされます。
- ビオチンブドウ糖のリサイクル、脂肪酸の合成、アミノ酸の代謝に関係します。不足すると脱毛、失神、皮膚炎、筋肉痛、食欲不振などをきたし、妊娠期に過剰摂取すると催奇性(奇形の子が生まれること)を発揮することが動物実験で示唆されています。
ミネラルを補給しやすい食材
「ミネラル」(無機質, むきしつ)は、エネルギー源にはならないものの、体内で必要とされる微量元素のことです。以下ではミネラルを補給しやすい食材と、ミネラルの一般的な働きについて記します。またAAFCO(米国飼料検査官協会)が最低摂取量を公開していますので、不足がないよう事前にご確認ください。
ミネラルの働き
- カルシウムカルシウムは骨に沈着して骨格を形成したり、筋肉の収縮に関わります。
- リンリンはカルシウムと共に骨や歯を丈夫にします。
- カリウムカリウムはナトリウムと共に血管の機能を正常に保つ作用があります。
- 塩化ナトリウム塩素とナトリウムの化合物で、いわゆる塩のことです。地球上の大半の生物にとって必要不可欠な物質です。
- マグネシウムマグネシウムはカルシウムと共に筋肉の収縮を助けます。
- 鉄鉄はヘモグロビン中で酸素の運搬に役立ちます。
- 亜鉛亜鉛は酵素を活性化し、細胞分裂を正常に行わせます。
- ヨウ素ヨウ素は甲状腺ホルモンの成分となり代謝に影響します。
犬向け簡単手作りレシピ
「ペット栄養学会誌」で犬向けの簡単レシピが紹介されています。コンセプトは「人間の食卓に上がる機会が多い食材を用いてバランスの取れた犬向けの手作りご飯を作る」というものです。
イヌの維持期のAAFCO養分基準(2016)を満たす手作り食レシピの設計法
簡単レシピの設計法
- 必要エネルギーを計算犬の体重、体型、ライフスタイルからまずは1日に必要な摂取エネルギー量を推定します。
- エネルギーを2等分するはじき出された必要エネルギー量を2等分し、一方を「基本食」、もう一方を「補助食」に割り当てます。
- 基本食を決めるエネルギー源としての炭水化物(糖質)とアミノ酸源としてのタンパク質の組み合わせを決めます。
- 補助食を作る基本食だけではビタミンやミネラルが不足するため補助食を作って栄養不足を補います。
犬向けの基本食レシピ
「基本食」はエネルギーとアミノ酸を給与するための食事です。人間で言うと「主食・主菜」に当たります。例えば以下は炊いた「白飯」をエネルギー源、調理済みの各種タンパク質をアミノ酸源にしたときの基本食パターンです。分量比率は1:1、数字は等量で取り分けた時の1g当たりのカロリー数を示しています。
基本食レシピ
- 白飯+鶏胸肉→1.3
- 白飯+鶏もも肉→1.6
- 白飯+豚もも肉→1.2
- 白飯+豚ひき肉→1.7
- 白飯+牛もも肉(赤)→1.3
- 白飯+牛もも肉(脂身付)→1.6
- 白飯+鶏卵→1.4
- 白飯+木綿豆腐→1.0
犬向けの補助食レシピ
「補助食」は基本食で不足しがちな栄養素を補うための食事です。人間で言えば「副菜」にあたります。1g当たりのカロリー数は「2.5kcal」で、用いる食材は以下です。
補助食レシピ
- とうもろこし油脂肪源とリノール酸源で5.4%
- 豚レバー鉄、銅、亜鉛、ビタミンA、リボフラビン、コリン源で42.6%
- 煮干しカルシウム、ナトリウム、ビタミンD源で17.3%
- 小麦胚芽銅、マンガン、亜鉛、ビタミンE、チアミン源で32.2%
- ひじきヨウ素源で0.5%
- 鶏卵殻カルシウム源とカルシウム:リン比調整源で2.0%
手作りごはんへの反応を見る
手作りごはんに対する犬の反応の見方としては、被毛のつや、皮膚炎の有無、体臭、うんちの質と量(消化吸収がよければうんちは少なくなります)、食べるときの「がっつき方」、体型(肥満, やせ, 標準)などが挙げられます。体のチェックに関しては、「ボディコンディションスコア」(BCS)や「マッスルコンディションスコア」(MCS)が役に立つでしょう。詳しくは「犬のダイエットの基本」というページ内の「犬の体型と体重を診断する」というセクションをご参照ください。
NEXT:栄養の過不足に注意!
