9月30日
後先を考えずに行動してしまう「衝動性」の度合いには、生後12週齢以前の「社会化期」における犬の過ごし方が深く関わってることが明らかになりました。調査を行ったのはカナダ・ゲルフ大学のチーム。アメリカ・オンタリオ州のペットホテルやトリミングサロンに預けられていた犬の中から、性別や年齢(6ヶ月~13歳)がバラバラな35頭をスカウトし、犬の社会化と衝動性にどのような関連があるのかを確かめるための実験に加わってもらいました。手順は、飼い主に対してアンケート調査を行い、「12週齢以前」と「12週齢~1歳」における犬の社会化の度合いを把握した後、犬自身の「衝動性」を測る2つの行動テストを実行するというものです。
犬の衝動性テスト
- 報酬遅延テスト 「量は少ないけれどもすぐ手に入る餌」と「量は多いけれども暫く待たなければならない餌」という二者択一を設定し、犬がどちらを選ぶかを観察する。
- 迂回テスト 餌をゲットするためには迂回しなければならない状況を設定し、犬が正しい行動をとれるかどうかを観察する。
こうした発見から研究者たちは、「生後12週齢以前の社会化期において沢山の人と出会ったり、パピークラスに参加したりした犬では、成長してからの衝動性が低くなる」との結論に至りました。 Effect of Socialization on Impulsivity in the Domestic Dog 今回の調査では、生後12週齢以前における社会化の度合いと「衝動性」とが密接な関係にあることがわかりました。そして過去に行われた数多くの研究により、「衝動性」と「犬の問題行動」との間には、密接な関係があることが示唆されています。具体的には以下です。
犬の衝動性と問題行動
- 行動抑制が効かない(Bray et al. 2014; Wright et al. 2012)
- 報酬遅延を我慢できない(Wright et al. 2012)
- 注意散漫と突発的行動(Vas et al. 2007)
日本国内では「生後8週齢規制」が叫ばれて久しいですが、ただ単にペットショップへの引き渡し時期を遅らせるだけでは全く意味がないことがお分かりいただけるでしょう。重要なのは、生後12週齢までの極めて重要な社会化期を、どれほどたくさんの人間や犬と接し、いかに社会化の度合いを高めるかという点にほかなりません。パピーミルやペットショップのような劣悪な環境で、適切な社会化期を送ることができないことだけは確かです。
9月29日
1年間に売買される犬や猫のうち、流通過程で死んでしまう個体の数が、行政による年間殺処分数の約18%に相当する「23,181匹」であるというおぞましい現実が明らかになりました。調査を行ったのは朝日新聞とAERA。元データとなったのは、2013年9月に施行された改正動物愛護法により、ペット関連業者に提出が義務付けられた「犬猫等販売業者定期報告届出書」です。この届出書の内容を2013年度(2013.9~2014.3)と2014年度(2014.4~2015.3)という区分で独自に集計したところ、以下のような実態が明らかになったと言います。
犬猫の流通数と死亡数
- 2013年度
・犬の流通数=37,0894匹
・猫の流通数=72,569匹
・流通過程での犬猫死亡数=17,038匹
※年度の途中で法が施行されたため実数は少ない。 - 2014年度
・犬の流通数=617,009匹
・猫の流通数=133,554匹
・流通過程での犬猫死亡数=23,181匹
「犬猫等販売業者定期報告届出書」に死因については報告義務がないため、2万匹を超える犬や猫たちが一体どのような理由で死に至ったのかはわかりません。しかし、データとして最も時間的に近い平成25年度(2013.4~2014.3)における行政の犬猫殺処分数「128,241匹」(犬28,570+猫99,671)の、およそ18%に相当するという現実は到底無視できるものではないでしょう。
数字に関する詳しいレポートは、2015年10月発売の「AERA」、およびネット記事「sippo」内に記載されます。
9月28日
