詳細
調査を行ったのはオーストラリアやアメリカなどからなる共同チーム。1998年3月から2017年3月の期間、オーストラリアのクイーンズランドにある「Queensland Veterinary Specialists and Pet Emergency」を受診した犬の中から「食道異物」と診断されたケースだけを取り出し、異物を除去する際の死亡率を高める因子が何であるかを検証しました。実際に治療が行われた222症例を基にして統計的に精査したところ、以下のような傾向が浮かび上がってきたと言います。
こうしたデータから調査チームは、治療をする側も飼い主の側も、どのような場合に死亡リスクが高まるのかを事前に把握しておく必要があるとしています。特にリスクを高める合併症は食道穿孔(死亡率47%, 標準の65.47倍)と食道出血(死亡率13%, 標準の11.81倍)とのことです。 Risk Factors for Death in Dogs Treated for Esophageal Foreign Body Obstruction: A Retrospective Cohort Study of 222 Cases (1998?2017).
Burton, A.G., Talbot, C.T. and Kent, M.S. (2017), J Vet Intern Med. doi:10.1111/jvim.14849
患犬の基本属性
- 年齢中央値=5.3歳
- メス犬126頭+オス犬96頭
- 体重中央値=15.7kg
異物の内容(222頭)
- 骨・軟骨=81.0%
- 釣り針=6.8%
- 肉=3.6%
- 生皮=3.2%
- 木の串=1.8%
- 豚の耳=1.8%
- 犬用ビスケット=0.9%
- 豚の鼻=0.5%
- 生のニンジン=0.5%
臨床症状(200頭)
- 嘔吐・吐き戻し=71.0%
- えづく=33.0%
- 元気がない=27.0%
- よだれ=25.0%
- 不安な様子=23.5%
- 食欲不振=18.5%
- 呼吸の変化=16.0%
- 咳=12.5%
- 姿勢の変化=7.5%
- 横になる=2.0%
- 鳴き声を出す=2.0%
- 口臭=0.5%
- チアノーゼ=0.5%
摘出術後の合併症(134頭)
- 粘膜の潰瘍・食道炎=64.2%
- 紅斑=34.3%
- 出血=23.1%
- 食道穿孔=14.2%
- ネクローシス=11.9%
- 気胸=10.4%
- 膿胸=3.0%
- 縦隔気腫=2.2%
治療法と結果
- 内視鏡のみ(204例)全例で摘出は成功。死亡率は1.5%(3/204)で、死因は食道穿孔、気胸、縦隔気腫による突然死。
- 内視鏡→手術(13例)死亡率は23.1%(3/13)。手術から1、3、5日後のタイミングで呼吸器系の障害が現れた。
- 内視鏡→再内視鏡(5例)手術を推奨されたにもかかわらず、飼い主が同意しなかった症例。フレキシブル内視鏡で再び摘出が試みられたものの、すべてのケースは下部滞留型でアプローチが難しく、結局食道穿孔や気胸などで全症例が死亡。
こうしたデータから調査チームは、治療をする側も飼い主の側も、どのような場合に死亡リスクが高まるのかを事前に把握しておく必要があるとしています。特にリスクを高める合併症は食道穿孔(死亡率47%, 標準の65.47倍)と食道出血(死亡率13%, 標準の11.81倍)とのことです。 Risk Factors for Death in Dogs Treated for Esophageal Foreign Body Obstruction: A Retrospective Cohort Study of 222 Cases (1998?2017).
Burton, A.G., Talbot, C.T. and Kent, M.S. (2017), J Vet Intern Med. doi:10.1111/jvim.14849
解説
異物の滞留場所に関しては上部(食道上部~胸郭入口)が16.7%(37例)、中部(胸郭入口~心基部)が33.8%(75例)、下部(心基部~食道下部)が49.5%(110例)という内訳でした。死亡率との関連で見た時、上部が0%(0/37)、中部が4%(3/75)、下部が7.3%(8/110)と格差は見られたものの、統計的に有意とまでは判断されませんでした。しかし食道の下の方まで落ちてしまったときのほうが死亡率が高まるという傾向は否めないでしょう。
異物の種類を「骨・軟骨」、「釣り針」、「その他」という3つに大別した場合、死亡率は5%(9/180)、0%(0/15)、7.4%(2/27)となり、異物の内容によって死亡率は変わらないと判断されました。また病院を受診する前に症状を呈していた期間と死亡率との間にも明白な関係性は認められませんでした。
当調査で浮かび上がってきたのは、「外科手術」、「外科手術が必要なのに強引に内視鏡摘出術を行う」、「摘出術中の合併症」が死亡リスクを高めるという関係性です。「外科手術」や「摘出術中の合併症」に関しては医療スタッフのレベルに依存する部分が大きいため飼い主はあまり干渉することができません。一方「外科手術が必要なのに強引に内視鏡摘出術を行う」に関しては、飼い主の判断が犬の命運を左右してしまいます。医師から「外科手術を行ったほうがよさそうです」と勧められているにも関わらず飼い主が断ってしまう理由としては、「侵襲性が高く麻酔のリスクを負わせたくない」、「治療費が高い」、「獣医師の発言を信用できない」などが考えられます。しかし死亡率が劇的に高まってしまう可能性を否定できませんので、十分な勘案が必要となるでしょう。
食道の異物は長時間放置すると潰瘍、食道炎、穿孔、気胸、縦隔気腫、大動脈穿孔、気管食道瘻、食道狭窄などにつながる危険性をはらんでいます。もしセカンドオピニオンを得たい場合はなるべく早くしたほうがよさそうです。
食道の異物は長時間放置すると潰瘍、食道炎、穿孔、気胸、縦隔気腫、大動脈穿孔、気管食道瘻、食道狭窄などにつながる危険性をはらんでいます。もしセカンドオピニオンを得たい場合はなるべく早くしたほうがよさそうです。