犬の睡眠時間
調査によりまちまちですが、犬における1日の睡眠時間は7.7~16時間で、平均すると10.1時間という報告があります(:Savage, 2007)。生後16週齢時と生後12ヶ月齢時における睡眠パターンを調べた所、16週齢時の方が日中に眠る時間が長く、またトータルの睡眠時間も長いと報告されていますので、犬の年齢によっても変動するでしょう(:Kinsman, 2020)。またうとうとしているだけの「まどろみ」を睡眠時間としてカウントするかどうかでも数値が大きく変動します。
イヌ科動物のほとんどは夜行性もしくは薄明薄暮性で、日暮れから夜にかけての活動量が増えますが、人に飼われている犬(イエイヌ)においては活動量の減少や睡眠が午後9時から午前6時の間に生じやすいとされています。こうした昼行性パターンは、家畜化の歴史の中で人間の生活習慣に適応した結果だと推測されます。体温に関し、日中に高くなり夜間に低くなるという明確な日内リズムを持っているのも人間の睡眠時間に合わせた結果なのでしょうね(:Campbell, 1984)。
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犬の睡眠サイクルと夢
人間においては高速眼球運動(Rapid Eye Movement, REM)を伴うレム睡眠と、眼球運動を伴わないノンレム睡眠によって構成されるおよそ90分の睡眠サイクルが報告されており、レム睡眠中に夢を見るとされています。
犬においても1回およそ20分からなる睡眠サイクルが8時間に渡る睡眠中に20回以上繰り返されることが確認されていますが、構成要素は「覚醒」「まどろみ」「ノンレム睡眠」「レム睡眠」と人間よりやや複雑です(:Adams, 1993)。レム睡眠の後に頻繁に目を覚ます理由は、ウサギやラットと同様、周囲の環境に注意を払う必要があるからだと考えられています(:Bodizs, 2020)。
犬においても1回およそ20分からなる睡眠サイクルが8時間に渡る睡眠中に20回以上繰り返されることが確認されていますが、構成要素は「覚醒」「まどろみ」「ノンレム睡眠」「レム睡眠」と人間よりやや複雑です(:Adams, 1993)。レム睡眠の後に頻繁に目を覚ます理由は、ウサギやラットと同様、周囲の環境に注意を払う必要があるからだと考えられています(:Bodizs, 2020)。
覚醒
「覚醒」(Wakefullness)とは目が覚めている状態のことです。大脳皮質における低振幅・高頻度の活動電位や、海馬における低電圧の徐波と速波などを特徴とします。1回の睡眠サイクルにおける持続時間はおよそ5分間です。
まどろみ
「まどろみ」(Drowsiness)とはうとうとした状態のことです。大脳皮質における徐波と紡錘波や、海馬における不規則でゆっくりとした活動電位を特徴とします。研究者によっては睡眠にカウントしないこともあります。
ノンレム睡眠
「ノンレム睡眠」(Non-REM sleep)とは高速眼球運動を伴わない睡眠のことです。筋トーヌスは減少しますが完全に脱力することはなく、規則正しい呼吸が保たれます。「まどろみ」と合算した場合、1回の睡眠サイクルにおける持続時間はおよそ12分間です。
レム睡眠
「レム睡眠」(REM sleep)とは高速眼球運動を伴う睡眠のことです。頚部の筋肉が完全に脱力し、呼吸や心拍が不規則になります。1回の睡眠サイクルで6分間、1日の総計では2.9時間ほどになります。
犬は言葉で報告できませんので確認することは難しいですが、高速眼球運動と手足の動きが同時に見られることから考え、人間と同じように夢を見ているものと推測されます。
一方後述するように、手足の動きや鳴き声が「レム睡眠行動障害」と呼ばれる疾患の一部として現れることもありますので、ただ単に夢を見ているのか病的な状態なのかは注意深く観察する必要があります。
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REM睡眠中の犬
31頭の犬(オス16+メス15/年齢中央値4.17歳/体高平均51.89cm/体重平均21.77kg)を対象として行われたポリソムノグラフィー検査では、3時間の睡眠中におけるレムの密度は「加齢+オス犬+REM睡眠が短い(15分未満)」および「体の容積が大きい+REM睡眠が短い(15分未満)」という条件が重なったときに高まったといいます(:Kovacs, 2018)。性別や体型の他、年齢によってもレムの出方は変わるようです。一方後述するように、手足の動きや鳴き声が「レム睡眠行動障害」と呼ばれる疾患の一部として現れることもありますので、ただ単に夢を見ているのか病的な状態なのかは注意深く観察する必要があります。
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犬と一緒に寝る時の注意
犬の分離不安が強まる?