一部の猟犬が見せる特徴的な行動「ポインティング」は、ある特定の遺伝子によって生み出されている可能性が示されました。調査行ったのは、ドイツとオーストラリアの共同チーム。「ポインティング」(ターゲットを見据えて息を凝らし、前足を挙げたまま静止する)を得意とする代表犬種としてラージミュンスターレンダーとワイマラナーを選び、その遺伝子を牧羊犬であるピレニアンシェパードとスカーペンダスのものと比較しました。後の2犬種が選ばれた理由は、猟犬と血筋の一部を共有しているにもかかわらず、あまりポインティング動作を見せないからです。遺伝子調査の結果、「ポインティング」犬種においては第22染色体上の「SETDB2」と「CYSLTR2」という遺伝子に共通部分が見出されたと言います。さらにその後の追加調査で、猟犬と非猟犬の遺伝子を比較したところ、7種の猟犬中6種においてやはり同じ傾向があったとも。
この発見から研究チームは、 「一部の猟犬が見せるポインティングという特徴的な行動には、特定の遺伝子が関わっている可能性がある」との結論に至りました。ただし「SETDB2」の方は、運動の左右非対称性(右の前足を優先的に使うなど)とも関係していると考えられているため、この遺伝子が直接ポインティング行動を生み出しているのか、それとも遺伝子が学習能力に影響及ぼし、その結果として間接的に行動を生み出しているのかはわからないとも。 Homozygosity mapping and sequencing identify two genes that might contribute to pointing behavior in hunting dogs
9月25日
犬の歯周病は長らく生活習慣病の一つとして数えられてきましたが、実は遺伝的な要因も関わっているらしいことが明らかになりました。調査を行ったのは、ポルトガルにあるトラスオスモンテス・アルトドウロ大学の獣医学チーム。犬の歯周病と遺伝の関係を明らかにするため、最も怪しいと思われる遺伝子をあらかじめピックアップし、発症との関連性を精査しました。具体的には以下の5つです。
歯周病関連遺伝子候補
- IL1Aインターロイキン-1αを生成する/亜型はIL1Bと合わせて8個
- IL1Bインターロイキン-1βを生成する/亜型はIL1Aと合わせて8個
- IL10インターロイキン-10を生成する/亜型は7個
- IL6インターロイキン-6を生成する/亜型は3個
- LTFラクトトランスフェリンを生成する/亜型は8個
こうした事実から研究チームは、生活習慣病の一種として扱われることの多い歯周病にも、実は遺伝的な要因が複雑に絡み合っているという可能性を明らかにしました。 The genetics of canine periodontal disease: a candidate gene approach
9月24日
マウスや人において強い発癌性が確認されている「ベンゾピレン」が、犬の乳ガン発生にも関わってる可能性が示されました。研究を行ったのは、アメリカ・テネシー大学の小動物医療チーム。避妊手術を受けたメス犬から脂肪組織由来の「間葉系幹細胞」(ADMSC)を取り出し、環境中に広く存在している発がん性物質「ベンゾ[a]ピレン」(BaP)が、細胞にどのような影響を及ぼすかを観察しました。結果は以下。
ADMSCへのBaPの作用
- ADMSCの細胞分裂を阻害することはない
- AhR(芳香族炭化水素受容体)のシグナル経路を阻害する
- PPARγ(ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体γ)のシグナル経路を阻害する
- 脂肪生成の際、細胞質から核内へのAhR移行を促進する
BaPの主な発生源
- 一般環境鉱工業・石油精製・自動車などの輸送機器・山火事・ゴミ焼却 etc
- 家庭環境調理時の煙や焦げ・タバコの煙・燻製・かつお節やその加工品・直火で料理されるの肉や魚 etc
9月23日
犬同士の間で見られる行動を観察したところ、上位の犬と下位の犬には、それぞれに特徴的な「支配的行動」と「服従的行動」があるらしいことが再確認されました。研究を行ったのは、オランダ・ユトレヒト大学が中心となった獣医学チーム。オオカミの群れや野犬の群れで確認されているグループ内の階級(ヒエラルキー)が、果たして飼い犬にもあるのかどうかを確認するため、 不妊手術を行っていない16頭の犬を対象とした12週間に及ぶ観察を行いました。内訳は、3ヶ月齢未満=3頭、3ヶ月~9ヶ月齢=7頭、9ヶ月~18ヶ月齢=2頭、18ヶ月齢以上=3頭で、犬種、性別、体重はバラバラです。
その結果、上位の犬と下位の犬は、あらかじめ想定していた7つの姿勢と24個の行動のうち、ある特定のパターンを見せる傾向があったと言います。具体的には以下です。
支配的・服従的行動
- 上位の犬居丈高(頭としっぽを高く上げ、耳はまっすぐ伸ばし、背筋と足をぴんと伸ばす)/マズルに噛み付く(特に最上位の個体)
