詳細
調査を行ったのは、イギリス・王立獣医大学のチーム。2013年1月から12月の期間、大規模な疫学調査プログラムである「VetCompass」に参加している国内110の一次診療施設から医療データを収集し、潰瘍性角膜病変の発症リスクに影響を及ぼしている因子を統計的に調査しました。
その他、犬種別に発症リスクを計算した所、以下のような大きな格差が見出されました。数字は「オッズ比」(OR)で、標準の起こりやすさを「1」としたときどの程度起こりやすいかを相対的に示したものです。数字が1よりも小さければリスクが小さいことを、逆に大きければリスクが大きいことを意味しています。
Dan G. O’Neill et al., Canine Genetics and Epidemiology20174:5, DOI: 10.1186/s40575-017-0045-5
- 潰瘍性角膜病変
- 目の表面にある角膜が部分的に欠損した状態。欠損が角膜上皮にとどまっている場合は「表層性角膜潰瘍」、実質にまで及んでいる場合は「深層性角膜潰瘍」と呼ばれる。
その他、犬種別に発症リスクを計算した所、以下のような大きな格差が見出されました。数字は「オッズ比」(OR)で、標準の起こりやすさを「1」としたときどの程度起こりやすいかを相対的に示したものです。数字が1よりも小さければリスクが小さいことを、逆に大きければリスクが大きいことを意味しています。
潰瘍性角膜病変・発症リスク(OR)
- パグ=19.05
- ボクサー=12.12
- シーズー=10.04
- ブルドック=7.76
- フレンチブルドッグ=7.25
- キャバリアK.C.S.=6.10
- K.C.スパニエル=5.62
- ラサアプソ=4.97
- チワワ=2.54
- S.ブルテリア=2.50
- コッカースパニエル=2.14
- W.H.ホワイトテリア=2.05
- ボーダーテリア=2.00
- E.S.スパニエル=1.93
- ヨークシャーテリア=1.78
- ジャックラッセルテリア=1.45
- その他の純血種=1.30
- ミックス=1.00
- ボーダーコリー=0.96
- ラブラドールレトリバー=0.57
Dan G. O’Neill et al., Canine Genetics and Epidemiology20174:5, DOI: 10.1186/s40575-017-0045-5
解説
ミックス種を標準としたとき、パグ、ボクサー、シーズー、キャバリアキングチャールズスパニエル、ブルドッグ、ラサアプソ、フレンチブルドッグといった犬種では5~19倍発症リスクが高くなることが明らかになりました。またミックス種を標準としたとき、スパニエルの発症率が3倍、短頭種の発症率が11倍になることが明らかになりました。こうしたデータが示しているのは、鼻ペチャの短頭種は潰瘍性角膜病変の発症リスクが著しく高くなるということです。
リスク増加の原因としてまず考えられるのは、眼窩スペースの狭小化に伴って眼球が外側に押し出され、露出部分が広がることにより乾燥や外傷にさらされやすくなるという点です。また過去に短頭の犬や猫(ペルシア)を対象として行われた調査では、短頭種では角膜の感度が低下しているとか、角膜に分布している神経終末の数が減少していると報告されています。さらに別の調査では、角膜と結膜の間の幹細胞への栄養補給には角膜の神経が必要であると報告されていますので、すべてをまとめると「角膜の神経が減る+感度が落ちる→乾燥しやすくなる+幹細胞が栄養不足に陥る→潰瘍性角膜病変!」といった発症メカニズムが想定されます。
潰瘍性角膜病変を抱えた犬のうち、症状として「目の痛み」があった割合は46.2%(385頭)、鎮痛薬が最低1種類投与された割合が54.6%(455頭)、痛みもしくは最低1つの鎮痛薬投与を受けた犬の割合は69.1%(576頭)に及んだと言います。人間における潰瘍性角膜病変は、角膜の濁りに伴う視野の悪化のみならず、著しい痛みを伴うことで知られていますので、犬も似たような経験をしていると考えるのが妥当でしょう。
短頭種に生まれた以上、頭や顔の形を変形させる事は出来ませんが、シーズーなどの長毛種では、少なくとも被毛が目に掛からないような配慮してあげることで発症率をいくらか減らすことができると思われます。また飼い主は「涙が多い」、「まばたきが多い」、「前足で目をしきりに擦る」といった痛みの兆候にいち早く気付いてあげることが望まれます。