犬の胸と腹の解剖学と構造
マッサージの仕方に入る前に、まずは基本となる胸と腹の解剖学と構造です。骨の位置や筋肉の方向を知っているかどうかで、触ったときに犬が嫌がるかうっとりするかが決まります。
犬の胸・骨格と筋肉解剖学
おなかは犬にとっての弱点
骨格で囲まれていない腹部は、攻撃されたときに致命傷となりうるため、犬にとっての弱点です。その弱点である腹部を飼い主が触るということは、飼い主が仲間であるということを、犬に対してしっかりと把握(はあく)させる効果があります。犬が腹部を見せることに抵抗を示す場合は、まずボディコントロールのしつけをマスターしましょう。
犬は胸が疲れる
犬は四つんばいで移動する四足動物であるため、胸についている筋肉で常に体の重さを支えたり、おなかについている筋肉(腹直筋)で走るときの推進力を作り出す必要があります。その結果、2本足で立って歩く人間とは肋骨の形が違うデザインになりました。
上の図で示したように、人間の肋骨が横に平べったいのに対し、犬の肋骨は縦に細長く引き伸ばされています。これは胸元にたくさんの筋肉を収容するためのデザインです。胸の中央にある胸骨(きょうこつ)を山の頂点とし、両側に向かって急斜面になっていますので、人間のような「胸板」というものがそもそも存在していないことは覚えておきましょう。
急斜面の部分には体を支えるための胸筋群(浅胸筋・深胸筋)が付いています。これらの胸元の筋肉群には非常に疲れが溜まりやすいので、マッサージを行う際の重要なポイントになります。
NEXT:胸と腹を弛緩させる
急斜面の部分には体を支えるための胸筋群(浅胸筋・深胸筋)が付いています。これらの胸元の筋肉群には非常に疲れが溜まりやすいので、マッサージを行う際の重要なポイントになります。
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胸と腹のリラックスポジション
マッサージを施す前の準備として、犬の胸と腹をリラックスポジションに置く必要があります。リラックスポジションとは筋肉が弛緩(しかん)して心身ともにゆったりした姿勢のことです。あらかじめ脱力姿勢を作っておくと、マッサージをしたときの癒やし効果が最大限に発揮されます。
では犬の胸と腹をどのようにリラックス(弛緩)させればよいのでしょうか?最も簡単な方法はやわらかいクッションやタオルケットの上で仰向けにしてあげることです。 前足が地面から離れれば、自然と胸部の力が抜けてくれます。飼い主の膝の間に頭を挟むという姿勢や横寝(側臥位)でも良いでしょう。
NEXT:マッサージの実践
では犬の胸と腹をどのようにリラックス(弛緩)させればよいのでしょうか?最も簡単な方法はやわらかいクッションやタオルケットの上で仰向けにしてあげることです。 前足が地面から離れれば、自然と胸部の力が抜けてくれます。飼い主の膝の間に頭を挟むという姿勢や横寝(側臥位)でも良いでしょう。
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犬の胸と腹をマッサージしよう!
犬の胸と腹をマッサージするときのベストエリアや代表的なマッサージテクニックを図や写真を用いて解説します。犬が喜ぶ場所を抑え、気持ちいい時間を過ごさせてあげましょう。もし犬が体へのタッチを嫌がるようなら全く癒やしになりません。まずは触られること自体に慣らせておく必要があります。詳しくは以下のページを参考にして下さい。
胸と腹のマッサージエリア
胸部に関しては、骨格で保護されていない腹部周辺が苦手部分となります。大好きな部分は疲労のたまりやすい胸部全体です。
犬の胸と腹にあるツボ
犬の胸と腹を東洋医学の経絡システムから見ると以下のような経穴(ツボ)と主治(効果)があります。
- 神闕穴神闕穴(しんけつけつ)の解剖学的な位置はおへそです。胸骨(胸の中央にある出っ張った骨)から下に向かって指を這わせ、最初に当たったへこみ(innie)もしくは出っ張り(outie)が犬のおへそになります。このツボを指圧すると胃腸障害に効くとされています。
