犬が草を食べる理由
散歩中、道端に生えてる草をなめたり噛んだりする犬はたくさんいます。こうした草食行動の理由として考えられている仮説は以下です。
ラトビアに生息しているオオカミたちの便サンプル中11%、イエローストーン国立公園に導入されたハイイロオオカミの便サンプル中74%の割合で植物が見られたといいます。また植物を何らかの草に限定すると、シンリンオオカミの2~3%、ラトビアオオカミの10%、ギリシアオオカミの14%で確認されています。これらの植物は獲物の体表面に付着していたとか、獲物の消化管内に残っていたという可能性はあるものの、自発的に植物を食べる行動も複数の研究者たちによって観察されています(:Sueda, 2008)。
犬はオオカミの子孫ですので、草を食べるという行動自体はそもそも普通のことなのかもしれません。また犬は肉食と思われがちですがどちらかと言えば人間に近い雑食ですので、肉の添え物として野菜を食べるのは当然といえば当然ですね。
NEXT:正しい草の与え方は?
- 病気説栄養価を持たないものを食べてしまう異食症(pica)と呼ばれる病気の一種であるとする説。
- サプリメント説体に足りない何らかの栄養素や食物繊維を補うために草を食べるとする説。
- 消化管の不調説胃腸に何らかの障害があり、お腹の調子が悪い時に草を食べるとする説。
- 催吐剤説食べたものを吐き出したい時に催吐剤として草を食べるとする説。
- 下剤説消化管の中に寄生虫がおり、便とともに体外に排出したい時に草を食べるとする説。
ラトビアに生息しているオオカミたちの便サンプル中11%、イエローストーン国立公園に導入されたハイイロオオカミの便サンプル中74%の割合で植物が見られたといいます。また植物を何らかの草に限定すると、シンリンオオカミの2~3%、ラトビアオオカミの10%、ギリシアオオカミの14%で確認されています。これらの植物は獲物の体表面に付着していたとか、獲物の消化管内に残っていたという可能性はあるものの、自発的に植物を食べる行動も複数の研究者たちによって観察されています(:Sueda, 2008)。
犬はオオカミの子孫ですので、草を食べるという行動自体はそもそも普通のことなのかもしれません。また犬は肉食と思われがちですがどちらかと言えば人間に近い雑食ですので、肉の添え物として野菜を食べるのは当然といえば当然ですね。
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犬への正しい草の与え方
犬にとって草とは食事の一部ですので、食べようとするのを無理に止める必要はありません。家庭内で栽培すれば安全な犬用サラダやおやつとして与えることもできます。
いつから与えてよい?
与える草の種類は?
草の長さや量は?
逸話的には10cmの草よりも40cmの草、カットした草より鉢から生えた直立状態の草の方が好まれたという報告があります。また1日に食べる量は30本(2g)程度との報告もあります。犬におけるベストな量を決めることは難しいですが、後述するように腸閉塞を起こしてしまう危険性もありますので、一度に大量に食べさせない方が安全でしょう。
栽培済みの鉢を与える
すでに鉢から草が生えた状態で売られている商品があります。メリットは栽培する手間が省けること、デメリットは家庭栽培に比べて割高なことです。鉢があまりにも小さい場合、犬がいたずらをしてひっくり返してしまうかもしれません。与える際は飼い主が監督した状況で与えた方が安全です。
ペットグラス(エン麦)
栽培キットの育て方
鉢、土、種がワンセットになった家庭用の栽培キットが売られています。幾つかの種類がありますが、基本的には水だけ与えれば後は勝手に育ってくれます。
栽培セット(エン麦)
種からの育て方
室内で種の状態から草を栽培することもできます。与える植物としてエン麦を選んだ場合、必要なのは穴の空いていない鉢、栽培用の土、エン麦の種、栽培スペースです。草の詳しい育て方に関しては姉妹サイト子猫のへやの中にある以下のページをご参照ください。
栽培用タネ(エン麦)
NEXT:散歩中の草食は危険!
