8月31日
犬や猫の「てんかん」に関する研究と調査を行う「国際獣医てんかん専門委員会」(IVETF)は、獣医学領域におけるてんかんの最新情報を更新しました。主な内容は以下です。- てんかん用語と定義
- てんかんの統一分類法
- 特発性てんかんの診断基準
- 特発性てんかん好発犬種
- 特発性てんかんとMRI
- てんかんの投薬治療
8月28日
動物用医薬品の製造販売する「ゾエティス」が考案した犬のアトピー性皮膚炎に対する免疫療法「CADI」が、アメリカ合衆国農務省(USDA)から条件付きライセンスを取得しました。「CADI」(Canine Atopic Dermatitis Immunotherapeutic)は、特殊な抗体を含んだ薬剤を月に1回皮下注射することで、かゆみの刺激を脳に伝える「インターロイキン-31」(IL-31)の働きを無効化するというもの。病気自体を治癒する力はありませんが、かゆみを抑制することで犬のQOL(生活の質)が大幅に改善すると期待されています。
このたびUSDAから条件付きのライセンスを取得したことで、皮膚病の専門医を通して一般の患犬に処方することが可能となりました。今後、臨床例が増えて有効性と安全性が高いと判断された暁には、一般獣医師によって処方されたり、日本国内において使用されるという可能性もあります。 dvm360
8月27日
犬に対して行われた二者択一テストにより、他の犬が「ガン見」している方の選択肢は意識的に避けられる傾向があることが確認されました。実験を行ったのはハンガリーのロラーンド・エトヴェシュ大学が中心となった生物学チーム。まず犬の目の前に2つの皿を用意し、中央にモニターを設置して、そこに等身大の犬の映像(デモンストレーター)が映し出されるという状況を設定しました。そして一方のグループ60頭には、デモンストレーターがどちらか一方のお皿を「ちら見」する映像を見せ、他のグループ15頭には「ガン見」する映像を見せた後、二者択一テストを行いました。結果は以下です。
他の犬の注視と選択行動
- 「ちら見」グループ選択行動は「ちら見」には影響を受けない/前回選んだ側を再び選ぶ傾向が強い/「単独飼育」、「支配的」、「服従的」といった社会的ステータスは選択に影響を及ぼさない/「単独飼育」の犬たちだけは、なぜか左側を選ぶ傾向が強かった
- 「ガン見」グループデモンストレーターが顔を向けた方の皿を、意識的に避ける傾向があった
8月25日
今年の2月、犬や猫などの外注検査を受け持つ「アイデックス」(Idexx)が腎不全のバイオマーカーとして発表した「SDMA」という物質が、腎臓病の国際研究組織「IRIS」による暫定承認を得ました。「IRIS」が毎年行っている「IRIS Napa Meeting」という会合、およびその後に開かれた「2015 IRIS board meeting」において、新たに発見されたバイオマーカー「SDMA」(対称性ジメチルアルギニン)の有効性が議題に上がり、最終的に「SDMAは従来のクレアチニンよりも腎臓の機能不全を敏感に反映する」との結論に至りました。この結論を基に、「IRIS」が慢性腎不全(CKD)のステージを判定する際の目安として暫定的に設けた数値が以下です。
2015 IRIS CKD Staging Guidelines
- CKD Stage1SDMA14 μg/dl+クレアチニン1.4mg/dl未満
- CKD Stage2SDMA25 μg/dl以上+やせている
- CKD Stage3SDMA45 μg/dl以上+やせている
8月25日
東京都の動物保護施設に収容された犬を対象とし、10年の間隔をあけて行われたトキソプラズマ感染率調査の結果が公表されました。当調査行ったのは日本大学が中心となったチーム。1999~2001年と2009~2011年の二期において収容犬のトキソプラズマ(T. gondii)感染率を調査し、その推移を分析しました。結果は以下です。
T. gondiiの感染率推移
- 1999~2001年=1.8% (4/219)
- 2009~2011年=1.9% (2/106)
8月24日
小学校に入る前の幼い子供たちを対象とした実験により、犬の行動から感情を読み取る方法を事前に教えておけば、幼児に対する犬の咬傷事故を減らせるという可能性が示されました。実験を行ったのはドイツ・テュービンゲン大学の獣医学グループ。3歳から5歳までの子どもを70人を集め、「犬の行動から感情を解釈する方法を教えたグループ」と、「ただ単に動物の行動について教えたグループ」とに分割し、介入の前後において犬の感情を読み取る能力に変化があったかどうかをテストしました。
