犬の心筋炎の病態と症状
犬の心筋炎とは、心臓の鼓動を作り出している筋肉の層に炎症が生じてしまった状態のことです。
犬の心臓は「心筋」と呼ばれる特殊な筋肉で構成されており、中に埋め込まれたペースメーカー細胞の指示を受け、リズミカルに伸縮を繰り返しています。しかし何らかの理由でこの心筋層に炎症が生じると、正常な拍動のリズムが崩れ、血液をスムーズに送り出すことができない「不整脈」(ふせいみゃく)が起こってしまいます。この状態が「心筋炎」です。
犬の心筋炎の症状には以下のようなものがあります。一般的に、生前診断は困難です。
犬の心筋炎の症状には以下のようなものがあります。一般的に、生前診断は困難です。
犬の心筋炎の主症状
- 発熱
- 咳をする
- 運動を嫌がる
- 呼吸困難
- 突然失神する
- 不整脈
- 頻脈
- うっ血性心不全
犬の心筋炎の原因
犬の心筋炎の原因としては、主に以下のようなものが考えられます。予防できそうなものは飼い主の側であらかじめ原因を取り除いておきましょう。
犬の心筋炎の主な原因
- 外傷 心臓についた傷が原因で炎症が生じてしまうことがあります。具体的には、交通事故や高い場所からの落下など、内臓に強い衝撃が加わるような状況です。ナイフで切りつけたような明確な傷は無いものの、瞬間的に強くゆさぶられることにより、目に見えない小さな傷が心筋に生じてしまいます。
- 感染 心筋層に取り付いた病原体によって炎症が引き起こされることがあります。ウイルスではパルボウイルス、ジステンパーウイルス、イヌヘルペスウイルス、原虫ではトキソプラズマ、トリパノソーマ(シャーガス病)、細菌ではヘリコバクター、真菌ではクリプトコッカス、コクシジオイデス、アスペルギルス、スピロヘータではボレリア(ライム病の原因)、藻類ではプロトテカなどが多いとされます。
- 薬剤 心臓に対して毒性を発揮する薬剤によって心筋炎が引き起こされることがあります。具体的には、ドキソルビシンやカテコールアミン、抗腫瘍薬(シクロフォスファミド・インターロイキン-2 etc)などです。また、重金属(ヒ素・鉛・水銀 etc)や生物毒(ヘビ・スズメバチ・サソリ・クモ etc)が原因となることもあります。
- 免疫力の低下 抱えてる病気や、免疫力を低下させるような薬剤の影響で免疫力が落ちていると、通常であれば抑え込めるはずの病原体の繁殖を抑えきることができず、心筋炎を発症しやすくなってしまいます。
犬の心筋炎の治療
犬の心筋炎の治療法としては、主に以下のようなものがあります。
犬の心筋炎の主な治療法
- 投薬治療 感染が原因で発症している場合は、病原体を特定しそれに対応した薬剤を投与します。また、不整脈とそれに伴う突然死を予防するため、抗不整脈薬が投与されることもあります。しかしこの薬は、逆に不整脈の原因になる危険性もはらんでいるため、投与する際は慎重な判断とモニタリングが必要です。
- 外科手術 不整脈の一種である「完全房室ブロック」があり、心臓の拍動をうまくコントロールできなような場合は、人工的なペースメーカーが埋め込まれることがあります。
- 安静 心臓への負担を減らすため、安静を基本とします。しかし家の中に閉じこもりっぱなしだと、筋肉の委縮を招いてしまいますので、心筋炎の重症度に合わせた運動制限が重要です。