屋外草の危険性
犬にとって草を食べるという行動が正常の範囲内ですが、散歩中に道端に生えてる草を好き勝手食べさせることは望ましくありません。以下は屋外に生えている草にまつわるさまざまな危険性とリスクです。
かぶれる危険性
地面から生えている草や低木で肉球に傷がつくと、患部がかぶれたり破傷風にかかってしまう危険性があります。また草や樹木から放出される花粉は犬のアレルギー反応を引き起こすアレルゲン(アレルギーを引き起こす原因分子)になりえます。花粉による主な症状は皮膚のかゆみ、草かぶれ(草まけ)、くしゃみ、気道狭窄による呼吸困難などです。
フランスにあるナントアトランティック国立獣医学食品科学工学大学の調査チームは1999年から2010年の期間、261頭の犬を対象として微量のアレルゲンを皮膚内に直接注射して反応を調べる皮内テストを行い、感作(アレルギー反応を示すこと)の危険因子が何であるかを検証しました(:Roussel, 2013)。
1頭につき平均25種類のアレルゲンテストを行った結果、全体の81.6%に相当する213頭の犬が少なくとも1つの植物アレルゲンに対し、そして21.5%に相当する56頭が少なくとも1つの草花粉に対して陽性反応を示したといいます。年齢、性別、産まれた季節と草アレルギーとの間に明白な関連性は確認されなかったとも。10年の間にアレルギー有病率の明らかな増加が見られましたが原因まではわからなかったそうです。アレルゲンとなった植物の具体的な種類は以下で、パーセンテージ(%)は感作率を示しています。草に関しては散歩中に見かける機会が多いので写真を添付しました。
1頭につき平均25種類のアレルゲンテストを行った結果、全体の81.6%に相当する213頭の犬が少なくとも1つの植物アレルゲンに対し、そして21.5%に相当する56頭が少なくとも1つの草花粉に対して陽性反応を示したといいます。年齢、性別、産まれた季節と草アレルギーとの間に明白な関連性は確認されなかったとも。10年の間にアレルギー有病率の明らかな増加が見られましたが原因まではわからなかったそうです。アレルゲンとなった植物の具体的な種類は以下で、パーセンテージ(%)は感作率を示しています。草に関しては散歩中に見かける機会が多いので写真を添付しました。
犬の樹木(花粉)アレルギー
- ヨーロッパハンノキ=18.7%
- シロザ=18.6%
- ヨーロッパアカマツ=17.8%
- イトスギ=16.1%
- ニセアカシア=15.6%
- オリーブノキ=15.2%
- シラカンバ=14.9%
- ヤマナラシ=14.0%
- ヨーロッパナラ=12.0%
- セイヨウトネリコ=11.6%
- アメリカスズカケノキ=11.4%
- ハシバミ=9.4%
- ヤナギ=8.1%
- ヨウシュイボタ=7.7%
- ヨーロッパブナ=3.7%
犬の草花粉アレルギー
- ホソムギ=14.6%イネ科ドクムギ属の多年草。
- オオアワガエリ=14.1%イネ科の多年草。チモシーグラスとも呼ばれる。
- ブタクサ=13.6%キク科ブタクサ属の一年草。
- ナガハグサ=13.3%イネ科イチゴツナギ属の多年草。
- ヘラオオバコ=12.9%オオバコ科オオバコ属の多年草。
- カベイラクサ=12.4%イラクサ科ヒカゲミズ属の多年草。
- オウシュウヨモギ=11.9%ヨモギ属の多年草。
- セイヨウイラクサ=11.8%イラクサ科イラクサ属の多年草。
- ヒメスイバ=10.9%タデ科の多年草。
- セイヨウタンポポ=7.9%キク科タンポポ属の多年草。
寄生虫の危険性
草の生い茂った場所にはダニが生息していることが多いため、常に感染の危険性があります。犬向けの防ダニ製品は数多くありますが、その全ては吸血したダニを殺すタイプのもので、ダニの吸血自体を予防する効果まではありません。血を吸われたときに何らかの病原体をもらってしまう可能性がありますので、「駆虫しているから大丈夫」というのは盲信です。
ロシアで行われた調査では、散歩中に犬の足に回虫の卵が付着して感染源になっている危険性が指摘されています。さらに日本の大阪では、河川敷を散歩した後にレプトスピラに感染したと思われる集団の事例が報告されています。草地が虫卵やネズミの尿で汚染されている場合、草を食べることで病原体を容易に体内に取り込んでしまうでしょう。