人獣共通感染症
犬が何らかの人獣共通感染症にかかっている場合、一緒に寝ることで人間にも病気がうつってしまう危険性があります。代表的な疾患は白癬、疥癬、ツメダニ皮膚炎、パスツレラ症、カプノサイトファーガカニモルサス症、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)などです。また犬のフケにアレルギーがあるにもかかわらず一緒のベッドで寝ていたため、全身性の脱毛を発症したという症例も報告されています(:Arita, 2018)。
犬と一緒に寝る場合、事前に健康診断を行って人獣共通感染症をしっかり治しておくことが必要です。
犬と一緒に寝る場合、事前に健康診断を行って人獣共通感染症をしっかり治しておくことが必要です。
咬傷事故
英語圏では「寝ている犬を起こすな」(Let sleeping dogs lie)ということわざがありますが、それなりに理由があります。
例えば2019年、寝ていた犬にキスをしようと顔を近づけた男性が顔を噛まれ、鼻を噛みちぎられるという事故が起こっています(:DailyMail)。また犬と一緒に寝ている飼い主を録画観察した所、14人中9人までもが意図せず犬の睡眠を妨害してしまっていることも確認されています(:Adams, 1993)。 レム睡眠中に見せる激しい動きや鳴き声が心配になることもありますが、犬が寝ぼけて深刻な咬傷事故につながることもありますので、むやみに起こさずそのまま眠らせてあげましょう。また人間の寝相があまりにも悪いという場合は、犬と寝床を別々にした方がお互いの安眠のためには良いかもしれません。小型犬の場合、最悪では寝返りを打った際に押しつぶしてしまう危険性もあります。
例えば2019年、寝ていた犬にキスをしようと顔を近づけた男性が顔を噛まれ、鼻を噛みちぎられるという事故が起こっています(:DailyMail)。また犬と一緒に寝ている飼い主を録画観察した所、14人中9人までもが意図せず犬の睡眠を妨害してしまっていることも確認されています(:Adams, 1993)。 レム睡眠中に見せる激しい動きや鳴き声が心配になることもありますが、犬が寝ぼけて深刻な咬傷事故につながることもありますので、むやみに起こさずそのまま眠らせてあげましょう。また人間の寝相があまりにも悪いという場合は、犬と寝床を別々にした方がお互いの安眠のためには良いかもしれません。小型犬の場合、最悪では寝返りを打った際に押しつぶしてしまう危険性もあります。
睡眠効率が下がる
犬を飼うことにより飼い主の運動量が増え、結果として睡眠時間が伸びるという報告がある一方(:Mickova, 2019)、「睡眠効率」という観点から見た場合、犬と一緒に寝ることは睡眠の質を下げてしまうことが確認されています。
例えば2015年8月から12月の期間、アメリカのメイヨークリニックが行った調査では、犬と一緒に眠る人の睡眠効率(寝床に入っていた時間÷実際に眠っていた時間)は81%で、犬がただ単に室内にいる時よりもベッドの上にいる時の方が数値が低下したと報告されています(:Patel, 2017)。またオーストラリアにあるセントラルクイーンズランド大学が行った別の調査では、犬と人間の両方が安静状態にある時、人間側の睡眠効率は93%まで高まったものの、犬が覚醒状態にある時の睡眠効率は81%まで落ち込んだといいます。 睡眠効率は一般的に85%くらいがちょうどよいとされていますので、上記した2つの調査で共通して報告された「81%」という数値はやや理想を下回るくらいです。睡眠サイクルの中に「覚醒相」をもつ犬が夜中にしょっちゅう目を覚まし、寝ている飼い主の顔をなめる、体の上に乗っかる、吠える、クンクン鳴きをするなどの安眠妨害を行うことで「睡眠効率」という観点から見た時の眠りの質が下がってしまうことは覚悟しておいた方が良いでしょう。 NEXT:睡眠と成長の関係
例えば2015年8月から12月の期間、アメリカのメイヨークリニックが行った調査では、犬と一緒に眠る人の睡眠効率(寝床に入っていた時間÷実際に眠っていた時間)は81%で、犬がただ単に室内にいる時よりもベッドの上にいる時の方が数値が低下したと報告されています(:Patel, 2017)。またオーストラリアにあるセントラルクイーンズランド大学が行った別の調査では、犬と人間の両方が安静状態にある時、人間側の睡眠効率は93%まで高まったものの、犬が覚醒状態にある時の睡眠効率は81%まで落ち込んだといいます。 睡眠効率は一般的に85%くらいがちょうどよいとされていますので、上記した2つの調査で共通して報告された「81%」という数値はやや理想を下回るくらいです。睡眠サイクルの中に「覚醒相」をもつ犬が夜中にしょっちゅう目を覚まし、寝ている飼い主の顔をなめる、体の上に乗っかる、吠える、クンクン鳴きをするなどの安眠妨害を行うことで「睡眠効率」という観点から見た時の眠りの質が下がってしまうことは覚悟しておいた方が良いでしょう。 NEXT:睡眠と成長の関係
寝る子犬は育つ?