- 下位の犬低姿勢(頭を下げてしっぽを後足に挟み、耳を折る+体は丸めるか仰向け)/相手の口角を舐める(特に最上位の個体に対して)/頭の下を通る(特に最上位の個体に対して)/しっぽを下げたまま振る
近年はごほうびを用いた有効なトレーニング方法が発達していますので、まずはそちらから試した方が確実でしょう。
9月22日
犬の乳腺に出来た腫瘍が良性なのか悪性なのかがわからないとき、体内におけるステロイドホルモンレベルが目安になってくれるかもしれないことが発見されました。研究を行ったのはポルトガルとスペインの共同チーム。乳腺に腫瘍ができた45頭の犬から組織サンプルと血清サンプルを採取し、中に含まれる各種ステロイドホルモンの濃度を精査しました。その結果、良性腫瘍と悪性腫瘍では、組織中の値に著しい差が見られたと言います。具体的には以下です。
SHと乳腺腫瘍
- 再発と転移が生じやすい悪性腫瘍組織中の硫酸エストロン (SO4E1)・デヒドロエピアンドロステロン (DHEA)・アンドロステンジオン (A4)・テストステロン (T) ・プロゲステロン(P4)の値が高い
- 比較的生存期間が長い悪性腫瘍組織中の硫酸エストロン (SO4E1)・17β-エストラジオール(E2)・デヒドロエピアンドロステロン (DHEA)・アンドロステンジオン (A4)・プロゲステロン(P4)の値が高い
9月21日
犬の認識力を研究する際、従来のように研究室で得られた少数のデータを用いるのではなく、クラウドソーシングを通じて得られた巨大なデータを利用するという新たな可能性が検討されています。市民参加型の画期的なデータ収集を行ったのは、アメリカ・デューク大学のブライアン・ヘア氏らのチーム。2013年2月、インターネットに「Dognition.com」というサイトを立ち上げ、犬の認識力テストを行うという名目で60ドルの参加費用を提示し、一般からの参加者を募りました。その結果、277名が募集に応じたと言います。その後、動画や文章を用いて参加者にテスト手順を解説し、得られた結果をオンラインで入力してもらいました。具体的な内容は以下です。
犬の認識力テスト
- 腕による指示(○)2つあるカップ内、エサの入ってる方を指差し、犬に自由選択させる
- 足による指示(○)2つあるカップ内、エサの入ってる方を足で差し、犬に自由選択させる
- その他の視覚的合図(×)犬に「おあずけ」の指示を出した後、「じっと見つめる」、「目をつぶる」、「後ろを向く」といった状況を作り、犬がエサに飛びつくまでの時間を計測する
- 記憶対指示(×) 2つあるカップの一方にエサを入れた後、入っていない方のカップを指差し、犬に自由選択させる
- 記憶対嗅覚(○)2つあるカップの一方にエサを入れた後、犬に気付かれないようにカップの位置を入れ替え、犬に自由選択させる
- 時間差記憶(○)カップにエサを入れた後、1~3分間の時間をあけ、犬に自由選択させる
- 物質的類推(○)床の上に2枚の紙を置き、一方の下にエサを入れて若干膨らませた後、犬に自由選択させる
9月17日
犬とオオカミの問題解決能力を、統一した実験環境内で比較したところ、オオカミよりも犬の方がこらえ性がなく、すぐ人間に泣きつく傾向があることが明らかになりました。実験を行ったのはオレゴン州立大学のモニク・ユデル博士。「人間に飼われている犬×10頭」、「動物保護施設にいる犬×10頭」、「人間に育てられたオオカミ×10頭」という3つのグループを、ロープを引っ張れば箱の中のソーセージを食べることができるという状況の中に入れ、それぞれのリアクションを観察しました。その結果、オオカミでは10頭中8頭が自力で問題を解決したのに対し、犬では20頭中わずか1頭しか解決できなかったと言います。そしてこの達成率は、犬の近くに人間が立ち、行動を促すように働きかけても、それほど改善しなかったとも。その代わり、問題に直面して人間の方を見る「おうかがい」(looking back)に関しては、犬の方が圧倒的に多く見せたそうです。
こうした事実からユデル博士は、「犬は長い歴史の中で人間に頼ることを覚えてしまい、自力で問題を解決しようという行動パターンが抑制されてしまったのかもしれない」と述べています。この現象が果たして「退化」なのか、それとも「進化」なのかに関しては、研究者の見方によって変わるとのこと。 BIOLOGY LETTERS
9月17日