植物中毒の危険性
犬に対して毒性を発揮する植物は非常にたくさんあります。むやみやたらに道端に生えている草を食べてしまうと中毒に陥ってしまいますので注意が必要です。具体的な植物の種類に関しては以下のページで写真付きで詳しく解説してありますのでご参照ください。
除草剤中毒の危険性
公園の芝生には除草剤がまかれていることがあります。公共の施設ですので幼児や動物に対する毒性が低い製品が使われますが、草を食べることで間接的に体内に取り込んでしまいますので食べさせないに越したことはありません。
また以下に述べる成分を含んだ除草剤に関しては犬における危険性や中毒症例が報告されています。散歩ルートに農耕地がある場合や、庭の芝生に除草剤を使わざるをえない場合はご注意ください。
また以下に述べる成分を含んだ除草剤に関しては犬における危険性や中毒症例が報告されています。散歩ルートに農耕地がある場合や、庭の芝生に除草剤を使わざるをえない場合はご注意ください。
グリホサート
パラコート
パラコート(paraquat)、パラコート塩、およびそれらを含む製剤は日本国内において毒物及び劇物取締法において毒物に指定されている農薬です。草に対しては速効性で、散布後1~3日で枯れ始め、3~5日で除草が完了します。水稲、野菜畑、果樹園などで使用されますが、誤飲誤食した場合の解毒剤が存在しないことや死亡率が高いこと、そして中毒症状が重篤で苦痛を伴うという観点から医師や薬剤師が販売規制を求めたことがあります(:日本中毒学会)。
パラコートを人が誤飲したり服毒した場合、喉、胃腸、肝臓、腎臓が障害を受けた後、「パラコート肺」と呼ばれる特徴的な線維症へと進みますが、犬においても同様の病変が報告されています(:Kelly, 1978)。
パラコートを人が誤飲したり服毒した場合、喉、胃腸、肝臓、腎臓が障害を受けた後、「パラコート肺」と呼ばれる特徴的な線維症へと進みますが、犬においても同様の病変が報告されています(:Kelly, 1978)。
2,4-ジクロロフェノキシ酢酸
2,4-ジクロロフェノキシ酢酸は除草剤としての登録を受けているものの、劇物や毒物ではなく普通物という区分ですので、比較的容易に入手することが可能です。国際がん研究機関(IARC)の区分では2B(ヒトに対して発がん性がある可能性がある)とされており、犬においても危険性が指摘されています。
アメリカ国立がん研究所の調査チームは悪性リンパ腫を発症した犬491頭、悪性リンパ腫以外の腫瘍を抱えた479頭、腫瘍疾患を抱えていない比較対照466頭を対象とし、2,4-ジクロロフェノキシ酢酸とリンパ腫との因果関係を検証しました。その結果、自宅の芝生に飼い主自身が除草剤として2,4-ジクロロフェノキシ酢酸を用いていたり、業者が用いていた場合、発症リスクが1.3倍になることが明らかになったといいます。さらに1年における使用回数が4回以上の場合はリスクが2倍に跳ね上がったとも。人間において非ホジキンリンパ腫が発症するメカニズムと共通部分があるのではないかと指摘されています(:Hayes, 1991)。
コロラド州立大学の調査チームは、芝生に散布された2,4-ジクロロフェノキシ酢酸と尿中から検出される同成分との関係性を調査しました。その結果、除草処理された芝生と接した44頭の犬のうち、33頭(75%)では10μg/Lの濃度で2,4-ジクロロフェノキシ酢酸が検出されたといいます。接触から検査までの平均時間は10.9日で、17頭(39%)に関しては50μg/Lという高濃度が確認されたとも。さらに少なくとも過去42日間、芝生と接した覚えがない15頭の犬のうち4頭(27%)の尿からなぜか2,4-ジクロロフェノキシ酢酸が検出され、うち1頭は50μg/Lという高い濃度だったそうです。芝生と接した場合、尿中濃度が50μg/L以上になるオッズ比は8.8倍、除草剤が使用されて7日以内の場合に接するとオッズ比が56倍に跳ね上がることも併せて確認されました(:Reynolds, 1994)。
