ガン探知犬とは何か?
そもそもガンは悪性腫瘍(あくせいしゅよう)とも呼ばれ、血液やリンパ管を通じて全身に転移し、転移した先の臓器を不全に陥れる恐ろしい病気です。かつては不治の病と呼ばれていましたが、転移する前の初期段階で発見・治療できれば、その後の生存率が劇的に高まることがわかっています。そしてこのガンが発する匂いを嗅ぎ分けるのが、ガン探知犬です。
ガン患者の何を嗅ぎ取っているのか?
現在、患者の生存率を大きく左右するガンの早期発見に、ガン探知犬が役立ちそうだ、という研究結果が世界中から集まりだしています。肺ガンや乳ガン、卵巣ガンや膀胱ガンなど様々なガンに関する実験が行われましたが、全てに共通しているのは、ガン患者の体内で生成される何らかの化学物質を犬が嗅ぎ分けているという点です。残念ながら現段階では、この「何らかの化学物質」を特定するまでには至っていません。しかしもしその正体を突き止めることができれば、近い将来、犬の嗅覚を機械的に再現した「人工嗅覚」を実現し、各病院に設置することも可能となるでしょう。そしてこの「人工嗅覚」によってガンの早期発見が一般的なものになれば、「犬が人類全体の平均寿命を延ばした」ということになります。なぜなら、そもそも「ガン患者を臭いで識別することが可能」ということを立証し、人工嗅覚の研究開発にヒントを与えてくれたのは犬だからです。
日本初のガン探知犬
2017年、山形県金山町は全国で初めてガン検診に探知犬を導入しました。内容は、市民から検体として提出された尿を探知犬がクンクンと嗅ぎ、ガンを発症しているかどうかを大まかに嗅ぎ分けるというものです。
検診に同意した922人を調べたところ、男性4人+女性14人の合計18人(41~81歳)でガンの疑いがあると判断されました。このうち、精密検査で実際にガンと診断されたのが1人、残りの17人は経過観察となりました。一方、探知犬が陰性、すなわち「ガンの疑いはない」と判断した人のうち、6人でガンが見つかったとも。
事前のテストではほぼ100%に近い精度でガンの判別ができていましたが、実際の検診ではやや落ちるという傾向があるようです。この現象に関し、探知犬の訓練を行った日本医科大・千葉北総病院のがん診療センター長である宮下正夫教授は「検体数が多すぎて犬への負担が大きかった」「陽性の有無がわからない状態で弁別するのに戸惑った」のではないかと推測しています。 日本私立大学協会
事前のテストではほぼ100%に近い精度でガンの判別ができていましたが、実際の検診ではやや落ちるという傾向があるようです。この現象に関し、探知犬の訓練を行った日本医科大・千葉北総病院のがん診療センター長である宮下正夫教授は「検体数が多すぎて犬への負担が大きかった」「陽性の有無がわからない状態で弁別するのに戸惑った」のではないかと推測しています。 日本私立大学協会
基本用語の解説
夢のような話でにわかには信じられないという人のために、以下では世界中で報告されている「犬がガンを嗅ぎ分けた!」というエピソード、および犬の嗅覚とガン探知能力とを科学的に実証した実験結果をご紹介していきます。出典となる文献リンクは、すべて別ウィンドウで開きます。また、文中でたびたび登場する専門用語は以下です。
専門用語集
- VOCsVOCsとは、揮発性有機化合物(きはつせいゆうきかごうぶつ, volatile organic compounds)のことで、ガン患者の体内で生成されると考えられているもの。犬が嗅ぎ取っているのはこのVOCsだと推定されている。
- 二重盲検二重盲検(にじゅうもうけん)とは、テストを受ける側も行う側も答えを知らない状態で行う検査のこと。テストを行う側が答えを知っている場合しぐさや態度の微妙な変化から被験者に答えが伝わってしまうことがあるため、この可能性を排除したいときに用いる。
- バイオマーカーバイオマーカーとは、生体内で生成され、病気などの特徴となる何らかの化学物質のこと。