人間においては眠りの最初の方で見られる徐波睡眠と成長ホルモンの分泌が関連していますが、犬において同様の生理学的関連性は確認されていません。その代わり、睡眠を剥奪した後に見られる回復期の徐波睡眠において、成長ホルモンの分泌が促されるという現象が確認されています(:Takahashi, 1981)。 「寝る子は育つ」という表現がありますが、人間と犬とでは少し意味あいが違うようです。
一方、睡眠が犬の学習能力を高めることが確認されています。調査を行ったのはハンガリー科学アカデミーの研究チーム。睡眠が記憶の形成に関わっているかどうかを確かめるため、15頭の犬を対象とした検証実験を行った所、新しいことを覚えた直後に「睡眠」「散歩」「遊び」などのセッションを設けると、学習直後や1週間後の成績が高まることが確認されたといいます。 NEXT:犬にもある「睡眠障害」
一方、睡眠が犬の学習能力を高めることが確認されています。調査を行ったのはハンガリー科学アカデミーの研究チーム。睡眠が記憶の形成に関わっているかどうかを確かめるため、15頭の犬を対象とした検証実験を行った所、新しいことを覚えた直後に「睡眠」「散歩」「遊び」などのセッションを設けると、学習直後や1週間後の成績が高まることが確認されたといいます。 NEXT:犬にもある「睡眠障害」
犬の睡眠障害
犬の睡眠障害とは、正常な睡眠サイクルが乱れたり睡眠時間が短縮することにより、十分な睡眠を取れない状態のことです。具体的には以下のようなパターンがあります。
ナルコレプシー
ナルコレプシー(narcolepsy)とはヒポクレチンと呼ばれる神経ペプチドの一種に異常が生じることで発症する睡眠障害の1つです。主症状は日中の極度の眠気(脈絡もなくすぐ眠る)とカタプレキシー(感情の高まりを引き金とした脱力発作)で、先天性(家族性)ナルコレプシーはイヌ第12染色体にあるヒポクレチン受容体2遺伝子(Hcrtr2)の変異、後天性(散発性)ナルコレプシーはヒポクレチン受容体ではなく、ヒポクレチンの産生システムそのものに何らかの障害が起こることで引き起こされます。
睡眠時無呼吸症候群
睡眠時無呼吸症候群とは、眠っている時に何らかの理由で呼吸が止まってしまう睡眠障害の一種です。太った人が発症しやすいことが知られていますが、同じ病気は犬にもあり、さまざまな二次疾患を引き起こす危険性が指摘されています。
ペンシルベニア大学の調査チームは短頭種気道症候群を発症したブルドッグを対象とし、睡眠中の自発的な無呼吸が血液中の酸素飽和度にどのような変化を引き起こすかを検証しました。その結果、REM睡眠時における飽和度が最悪で、90%を切る状態が長い間続いたといいます。胸・腹部の呼吸が停止する「中枢性無呼吸」と、上気道が閉塞して胸と腹部の呼吸が弱くなる「閉塞性無呼吸」の両方が観察されたとも。犬たちは覚醒した後も眠そうな様子を見せ、眠りに落ちるまでの時間に関し非短頭種の比較対照グループが150分だったのに対し、短頭種のブルドッグは12分だったそうです(:Hendricks, 1987)。
カナダにあるトロント大学の調査チームは4頭の犬(オス1+メス3頭/23~31kg)を対象とし、寝ている間に人為的に無呼吸を再現することで日中と夜間の血圧にどのような変化が現れるのかを検証しました。無呼吸による睡眠中の覚醒回数を1時間に10回から60回にまで増やし、1~3ヶ月に渡るモニタリングを行った所、無呼吸によって夜間の急性一過性高血圧(平均13.0±2.0mmHg増加)が現れたといいます。また日中においても最大で15.7(±4.3)mmHgの血圧上昇が確認されたとも。一方、無呼吸を伴わない単なる睡眠中の覚醒では同様の血圧変化が起こらなかったそうです(:Brooks, 1997)。