- 中院穴中院穴(ちゅういんけつ)の解剖学的な位置は、胸骨の末端部からおへそに向かって引いた線のちょうど中間地点です。このツボを指圧すると胃腸障害に効くとされています。
- 天枢穴天枢穴(てんすうけつ)の解剖学的な位置はおへその両脇1.5~3cmの地点です。このツボを指圧すると胃腸障害に効くとされています。
- 関元穴関元穴(かんげんけつ)の解剖学的な位置はおへそと恥骨結合を結んだ線のちょうど中間地点です。恥骨結合とは、おなかを下に向かってなでていったとき最初に当たる骨の出っ張りのことです。このツボを指圧すると胃腸障害に効くとされています。
犬の胸と腹にあるリンパ
犬の胸と腹におけるリンパ液の流れを模式的に表すと下図のようになります。へそから上のリンパは前足の付け根(脇の下)にある腋窩リンパ中心と呼ばれるリンパ節に合流します。一方、へそから下のリンパは後ろ足の付け根(鼠径部)にある浅鼠径リンパ中心と呼ばれるリンパ節に合流します。
犬の胸と腹の健康チェック
犬の胸やおなかをマッサージするついでに健康チェックもしてみましょう。以下は、犬の胸腹部に現れる変化と、関連する病気とをリスト化したものです。もし異常や変化が見られた場合は、何らかの疾患の可能性がありますので、場合によっては獣医さんに診てもらいます。
犬の胸腹部のチェック方法
- おなかへのタッチを嫌がる細菌性腸炎 ・ イヌ伝染性肝炎 ・ ジステンパー ・ イヌヘルペス感染症 ・ 慢性胃炎 ・ 胃捻転 ・ 胃潰瘍 ・ 腸閉塞 ・ 横隔膜ヘルニア ・ 前立腺炎 ・ 子宮内膜炎
- おなかがふくれている回虫症 ・ フィラリア症 ・ 糖尿病 ・ クッシング症候群 ・ 胃捻転 ・ 小腸性下痢症 ・ 慢性肝炎 ・ 肝硬変 ・ 肝性脳症 ・ 心不全 ・ ファロー四徴症 ・ 肺動脈狭窄症 ・ 白血病 ・ ネフローゼ症候群 ・ 水腎症 ・ 子宮蓄膿症
- おなかが鳴る ・ 腹鳴慢性腸炎 ・ 小腸性下痢症
- 胸へのタッチを嫌がる気胸
- 乳房にしこりがある乳ガン ・ 乳腺炎
- 乳房から黄色い乳汁が出ている乳腺炎
犬の胸と腹のマッサージテクニック
以下でご紹介するのは、犬の胸~腹部に対して用いられる主なマッサージテクニックです。個々のテクニックの具体的な内容に関しては基本テクニックをご参考にしてください。
胸と腹の軽撫法
【やり方】毛並みに沿って手を動かしていきます。面積が広いので、指先ではなく手の平を使いましょう。静電気が発生しないよう、腕まくりをして衣類と被毛が接触しないようにするのがコツです。
胸と腹の軽擦法
【やり方】撫でている手の力を徐々に強めていき、筋肉にコンタクトするようにします。ただし、あまり強い力でお腹を押してはいけません。特に疲労がたまりやすいのは、前足の付け根から胸の中央にかけての部分です。この部分には体重の半分を支えるための胸筋群が付着していますので、念入りに擦ってあげましょう。
胸と腹の圧迫法
【やり方】前足の付け根から胸の中央にかけての部分を、指先や手の平を用いて圧迫していきます。ゆっくりと押していき、同じだけの時間を用いてゆっくり離していくのがコツです。犬の胸と腹にあるツボで図示した経穴も指圧してみましょう。ただしおなかの柔らかい部分はデリケートなので、あまりグイグイ強い力で押し付けないで下さい。
胸と腹の摩擦法
【やり方】前足の付け根から胸の中央にかけての部分に対し、指先や手の平で円刺激や往復刺激を与えます。前足を片方の手でのばすようにして持ち上げても構いません。また犬が嫌がらないようであれば、腹部を手の平でぐるぐる撫でてみましょう。ちょうど人間が便秘の時に行う「のの字マッサージ」のような感じです。ここには犬の胸と腹にあるツボで図示した経穴も存在していますので一石二鳥ですね。
同時に、犬の胸と腹にあるリンパで図示したリンパ液の流れをイメージし、前足の付け根(脇の下)と後ろ足の付け根(鼠径部)に体表面のリンパ液が流れ込むように力を加えてみましょう。
胸と腹が終わったら他の場所にもチャレンジしてみましょう!