- ガスクロマトグラフィーガスクロマトグラフィーとは、気化しやすい化合物の同定・定量に用いられる精密分析機器。
皮膚ガンを探知する犬
皮膚ガン(ひふガン)は、皮膚に生じたガン組織の総称です。皮膚の表面に加わる紫外線や化学物質などによる過剰な刺激により皮膚組織がガン化しやすいといわれています。皮膚の中でメラニン色素を精製するメラノサイトと呼ばれる細胞がガン化したものが、メラノーマ(悪性黒色腫)です。
1989年・皮膚ガンを嗅ぎ分けた最初の例
「犬がガンを嗅ぎわけることができるかもしれない」という仮説は、ロンドンの二人の皮膚科学者H. WilliamsとA. Pembroke両氏がイギリスで権威のある医学雑誌「The Lancet」に送った一通の手紙から始まりました(→Sniffer dogs in the melanoma clinic? / Lancet 1989)。この手紙の中では皮膚ガンを嗅ぎ分けた犬の例が記されています。
とある女性の飼っていたボーダーコリーとドーベルマンピンシャーのミックス犬は、女性のすね上部にできたほくろのにおいをしきりに嗅ぎ、スカートやズボンをはいていてもしつこく絡んできた。夏のある日、女性がショートパンツで庭仕事をしようとしていると、犬が彼女に飛び掛り、そのほくろを噛みちぎろうとする。犬の態度にショックを受けながらも、「犬がなぜかすねのほくろにだけ異常に執着する」という点を奇妙に思った彼女は、病院を受診。結果、厚さ1.86mmの皮膚ガン(悪性メラノーマ)が発見され、ただちに手術を受けて一命を取り留めた。
2001年・「The Lancet」内の報告
イギリスで開業医を営むJohn Church医師とHywel Williams医師は2001年、医学雑誌「The Lancet」に以下のようなケースを報告しています(→出典)。
アメリカ・フロリダ州の皮膚科学者・Armand Cognetta氏は、33年の職歴を持つ引退した警察犬訓練士と協同し、ガン探知犬の育成に取り掛かった。麻薬探知犬を育成するときの伝統的な訓練法にのっとり、シュナウザーのGeorgeをトレーニングしたところ、テストとしてかがせた複数のほくろのうち、一つが悪性であることを嗅ぎ分けることができた。
とある66歳の男性は、太ももの外側に湿疹があったが、日常生活には支障がないので放置したところ18年かけて直径約2センチほどに成長した。空気が乾燥するとガサガサになってかゆみを伴うようになったため、ステロイドや抗真菌薬などを患部に塗って対症療法を施していた。1994年、パーカーという名のラブラドールレトリバーが彼の家にペットとしてやって来たが、しばらくするとズボンの外側からしきりに飼い主の太ももを気にするようになる。2000年9月、いよいよいぶかしく思った飼い主の男性はかかりつけの医者に診察してもらい、組織学的検査を受けた。すると、それはガン腫であることが判明。ただちに患部を切除すると、パーカーは以後その部分をまったく気にしなくなった。
2008年11月・BBC Newsの報道
2008年11月、イギリスのBBC Newsでは「Dog 'sniffs out' owner's cancer」(犬には飼い主のガンがわかる)というタイトルで以下のような出来事を紹介しました(→出典)。
イギリスのオックスフォードシャー州・バンバリーに暮らすChris Tuffrey氏は、15年間前から急に現れた胸部のほくろを「大したことない」としてずっとうっちゃらかしてきた。ところが彼のペットであるロットワイラーのBeamishが、ある日突然鼻を擦り付けたりなめたりし、彼の腕をほくろの近くに引き寄せるなどの行動をとるようになる。不思議に思ったTuffrey氏が地元の病院を受診したところ、ただちにオックスフォードチャーチル病院へと回された。検査を受けて2週間ほどし「皮膚ガンの一種メラノーマが発見された」と病院から宣告されたTuffrey氏は、ただちにほくろを切除し、一命を取り留めることができた。