ペンシルベニア大学の調査チームは短頭種気道症候群を発症したブルドッグを対象とし、睡眠中の自発的な無呼吸が血液中の酸素飽和度にどのような変化を引き起こすかを検証しました。その結果、REM睡眠時における飽和度が最悪で、90%を切る状態が長い間続いたといいます。胸・腹部の呼吸が停止する「中枢性無呼吸」と、上気道が閉塞して胸と腹部の呼吸が弱くなる「閉塞性無呼吸」の両方が観察されたとも。犬たちは覚醒した後も眠そうな様子を見せ、眠りに落ちるまでの時間に関し非短頭種の比較対照グループが150分だったのに対し、短頭種のブルドッグは12分だったそうです(:Hendricks, 1987)。
カナダにあるトロント大学の調査チームは4頭の犬(オス1+メス3頭/23~31kg)を対象とし、寝ている間に人為的に無呼吸を再現することで日中と夜間の血圧にどのような変化が現れるのかを検証しました。無呼吸による睡眠中の覚醒回数を1時間に10回から60回にまで増やし、1~3ヶ月に渡るモニタリングを行った所、無呼吸によって夜間の急性一過性高血圧(平均13.0±2.0mmHg増加)が現れたといいます。また日中においても最大で15.7(±4.3)mmHgの血圧上昇が確認されたとも。一方、無呼吸を伴わない単なる睡眠中の覚醒では同様の血圧変化が起こらなかったそうです(:Brooks, 1997)。
犬の睡眠時無呼吸症候群
人間における睡眠時無呼吸症候群は、気道の閉塞だけでなく慢性的な低酸素状態によって肝臓や脾臓に悪影響が出るとされています。短頭種(鼻ぺちゃ)の犬を対象とした調査により、人間の無呼吸患者で見られるのと同様の病変が肝臓や脾臓に発生する危険性が確認されています。そして短頭種気道症候群(BOAS)の症状が重ければ重いほど肝臓も硬くなるという正の相関も確認されています。
レム睡眠行動障害
レム睡眠行動障害とは、レム睡眠中に荒々しい四肢の動き、遠吠え、吠える、うなる、ものを噛むといった幻覚的な行動を見せることで、先天性と後天性の両方が報告されています。たまに出るくらいなら「夢を見て寝ぼけている」で済みますが、毎晩のように出現し、なおかつ動きや声が大きい場合は同居している人間の安眠を妨害してしまうため深刻な問題となります。
フロリダ大学が14頭の患犬を対象とした調査では、発症年齢は8週齢~7.5歳と幅広く、中央値は6歳だったといいます。性別や犬種による差異はなく、症状は夜間睡眠時と昼寝時の両方で出現したとも。臭化カリウムの投薬治療により78%では軽快が見られましたが、症状は1.5~9年という長期に渡って出現し、医療的介入をしなかった場合自然治癒することはないとされています(:Schubert, 2011)。
後天性の例としては破傷風の回復期におけるものが有名です。イギリスにある2つの二次診療施設で破傷風と診断された60頭の犬を対象として行われた調査では、無事に退院できた49頭中46%の割合で行動障害が見られ、ひきつけ(53%)、走るしぐさ(80%)、発声(60%)などが多かったといいます。またまるで悪夢にうなされているような荒々しい行動が36%、てんかん発作のような行動が40%で見られたとも。
入院中に行動障害が見られなかった犬たちも、退院して自宅に戻ってから77%の割合で2週間以内に発症し、43%は6ヶ月以内に自然消滅したそうです。なお症状が悪化した個体はいませんでした(:Shea, 2018)。
レム睡眠行動障害はてんかん発作と容易に間違われるため、破傷風にかかった後の回復期においてはとりわけ慎重なモニタリングが必要だと指摘されています。
フロリダ大学が14頭の患犬を対象とした調査では、発症年齢は8週齢~7.5歳と幅広く、中央値は6歳だったといいます。性別や犬種による差異はなく、症状は夜間睡眠時と昼寝時の両方で出現したとも。臭化カリウムの投薬治療により78%では軽快が見られましたが、症状は1.5~9年という長期に渡って出現し、医療的介入をしなかった場合自然治癒することはないとされています(:Schubert, 2011)。
