犬の拡張型心筋症の病態と症状
犬の拡張型心筋症(Dilated cardiomyopathy, DCM)とは、心臓の収縮力が低下することで壁を形成している筋肉が拡張し、十分な血液を全身に送り出すことができなくなった状態のことです。いくつかある心筋症のうち一番多いタイプだと考えられています。心臓の筋肉を顕微鏡で観察すると、心筋線維が波形にうねって細くなっていたり、細胞と細胞の間を埋める空間を線維が占めていたり、心筋細胞がなくなった場所を繊維組織が埋めてしまう置換性の線維化が観察されたりします。
アメリカの獣医療データベース(1986年~1991年)では、二次診療施設にまわされた犬たちのうち0.5%、米国獣医療教育病院のデータベース(1995年~2010年)では9万頭のうち0.4%が拡張型心筋症の診断を受けたと言います。またヨーロッパで行われた調査では1.1%という有病率が報告されています。主な症状は以下です。心臓性の突然死に関しては、特にドーベルマンで40%という高い発症率が確認されています。

拡張型心筋症の主症状
- 運動不耐性(すぐバテる)
- うっ血性心不全
- 卒倒発作
- 心臓性の突然死(SCD)
犬の拡張型心筋症の原因
犬の拡張型心筋症の原因としては、主に以下のようなものが考えられます。どれも因果関係がはっきり証明されているわけではありません。
犬種・遺伝
北米で行われた調査においては、好発品種としてドーベルマン、アイリッシュウルフハウンド、グレートデン、ボクサー、アメリカンコッカースパニエル、ブルドッグ、ゴールデンレトリバー、セントバーナードなどが報告されています。
またヨーロッパで行われた調査では好発品種としてエアデールテリア、ドーベルマン、ニューファンドランド、スコティッシュディアハウンド、イングリッシュコッカースパニエルなどが報告されています。
ジストロフィンと呼ばれるタンパク質の一種形成に関わる遺伝子(DMD)、ストリアチンと呼ばれるタンパク質の形成に関わる遺伝子(STRN)、ピルビン酸デヒドロゲナーゼキナーゼ4と呼ばれる酵素の生成に関わる遺伝子(PDK4)における変異が、心筋細胞のエネルギー産生や細胞間のシグナリングを乱し、拡張型心筋症を引き起こしているのではないかと考えられています。
ジストロフィンと呼ばれるタンパク質の一種形成に関わる遺伝子(DMD)、ストリアチンと呼ばれるタンパク質の形成に関わる遺伝子(STRN)、ピルビン酸デヒドロゲナーゼキナーゼ4と呼ばれる酵素の生成に関わる遺伝子(PDK4)における変異が、心筋細胞のエネルギー産生や細胞間のシグナリングを乱し、拡張型心筋症を引き起こしているのではないかと考えられています。
性別
オス犬で多く発症するという報告が一部にあります。
年齢
高齢になって発症するという報告がある一方、ポーチュギーズウォータードッグのように若年性で発症するパターンもあるようです。一般的には加齢とともに発症率が高くなっていきます。
感染症
何らかの感染症によって引き起こされた心筋炎が拡張型心筋症の原因になっているのではないかと疑われています。具体的な病原体として報告があるのはパルボウイルス、ボレリア・ブルグドルフェリ(細菌)、バルトネラ(細菌)、クルーズ・トリパノソーマ(鞭虫)、ネオスポラ・カニナム(原虫)などです。発症率に地域差がある一因は、病原体の地理的な限局性ではないかと推測されています。
内分泌疾患
甲状腺機能低下症の治療を行った犬において心機能の改善が見られることから、当症が心臓の収縮力を悪化させてQRS電位の低下、心尖拍動の弱化、洞性徐脈を引き起こし、拡張型心筋症を引き起こしている可能性が指摘されています。
頻脈
実験的な頻脈(200回超/分)によって人為的にDCMとそれに併存するうっ血性心不全を引き起こせることから、慢性的な心拍数増加が酸素消費量の増加、心筋への血流不足、遠心性肥大の消失、カルシウム代謝およびATP産生回路の異常を引き起こして拡張型心筋症の原因になっているのではないかと疑われています。人間においても自然発症型の頻脈で心機能低下が引き起こされますが、適切な治療を行えば機能は回復するとされています。
特定成分の過剰摂取