アメリカ国立がん研究所の調査チームは悪性リンパ腫を発症した犬491頭、悪性リンパ腫以外の腫瘍を抱えた479頭、腫瘍疾患を抱えていない比較対照466頭を対象とし、2,4-ジクロロフェノキシ酢酸とリンパ腫との因果関係を検証しました。その結果、自宅の芝生に飼い主自身が除草剤として2,4-ジクロロフェノキシ酢酸を用いていたり、業者が用いていた場合、発症リスクが1.3倍になることが明らかになったといいます。さらに1年における使用回数が4回以上の場合はリスクが2倍に跳ね上がったとも。人間において非ホジキンリンパ腫が発症するメカニズムと共通部分があるのではないかと指摘されています(:Hayes, 1991)。
コロラド州立大学の調査チームは、芝生に散布された2,4-ジクロロフェノキシ酢酸と尿中から検出される同成分との関係性を調査しました。その結果、除草処理された芝生と接した44頭の犬のうち、33頭(75%)では10μg/Lの濃度で2,4-ジクロロフェノキシ酢酸が検出されたといいます。接触から検査までの平均時間は10.9日で、17頭(39%)に関しては50μg/Lという高濃度が確認されたとも。さらに少なくとも過去42日間、芝生と接した覚えがない15頭の犬のうち4頭(27%)の尿からなぜか2,4-ジクロロフェノキシ酢酸が検出され、うち1頭は50μg/Lという高い濃度だったそうです。芝生と接した場合、尿中濃度が50μg/L以上になるオッズ比は8.8倍、除草剤が使用されて7日以内の場合に接するとオッズ比が56倍に跳ね上がることも併せて確認されました(:Reynolds, 1994)。
腸閉塞の危険性
屋外に生えている草を好き勝手に食べさせると、腸閉塞を起こしてしまう危険性があります。
2020年、グラスゴー大学付属小動物病院の調査チームは草を原因とする誤飲誤食の4症例を報告しました(:McCagherty, 2020)。患犬たちで多く見られた症状は嘔吐、下痢、胃腸の膨張、腹痛、食欲不振、元気喪失など。超音波検査で胃の幽門部や十二指腸内に異物が確認されたほか、腹部切開(胃切開・腸切開)により塊になった植物が十二指腸、近位空腸、小腸腸間膜の縁部分にひだを形成し、血流遮断を招いて壊死したり穴を空けている様子が確認されました。 患部を切除して吻合し、すべての犬は退院にまでこぎつけましたが、2頭は術後の食欲不振と吐き戻しで再来院、残りの2頭は別の誤飲誤食で再び来院したといいます。さらに1頭に関しては、術後の腸閉塞が悪化して安楽死を余儀なくされたとのこと。
犬における直線状異物としては布製品、プラスチック、ロープ、糸や紐、ストッキングや靴下が多く、死亡率は2~22%とされていますが、あまりにも大量の草を食べてしまうと胃の中で絡み合って巨大化し、胃袋の出口(幽門部)や胃に連なる十二指腸に引っかかってしまうようです。患犬の飼い主のうち、犬が実際に草を食べている様子を確認した人はいませんでした。また4頭のうち3頭までがレトリバー種(ラブ・ラブ・フラットコーテッド)でした。犬が草を食べるのは正常な行動ですが、食いしん坊の場合はあまりにも大量に摂取しないよう、しっかりと飼い主が監督したほうが安全でしょう。
2020年、グラスゴー大学付属小動物病院の調査チームは草を原因とする誤飲誤食の4症例を報告しました(:McCagherty, 2020)。患犬たちで多く見られた症状は嘔吐、下痢、胃腸の膨張、腹痛、食欲不振、元気喪失など。超音波検査で胃の幽門部や十二指腸内に異物が確認されたほか、腹部切開(胃切開・腸切開)により塊になった植物が十二指腸、近位空腸、小腸腸間膜の縁部分にひだを形成し、血流遮断を招いて壊死したり穴を空けている様子が確認されました。 患部を切除して吻合し、すべての犬は退院にまでこぎつけましたが、2頭は術後の食欲不振と吐き戻しで再来院、残りの2頭は別の誤飲誤食で再び来院したといいます。さらに1頭に関しては、術後の腸閉塞が悪化して安楽死を余儀なくされたとのこと。
犬における直線状異物としては布製品、プラスチック、ロープ、糸や紐、ストッキングや靴下が多く、死亡率は2~22%とされていますが、あまりにも大量の草を食べてしまうと胃の中で絡み合って巨大化し、胃袋の出口(幽門部)や胃に連なる十二指腸に引っかかってしまうようです。患犬の飼い主のうち、犬が実際に草を食べている様子を確認した人はいませんでした。また4頭のうち3頭までがレトリバー種(ラブ・ラブ・フラットコーテッド)でした。犬が草を食べるのは正常な行動ですが、食いしん坊の場合はあまりにも大量に摂取しないよう、しっかりと飼い主が監督したほうが安全でしょう。