その結果、教育的介入を行った前者のグループにおいて、犬の感情を読み取る能力が著しく向上したといいます。この結果から研究者たちは、学校に入る前の幼い子供たちに対して犬の行動と感情の因果関係を教育しておく事は、不用意に犬に近づくことで発生する咬傷事故を減らすことにつながるだろうと結論づけています。 PLOS ONE
8月21日
動物のアレルギー疾患に関する調査・研究を行う「ICADA」は、過去の文献を基にして犬のアトピー性皮膚炎についての診断・治療指針を発表しました。ガイドライン策定にあたり「ICADA」(動物アレルギー性疾患国際委員会)が基にしたのは、過去に公表された81件に及ぶアトピー性皮膚炎に関する文献。「診察」の指針では、アトピー性皮膚炎と同じような皮膚症状を示す他の疾患と鑑別する際のポイントがまとめられ、「診断」の指針では、アトピー性皮膚炎が患畜に引き起こす様々な症状が網羅的にまとめられました。また「治療」の指針では、犬のアレルギー反応を起こしているアレルゲンを特定するための効果的なアプローチ方法が述べられています。
以下は「診断」の項目における一例です。飼い主が病気を早期発見する際のヒントになってくれるでしょう。
アトピーの主症状
- 非損傷性のかゆみ
- 紅斑
- 丘疹
- 膿疱
- 表皮輪状斑
- 痂皮
- 唾液痕
- 擦過傷
- 脱毛
- 苔癬化
- 色素沈着
ファブロの診断基準(5項目満たす)
- 3歳を迎える前に発症
- 基本的に室内飼育
- 非損傷性のかゆみ
- 前足に発症
- 耳介に発症
- 耳の辺縁部は無症状
- 胴から腰にかけては無症状
犬種別アトピー好発部位
Canine atopic dermatitis
8月21日
カンザス州立大学が考案した抗体テストにより、犬が一生涯のうちに受ける狂犬病予防接種のトータル数を減らせる可能性が示されました。カンザス州立大学の狂犬病研究室が考案したのは、犬の血液中に含まれる狂犬病に対する抗体をチェックし、免疫力が保たれているかどうかを判断するというもの。免疫力の判断基準に関しては、今まで一致した意見が見られませんでしたが、同研究室は「力価0.5IU/ml」を基準にしてよいという見解を示しています。
この基準はいまだコンセンサスを得ていないものの、今後の調査で正当性があると判断された暁には、予防接種を抗体テストに置き換えることで、犬が一生涯で受ける狂犬病予防注射の総数を減らせる可能性があります。 KSU 現在日本では、狂犬病予防法により年一回の予防接種が義務付けられています。しかしワクチンの副作用がゼロというわけではなく、また「年1回」という頻度に関しても、明確なエビデンスが示されていないのが現状です。もし日本国内で抗体テストが認可された場合、無駄な予防注射を削減したり、ワクチンに起因する副作用の件数を減らせる事は間違いないでしょう。ただし抗体テストにはそれなりの費用がかかりますので、飼い主の側の金銭的負担が減るというわけではありません。
8月20日
イタリアの動物保護施設で行われた実験により、収容された成犬にあらかじめ簡単なトレーニングを施しておくと、譲渡率が劇的に高まることが明らかになりました。1991年に施行された法律「No. 281/1991」により、動物の殺処分が原則禁止となったイタリアにおいて、譲渡される動物よりも収容される動物の方が多く、動物保護施設があっという間にパンク状態に陥るという問題は、かねてからの懸案でした。この問題を解決するために考案されたのが、主に成犬の譲渡率を高めることを目的とした「RandAgiamo」(ランダジャーモ)というプロトコルです。具体的な内容は以下。
RandAgiamo
- 基礎トレーニング名前を呼ばれたらくる/首輪やハーネスに抵抗を示さない/アイコンタクトができる/リード付きで散歩ができる/人慣れしている/お座り・伏せ・待てが出来る/
- 告知活動新聞への記事投稿/ローカルメディア出演/イベントへの参加/FacebookをはじめとしたSNS
- アフターケア譲渡後に発生した問題にスタッフが対応してくれる
この高い譲渡率の原因に関して実験を主導したチームは、事前のトレーニングにより、遺棄の原因になりやすい「過活動性」、「無駄吠え」、「破壊行動」、「制御不能性」、「脱走癖」といった要素が払拭されていた点が最も大きいとしています。今後の課題は、プロトコルを実践するスタッフ(獣医師・トレーナー・ボランティアetc)の確保と、全国規模に押し広げた時の費用対効果を正確に算出することだといいます。 RandAgiamo