後天性の例としては破傷風の回復期におけるものが有名です。イギリスにある2つの二次診療施設で破傷風と診断された60頭の犬を対象として行われた調査では、無事に退院できた49頭中46%の割合で行動障害が見られ、ひきつけ(53%)、走るしぐさ(80%)、発声(60%)などが多かったといいます。またまるで悪夢にうなされているような荒々しい行動が36%、てんかん発作のような行動が40%で見られたとも。
入院中に行動障害が見られなかった犬たちも、退院して自宅に戻ってから77%の割合で2週間以内に発症し、43%は6ヶ月以内に自然消滅したそうです。なお症状が悪化した個体はいませんでした(:Shea, 2018)。
レム睡眠行動障害はてんかん発作と容易に間違われるため、破傷風にかかった後の回復期においてはとりわけ慎重なモニタリングが必要だと指摘されています。
認知症と睡眠習慣の変化
犬の認知症の診断基準として「DISHA」というものがあり、このうち「S」は「睡眠覚醒サイクルの変化」を表しています。
鳥取大学の調査チームは16~18歳の老犬4頭に脳波計、心電計、筋電計を取り付け、24時間に渡るモニタリングを行いました。3~4歳の若い犬と比較した結果、日中におけるレム睡眠(逆説睡眠)の減少と覚醒状態の断片化が見られ、トータルでは徐波睡眠が長くなることが明らかになったといいます。また夜間における睡眠の中断が頻繁に起こり、覚醒状態が長くなったとも(:Takeuchi, 2002)。
認知症を発症した犬においては一般的に「昼間の睡眠時間が増える」および「夜間の覚醒時間が増える」ことが多く報告されますが、こうした変化は単なる老化現象の一部としても現れますので、睡眠習慣の変化だけで診断を下すことはできません。「異常」と判定するためにはその犬独自の睡眠習慣をあらかじめ記録しておくことが必要となるでしょう。 NEXT:安眠のヒント
鳥取大学の調査チームは16~18歳の老犬4頭に脳波計、心電計、筋電計を取り付け、24時間に渡るモニタリングを行いました。3~4歳の若い犬と比較した結果、日中におけるレム睡眠(逆説睡眠)の減少と覚醒状態の断片化が見られ、トータルでは徐波睡眠が長くなることが明らかになったといいます。また夜間における睡眠の中断が頻繁に起こり、覚醒状態が長くなったとも(:Takeuchi, 2002)。
認知症を発症した犬においては一般的に「昼間の睡眠時間が増える」および「夜間の覚醒時間が増える」ことが多く報告されますが、こうした変化は単なる老化現象の一部としても現れますので、睡眠習慣の変化だけで診断を下すことはできません。「異常」と判定するためにはその犬独自の睡眠習慣をあらかじめ記録しておくことが必要となるでしょう。 NEXT:安眠のヒント
安眠のための工夫
犬にぐっすり眠ってもらうためには、一体どのような点に気をつければ良いのでしょうか?過去に行われた調査でいくつかのヒントが示されています。うまく実践すれば犬の眠りが深くなるだけでなく、犬に起こされることによる飼い主の睡眠不足も減ってくれるでしょう。
犬の安眠場所を整える
☝ 理想の安眠場所
犬の安眠場所に関してはドイツ・ミュンヘン大学が行った調査がヒントになります。獣医科学部の調査チームは4つの異なる生活環境に犬たち(オス16頭+メス31頭のビーグル)を置き、自発的行動を24時間に渡って観察しました。その結果、以下のような傾向が確認されたといいます。
✓低い場所より高い場所
✓トイレから遠い場所
✓飼い主が見える場所
犬の自発的な行動
- スペースに十分な余裕があるにもかかわらず、休むときは他の犬のそばに行きたがる
- 外へのアクセス権があるかどうかにかかわらず、犬は自分の寝床からなるべく遠い場所で排便する
- 高床式の寝そべりボードがある場合は、床よりもボードが好まれる
犬の安眠環境を整える
☝ 理想の安眠環境