異物迷入の危険性
特にイネ科植物にはノギ(芒, grass awn)と呼ばれる鋭利な構造物があります。このノギは空気とともに吸い込んだり口から食べてしまうと、まるでロケット弾のように組織を突き破り、体のいたる所に迷入しますので十分な注意が必要です。以下は医学論文で報告されている症例の数々です。脳内を含めた体中のほぼすべての場所で発見されています。
ノギの迷入場所
- 脳:Bussanich, 1981 | :Dennis, 2005
- 脳幹:Mateo, 2007
- 環軸関節の硬膜上腔:Linon, 2014
- 腰椎の硬膜上腔:Sutton, 2010
- 脊髄T12~13レベル:Whitty, 2013
- 気管支:Cerquetella, 2013
- 胸膜腔と肺実質:Caivano, 2016
- 眼瞼:Marchegiani, 2017
- 鼻腔:M.J.Dias, 2018 | :Vansteenkiste, 2014
- 外耳道:Brennan, 1983
- 腹腔:Hopper, 2004
- 腹腔動脈:F.J.L.Diaz2010
- 心臓:Caivano, 2019
- 膵臓:Citi, 2017
- 大腿部:A.S.Bigham, 2009
- 四肢先端:Fauchon, 2017 | :Morishima, 2003
- 尿道・膀胱:Cherbinsky, 2010 | :Caraza, 2011
- オスの外性器:Bergamini, 2019
- メス犬の外性器:Agut, 2015
犬の草食Q & A
以下は犬の草食行動についてよく聞かれる疑問や質問の一覧リストです。思い当たるものがあったら読んでみてください。何かしら解決のヒントがあるはずです。
犬は肉食じゃないの?
人間と同じ雑食です。
一部のドッグフードメーカーが「犬の自然な食事は生肉だ」というイメージ戦略を行っているせいか、犬が完全肉食であるという誤解を抱いている人がいるようです。しかし家畜化の長い歴史の中で人間と食生活を共にするうち、犬の消化管内では炭水化物を分解消化する能力が発達しました。犬種によって消化力に違いはあるものの、犬たちは基本的に私たち人間と同じ雑食です。
犬は草を消化できる?
できません。
草の中に含まれている繊維は消化管から分泌される酵素によっては分解されず、腸内細菌叢によってのみ分解されます。草を食べた後、お腹がキュルキュル鳴る理由は、消化吸収が活発に行われているからではなく食物繊維によって胃腸の蠕動運動が促されたからでしょう。腸内細菌でも分解しきれなかった草は、便中にそのままの形で排出されます。
ちなみに犬がよく食べる「犬草」として知られるギョウギシバの構成成分は、粗タンパク質が10.5%、食物繊維が28.2%、可溶無窒素物が47.8%、エ-テル抽出物が1.8%、灰分が11.8%です(Kapoor, 2001)。
草食はストレスや病気のせい?
健康な犬も草を食べます。
カリフォルニア大学デービス校の調査チームは、付属動物病院の外来患者を対象とし、自分の飼っている犬が草を食べる様子を目撃したことがあるかどうかをアンケート調査しました (:Sueda, 2008)。
「回答者はもっぱら犬の世話をする人」「犬は1日最低1時間、植物と接する機会がある」「犬は最低1ヶ月その家庭内で飼育されている」「世話人は1日最低3時間、犬の行動を観察する」「犬たちは臨床上健康である(=嘔吐を誘発するような病気を抱えていない)」という基準を満たした47人の回答を検証したところ、79%に相当する37人は食べる現場を目撃したり、便や嘔吐物の中に植物を見つけたことがあったと言います。
目撃回数の内訳は10回未満が32%(12頭)、10~100回未満が49%(18頭)、100回以上が19%(7頭)で、犬が食べる植物の種類は何らかの草が全体の95%を占めていました。4頭中3頭近くの犬が自発的な草食行動を見せていますので、どちらかと言えば草を食べない方が異常という見方すらできます。
草を食べやすい犬の特徴は?