生後間もない赤ん坊を対象とした調査により、ペット由来のビフィズス菌を腸内に保有している赤ん坊は、アレルギーになりにくいという可能性が示されました。調査を行ったのはフィンランド・トゥルク大学のアレルギー研究班。出産して間もない母親の中から、何らかのアレルギーを持っている人を選抜し、「犬、猫、ウサギのいずれかを飼っているグループ」(51人)と「ペットを飼っていないグループ」(64人)の2つに分けました。そして各グループの赤ん坊が生後1ヶ月を迎えたタイミングで、オムツの中からうんちのサンプルを取り、主に動物の腸内で発見されるビフィズス菌の一種「B. thermophilum」および「B. pseudolongum」の有無を調査しました。
その結果、「ペットを飼っているグループ」の陽性率がおよそ33%だったのに対し、「ペットを飼っていないグループ」のそれは半分以下の14%にとどまっていたと言います。さらに生後6ヶ月を迎えたタイミングで、代表的な物質(牛乳・卵白・小麦・タラ・大豆・カバノキ・草・猫・犬・じゃがいも・バナナ etc)に対するアレルギーテストを行ったところ、少なくとも1つの物質にアレルギー反応を示した19人の中に、「B. thermophilum」を保有している者はただの1人もいなかったと言います。
こうした事実から調査班は、「動物由来の腸内細菌には、赤ん坊のアレルギー反応を抑える効果があるかもしれない」との結論に至り、「少なくとも赤ん坊のアレルギーを心配してペットを手放す必要はない」との見解を示しています。今後の課題は、以下に示すようないくつかの疑問点を明らかにすることだといいます。
ペット由来の腸内細菌
- 腸内細菌はどのようにしてから赤ん坊に移ったか?
- 腸内細菌はアレルギー反応と因果関係にあるのか?
- アレルギーの抑制作用は赤ん坊が成長してからも続くのか?
9月16日
インディアナ州のパデュー大学が、犬舎環境にある犬が心身ともに健康であるかどうかをチェックする際の簡易リストを公開しました。8月に公開された最新版の中では、犬舎環境にある犬の管理をする人は、基本的な健康チェックのみならず、犬が見せるボディランゲージにも注意を払い、福祉の向上に勤めることが重要だとしています。「犬舎環境」とは、動物病院やペットホテル、繁殖施設や動物保護施設、人間と隔離された屋外飼育環境など、犬が自由に動き回ることができない環境全般の事です。具体的には以下のような項目が、チェックの目安として挙げられています。
恐怖や不安を抱いている犬
- 見知らぬ物や人間に近づこうとしない
- 身体を低くする
- 足の間に尻尾を挟む
- 体を震わせる
- 息遣いが荒くなる
- 前足を上げる
- 口元を舐める
- 粗相をする
ストレスを感じている犬
- 周囲にあるものを破壊する
- 同じ場所をうろうろする
- その場でぐるぐる回る
- 壁に向かって何度もジャンプする
- 大量に水を飲む
- 大量に餌を食べる
- 病的にじっと見つめる
- 前足を病的に舐める
- クンクン鳴きや無駄吠え
体調の悪い犬
- 元気がなくなる
- 食事量が落ちる
- 引きこもって交流を避ける
- 被毛のつやがなくなる
- 体に傷がある
- 咳やくしゃみをしている
- 鼻水や目やにがある
9月15日
スロバキア共和国で行われた「犬の攻撃行動」に関するアンケート調査により、犬が攻撃的になってしまう要因の一端が明らかになりました。調査を行ったのはコシツェ大学の獣医学チーム。犬の攻撃行動が飼い主による飼育放棄や遺棄、そして時には殺処分の原因となることを憂慮したチームは、一体どういう要因が犬の攻撃性に影響を及ぼすのかを、飼い主に対するアンケート調査で明らかにしようとしました。まず2008年から2013年の間、7つの分野にまたがる合計63項目の質問票が217人の飼い主に配布され、その内177人(12歳~75歳)の回答が有効と判断されました。そして得られたデータを基に統計調査を行ったところ、67%の犬で何らかの攻撃行動が見られ、そのうちおよそ半分は飼い主に対するもの、そして40%は見知らぬ人に対するものだったといいます。その他の主な発見は以下で、カッコ内の数字は標準を「1」としたときの相対的な現れやすさを示しています。
犬の攻撃行動
- 親しい人に対する攻撃●親しい人に対する攻撃性は「オス犬」(2.16)と「我流の訓練を受けている犬」(2.32)で多かった
- 見知らぬ人に対する攻撃●見知らぬ人に対する攻撃行動のうち33.3%は見知らぬ男性が近づくことが引き金になっていた