栄養の過不足に注意
「栄養過剰・栄養不足」でも解説したとおり、手作りごはんの栄養バランスが崩れるという現象は世界各国で報告されています。残念ながら日本国内においても例外ではありません。獣医師が監修していようといまいと、栄養素を完璧に満たすようなレシピはなかなかないようです。
日本に暮らす犬の飼い主へのアンケート調査から得られた63の手作りごはんレシピと、市販されている書籍から得られた145のレシピを対象とし、AAFCO推奨基準(2016年版)を満たしているかどうかが検証されました。
レシピに沿って実際に手作りごはんを作り、熱量、マクロ栄養素バランス、ビタミン、ミネラルの含有量を計測していった結果、レシピあたりの食材数は中央値で7品目(2~25)、代謝エネルギーの中央値は乾燥重量ベースで3,912kcal/kgであることが判明したといいます。
一方、全ての栄養成分を完璧に満たしているレシピは1つもなかったと言います。完璧を100とした時の全体の必須栄養素指数は71.6で、90を上回るレシピはわずか2.4%(5レシピ)しかなかったとのこと。
具体的な成績は以下です。数字は合計208レシピのうち、AAFCOが定める最低基準値を超えていたレシピの割合を示しています。例えば50%とある場合は104レシピだけが最低基準値に届いていたという意味です。 維持期におけるイヌ用手作り食レシピの栄養素含量調査
日本に暮らす犬の飼い主へのアンケート調査から得られた63の手作りごはんレシピと、市販されている書籍から得られた145のレシピを対象とし、AAFCO推奨基準(2016年版)を満たしているかどうかが検証されました。
レシピに沿って実際に手作りごはんを作り、熱量、マクロ栄養素バランス、ビタミン、ミネラルの含有量を計測していった結果、レシピあたりの食材数は中央値で7品目(2~25)、代謝エネルギーの中央値は乾燥重量ベースで3,912kcal/kgであることが判明したといいます。
一方、全ての栄養成分を完璧に満たしているレシピは1つもなかったと言います。完璧を100とした時の全体の必須栄養素指数は71.6で、90を上回るレシピはわずか2.4%(5レシピ)しかなかったとのこと。
具体的な成績は以下です。数字は合計208レシピのうち、AAFCOが定める最低基準値を超えていたレシピの割合を示しています。例えば50%とある場合は104レシピだけが最低基準値に届いていたという意味です。 維持期におけるイヌ用手作り食レシピの栄養素含量調査
アミノ酸の達成割合
鶏肉、豚肉、牛肉を素材として用いたレシピでは各種のアミノ酸がバランスよく充足されていました。一方、小豆をメインの食材として用いたレシピにおいては充足率が60%を下回るものがありました。

- アルギニン→97.1%
- ヒスチジン→100.0%
- イソロイシン→100.0%
- ロイシン→100.0%
- リシン→100.0%
- メチオニン→99.0%
- メチオニン+シスチン→95.7%
- フェニルアラニン→100.0%
- フェニルアラニン+チロシン→100.0%
- トレオニン→99.5%
- トリプトファン→99.5%
- バリン→100.0%
ビタミンの達成割合
ビタミンに関してはビタミンD、ビタミンE、リボフラビン(ビタミンB2)、ビタミンB12が欠乏しがちになる傾向が明らかになりました。

- ビタミンA→12.0%
- ビタミンD→32.2%
- ビタミンE→28.4%
- チアミン→69.7%
- リボフラビン→35.6%
- パントテン酸→97.1%
- ナイアシン→99.0%
- ピリドキシン→99.5%
- 葉酸→99.5%
- ビタミンB12→26.9%
- コリン→49.0%
ミネラルの達成割合
カルシウム、銅、鉄、亜鉛、ヨウ素に関しては、ほとんどのレシピが最小基準値にすら届いていないことが判明しました。

- カルシウム→5.3%
- リン→57.7%
- カルシウム:リン比率→4.8%
- カリウム→89.9%
- ナトリウム→84.6%
- 塩素→94.2%
