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膝蓋骨脱臼の有病率と危険因子に関する統計

 20万件を超える犬の医療データを元にした統計調査により、イギリス国内における膝蓋骨脱臼の有病率と危険因子が明らかになりました(2016.6.20/イギリス)。

詳細

 調査を行ったのは、イギリス王立獣医大学のチーム。2009年9月~2014年8月の期間、イギリス国内にある119の一次診療病院から合計210,824件の医療記録を集め、小型犬に多いとされる「膝蓋骨脱臼」に関する統計調査を行いました。その結果、当疾患の有病率は全体の1.3%(約2740件)で、そのうち751件に関しては調査期間中に新たに診断された「インシデントケース」だったと言います。またインシデントケースのうち、何らかの保存療法を受けた割合は39.0%、手術を受けた割合は13.2%、そして専門性の高い二次診療に回された割合は3.7%で、残りの44%(約330件)は何の医療的介入も行わなかったとのこと。

危険犬種(有病率 | オッズ比)

 発症の危険因子としては、「犬種」が筆頭に挙げられました。具体的には以下ですが、過去にアメリカやオーストリアで行われた報告同様、すべて小型犬から構成されています。なお「オッズ比」とは、ミックス犬の発症リスクを「1.0」としたときの他の犬種のリスクのことで、数字が大きいほど危険が大きいことを意味しています。
膝蓋骨脱臼のハイリスク犬種一覧グラフ

膝蓋骨脱臼の危険因子

 犬種以外の危険因子としては、以下のような項目が浮上してきました。
  • 体重犬種の性別平均体重よりも軽い方が1.4倍発症しやすく、10kg未満の犬は10~20kg未満の犬よりも2.8倍発症しやすい。やせていると筋肉量が少なくなり、関節の不安定性が増すためか?それとも体型の小型化に伴い、発症リスクを高める何らかの遺伝子が偶発的に固定されてしまったためか?
  • 年齢12歳以上の犬の罹患リスクは3歳未満の0.4倍。最初に診断された時の年齢中央値は4歳であることから、膝蓋骨脱臼が若年性疾患であり、生涯の早い時期から発症することがうかがえる。
  • ホルモンメスの罹患リスクはオスの1.3倍で、不妊手術を施した犬のリスクは施していない犬の2.4倍。原因はよくわからないが、性ホルモンが成長率や筋骨格系に影響を及ぼした可能性は否定できない。
膝蓋骨脱臼のリスク犬種~ポメラニアンとチワワ

解説

 膝蓋骨脱臼は若い頃から発症し、命を脅かすことがないまま徐々に悪化していく疾患です。犬に対しては十字靭帯の損傷、骨関節炎、疼痛、不自由な動きという形で、そして飼い主に対しては心理的+経済的負担という形で重くのしかかってきます。フラットコーテッドレトリバーやポメラニアンを用いた過去の調査では、第7染色体に原因遺伝子があるのではないかと推測されていますので、一刻も早い遺伝子検査法の確立と、繁殖プールからの遺伝子キャリア除外が望まれます。また、携帯電話のCMを見て安易にペットショップに行く前に、犬種特有のリスクを把握しておくことも重要です。 犬の膝蓋骨脱臼 The epidemiology of patellar luxation in dogs attending primary-care veterinary practices in England