●見知らぬ子供が近づいたとき常に攻撃性を見せる犬の割合は2.3%と少なかった - 攻撃行動全般について●「不妊手術を受けた犬」は様々な状況において攻撃性が弱かった(0.36)
●攻撃性を見せる犬の多くは同時に恐怖心も見せた(5.23~6.52)
9月14日
胃酸の抑制などに用いられる「プロトンポンプ阻害薬」(PPI)に、各種ガンに対して行われる化学療法の効果を高める可能性があるかどうかが検討されています。研究行っているのは、イギリス、イタリア、スペインなど複数の国から成る共同チーム。かねてから、ガン細胞は正常細胞とは違った代謝経路でエネルギーを獲得しており、その結果として細胞外の酸性度を高くする(=pHを低下させる)という特徴を有している点は知られていました。今回チームが着目したのは、細胞外の酸性度を低くする(=pHを高める/アルカリ化する)ことで、化学療法で用いられる抗がん剤の治療効果を高めると同時に、ガン細胞の浸潤性を低下させることができるかもしれないという可能性です。
上記可能性を検証するため、通常の化学療法に反応しなかった患畜を対象とし、プロトンポンプ阻害薬(PPI)によるガン組織のアルカリ化と、従来の化学療法を組み合わせた混合治療が施されました。その結果、重大な副作用を引き起こすことなく、ガン組織の縮小が見られたと言います。
こうした事実から研究チームは、プロトンポンプ阻害薬(PPI)が人間に対してのみならず、犬や猫といったペット動物に対しても抗がん作用を発揮し得る可能性を確認しました。プロトンポンプ阻害薬(PPI)の持つメリットをまとめると以下のようになります。
PPIのメリット
- 酸性度が高いガン細胞周辺でのみ作用する
- 副作用が少ない
- 抗がん剤の投与量と副作用を減らせる
- 飼い主の経済的負担を減らせる
- 使用するに当たって大きな制約がない
9月14日
体の一部を失うことで発生する「幻肢痛」に関し、東京大学のチームがメカニズムの一部を解明しました。研究を行ったのは、東京大学医学部附属病院の緩和ケア診療部、住谷昌彦准教授を中心とするチーム。体の一部を失ったにも関わらずなぜか痛みだけが残る「幻肢痛」(げんしつう, phantom pain)の強さが、いったい何によって左右されるのかを確かめるため、後天的に片腕を失った被験者に「両手干渉課題」というテストを受けてもらいました。このテストは、失った方の手で円を描く動作を頭の中でシミュレーションしながら、健常な方の手で実際に直線を引くというものです。「直線をうまく書けている」ことが「脳内でのシミュレーションがうまくできていない」ことを意味し、逆に「直線をうまく書けていない」ことが「シミュレーションがうまくできている」ことを意味しています。 その結果、患側の手で円を描く動作を頭の中でうまくシミュレーションできていない人、すなわち健側で書いた直線のゆがみが小さい人の方が、強い幻肢痛を感じているという傾向を見出したと言います。
今回の実験で得られた知見は、幻肢痛に苦しむ患者さんたちの疼痛緩和に役立てていく予定だということです。 失った手足の痛みを感じる仕組み 現在の日本においては、トイプードルなどの特定犬種があいまいな理由で「断尾」の対象とされており、ペットショップに並んだ時点ですでにしっぽが切り落とされています。神経生理学的に人間と同じ構造を持っている犬に、人医学である「幻肢痛」が存在しないと考えるのは不自然です。「断尾」のような悪習は、可愛さを前面に押し出して視聴率を稼ごうとするマスメディアではまず伝えられることがありませんので、飼い主としては自発的に調べておく必要があります。以下のページにまとめてありますのでご参照ください。
9月11日
出産後の母犬から分泌される鎮静ホルモン「DAP」には、雷の音に対する犬の恐怖心を和らげる効果があることが確認されました。実験を行ったのは、カナダとフランスの共同チーム。雷の音に対して敏感な24頭のビーグル犬(7歳~12歳)を、怖がりの度合いが偏らないよう12頭ずつにグループ分けし、一方には「DAP」(dog-appeasing pheromone)を放出する首輪を付け、他方にはダミーの首輪を取り付けました。その後、「音が鳴る前」(3分)、「音が鳴っている最中」(3分)、「音が鳴り終わった後」(3分)という3つのフェイズからなる9分間の音響テストを、2日間に分けて合計2セット行い、各フェイズにおける犬のリアクションを評価しました。