- マグネシウム→80.3%
- 鉄→25.5%
- 銅→2.9%
- マンガン→69.7%
- 亜鉛→6.3%
- ヨウ素→16.8%
- セレン→66.3%
過剰含有成分リスト
骨付き手羽を用いたレシピではカルシウムやリンの過剰、ごま油を用いたレシピではn-6:n-3比率(=n-6系脂肪酸)の過剰、海藻(特に昆布)を用いたレシピではヨウ素の過剰、鶏レバーを用いたレシピではビタミンAの過剰、鮭やカレイを用いたレシピではビタミンDの過剰が多く見られました。

- n-6:n-3比率→3.4%
- カルシウム→0.5%
- リン→0.5%
- カルシウム:リン比率→1.4%
- ヨウ素→8.7%
- セレン→0.5%
- ビタミンA→2.4%
- ビタミンD→13.0%
肉を調理するときの注意
肉を用いて手作りごはんを作った場合、必須アミノ酸をバランスよく摂取できることが確認されています。非常に使い勝手の良い食材ですが、以下に述べるような様々なリスクもありますので事前にしっかりと把握しておく必要があります。
生肉(ローフード)に注意
ローフード(raw food)とは加熱調理をしていない生の食材のことです。「新鮮で身体に良い」とか「野生環境の食事内容に似ている」というイメージから一部の飼い主の間では人気ですが、加熱していないため様々な病原体が不活性化されないまま残り、犬だけでなく食材を触った人間にも感染症を引き起こす危険性が示唆されています。以下は一例です。
「ローフード」というとなんとなく健康そうな印象を受けますが、実際には犬にとっても人間にとっても危険な食材です。犬の手作りごはんに肉を用いるときは、必ず火を通して病原体を不活性化することをお勧めします。 以下は一般的な注意点です。
生肉(ローフード)の危険性
- アメリカ2010年10月から2012年7月の期間、アメリカ食品医薬品局(FDA)がローフード196サンプルを含む千を越える食材サンプルを対象とし、食品媒介性病原体の陽性率を調査しました。その結果、ローフードにおけるサルモネラ陽性率が7.7%(15/196)、リステリア・モノサイトゲネスの陽性率が16.3%(32/196)であることが判明したといいます。それに対し、何らかの加熱調理が行われた残りのペットフード860サンプルにおいてはサルモネラ菌が1サンプルから検出されただけでした(
:FDA)。
- カナダ2005年から2006年の期間、セラピードッグとして病院などを訪問している200頭の犬を対象とし、2ヶ月に一度のペースで1年間にわたって便サンプルを採取して食事内容と便中に検出される病原体との関係を検証しました。その結果、1年のうち最低1回ローフードを給餌された犬においては、サルモネラを排出するリスクが22.7倍、大腸菌を排出するリスクが17.2倍になることが判明したと言います。調査チームはローフードを与えられているセラピードッグはアニマルセラピー活動に関わるべきではないと忠告しています(
:Lefebvre, 2008)。
- 日本1997年から2004年の7年半にわたり、三井記念病院は4,466人の妊婦を対象としたトキソプラズマ抗体の陽性率調査を行いました。その結果、全体における陽性率は10.3%で、35歳以上の女性で高い傾向を示したと言います。リスクファクターを検証したところ、「生肉の摂取歴」が残ったとのこと(
:Sakikawa, 2012)。
「ローフード」というとなんとなく健康そうな印象を受けますが、実際には犬にとっても人間にとっても危険な食材です。犬の手作りごはんに肉を用いるときは、必ず火を通して病原体を不活性化することをお勧めします。 以下は一般的な注意点です。
生食材の注意
- 生の食材を用いる場合は、病原体管理がしっかりとなされたものを用いる
- 保存容器が破損しているものは買わない
- 使うときまで食材は冷凍しておく
- 使い終わった食材はすぐに冷凍するか廃棄する
- 人間用の食材とペット用の食材は分けておく
- 人間用の食材とペット用の食材を同じ調理器具で扱わない
