犬の顔と頭の解剖学と構造
マッサージの仕方に入る前に、まずは基本となる顔と頭の解剖学と構造です。骨の位置や筋肉の方向を知っているかどうかで、触ったときに犬が嫌がるかうっとりするかが決まります。
犬の顔・骨格と筋肉解剖図
犬の眼球は骨で囲まれていない
人間の頭蓋骨と犬の頭蓋骨を見比べてみると、ある1つの大きな違いがあることに気づきます。それは犬の眼球が骨で囲まれていないということです。
犬や猫においては目の外側が線維性の組織に置き換わっており、人間ほど頑丈には出来ていません。ですから眼球の外側をマッサージするときは、あまりの強くゴリゴリと押さないように気をつける必要があります。

犬は咀嚼筋が疲れる
犬の頭蓋骨の側面は大きくえぐれて急斜面になっています。これは下顎に付着している咀嚼筋(そしゃくきん)の腱を安定させるためのスペースです。
犬が口を閉じたり何かを噛むときに使う咀嚼筋には側頭筋(そくとうきん)、咬筋(こうきん)、翼突筋(よくとつきん)などがあります。これらの強力な筋肉のうち、特に側頭筋を頭蓋骨につなぎ止めているのが解剖学的に「側頭窩」(そくとうか)と呼ばれているくぼみです。人間で言う「こめかみ」といえば分かりやすいでしょう。
強靭な咀嚼力を生み出すため、犬の側頭窩は人間よりもはるかに専有面積が広くなっています。疲れが溜まりやすいと考えられますので、犬の顔や頭をマッサージするときはこの解剖学的な特徴を覚えておきましょう。
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強靭な咀嚼力を生み出すため、犬の側頭窩は人間よりもはるかに専有面積が広くなっています。疲れが溜まりやすいと考えられますので、犬の顔や頭をマッサージするときはこの解剖学的な特徴を覚えておきましょう。
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顔と頭のリラックスポジション
マッサージを施す前の準備として、犬の顔と頭をリラックスポジションに置く必要があります。リラックスポジションとは筋肉が弛緩(しかん)して心身ともにゆったりした姿勢のことです。あらかじめ脱力姿勢を作っておくと、マッサージをしたときの癒やし効果が最大限に発揮されます。
では犬の顔と頭をどのようにリラックス(弛緩)させればよいのでしょうか?まずは犬に無駄なパンティング(ハーハーという激しい呼吸)をさせないため、室温を調整して暑すぎず寒すぎない環境を作りましょう。
顔や頭に付着している筋肉を弛緩させるためには、心身ともにリラックスした状態を作らなければなりません。柔らかいクッションを用意して横に寝かせるとか、飼い主の太ももの上に仰向けに寝かせるといった姿勢が良いでしょう。全身の力が抜ければ自然と顔の力も抜けるはずです。
NEXT:マッサージの実践
では犬の顔と頭をどのようにリラックス(弛緩)させればよいのでしょうか?まずは犬に無駄なパンティング(ハーハーという激しい呼吸)をさせないため、室温を調整して暑すぎず寒すぎない環境を作りましょう。

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犬の顔と頭をマッサージしよう!
犬の顔と頭をマッサージするときのベストエリアや代表的なマッサージテクニックを図や写真を用いて解説します。犬が喜ぶ場所を抑え、気持ちいい時間を過ごさせてあげましょう。もし犬が体へのタッチを嫌がるようなら全く癒やしになりません。まずは触られること自体に慣らせておく必要があります。詳しくは以下のページを参考にして下さい。
犬の顔と頭のマッサージエリア
顔面に関しては、筋肉の走行、および毛並みの走行に合わせてゆっくりと指先を流していきましょう。その際、目の周囲、耳、唇など、手入れをする際必ず接触する部分も触るようにします。

犬の顔と頭にあるツボ
犬の顔と頭を東洋医学の経絡システムから見ると以下のような経穴(ツボ)と主治(効果)があります。

- 印堂穴印堂穴(いんどうけつ)の解剖学的な位置は眉間の中央部です。このツボを指圧すると脳機能障害に効くとされています。
- 上関穴上関穴(じょうかんけつ)の解剖学的な位置は頬骨弓の上縁です。このツボを指圧すると顔面の麻痺やけいれんに効くとされています。
- 下関穴下関穴(げかんけつ)の解剖学的な位置は頬骨弓の下縁です。このツボを指圧すると顔面の麻痺やけいれんに効くとされています。
- 承漿穴承漿穴(しょうきゅうけつ)の解剖学的な位置は下唇の中央で有毛部と無毛部が交わる部位です。このツボを指圧すると顔面の麻痺やけいれんに効くとされています。
- 鎖口穴鎖口穴(さこうけつ)の解剖学的な位置は口輪筋の後方です。このツボを指圧すると顔面の麻痺やけいれんに効くとされています。
- 風池穴風池穴(ふうちけつ)の解剖学的な位置は耳の付け根のやや下辺り、第一頚椎(環椎)外側の前方にあるくぼみです。このツボを指圧すると前庭疾患に効くとされています。
犬の顔と頭にあるリンパ
犬の顔と頭におけるリンパ液の流れを模式的に表すと下図のようになります。前頭部と目からのリンパ液は耳下腺リンパ中心と呼ばれるリンパ節で合流します。一方、マズル(口吻)や顎からのリンパ液は下顎リンパ中心と呼ばれるリンパ節で合流します。また耳から後頭部にかけてのリンパ液は浅頚リンパ中心と呼ばれるリンパ節で合流します。
顔や頭のリンパ液は基本的に、毛並みに沿ってマッサージすれば自然と合流地点であるリンパ節へと流れていくようにできています。