その結果、「DAPグループ」では「音が鳴っている最中」と「音が鳴り終わった後」のフェイズにおける恐怖心や不安感が大幅に減少したといいます。そしてこの減少は、「走り出す」、「そわそわする」、「物陰に隠れる」、「ジャンプする」、「吠える」といった動きを伴う能動的なリアクションで顕著だったとも。
こうした結果から実験者たちは、「DAPには雷の音に対する犬の恐怖心を和らげる効果がある」との結論に至りました。また「DAPグループ」では、実験室内に設けられたすっぽりと身を隠せる隠遁場所を多用する傾向が見られたことから、「DAPと隠れ場所を併用すれば、より多くの鎮静効果が得られるだろう」と提案しています。 VeterinaryRecord 犬用鎮静ホルモン「DAP」を合成した市販商品としては、フランスの「ceva社」が製造している「ADAPTIL™」が有名です。しかし残念ながらこの会社は日本法人や正規代理店をもっていません。よって商品を購入する場合は、自分で海外から取り寄せるか、手続きを代行してくれる個人輸入に依頼する必要があります(→詳細)。また犬の恐怖心を和らげる他の商品には、「ストーム・ディフェンダー・ケープ®」(Storm Defender Cape)、「アンクザイエティ・ラップ®」(Anxiety Wrap)、「ハーモニーズ®」(Harmonease)などがあります。なお音恐怖症をしつけによって改善したい場合は「拮抗条件付け」や「系統的脱感作法」が効果的です。詳しくは以下のページをご参照ください。
9月10日
200頭以上の犬を対象とした調査により、認知症の進行具合を把握する際の新基準「CADES」の実用性が評価されました。調査を行ったのはスロバキアとチェコとの共同チーム。犬の高齢化に伴って増えつつある「認知症」(認知機能不全症候群, CDS)の進行度を測る際の新たな評価法「CADES」(canine dementia scale)を考案し、215頭の老犬を対象としてその実用性を評価しました。「CADES」の具体的な内容は、「空間認識」、「社会的交流」、「睡眠サイクル」、「トイレの習慣」という4つの分野にまたがる17項目の質問に対し、犬と生活を共にしている人間が主観的に段階評価するというものです。結果は以下。
CADES式認知症評価
- 軽度認知症40%が「社会的交流」の変化を示した。
- 中等度認知症67%が「社会的交流」に加えて「睡眠サイクル」にも変化が見られた。
- 重度認知症4つの分野全てにおいて悪化が見られた。
こうした結果から調査チームは、「CADESは犬の認知症の進行度を推し量る際の基準として実用的である」という点と、「犬の認知症は1年という比較的短い期間で進行する」という点を確認するに至りました。 犬の認知症の評価法には様々な種類があり、日本では「内野式」や「ロファイナ式」などが有名です。今回その実用性が確認された「CADES」に関しては、今後獣医学の教科書に載る可能性があるものの、まだまだ先の話です。現時点では上記した評価法をご利用ください。 CAnine DEmentia Scale (CADES)
9月9日
慢性的な腸疾患に苦しむ犬を対象とした調査により、ビタミンD不足は腸内における炎症の度合いと何らかの因果関係があるという可能性が示唆されました。実験を行ったのはイギリス・エジンバラ大学のチーム。3週間以上継続する腸疾患を患い、なおかつ他の基礎疾患がないと診断された犬39頭を対象とし、血中のビタミンD濃度(25 hydroxyvitamin D)と腸炎の度合い(炎症性サイトカイン濃度や十二指腸の組織検査 etc)に何らかの関係があるかどうかが検証されました。その結果、体内のビタミンD濃度が低ければ低いほど、炎症の程度が強くなるという反比例の関係が見出されたと言います。
この結果から研究者たちは、明確なメカニズムは分からないものの、「体内におけるビタミンD不足と炎症性疾患の間には因果関係がある」との結論に至りました。ただし人医学の領域で確認されている「炎症性疾患を抱えた人の全てがビタミンD不足と言う訳では無い」という事実や、「ビタミンDを摂取しても炎症性疾患が改善しなかった」といった事実を引き合いに出し、ただ闇雲にビタミンDを補給することが炎症性疾患の治癒につながる訳ではないという慎重な態度も見せています。 Low Vitamin D Status Is Associated with Systemic and Gastrointestinal Inflammation in Dogs with a Chronic Enteropathy(PLOS ONE)
注意!