- 人間用に調理した食事と生の食材を接触させない
- 野菜や果物は与える前にしっかりと洗う
- 生の食材を触った後はしっかりと手を洗う
- 生の食材を扱った調理器具はしっかりと消毒する
- 生の食材に集まってくる虫や害獣をしっかりコントロールする
ジビエに注意
ジビエ(gibier)とは狩猟で得た天然の野生鳥獣の食肉のことです。「鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律」が改正されたことにより、日本国内で仕留めた獲物を食肉として利用する機会が劇的に増えました。
しかし牛や豚といった家畜動物と異なり、ジビエを解体するときに病気の有無を検査する義務がありません。その結果、肉の中に寄生虫やE型肝炎ウイルスを抱えたまま流通するという事態が頻繁に起こっています。例えば2016年12月、茨城県の猟師が調理店に直接持ち込んだクマ肉によって客がトリヒナ食中毒にかかったなどです。
2013年に厚生労働省が野生鳥獣の生肉を対象として行った調査では、以下のような高い確率で病原体を保有していることが確認されています。
犬向けの手作りごはんとしてジビエ肉を使用するときは絶対に生で与えないようにしてください。
しかし牛や豚といった家畜動物と異なり、ジビエを解体するときに病気の有無を検査する義務がありません。その結果、肉の中に寄生虫やE型肝炎ウイルスを抱えたまま流通するという事態が頻繁に起こっています。例えば2016年12月、茨城県の猟師が調理店に直接持ち込んだクマ肉によって客がトリヒナ食中毒にかかったなどです。
2013年に厚生労働省が野生鳥獣の生肉を対象として行った調査では、以下のような高い確率で病原体を保有していることが確認されています。

骨付き鶏肉に注意
骨付きの手羽先は手作りごはんの食材として人気です。しかし以下に述べるようなリスクもありますのでご注意ください。
鳥の手羽先や手羽元はアミノ酸をバランスよく補給する際の重要な食材のひとつです。犬の手作りごはんに使う際は、病原体への感染を防ぐため加熱すること、誤飲による食道閉塞を防ぐため骨を丸ごと与えないこと、リンやカルシウムの過剰症を防ぐためそればかり与えないことなどに注意する必要があるでしょう。
NEXT:手作りごはんQ & A集
鶏肉の危険性
- 病原体47都道府県にある145のスーパーマーケットから生の鶏肉444サンプル(太もも, 胸肉, 手羽先, 肝臓, 心臓, 砂嚢, 卵巣)を集め、黄色ブドウ球菌の陽性率を調査しました。その結果、65.8%(292サンプル)から菌が検出されたと言います(
:Kitai, 2005)。
- 誤飲・食道閉塞骨付きの鶏肉を与えることにより、食道に引っかかってしまう危険性が高まります。フランスにあるヴェテリネール・フレジ総合病院の外科医療チームが「食道内異物」と診断された犬を調べた所、全部で95ケースが見つかり、異物として最も多かったのは「骨」(63ケース | 66%)だったといいます(
:Aertsens, 2016)。またオーストラリアやアメリカなどからなる共同チームが「食道異物」と診断されたケースを後ろ向きに調査したところ、222頭中「骨・軟骨」が異物として確認された割合が81.0%に達したとのこと(
:Burton, 2017)。
- リンやカルシウムの過剰骨付きの手羽先や手羽元はカルシウム、リン、鉄、亜鉛の供給源として重要な食材です。しかしそればかり与えているとカルシウムやリンが過剰になってしまう危険性もあります。以下はスーパーマーケットで市販されている手羽先や手羽元を圧力鍋で20分間調理した後における栄養成分含有量です(
:Shimizu, 2017)。

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犬の手作りごはんQ & A
以下は犬の手作りごはんについてよく聞かれる疑問や質問の一覧リストです。思い当たるものがあったら読んでみてください。何かしら解決のヒントがあるはずです。
手作りごはんは歯によい?
