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犬の寿命統計・アメリカ編~大きさ・犬種・性別ごとに見る生存期間の違い

 アメリカ国内に暮らしている2万頭超の犬を対象とした統計調査により、犬たちの属性(犬種・体型・性別・不妊手術 etc)が寿命にどのような影響を及ぼしうるかが明らかになりました。

犬の寿命統計・概要

 ワシントン大学獣医校を中心とした調査チームは、「Dog Aging Project」の一環としてアメリカ国内にある3つの動物病院を1年のうちに受診した20,970頭のデータを参照し、調査期間中に死亡が確認された1,535頭(7.3%)の属性から犬たちの寿命とその関連因子を統計的に検証しました。
 その結果、犬全体における生存率曲線が以下のようになったといいます。全体の生存期間中央値(ある集団内の50%が死亡するまでの期間)は15.4歳、メス犬は15.6歳、オス犬は15.2歳でした。人間にとって20歳は大人の仲間入りを意味しますが、多くの犬たちにとっては命の終わりを意味しているようです。 米国内における2万頭超の犬から導き出した生存率曲線 Lifespan of companion dogs seen in three independent primary care veterinary clinics in the United States.
Urfer, S.R., Kaeberlein, M., Promislow, D.E.L. et al. Canine Genet Epidemiol 7, 7 (2020). DOI:10.1186/s40575-020-00086-8

人気犬種の寿命

 飼育頭数が多かった10犬種の生存期間中央値は以下です。
こちらは他の国で行われた犬種別の寿命統計です。日本国内におけるデータもあります。

体重と犬の寿命

 18ヶ月齢時に計測したときの体重を基準とし、犬たちを「小型犬=9kg未満」「中型犬=9~18.1kg未満」「大型犬=18.1~40.8kg未満」「超大型犬=40.8kg以上」に区分したときの生存期間中央値は以下です。「犬の体が大きいほど短命」という世界共通の現象が追認されています。
犬の体重と寿命(kgベース)
体重ベースで分類した犬の体の大きさと生存期間中央値(寿命)との関係
  • 小型犬=16.2歳
  • 中型犬=15.9歳
  • 大型犬=14.6歳
  • 超大型犬=13.4歳
 またアメリカンケネルクラブ(AKC)が恣意的に割り当てている犬種ごとの体重区分から「小型犬」「中型犬」 「大型犬」 「超大型犬」に分類したときの生存期間中央値は以下です。こちらでもやはり犬の体が小さいほど寿命が長く、大きいほど寿命が短いという関係性が確認できます。
犬の体重と寿命(AKCベース)
AKC基準で分類した犬の体の大きさと生存期間中央値(寿命)との関係
  • 小型犬=16.4歳
  • 中型犬=15.7歳
  • 大型犬=14.3歳
  • 超大型犬=12.0歳

血統ステータスと犬の寿命

 単一犬種に属する「純血種」(13,068=62.3%)、異なる2つの純血種の第一世代である「F1ハイブリッド」(1,085=5.2%)、複数の純血統もしくは無純血統からなる「ミックス」(6,480=30.9%)に区分した場合の生存率曲線は以下です。純血種の生存期間中央値が15.5歳、ミックスが15.2歳、F1ハイブリッドが16.1歳で、グループ間に寿命の格差が見られませんでした。一般的に「雑種強勢」と言われますが、犬においてはそれほど明白ではないのかもしれません。 犬の「雑種強勢」(hybrid vigor)はある種の遺伝病に関しては当てはまらない 血統ステータスと犬の生存率曲線

不妊手術と犬の寿命

 去勢済みのオス犬における生存期間中央値が15.0歳、未去勢のオスが15.2歳、避妊済みのメス犬が15.8歳、未手術のメス犬が14.1歳でした。犬の不妊手術ステータスと生存期間中央値(寿命)との関係
  • 去勢オス=15.0歳
  • 未去勢オス=15.2歳
  • 避妊メス=15.8歳
  • 未避妊メス=14.1歳
 避妊手術を受けたメス犬は受けていないメス犬よりも統計的に有意なレベル(=偶然では説明しにくいレベル)で長生きすることが判明し、この格差は犬たちの体重や受診した病院の影響を受けなかったといいます。
 一方、未去勢のオス犬よりも去勢済みのオス犬の方が長生きする傾向が見られましたが、メス犬に比べるとその格差は小さく、また犬たちの体重や受診した病院の影響を考慮して補正した場合、格差自体が消えてしまったといいます。 犬の不妊手術ステータスと生存率曲線
不妊手術による恩恵は、寿命に限定するとオス犬よりもメス犬の方が大きいという現象は過去に行われた調査でも報告されています。

近交係数と犬の寿命

 近親交配の度合いを示す「近交係数」に関し、中央値「0.263」という基準よりも小さい群と大きい群に分けたときの生存率曲線は以下です。 近親係数と犬の生存率曲線  「近交係数が小さい」(=近親交配があまり行われていない)とは遺伝子多様性が高いこと、「近交係数が高い」(=近親交配が頻繁に行われている)とは遺伝子多様性が低いことを意味しています。「0.263」より小さい場合の生存期間中央値が「15.8歳」、大きい場合のそれが「15.3歳」で、両者の間に見られた0.5歳という格差は統計的に有意と判断されました。

有効個体数と犬の寿命

 次世代に子孫を残す能力がある個体の総称である「有効個体数」に関し、中央値「67」という基準よりも小さい群と大きい群の生存率曲線は以下です。 有効個体数と犬の生存率曲線  「有効個体数が少ない」とは遺伝子多様性が低いこと、「有効個体数が多い」とは遺伝子多様性が高いことを意味しています。「67」より小さい場合の生存期間中央値が「14.0歳」、大きい場合のそれが「14.3歳」で、両者の間に見られた0.3歳という格差は統計的に有意と判断されました。

系統発生群と犬の寿命

 犬を系統発生群で区分した場合の所属犬種、生存期間中央値、生存率曲線は以下です。系統発生的に「Mountain」に属する犬たちは、その他の群に属する犬たちと比べて顕著に短命であることが明らかになりました。 系統発生群と犬の生存率曲線
大型犬の寿命が短くなる現象には、細胞内における無酸素系エネルギー悪性腫瘍(がん)の発症率が関わっているのではないかと考えられています。