肺ガンを探知する犬
肺ガンとは肺に発生するガンの総称で、90%以上が気管・気管支、細気管支あるいは末梢肺で発生します。世界中で年間130万人ほどがこの疾患で死亡していますが、これは全ガン死者数の約17%を占め、死因の第一位です。検査で肺ガンが発見されたときにはすでに手遅れであることが多いため、早期発見が重要視されるガンの一つと言えます。
2006年・Pine Street Foundationの報告
「Pine Street Foundation」では、普通の飼い犬に肺ガンと乳ガンの患者の呼気を健常人の呼気と区別する訓練を行い、ガンの早期発見には、犬の嗅覚が有効であるという結論を得ました(→出典)。
またアメリカガン協会(American Cancer Society)の医学情報顧問を務めるTed Gansler医師は、「一層の研究と有効性の確認が必要だ」という条件付ながらも、「Pine Street Foundationの論文に方法論的な誤りはなく、生物学的には十分ありうることだ」と認めています(→出典)。
McCulloch氏らは、肺ガン患者と乳ガン患者の呼気には、健常人とは違う何らかの揮発性有機化合物(VOC, volatile organic compounds)が含まれているという研究報告に着想を得て、「嗅覚の鋭い犬なら、ひょっとしたらガスクロマトグラフィー法を用いなくてもガン患者特有の呼気を弁別できるのではないか?」と考えた。そこで同氏らは、とりわけ嗅覚が鋭いわけではない普通の犬の代表として、盲導犬候補犬だったラブラドールレトリバー3頭と、一般家庭から協力してもらったポーチュギーズ・ウォーター・ドッグを用いた試験を開始。試験に用いる呼気サンプルは、肺ガン患者55人、乳ガン患者31人、健常人83人からおのおの4~18本ほど集められ、実際の試験に際しては二重盲検法が採用された。2~3週間の訓練期間を経て、5つのサンプル中に1つだけ含まれるガン患者の呼気をかぎ当てるというテストに臨んだところ、なんと肺ガン検出の正解率が99%、そしてガンの種類を弁別するテストにおいては99%という結果を得た。なお犬の個体による正解率に差はなかった。これらの結果から、「ガンの種類によって呼気に含まれる未知の揮発性物質が変わること」、および「嗅覚が特別優れているわけではない犬でも、2~3週間訓練すればガンを嗅ぎ分けることができるようになる可能性を秘めていること」、そして「犬の嗅覚がガンの早期発見に際し、確かに有効であること」、などが明らかになりました。
またアメリカガン協会(American Cancer Society)の医学情報顧問を務めるTed Gansler医師は、「一層の研究と有効性の確認が必要だ」という条件付ながらも、「Pine Street Foundationの論文に方法論的な誤りはなく、生物学的には十分ありうることだ」と認めています(→出典)。
- 賢いハンス現象
- テストを行う人物が答えを知っている場合、本人すら意識していないしぐさや表情を通じて、被験者に答えが伝わってしまうことを賢いハンス現象といいますが、これは19世紀末から20世紀初頭のドイツで話題になった「ハンス」という名の馬に由来しています。
ハンスは簡単な数字の問題に対する答えを、ヒヅメで地面をたたいて解答することで非常に話題になりました。しかし後の検証によると、観客や飼い主、出題者、その場に居合わせた人の微妙な振る舞いから、問題に対する答えを導き出していたことが解明されています。
犬の嗅覚テストにおいてもこの「賢いハンス現象」があったのではないかという一部識者の反論を受け、McCulloch氏はPine Street Foundationの「よくある質問」コーナーにおいて「化学療法を受けている患者のサンプルは除外しており、喫煙者はガン患者と健常者の両方に均等に混じっている。またサンプルの呼気は同じ日に同じ部屋で採取されたものであり、二重盲検法を採用してどのサンプルがガン患者のものかを知っている人物は、犬がいる部屋には立ち入らせなかった」と回答し、犬のテスト中は同現象が起こるような状況ではなかったとしています。 Pine Street Foundation