むしろ歯周病を引き起こす危険性があります。
2006年から2007年の期間、ポーランド国内にある700を超える動物病院に協力を仰ぎ、犬17,184頭と猫6,371頭の口腔衛生状態を評価しました(

加熱調理して食材が柔らかくなったため、歯の表面に対する摩擦効果がなくなり歯垢が蓄積しやすくなったものと推測されます。手作りごはんはむしろ歯周病の発症リスクを高めるかもしれませんので、歯磨き習慣と並行して行うことが望まれます。
便秘は改善する?
食物繊維を含んでいる場合は改善が期待できます。
食物繊維とは炭水化物の中で動物の腸内では消化吸収されないもののことです。 食物繊維の中には犬の便の量を増やして便秘を改善してくれる可能性を持ったものがいくつかあります。
文献上、犬の便クオリティに影響を及ぼしたと報告されている食物繊維は「イヌリン」(チコリー)と「セルロース」です。 犬における適正量は分かっていませんが、どちらもサプリメントとして市販されていますので、手作りごはんに添加すると便秘が改善してくれるかもしれません。各成分の特性や安全性に関しては以下のページをご参照ください。
関節炎に軟骨は有効?
人間においても犬猫においても有効性は証明されていません。
軟骨にはコンドロイチンやグルコサミンといったグリコサミノグリカンが豊富に含まれており、一般的に「関節に良い」と言われています。人間においても犬においても膨大な数の給与試験が行われていますが、実は明白な効果は確認されていません。
犬においては逆にコンドロイチンサプリメントによる副作用の事例や、軟骨を誤飲したことによる食道閉塞の症例が報告されていますので注意が必要です。詳しくは以下のページをご参照ください。
結石は予防できる?
結石の種類によります。
腎臓や尿管内で結晶化する結石にはストラバイト結石やシュウ酸カルシウム結石などがあります。しかしこうした結石は形成メカニズムが異なりますので、手作りごはんで予防できるともできないとも断言できないのが現状です。
例えば犬の場合、上部尿路結石の20~30%はストラバイト結石で、尿を酸性に傾ける低マグネシウム-リンの療法食を与えることで予防できるとされています。一方、シュウ酸カルシウム結石においては尿濃度を薄め、尿の酸性化と過剰なタンパク質の摂取を避けることで予防できるとされています(ACVIM, 2016)。
上記したように結石の種類によって特徴が全く異なりますので、形成を予防するためにはそれぞれにターゲットを絞った栄養学的なアプローチが必要となります。医学的な知識がないのに自己流で療法食を作ると、逆に結石を形成してしまう危険性がありますのでご注意ください。
市販フードを混ぜて良い?
栄養バランスを取るのは難しいでしょう。
手作りごはんのレシピが素人のものであれ獣医師監修のものであれ、栄養バランスが完璧なものはほとんどありません。足りない栄養素を補うため「完全栄養食」と称されている市販のドッグフードを併用することは真っ先に思い浮かぶアイデアですが、こうしたドッグフードにはビタミンやミネラルの含有比率が記載されていません。
過剰に摂取した分が便や尿中に排出されるなら問題ありませんが、体内に蓄積して過剰症を引き起こす成分がいくつかあります。ビタミンでは脂溶性ビタミン(A, D, E)、ミネラルでカルシウム、リン、セレン、ヨウ素などです。
市販のドッグフードを手作りごはんの補助として用いる場合は、手作りごはんの栄養成分とッグフードの栄養成分両方の含有量をしっかりと把握しておく必要があります。どちらか一方が欠けても栄養バランスが目見当になり、長期的に給餌した時、犬の健康を損なってしまう危険性があります。
サプリメントを添加してよい?
