詳細
調査を行ったのは、ハンガリー科学アカデミーの研究チーム。犬の睡眠と学習能力の関係を検証するため、内容の異なる2つの実験を行いました。
学習直後の脳波
睡眠が記憶の形成に関わっているかどうかを確かめるため、15頭の犬を「学習時」と「非学習時」に分け、3時間の睡眠中における脳波の違いを観察しました。その結果、「ある1つの動作と新しい言葉を結びつけて覚える」という課題をこなした直後の睡眠では、学習とは無関係の平時における睡眠とは異なる脳波パターンが確認されたと言います。具体的には以下のようなものです。
学習後の睡眠時脳波
- ノンレム睡眠中アルファ波(8~12Hz)減少+デルタ波(1~4Hz)増加
- レム睡眠中デルタ波のうち1.5~2Hzという限られた範囲が減少+シータ波(4~8Hz)増加
学習直後のインターバル
学習直後の時間の過ごし方が記憶の形成にどのように影響するかを確かめるため、「ある1つの動作と新しい言葉を結びつけて覚える」という課題をこなした直後の1時間の過ごし方に変化を持たせ、53頭の犬たちの成績を比較してみました。具体的な内容は以下です。犬に対するテストは「学習直後」、「学習1時間後」、「学習1週間後」というタイミングで行われています。
Kis, A. et al. Sci. Rep. 7, 41873; doi: 10.1038/srep41873 (2017)
学習後の過ごし方と成績
- 睡眠グループ学習直後に1時間睡眠をとる。
【成績】学習直後の成績と睡眠直後の再テストに違いは見られなかった | 1週間後の成績が一番良かった - 散歩グループ学習直後にリードをつけた状態で1時間散歩を行う。認知的な干渉最小+激しい身体的活動。
【成績】学習直後と再テストの成績は変わらなかった | 1週間後の成績が一番良かった - 学習グループ学習直後に異なる課題をやらせる。認知的な干渉が強い+軽い身体的な活動。
【成績】学習直後と再テストの成績及び1週間後の成績が変わらなかった - 遊びグループ学習直後に寝そべった状態で1時間コングを用いて遊ぶ。感情的な興奮が強い+最小限の身体的な活動。
【成績】学習直後よりも再テストの成績が落ちた | 1週間後の成績が一番良かった
Kis, A. et al. Sci. Rep. 7, 41873; doi: 10.1038/srep41873 (2017)

解説
ノンレム睡眠中のデルタ波(1~4Hz)増加、およびレム睡眠中のシータ波(4~8Hz)増加は睡眠中の人間においても確認されている現象です。特に後者に関しては、シータ波が海馬における記憶の再生を促すことで記憶の形成に関係していると推測されています。眼球や体をピクピクと動かしながら眠っている犬は、覚醒時に経験したことを追体験して記憶を増強しているのかもしれません。
一方、課題を終えた後に新しい課題を設ける「干渉学習」は、犬の成績を高めないことが明らかになりました。人間で言うと「酒井美紀」を紹介された直後に「水野真紀」、「水野美紀」、「坂井真紀」を連続で紹介される状態に近いのでしょう。1人だけならなんとか覚えられますが、似たような情報が混在するとうまく再生できなくなってしまいます。犬のしつけ効果を最大限に高めるためには、あまり欲張らず「1日1課題」を基本にした方が良いと考えられます。
犬のレム睡眠
「睡眠」のみならず、「散歩」や「遊び」も犬の成績を向上させることが明らかになりました。運動や感情の起伏が犬の記憶形成を促すという現象は、2016年にウィーン大学獣医学部が行った実験でも確認されています(→詳細)。犬に新しいことを教えた直後、30分から1時間程度運動や昼寝の時間を設けてあげる事は、犬のパフォーマンスを向上させる上で効果的なようです。