ある種の成分を過剰に摂取することが何らかのメカニズムを通じて拡張型心筋症を引き起こしてるのではないかと考えられています。過剰摂取で指摘されているのはシアン化物(シアン化グルコシド)が蓄積しやすいタピオカ(キャッサバ)です。シアン化物を摂取すると体内でチオシアン酸塩に変換され、含硫アミノ酸を元にして硫化水素を消費するようになります。その結果、心機能の維持に必要なタウリンやカルニチンの生合成が阻害され、拡張型心筋症につながるというメカニズムです。
また甲状腺腫を引き起こしうるホウレンソウ、キャッサバ、ピーナッツ、大豆、イチゴ、サツマイモ、モモ、洋ナシ、ブロッコリー、メキャベツ、キャベツ、ナタネ、カリフラワー、カラシナ、ラディッシュ、セイヨウアブラナが甲状腺の機能を低下させ、拡張型心筋症の遠因になっているのではないかとの指摘もあります。
上記したような成分を多く含むペットフードは、専門店仕様の(Boutique)、一風変わった(Exotic)、穀物不使用(Grain-free)の頭文字をとって「BEG」などと呼ばれます。
また甲状腺腫を引き起こしうるホウレンソウ、キャッサバ、ピーナッツ、大豆、イチゴ、サツマイモ、モモ、洋ナシ、ブロッコリー、メキャベツ、キャベツ、ナタネ、カリフラワー、カラシナ、ラディッシュ、セイヨウアブラナが甲状腺の機能を低下させ、拡張型心筋症の遠因になっているのではないかとの指摘もあります。
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特定成分の欠乏過少摂取
犬の拡張型心筋症の検査・診断
心筋症の症状が軽度な場合は頚静脈波、期外収縮、弱脈、脈拍欠落、収縮期雑音、聴診時の水泡音などが確認されることがあります。胸部エックス線検査では左心房と左心室の心肥大、肺動脈の膨張、気管の上方偏位、肺浮腫などが観察されます。心エコー検査は慢性的な弁膜症を始め、他の疾患と鑑別診断する際に有用です。
犬の拡張型心筋症では不整脈が多く観察されますが、不整脈が都合よく病院内で起こってくれるわけではないため院内心電図検査では記録されないこともしばしばです。そのため携帯用のホルター心電図を装着し、24時間という長時間における不整脈を見つけ出します。拡張型心筋症発症したドーベルマンにおいては50回以上の心室性期外収縮が記録されたとの報告があります。
異常な拡張や負荷などのストレスが心臓に加わったとき、血中で増加する「NT-proBNP」と呼ばれる心筋ストレスマーカーが心機能の低下を検出する際に有用な診断ツールとなります。値が高いほど症状が重いことを意味しており、犬においては800pmol/Lが正常参照値で、2,700pmol/Lを超える場合はうっ血性心不全が強く示唆されます。しかし腎臓の機能によって値が変動するため、ホルター心電図とともに行うのが確実です。
犬の拡張型心筋症では不整脈が多く観察されますが、不整脈が都合よく病院内で起こってくれるわけではないため院内心電図検査では記録されないこともしばしばです。そのため携帯用のホルター心電図を装着し、24時間という長時間における不整脈を見つけ出します。拡張型心筋症発症したドーベルマンにおいては50回以上の心室性期外収縮が記録されたとの報告があります。
異常な拡張や負荷などのストレスが心臓に加わったとき、血中で増加する「NT-proBNP」と呼ばれる心筋ストレスマーカーが心機能の低下を検出する際に有用な診断ツールとなります。値が高いほど症状が重いことを意味しており、犬においては800pmol/Lが正常参照値で、2,700pmol/Lを超える場合はうっ血性心不全が強く示唆されます。しかし腎臓の機能によって値が変動するため、ホルター心電図とともに行うのが確実です。
犬の拡張型心筋症の治療・予防
犬の拡張型心筋症の治療・予防法としては、主に以下のようなものがあります。
DCMの治療・予防法
- 投薬治療拡張型心筋症と診断された場合、カルシウム増感剤を投与することによってうっ血性心不全の発症を遅らせます。不整脈に対する投薬は効果が実証されていないため慎重に行います。
- 食事療法特定の栄養素と拡張型心筋症との因果関係は確定していませんが、多く摂取することによって体に害を与えるわけではないためタウリンやL-カルニチンをサプリメントとして与えます。
拡張型心筋症の代表的な症状である「運動不耐性」は息切れや歩行拒否として現れます。高齢犬が散歩の途中で立ち止まったら、無理やりリードを引っ張るのではなく循環器系の疾患を疑ってあげて下さい。