栄養バランスを取るのは難しいでしょう。
犬向けのサプリメントとしてマルチビタミンなどが市販されています。しかしこうした商品の多くはサプリメントであるにも関わらず、なぜか含有量が明記されていません。
サプリメントを手作りごはんの補助として用いる場合は、手作りごはんの栄養成分とドッグフードの栄養成分両方の含有量をしっかりと把握しておく必要があります。ビタミンでは脂溶性ビタミン(A, D, E)、ミネラルではカルシウム、リン、セレン、ヨウ素で過剰症の危険性がありますので、どちらか一方の情報が欠けても特定の栄養素が過不足を起こし、 長期的に給餌した時、犬の健康を損なってしまう危険性があります。
メニューをローテーションしてよい?
栄養バランスが取れている場合は大丈夫です。
犬の飽きを防ぐため複数のメニューを用意してそれをローテーションするという給餌方式があります。各メニューの栄養バランスがしっかり取れている場合はそれでも構いませんが、栄養バランスが取れていないメニューをローテーションしたところで、結局は何らかの栄養欠乏症や過剰症を起こしてしまいます。
犬向け手作りごはんのレシピはネット上に記載されているものであれ市販本に記載されているものであれ、あまり信用できません。 「手作りごはんに使える食材」を参考にしながら、自分自身でレシピを考案することをお勧めします。
食材数は多いほうが良い?
そうとも限りません。
日本国内で集めた犬向け手作りごはんのレシピを対象とした調査では、一食あたりの食材数には2~25と幅があり、中央値で7品目だったといいます。興味深いのは、25種の食材を用いたレシピの必須栄養素指数が84.6%だったのに対し、わずか3品目しか使用していないのに必須栄養素指数が96.5%に達するものがあったという事実です。統計的に調べたところ、人間に設定されている「6つの基礎食品類」をまんべんなく用いていたレシピと、2つの類しか用いていなかったレシピの必須栄養素指数に差はなかったと言います。
1985年、当時の厚生省は栄養バランスのために「主食、主菜、副菜をそろえ、目標は1日30食品」を提唱し、「6つの基礎食品」をまんべんなく毎日摂取することを推奨するようになりました。しかし犬向けの手作りごはんに関しては、様々な食材を使ったところで栄養バランスが必ずしも改善するわけではないようです。
重要なのは食材の数よりも、素材が含んでいる栄養素をしっかりと把握し、エネルギー、アミノ酸、ビタミン、ミネラルのバランスを保つことだと考えられます。
卵の殻を与えてよい?
サルモネラ菌への注意が必要です。
カルシウムを豊富に含んでいる卵の殻は食材として魅力的です。例えば100g中には以下のような割合でミネラルが含まれています(

卵殻100g中のミネラル(g)
- カルシウム→31.6
- リン→0.077
- カリウム→0.039
- ナトリウム→0.084
- マグネシウム→0.53
卵殻100g中のミネラル(mg)
- 鉄→0.39
- 銅→0.12
- マンガン→0.056
- 亜鉛→0.14

汚染が確認された卵を出荷した卵選別包装施設(GPセンター)では、パック詰めの前に鶏卵温度より5℃以上高い水で洗浄していましたが、洗浄が不十分だったか洗浄後の不適切な取扱いによって卵殻が汚染されたと推測されています。
手作りごはんの食材として卵の殻を使用するときは75℃で1分間以上加熱することが推奨されます。また飼い主自身が感染しないよう、卵の殻を触った後はよく手を洗うことも必要でしょう。
手作りごはんにはさまざまな難しさがあります。「基本・注意編」を繰り返し読み、犬の健康を悪化させてしまわないよう注意しましょう。なおいさぎよく諦めた場合は「ドッグフード製品・大辞典」で犬の体質にあったものを探して下さい。