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長毛犬種におけるヘアターニケット症候群の危険性~足先にある飾り毛は定期的にトリミングを

 被毛が延々と長く伸び続ける長毛犬種のブラッシングを怠ると、よじれた被毛がまるで止血帯のように足の先端に絡みつき、血流不足から皮膚や骨の壊死を引き起こすことがあります。

犬のヘアターニケット症候群

 「ヘアターニケット症候群」(tourniquet syndrome)とは、よじれた毛が手足の先端に絡みつき、ちょうど止血帯のように血流を止めた結果、軟部組織(皮膚・脂肪・血管)が虚血性の壊死を起こしてしまった状態のことです。人間の赤ちゃんにおいては母親の髪の毛が原因になることがよくあります。 人間の赤ちゃんの指先で発症したヘアターニケット症候群  被毛が延々と伸び続ける長毛犬種では、足元に「ファーニシング」(furnighing)と呼ばれる飾り毛を持っているものが少なくありません。しかし適切なブラッシングやグルーミングを怠ると、紐状によじれた被毛が足先に巻き付き、上記「ヘアターニケット症候群」を引き起こすことがありますので要注意です。
 報告を行ったのはアメリカ動物愛護協会・法医獣医学部門を中心としたチーム。2014年10月から2019年2月の期間、ニューヨークにある協会附属動物病院を受診した患犬たちの電子医療データを後ろ向きに参照し、被毛の絡みつきを原因とするヘアターニケット(止血帯)症候群が疑われる症例をピックアップした結果、合計27頭・43の病変部が見つかったと言います。受診時の平均年齢は5.7歳(1~16歳)で、具体的な犬種は以下です。
好発品種
犬の足先で発症したヘアターニケット症候群  17頭に関しては患肢が1本だけでしたが、7頭に関しては2本、3頭に関しては4本でした。前肢と後肢の比率は同じで、肘関節や膝関節より近位部や牽引性脱毛の所見は見られませんでした。軟部組織の絞扼(こうやく)は2週間~2ヶ月に渡って持続していたと推測され、重症例では患部の骨が縮小、萎縮、リモデリング(変形)、脱落、溶解、亜脱臼、患側の骨減少症が確認されたとのこと。
 11頭は断肢処置、12頭は軟部組織のデブリードマンで対処しましたが、痛みに耐えかねて自分で足を噛みちぎった(もしくは自然脱落した)と思われる症例が2つほどあったそうです。
Osseous lesions in the distal extremities of dogs with strangulating hair mats
Elizabeth Watson, Laura Niestat, Veterinary Radiology & Ultrasound, DOI:10.1111/vru.12924

長毛犬種は足元に注意!

 人間の赤ちゃんにおけるヘアターニケット症候群は、指先などに絡みついた毛があまりにも細いため気づかれないことで偶発的に発症します。一方、人間に飼われている犬で発症した場合は、飼い主による怠慢飼育(ネグレクト)が原因です。日本国内では動物愛護法が改正されたことにより、動物虐待を発見した獣医師は症例を報告することが義務化されました。適切なブラッシングを怠ることによる四肢先端の虚血性病変はれっきとした動物虐待ですので通報対象となります。 犬の足元にある飾り毛(ファーニシング, Furnishing)  症例報告にあった患犬たちは皆一様に長毛の小型犬種でした。体が小さい分、よじれた被毛が円周状に絡みつきやすいことが原因だと考えられます。しかし中~大型犬でも油断はなりません。足にファーニシング(飾り毛)を持っている限り、雨などで濡れて止血帯に変化してしまう危険性は常にはらんでいますので、以下に述べるような犬種を飼われている方は定期的にトリミングを行い、偶発的なヘアターニケット症候群を予防してあげましょう。報告内にあった通り、虚血状態が長期化すると最悪のケースでは軟部組織だけでなく骨まで脱落してしまいます。
飾り毛のみ
飾り毛+巻き毛
長毛+飾り毛
長毛+巻き毛+飾り毛
自分でファーニシング(飾り毛)のカットを行いたい方は「犬のトリミングの仕方・完全ガイド」をご参照下さい。