- 摂取不足に注意 一昔前まで、犬は人間と同じように太陽から紫外線を浴びることでビタミンDを生成できると考えられていました。しかし現在は、口から栄養素を摂取しなければならないことが確認されています。ビタミンDが不足しないようにご注意ください。なお米国飼料検査官協会(AAFCO)が公表している資料によると最少栄養要求量は、食餌100kcal中「12.5IU」です。
- 過剰摂取に注意 ビタミンDは「脂溶性ビタミン」と言って体内に蓄積する性質を持っています。過剰に摂取すると生体に有害作用を引き起こすことがありますのでご注意ください。通常、市販のペットフードには十分な量のビタミンDが含まれており、サプリメントを追加で与える必要はありません。上限は食餌100kcal中「75IU」です。
9月8日
副腎皮質で産生される「ステロイドホルモン」を人工的に生成したステロイド系薬品は、人間の場合と同様、犬の精神や行動に悪影響を及ぼす可能性を有していることが確認されました。実験を行ったのはイギリス・リンカーン大学の研究チーム。獣医療の現場で広く用いられているステロイド系薬品が、犬の行動にもたらす影響を確かめるため、「飼い主による主観評価」および「第三者による客観評価」をベースとした2種類の実験が行われました。 まず第一のテストでは、被験者たちをステロイド治療(プレドニゾロン/メチルプレドニゾロン)を受けている犬の飼い主44人と、ステロイド治療を受けていない犬の飼い主54人という2つのグループに分割し、犬の行動に関する12項目の質問に対して7段階評価をしてもらいました。その結果、「ステロイドグループ」においては以下のような行動の変化が見られたと言います。
ステロイドと行動変化
- あまり遊ばなくなる
- 神経質で落ち着きがなくなる
- 怖がりになる
- エサが目の前にあるとき攻撃的になる
- 良く吠えるようになる
- 驚きやすくなる
- 混乱すると攻撃的になる
- 人間を避けるようになる
- 真新しい状況を嫌う
9月7日
人間の行動を模倣させることで犬にある一定の行動教え込ませる「真似してごらんメソッド」は、しつける内容によってはクリッカートレーニングよりも有効である可能性が示されました。実験を行ったのはハンガリー・エトヴェシュロラーンド大学のチーム。ある特定の行動を犬に教え込ませる際、人間の猿真似をさせる「真似してごらんメソッド」(Do As I Do method/DAID)が、一体どの程度の有効性を持っているかを確認するため、ドッグトレーニングの分野で広く用いられているオペラント条件付けを利用した「クリッカートレーニング」(Shaping)との比較を行いました。
まずある特定の行動群を設定し、それらを「対象物と関わりのある行動」と「対象物の関わらない行動」とに分けます。そして「DAID」と「Shaping」に習熟したトレーナーが、それぞれの方法を用いて犬に規定の行動を覚え込ませ、任意の指示語で再現できる状態にします。その後実験者は、指示語を受けた犬が5回連続で覚えた行動を再現できるまでの時間を計測しました。
その結果、「DAID」の方が従来の「Shaping」よりも、短い時間で行動の一貫性を確立できたと言います。また実験で用いた指示語を、実験環境とは全く違った状況で犬に与えたとき、行動を再現できる割合は「DAID」の方が高かったとも。
こうした結果から実験者たちは、「特に対象物と関わりがある行動を犬に覚え込ませる際は、人間の猿真似をさせる”真似してごらんメソッド”の方が、クリッカートレーニングよりも有効である」という可能性を示しました。 Social learning in dog training 上記「真似してごらんメソッド」を実生活の中で応用する際は、事前に「人間と同じ行動したらご褒美がもらえる」という因果関係を十分に教え込ませておく必要があります。このプロセスはオペラント条件付けによって強化されますので、オペラント条件付けをベースにしたクリッカートレーニング(Shaping)と「真似してごらんメソッド」(DAID)とはまったく別物というわけではなく、兄弟の関係にあると言っても良いでしょう。