犬の安眠環境を整えることは健康を維持する上でも重要です。アメリカ・コロラド州立大学健康運動科学科のチームが行った調査では、睡眠不足が犬における2型糖尿病の発症リスクになり得ることが確認されています。単なる寝不足では終わらず、全身性の疾患につながる危険性をはらんでいますので、安眠を促す環境を整えてあげることはとても重要です。
オーストラリア・マードック大学が行った調査では、室内にいる犬の場合は夜間の80%、屋外(家の敷地内)にいる犬の場合は夜間の70%、そして屋外(家の敷地以外)にいる犬の場合は夜間の60%を睡眠に費やすと報告されています。室内にいる方が耳に入る騒音が少なく、また温度が調整されているため安心して眠れるのでしょう(:Adams, 1993)。
✓周辺が静か
✓快適な温度
✓柔らかいベッド
一方、犬に対する音響エンリッチメントを総合的にレビューした調査では、クラシック音楽が流れていた場合に休息時間と睡眠時間が延びる傾向が確認されています(:Lindig, 2020)。犬によっては音楽がプラスに作用する可能性がありますので、人間の睡眠を妨害しない程度の音量で室内に流すくらいなら良いかもしれません。 アメリカ・コーネル大学の調査チームが12頭の犬が眠る様子を12時間に渡って観察した所、床に伏せた状態からいったん体を起こした後、体の向きを逆にした割合は76.9%(206/268回)、同じ向きで寝直した割合はわずか23.1%(62/268回)だったといいます(:Houpt, 2019)。
伏せた状態で眠るという関係上、犬の体は常に床ずれの危険にさらされています。「床ずれ」(褥瘡, じょくそう)とは床と体が直に接することにより血流が途絶え、細胞が壊死してしまう状態のことです。犬たちが20分という短いサイクルで覚醒と睡眠を繰り返し、頻繁に体勢を入れ替える一因は床ずれ予防にあるのかもしれませんね。できるだけ柔らかいベッドを用意してあげれば、痛い場所がなくなってぐっすり眠ることができるでしょう。
日中にしっかり散歩する
ハンガリーにあるエトヴェシュ・ロラーンド大学のチームが行った調査では、活動的な日(競技会や上級クラスのトレーニング)における犬のノンレム睡眠と睡眠のトータル時間が長くなることが確認されています。平たく言うと「頭と体をよく動かした日はぐっすり眠れる」といったところです。日中にしっかり散歩してあげると、適度な疲労が溜まって眠りが深まるでしょう。
ちなみに同じ研究グループの調査により、眠る前の経験がポジティブかネガティブかによって睡眠のマクロ構造が変化するという面白い現象も確認されています。
ちなみに同じ研究グループの調査により、眠る前の経験がポジティブかネガティブかによって睡眠のマクロ構造が変化するという面白い現象も確認されています。
睡眠薬は危険!
獣医師が処方した睡眠薬でも市販の睡眠改善薬でも、死亡を含めたさまざまな副作用が報告されていますので、自己判断で犬に睡眠薬を投与するのは絶対に厳禁です。
人間に対して処方される睡眠薬にはベンゾジアゼピン系、非ベンゾジアゼピン系、メラトニン受容体作動薬などがあり、市販されている睡眠改善薬としてはジフェンヒドラミンがあります。どの睡眠薬でも犬が間違って食べてしまったり誤った量を投与した場合さまざまな副作用を引き起こしてしまいます。最悪のケースでは死亡することもありますので、犬が認知症で夜鳴きがひどいなど切迫した事情があっても、必ず獣医師の指示に従って下さい。
人間に対して処方される睡眠薬にはベンゾジアゼピン系、非ベンゾジアゼピン系、メラトニン受容体作動薬などがあり、市販されている睡眠改善薬としてはジフェンヒドラミンがあります。どの睡眠薬でも犬が間違って食べてしまったり誤った量を投与した場合さまざまな副作用を引き起こしてしまいます。最悪のケースでは死亡することもありますので、犬が認知症で夜鳴きがひどいなど切迫した事情があっても、必ず獣医師の指示に従って下さい。
睡眠環境のセッティングに関しては「犬が喜ぶ部屋の作り方」も参考にしてみてください。犬がぐっすり眠ってくれれば、飼い主も安眠妨害されずぐっすり眠れるようになります。