犬の角膜炎の病態と症状
犬の角膜炎とは、黒目の部分を覆っている透明な膜である角膜(かくまく, cornea)に炎症が発生した状態のことです。
角膜の表面に炎症は起こっているものの、上皮以下の欠損が見られないような角膜炎は「非潰瘍性角膜炎」、上皮以下の欠損を伴うような角膜炎は「潰瘍性角膜炎」と呼ばれます。前者はさらに3種、後者は2種に分類されます。大まかな解説は以下です。
非潰瘍性角膜炎
- 慢性表層性角膜炎 角膜の表面に慢性的に炎症が発生している状態です。通常は両側同時に発症し、病変は角膜の外側から内側に向かって徐々に広がります。第三眼瞼に炎症が波及することもあります。
- 色素性角膜炎 角膜表面に褐色~黒色に変色した色素の沈着が見られる状態です。パンヌス(新生血管)や瘢痕が見られることもあります。
- 結節性肉芽腫性強膜炎 通常は両側性で、角膜の外側に隆起した桃色~褐色の腫瘤が見られる状態です。
潰瘍性角膜炎
- 表層性角膜潰瘍 角膜の上皮が欠損した状態です。その下の実質までは届いていません。病変が上皮にとどまった状態は「びらん」と呼ばれます。
- 深層性角膜潰瘍 角膜の上皮を完全に突き破り、角膜実質まで欠損が広がってしまった状態です。病変が上皮以下にまで広がった状態は「潰瘍」と呼ばれます。病原微生物やタンパク質分解酵素のせいで角膜が融けてしまった場合は、「融解性潰瘍」や「コラゲナーゼ潰瘍」と呼ばれることもあります。
角膜炎の主症状
- 激しい痛み
- 足で目をこすろうとする
- まばたきが多くなる
- 目を床や壁にこすりつけようとする
- 涙が多くなる
- 角膜が白くにごる
- 新生血管(パンヌス)の視認
犬の角膜炎の原因
犬の角膜炎の原因としては、主に以下のようなものが考えられます。予防できそうなものは飼い主の側であらかじめ原因を取り除いておきましょう。
角膜炎の主な原因
- 非潰瘍性角膜炎 「慢性表層性角膜炎」に関しては、高地や日差しの強い地域での発症率が高まるとされています。好発年齢は4~7歳で、好発品種はジャーマンシェパードとベルジアンタービュレンです。ちなみにイヌ伝染性肝炎による角膜炎は、青白くにごることから「ブルーアイ」とも呼ばれます。
「色素性角膜炎」に関しては、角膜に対するあらゆる種類の慢性的な刺激が原因となって発症します。危険因子は、まぶたを完全に閉じることのできない兎眼(とがん)やドライアイです。必然的に、上記危険因子を抱えやすいパグ、ラサアプソ、ペキニーズ、シーズーなどが好発品種として挙げられます。
「結節性肉芽腫性強膜炎」に関しては原因がよく分かっていません。恐らく免疫系統の乱れが関係しているのだろうと推測されています。好発品種はコリー、シェットランドシープドッグ、グレーハウンドなどです。 - 潰瘍性角膜炎 潰瘍性角膜炎の原因は、表層性でも深層性でも角膜に対する慢性的な刺激です。具体的には、角膜にトゲが刺さる、ぶつかる、ゴミが入る、毛が入るなどです。またドライアイを悪化させる兎眼(まぶたを閉じきれない)、眼球突出、緑内障に伴う牛眼なども遠因とされます。その他の原因としては眼瞼内反症、眼瞼外反症、逆まつげ、シェットランドシープドッグの角膜上皮ジストロフィー、ボストンテリアの角膜内皮ジストロフィーなどです。
犬の角膜炎の治療
犬の角膜炎の治療法としては、主に以下のようなものがあります。目の周りの毛が眼球に触れているような場合は、取り急ぎトリミングしてあげましょう。
角膜炎の主な治療法
- 対症療法 「非潰瘍性」でも「潰瘍性」でも、失明の恐れがあるほどの重症例以外は、基本的に症状が悪化しないような対症療法が選択されます。具体的には、二次感染を防ぐための抗生物質の投与、炎症の悪化を防ぐための抗炎症薬の投与、眼球破裂を予防するための運動制限、医療用コンタクトレンズの着用などです。免疫力が正常であれば、角膜上皮の傷も角膜実質の傷も、上皮細胞によって自然に修復されます。前者の場合は7日ほど、後者の場合は数週間かかるというのが目安です。
- 外科手術 失明の危険性があったり、生活に著しい支障をきたしているような場合は、外科手術が行われることがあります。具体的には、まるで道路に張り付いたガムのように角膜にくっついている遊離上皮の除去や、角膜の表層の切除などです。また傷の修復を早めるために角膜用接着剤が用いられたり、角膜移植が行われることもあります。