例えば「使ったおもちゃを片付ける」など、犬が自発的に行うとは考えにくい行動を新たに教える際、「真似して!」の一言で犬が飼い主の行動を猿真似してくれる状態にしておくと、非常に便利です。一方、同じ行動をクリッカートレーニング(Shaping)でしつけようとした場合、「犬がおもちゃをくわえる」→「犬がおもちゃをくわえて移動する」→「犬がおもちゃ箱に近づく」→「くわえていたおもちゃを放す」という具合に行動を細分化し、各々のプロセスをご褒美によって強化する必要がありますので、少し面倒になります。
9月2日
イヌ科動物の分類法に関して出された最新の論文の中で、「タイリクオオカミ以外にも犬の祖先はいる」という可能性が検討されています。論文を提出したのは、テネシー大学の心理学者ウラジミール・ディネッツ助教授。イヌ科動物の分類法について論じた様々な文献を調査し、「タイリクオオカミ(Canis lupus/Gray Wolf)がイエイヌ(Canis lupus familiaris/Dog)の唯一の祖先であるとする考え方はいささか短絡的だ」との結論に至ったと言います。従来、「イエイヌはタイリクオオカミから遺伝的に分岐することで発生した」という説が大勢を示していましたが、同氏が提唱しているのは「イエイヌとタイリクオオカミは共通の祖先から分化した兄弟のような存在である」というもの。これは今からおよそ10~20万年前、現在の中国にあたる地域に生息していた「シュウコウテンオオカミ」(Canis lupus variabilis)という絶滅種が、イヌとオオカミの共通祖先になっているという内容です。この説により、イヌとオオカミが遺伝的に極めて近似していると同時に、外見、習性、能力にさまざまな違いが見られることも説明がつくと言います。
現在一部のドッグトレーナーは「犬の祖先は狼である」との説にのっとり、「飼い主は犬にとってのリーダーにならなくてはいけない!」と主張して、乱暴ともいえる訓練手法を正当化しています。しかしディネッツ博士の説が正しいとすると、今後は「前提自体が間違っているよ」とつっこまれることになるでしょう。なお同氏は「Canis lupus familiaris」というイエイヌの学名からオオカミを意味する「lupus」を取り除き、「Canis familiaris」に統一するのがよいと提唱しています。また「イエイヌ」(Canis familiaris)は、以下に述べる4つの亜種に細分されるとのこと。
イエイヌ(Canis familiaris)
- ウエスタンドッグ学名は「C. f. familiaris」。現在ペットとして飼育されているほとんどの犬を包括する亜種。
- パリアドッグ学名は「C. f. indica」。主に熱帯気候のアジアや島しょ部(ニューギニア・ポリネシア・ハワイ・ニュージーランド)に暮らす野犬。
- シンギングドッグ学名は「C. f. hallstromi 」。ニューギニアの高地にのみ暮らす野犬。絶滅の危機にあり。
- ディンゴ学名は「C. f. dingo」。オーストラリアと周辺の島々に生息する野犬。オーストラリアではウエスタンドッグとの混血が進んでいる。
9月1日
5,000頭を超える犬を対象とした調査により、騒音に対する感受性の強さは、非常に多くの要因によって左右されることが明らかになりました。調査を行ったのはノルウェーの研究チーム。インターネットを通じ、飼い主の申告ベースで「騒音に対する感受性」に関するアンケート調査を行い、最終的に17犬種/5,257頭のデータを収集することに成功しました。これらのデータを解析したところ、騒音に対する感受性は非常に多くの要因によって変動することがわかったと言います。以下はその一例です。
犬の騒音感受性
- 騒音に対する恐怖を示した割合は全体の23%
- 恐怖を示す割合は、花火>銃声のような突発的の音>雷の音>交通量の多い道路の順
- ノルウエジアンブーフント、ソフトコーテドウィートンテリア、ロマーニャウォータードッグは騒音に対する強い感受性を示した
- ボクサー、チャイニーズクレステッドドッグ、グレートデンは騒音に対する感受性が低かった
- 歳を重ねるごとに騒音に対する恐怖心が強まった
- 花火、銃声のような突発的な音、雷の音に対する感受性は相互に連動することが多かった
- 強い感受性を示す割合はメス犬の方が1.3倍高かった
- 強い感受性を示す割合は、性別にかかわらず不妊手術を受けていない犬の方が1.73倍高かった
- 騒音に対して最も強い恐怖心を示した犬は、分離不安や新しい状況に対する不安が強く、ストレスのかかる状況において平常心を取り戻すまでにより長い時間がかかった