母犬に草食習慣がある場合、子犬も草を食べやすくなるようです。
カリフォルニア大学デービス校のチームはインターネットを介した大規模なアンケート調査を行い、草食行動に走る犬たちにどのような特徴があるのかを検証しました。1,571の有効回答を検証した結果、98%の犬で最低1回の植物食行動(草・果実・小枝 etc)が見られ、普段の食事内容、性別、不妊手術の有無、犬種グループと植物を食べる頻度や食べる植物の種類との間に相関関係は見られなかったといいます。
一方、オーストラリア・ニューイングランド大学のチームは6頭のメス犬から産まれた6腹の子犬たち合計26頭を2つのグループに分け、半数の13頭は母犬がいる状態、残りの13頭はいない状態という違いを設けた上で草食行動を観察しました(:Mckenzie, 2009)。その結果、母犬がいようといまいと全ての子犬たちが自発的に草を食べたといいます。また母犬が近くにいる状態の子犬たちに焦点を絞って観察した結果、草をよく食べる母犬(草食に10分以上費やした3頭)がいる状態では、草をあまり食べない母犬(草食に2分未満しか費やさなかった3頭)がいる状態より、子犬たちが草と接している時間が長かったとのこと。
草食は吐くため?
草を食べた後に吐き戻す犬は少数派です。
カリフォルニア大学デービス校のチームは、草を食べる習慣がある犬たちの特徴をあぶり出すため、インターネットを介した大規模なアンケート調査を行いました(:Sueda, 2008)。
「1日最低6時間を犬と過ごす」「植物を食べる様子を少なくとも10回は目撃したことがある」という基準でスクリーニングしたところ、最終的に1,571の回答が有効と判断されました。植物を食べた後に頻繁に嘔吐すると回答した人の割合は22%で、嘔吐の予見因子としては「犬の年齢が高いほど嘔吐頻度が高い」「ハウンドグループとトイグループに属する犬たちは嘔吐頻度が高い」「ホームメイドの手作り食よりも完全栄養食とされるドッグフードを給餌されている犬における嘔吐頻度が高い」という項目が残りました。植物を食べる前、体調不良の兆候が観察された場合、食べた後に嘔吐する頻度が高かったとも。
草を食べた後に吐き戻す犬たちの割合はおよそ5頭に1頭だけですので、嘔吐を目的として草を食べている可能性は低いと考えられます。またオーストラリアにあるニューイングランド大学心理学校のチームが 12頭の雑種犬を対象として行った調査でも、草を食べる行為が合計709回観察されたのに対し、嘔吐は朝3回と午後2回の5回だけだったと報告されています(:Bjone, 2007)。
下痢のときに草を食べる?
下痢気味の時はむしろ草を食べなくなる傾向が確認されています。
オーストラリアにあるクイーンズランド大学を中心としたチームは、12頭のビーグル犬(オス犬3+メス犬9 | 平均年齢3.7歳 | 平均体重13.3kg)を対象とし、フラクトオリゴ糖(FOS)を10%の割合で含んだフードを与えることで浸透圧上昇による大腸性の便軟化(下痢気味)を人為的に引き起こし、犬の草食行動に変化が出るかどうかを観察しました(:Mckenzie, 2010)。
その結果、FOSによって下痢気味の時の草食平均時間が1.7分だったのに対し、無添加フードでお腹の調子が良いときの平均時間が2.6分だったといいます。また草食頻度に関してもFOSフードが平均3.1回、無添加フードが4.6回という明白な格差が確認されました。
小腸性の下痢や便秘の時の草食行動まではわからないものの、少なくとも大腸に起因する下痢のときに草を食べるという行動は促進されないようです。
草食は虫下しのため?