犬の顔と頭の健康チェック
マッサージのついでに、顔に現れる病変のチェックを行います。該当項目があった場合は、各項目内の「病名詳細」というリンクをクリックし、可能性のある病名をチェックしてみてください。
顔と頭のチェック方法
- 目まぶたをめくったとき白目が変色(充血・黄ばみ)していないか | 目頭から瞬膜が飛び出していないか | 眼球が揺れていないか | 目が白くにごっていないか | 目やにが多くないか | まぶたが垂れ下がっていないか | 病名詳細
- 耳変な臭いはしないか | 赤くただれていないか | 黒っぽい耳垢が出ていないか | 腫れていないか | 耳先が変色していないか | 病名詳細
- 歯口臭はないか | 歯がぐらついていないか | 歯が折れていないか | 歯が変色していないか | 口の中が腫れていないか | 口の中が変色していないか(蒼白・真っ赤・紫・黒) | 口の周辺が腫れていないか | 病名詳細
- 鼻鼻の横はかぶれていないか | 鼻筋が異常にふくらんでいないか | 鼻血は出ていないか | 鼻水は出ていないか | グーグーという雑音はないか | 鼻の内外にできものはできていないか | 病名詳細
リンパ節チェック
マッサージのついでに、顔や頭付近に存在するリンパ節のチェックも行います。犬においては耳の付け根にある「耳下腺リンパ中心」と顎の下にある「下顎リンパ中心」がわかりやすいでしょう。
なでてみてコリコリした部分はないか、犬がやたら痛がったりしないかを確認してください。不自然なしこりがあったり、妙に痛がったりする場合は、念のため獣医さんに診せましょう。口の中にメラノーマを始めとする悪性腫瘍(がん)ができているときはここのリンパ節がまっさきに腫れてきます

犬の顔と頭のマッサージテクニック
以下でご紹介するのは、犬の顔に対して用いられる主なマッサージテクニックです。個々のテクニックの具体的な内容に関しては基本テクニックをご参照ください。犬を横向きに寝かしたり、仰向け状態にして行うとやりやすいでしょう。
顔と頭の軽撫法
【やり方】毛の流れを整えるように軽く指や手の平を動かします。犬が脅威を感じないよう、ゆっくり動かすのがコツです。いきなり目の前に手をかざしてはいけません。

顔と頭の軽擦法
【やり方】骨の硬さが指先に伝わってくる程度の力を入れ、毛並みにそって撫でていきます。顔の中で疲労がたまりやすいのは、物を噛むときに用いる咀嚼筋(そしゃくきん)が付着している顎や側頭部です。耳のヒラヒラ(耳介)の上下に位置しているこれらの部位は、念入りにマッサージしてあげましょう。また耳を動かす細かな「耳介筋群」が付着している耳周りも意外と好まれます。
犬がうっとりしてきたら顔と頭にあるリンパで図示したリンパ液の流れをイメージしながら力を加えてみましょう。目や前頭部のリンパは耳の下、マズルや顎のリンパはエラ部分に向かって押し流すのがコツです。


顔と頭の圧迫法
【やり方】犬が嫌がらないようであれば、耳の下の咀嚼筋(人間で言うエラの部分)や耳の上の側頭部(人間で言うこめかみの部分)に対して指や手の平で圧迫を加えます。側頭部に関しては、握りこぶしの第二関節部分やヘッドマッサージャーなど、やや硬めの素材でゴリゴリやっても気持ちいいと感じてくれるかもしれません。
犬が気持ちよさそうにしていたら、顔や頭にあるツボで図示した経穴も指圧してみましょう。あまりグイグイ強い力で押し付けず、犬のリアクションを見ながらゆっくり圧を加えていくのがコツです。

顔と頭の揉捻法
【やり方】犬が嫌がらないようであれば、頬周辺にある余った皮膚をつまみ上げるようにします。また耳のヒラヒラ(耳介)も指先でもみもみしてあげましょう。

顔と頭の摩擦法
【やり方】耳の下の咀嚼筋(人間で言うエラの部分)や耳の上の側頭筋に対して、指先で円刺激や往復刺激を与えます。圧迫法とセットにして行うとスムーズです。
なおテリントンタッチにおいて口の端(口角)に指先を添えてゆっくりグルグル回すマッサージモーションは「マウスワーク」と呼ばれます。同様に、耳介全体を親指でグルグル回すマッサージモーションは「イヤーワーク」と呼ばれます。テクニック名はともかく、犬がうっとり気持ちよさそうにしていることを確認しながら行うようにして下さい。
なおテリントンタッチにおいて口の端(口角)に指先を添えてゆっくりグルグル回すマッサージモーションは「マウスワーク」と呼ばれます。同様に、耳介全体を親指でグルグル回すマッサージモーションは「イヤーワーク」と呼ばれます。テクニック名はともかく、犬がうっとり気持ちよさそうにしていることを確認しながら行うようにして下さい。
顔が終わったら首のマッサージにもチャレンジしてみましょう!