8月19日
北アメリカ大陸で発掘された太古の骨格標本を調べたところ、かつてのイヌ科動物は、まるで猫のように前足を自由にねじることができたらしいことが明らかになりました。当研究を行ったイギリス・ブリストル大学のクリスティン・ジャニスさんを中心としたチームは、アメリカ自然史博物館に保存されている、4,000万年前~2,000万年前に属する32種類のイヌ科動物の骨格標本を調査しました。その結果、原始期の犬の肘関節は、現代の猫のように前腕をねじる「回外・回内運動」を自由に行うことができた可能性が浮上してきたと言います。
現代のイヌ科動物が前腕の回外・回内能力を失ってしまった理由として研究チームが挙げているのは、「狩猟の方法が従来の待ち伏せ型から追跡型に変化した」という点。4,000万年前~2,000万年前の間、待ち伏せに適した森林地帯が大陸から徐々に目減りしていったため、仕方なく肘関節の可動性を犠牲にして耐久力を高め、長距離の走行に耐えるような骨格を発達させてきたのではないか、というのが研究チームの推理です。同チームはまた、イヌ科動物でよく発達している犬歯は、失われた前足の武器としての側面を補うものだとも推測しています。 PSYS.ORG
8月18日
甲状腺機能低下症を発症しやすい3つの犬種を対象とした遺伝子調査により、この疾病の発現に関係があると思われる3つの遺伝子が特定されました。調査を行ったのはイギリス、スイス、スウェーデンなど複数の国から成る共同チーム。甲状腺機能低下症を発症しやすいことでは知られるのゴードンセッター、ホウハバート、ローデシアンリッジバックの細胞を用い、遺伝子検査を行いました。その結果、従来は全く無関係と考えられていた、第12染色体上の「LHFPL5」、「SRPK1」、「SLC26A8」という3つの遺伝子が、当疾病の発症に関係がある可能性が浮かび上がってきたといいます。
今回新たに見出された知見は、病気の事前スクリーニング、繁殖プログラムからの除外基準、遺伝子治療などに応用される予定です。また人医学領域における甲状腺機能低下症の病因データとしても利用されるとのこと。 PLOS ONE
8月17日
北アメリカ大陸で発見された2000を超える化石の調査から、古代のネコ科動物が40種類近いイヌ科動物を絶滅に追いやったという可能性が浮かび上がってきました。調査を行ったのはスイス・ローザンヌ大学やスウェーデン・ヨーテボリ大学などを中心とした合同チーム。北アメリカ大陸における生物多様性を明確化するため、イヌ科動物のものと思われる2000以上の化石をさまざまな側面から精査しました。その結果、イヌ科動物は4000万年前に北アメリカ大陸で生まれ、2200万年前には30種類を超える繁栄を誇っていたものの、なぜか1500万年前頃から「ボーンクラッシングドッグ」と呼ばれる種が顕著に減り始め、200万年前には大陸から完全に消滅してしまったといいます。この絶滅の原因として研究者たちが目をつけたのが、およそ1850万年前にアジア大陸からやってきたネコ科動物(プセウダエルルス)です。明確な証拠は無いものの、「ボーンクラッシングドッグ」とアジアからやってきたネコ科動物は共に待ち伏せ型のハンティングを得意としており、また同じ種類の動物を獲物としていたため、やがて両者の間で資源をめぐる生存競争が起こり、ハンティングに長けていたネコ科動物が最終的に生き残ったものと推測されています。この正存競争の結果、60を超える亜種が存在していた「ボーンクラッシングドッグ」のうち、少なくとも40種が絶滅に追いやられたとも。
論文の著者であるローザンヌ大学のダニエル・シルベスト博士は、ネコ科動物を優位に立たせた要因の一つは「出し入れ可能なかぎづめ」ではないかと推測しています。移動する際の摩耗がない分、ネコ科動物の狩猟成功率が高くなり、これが生存につながったのかもしれないとのこと。 PNAS MailOnline
8月13日
ポルトガルの首都リスボンで行われた調査により、汚染された土壌を含むドッグランが、犬と人間双方に対する寄生虫感染の温床になりうることが明らかになりました。当調査を行ったのはリスボン大学の獣医学部。リスボン市内にある3つのドッグランから、18の土壌サンプルと369の糞便サンプルを採取し、中に含まれる寄生虫卵の種類と割合を精査しました。その結果、33%の糞便は何かしらの寄生虫卵によって汚染されていたといいます。代表的なものは以下。