おなかの中に寄生虫がいない犬でも草を食べます。
犬が草を食べる目的は虫下しであるという説は早くも1940年代から提唱されてきました。この説の元となっているのは、草に絡まった寄生虫がオオカミの便の中で見つかったという観察です(Murie, 1944)。しかし犬を対象として行われた調査では、おなかの中の寄生虫が草食行動には無関係である可能性が強く示されています。
オーストラリアにあるニューイングランド大学のチームは、鉤虫、回虫、鞭虫への感染が確認された18頭の犬たち(平均3.6歳 | 平均5.2kg)をランダムで2つのグループに分け、9頭にだけ駆虫治療を施した上で両グループ間の草食行動に違いが見られるかどうかを観察しました。1日10分、草を自由に食べられる時間を設け、6日間に渡る観察を行った結果、草食行動に費やす時間にも頻度にも違いは見られなかったといいます(:Bjone, 2008)。ですから、おなかの中にいる寄生虫を草に絡めて体外に排出するため、犬たちが草を食べている可能性は低いと考えられます。
草食はサプリメント代わり?
植物中の栄養素を目的として草を食べている可能性は低いと考えられます。
カリフォルニア大学デービス校の調査チームは、付属動物病院の外来患者を対象とし、自分の飼っている犬が草を食べる様子を目撃したことがあるかどうかをアンケート調査しました (:Sueda, 2008)。その結果、47人の回答のうち、79%(37人)で草食行動が確認され、21%(10人)では食べる様子を一度も見たことがないし便や嘔吐物の中に植物を見つけたこともなかったといいます。また草を食べない犬たちのうち野菜や果実を食事として与えられているものが1頭もいなかった一方、草を食べる犬たちのうち27%は野菜もしくは果実を食事の一部として与えられていたとも。
こうした事実から、植物に含まれる何らかの栄養素を補給する目的で犬たちが草を食べている可能性は低いのではないかと考えられます。
草食は食物繊維を補うため?
その可能性はわずかにあります。
韓国にある建国大学校獣医学部のチームは、散歩中に自発的に草を食べ、その後必ず嘔吐するミニチュアプードル(11歳 | 去勢済みのオス犬 | 体重6kg | BCS4の体重過多)の症例報告を行いました(:Kang, 2007)。健康診断を行いましたが、先天性疾患、感染症、内分泌系疾患、神経系疾患、代謝異常が見当たらず、栄養価のないものを無分別に食べる異食症(pica)および不安症やストレスに起因する強迫神経症でもないと判断されました。
原因がわからなかったものの、試みに食物繊維を多く含むドッグフード(粗繊維15.3%)に切り替え、さらに穀類、野菜、大豆、ビートパルプ、小麦ふすま(ブラン)などを加えて食物繊維の1日摂取量が食事全体の20%になるよう指示したところ、切り替えてから3日で7年間続いていた草食行動と嘔吐がなくなったそうです。
ですから犬たちが食物繊維源として草を食べているという可能性はわずかながらあると考えられます。ただしアルファルファ由来の食物繊維を2.1%添加したフードでは草食行動が減らなかったという報告(Beynen, 2020)もありますので、個体差が影響しているのかもしれません。
結局、なぜ犬は草を食べるの?
満腹感を促すためではないかと考えられます。
オーストラリアにあるニューイングランド大学心理学校のチームは、草を食べる習慣がある12頭の雑種犬(平均年齢6歳)を大学附属のドッグリサーチ施設に招き、草食行動に関する前向きの観察調査を行いました(:Bjone, 2007)。
観察の結果、12頭の犬から得られた合計216回のセッション中、草を食べる行為が合計709回も確認されたといいます。また「草食行動に費やす時間は朝の方が長い」「草食行動の回数は朝の方が多い」「最後の食事からの経過時間が長ければ長いほど草食に長い時間を費やす」という関係性が確認されました。
こうした事実から、犬たちは草という存在を食事の一種とみなしており、満腹感の度合いが草食行動の頻度や時間に影響を及ぼしている可能性が高いと判断されました。要するにおなかが空いているときに手っ取り早く胃袋をふくらませるため、目の前にある草を食べるということです。
犬にとって草を食べるのは正常な行動です。ただしさまざまな危険がありますので、散歩中に道端の草を食べさせることはお控えください。