詳細
調査を行ったのは、宮崎大学が中心となった共同チーム。2009~2010年の期間、中国地方(53人)、近畿地方(45人)、四国地方(33人)の猟師に協力を仰ぎ、猟犬441頭分(中国131頭+近畿205頭+四国105頭)の血液サンプルと糞便サンプルを採取しました。そして血液サンプルからは「ウェステルマン肺吸虫」(Paragonimus westermani)と呼ばれる寄生虫の抗体を、糞便サンプルからは同寄生虫の卵を検出したところ、血清陽性率が44.2%(195/441)という極めて高い値であることが明らかになったといいます。また寄生虫の感染率を高めている危険因子を統計的に調べたところ「犬にイノシシの生肉を与えている」(リスク3倍超)、「年齢が高い」という項目が浮かび上がってきたとのこと。
こうした結果から調査チームは、仕留めた獲物の生肉を加熱せずに猟犬に与えるという行為は衛生的な観点からはやめた方がいいと忠告しています。 Infection with Paragonimuswestermani of boar-hunting dogs in Western Japan maintained via artificial feeding with wild boar meat by hunters
Takao Irie et al., Journal of Veterinary Medical Science, doi.org/10.1292/jvms.17-0149
こうした結果から調査チームは、仕留めた獲物の生肉を加熱せずに猟犬に与えるという行為は衛生的な観点からはやめた方がいいと忠告しています。 Infection with Paragonimuswestermani of boar-hunting dogs in Western Japan maintained via artificial feeding with wild boar meat by hunters
Takao Irie et al., Journal of Veterinary Medical Science, doi.org/10.1292/jvms.17-0149
解説
仕留めたイノシシの生肉を与えるという行為は特に中国と近畿地方の猟師で多く見られました。犬に肉を与える状況としては「獲物を解体するときに切れ端を与える」、「生肉が犬の滋養強壮になると思い込んでるためあえて与える」、「獲物の匂いを覚え込ませるために訓練の一環として与える」などが考えられます。しかし、その結果として犬が寄生虫に感染し、虫卵を含んだ糞便を山林に撒き散らしているわけですから、何らかの規制を設けたほうがよいでしょう。猟犬で見られた40%超という高い血清陽性率の中には、糞便を踏んづけて間接的に感染してしまったケースも含まれていると考えられます。
今回の調査では生肉がもたらす犬への危険性が焦点となりましたが、「ジビエ」(狩猟で得た天然の野生鳥獣の食肉)が一般化するに伴い、生肉から人間にウイルスや寄生虫が感染してしまう危険性も高まってきました。例えば以下は、2013年に厚生労働省が野生鳥獣の生肉を対象として行った結果です(→出典)。下記項目には含まれていませんが「ウェステルマン肺吸虫」もまた、イノシシ肉の中に潜在的に含まれているものと考えられます。
飼養方法が管理がされていないイノシシやシカといった野生鳥獣は、寄生虫や病原性ウイルスを保有している可能性が高いと考えられます。また牛や豚といった家畜動物と異なり、解体するときに病気の有無を検査する義務がありません。2016年12月、茨城県の猟師が調理店に直接持ち込んだクマ肉によって客がトリヒナ食中毒にかかったという事例もありますので(→出典)、口にするのが犬だろうが人だろうが、ジビエ肉の衛生状態には気をつけたいものです。
野生鳥獣肉の衛生管理に関する指針
日本ジビエ振興協会・流通と衛生管理
第2回・日本ジビエサミット2016
野生鳥獣の病原体保有状況調査の結果について