糞便中の寄生虫卵
- 鉤虫=17%
- クリプトスポリジウム=12%
- ジアルジア=11%
- イヌ小回虫=1%
- クリストイソスポラ=1%
- 回虫(トキソカラ)=0.5%
- 肉胞子虫=0.3%
犬の生活環境
- 過去半年間で虫下し治療受けた=90%
- 理想とされる年4回の虫下しを受けた=28%
- 他の犬と同居している=26%
- ドッグランを毎日訪れる=50%
- ランの中で自由行動を許されている=75%
- 飼い主の顔を舐める=75%
- ベッドルームに入る=82%
- 飼い主と一緒の布団で寝る=43%
8月11日
イングリッシュコッカースパニエルにおける「逆まつ毛」(重生まつげ)の発症頻度を調査したところ、およそ半数の個体がこの病気に罹患していることが明らかになりました。デンマークのコペンハーゲン大学が地元の動物病院と協働し、2004~2013年の間、診察に訪れた799頭のイングリッシュコッカースパニエルを調査したところ、およそ半数に当たる49.31%もの個体が、「逆まつ毛」に罹患していることが明らかになったといいます。「逆まつ毛」(重生まつげ)とは、上まぶたのヘリから内側に向かってまつげが生え、眼球を刺激して炎症や流涙を引き起こすという眼科系の病気です。またこの病気の発症率はメスの方がやや高く、片方の親が罹患している場合、生まれてきた子犬の発症率が1.3倍に、両親が罹患しているときの発症率が1.8倍にまで高まるとも。
こうした結果から研究チームは、イングリッシュコッカースパニエル特有の遺伝病と言っても良いこの「逆まつ毛」(重生まつげ)を撲滅するためには、繁殖プールの中から罹患犬を除外していくことが重要だとしています。 Prevalence and heritability of distichiasis in the English Cocker spaniel
8月10日
嗅覚を用いてガン細胞の有無を判別出来る「ガン探知犬」の実用化に向けた大規模な実験が開始されました。「ガン探知犬」は、患者の呼気や尿といった排出物のにおいを嗅ぎ、未知の成分を検知してガンの有無を判別する犬。イギリスの慈善団体「Medical Detection Dogs」と「Milton Keynes Hospital」が現在取り組んでいるのは、ガン探知犬を用いて前立腺ガン、膀胱ガン、腎臓ガンといった泌尿生殖器系のガンを早期発見しようという試みです。その準備段階として、6頭のラブラドールレトリバーを含む9頭の犬を選別し、およそ3,000に及ぶサンプルの中から、健常者のものとガン患者のものを嗅覚だけを頼りに弁別させるという実験が進行中だといいます。
従来、前立腺ガンの検知には「PSA」という方法が用いられてきましたが、その信頼度は20%程度とかなり低い値にとどまっているとのこと。これに対してガン探知犬は、予備試験の段階で93%という驚異的な正答率をはじき出しているといいます。
このまま探知犬の実験が進行し、嗅覚による弁別が従来の方法よりも十分信頼できると判断された暁には、3年以内にイギリス国内の2病院において、実際にガン探知犬が配備される予定になっています。 Dogs that sniff out prostate cancer
8月5日
脳の活動をリアルタイムで観察できるfMRIを用いた実験により、犬の脳内には人間の顔を認識するための専用区画があることが明らかになりました。実験を行ったのはエモリー大学のグレゴリー・バーンズ教授らを中心としたチーム。MRI装置の中で最低30秒間静止状態を保つよう訓練された6頭の犬を用い、「日常に溢れている物品」と「人間の顔」それぞれに対する脳内のリアクションを観察しました。その結果、側頭葉の一部に人間や犬の顔に対して特異的に反応する区画が発見されたといいます。またこの区画の活性化は、報酬系(期待やワクワク感を抱いた時に発火する部位)の活性化を伴わないことから、「人間の顔とご褒美」といった具合に、後天的な学習の結果として形成された訳ではないとも。
こうした事実から研究者たちは、人間や霊長類の脳内で確認されている、顔の認識に特化した専用区画「FFA」(Fusiform Face Area)に近いものが、犬の脳内にも生まれつき備わっているという可能性を示しました。「DFA」(Dog Face Area)と名づけられたこの区画は、犬と人間とが長い間一緒に暮らしてきた結果、自然に発達したものと推測されています。 peerJ