2011年・E.R.Jの記事
2011年8月、「European Respiratory Journal」(欧州呼吸器ジャーナル)に、ドイツにあるSchillerhoehe病院でThorsten Walles氏が中心となって行った実験結果が掲載されました(→出典)。結果は、犬は患者の呼気を嗅ぐことで、初期段階にある肺ガンを識別できるというものです。
実験には肺ガン患者60人、COPD(慢性閉塞性肺疾患)患者50人、健常者110人からなる合計220人のボランティア、および特殊な訓練を受けた犬4匹(ジャーマンシェパード2頭・オーストラリアンシェパード・ラブラドールレトリバー)が参加。複数回のテストを行ったところ、肺ガン患者の呼気100サンプルのうち71サンプル(71%)、肺ガンを患っていない人の呼気400サンプルのうち372サンプル(93%)において正解を出すという極めて優秀な成績を残した。また、COPD患者や喫煙者の呼気と肺ガン患者の呼気を弁別することもできた。この実験結果からWalles氏は、「食事内容やタバコのにおい、あるいはCOPDの存在下でも影響を受けない何らかのバイオマーカーがあるはず」と考え、今後はそのバイオマーカーを特定することが重要であると語っています(→出典)。
- ガンテストキット
- 2007年、「犬が肺ガン患者を嗅ぎ分けることができる」という点に着目し、患者の呼気からガンの有無を判別できる安価なテストキットを開発したアメリカの科学者がいます。
このテストキットは2.5cmほどの大きさで、縦6×横6で合計36個の色が付いており、肺ガン患者の呼気に含まれていると考えられる揮発性有機化合物(VOCs)に反応し、色が変わるという仕組みです。
Peter Mazzone医師らによる実験では、肺ガン患者49名、ガン以外の肺疾患を抱えた患者52名、健常者21の計122名がテストキットを使用したところ、なんと75%の確率で肺ガン患者を検知できたとのこと。このテストキットは、ガス・クロマトグラフィーやマス・スペクトロスコピーといった大掛かりな機器を用いなくてもできる簡易テストとして注目されています。Lung cancer 'colour breath test'
前立腺ガンを探知する犬
前立腺(ぜんりつせん)は、男性のみに存在する生殖器官の一つです。クルミほどの大きさで膀胱の真下にあり、尿道を取り囲むかたちで存在しています。前立腺ガンは、日本でのガン死亡者の約3.5%を占めると言われています。
2011年・パリTenon病院の研究
パリのTenon病院のJean-Nicholas Cornu氏たちは患者の尿から前立腺ガンを探知しようと、犬を使った実験を試みました(→出典)。
実験に用いられたのは、前立腺ガン患者33名の尿とガンを患っていない33名の尿、および24ヶ月の特殊訓練を受けたベルジアンマリノア。6つの尿サンプルの中に1つだけ含まれるガン患者の尿を選ぶというテストを、二重盲検法の元11セット行った。結果、ガン患者33例中30例を的中(陽性的中率91%)、および非ガン患者33例中全数を的中(陰性的中率100%)という数値を得た。
乳ガンを探知する犬
乳ガンとは乳房に発生するガンであり、生涯で乳ガンにかかる確率は、欧米で8~10人に1人(10~12.5%)であるのに対し、日本人女性の場合25人~30人に1人(3.3~4%)であると言われています。 乳ガン女性患者のおよそ20%が死亡することから、早期発見が重要な疾患の一つです。
2006年・P.S.F.の研究
アメリカでガン患者に対する教育や情報提供、臨床試験、メタ分析などを行っている「Pine Street Foundation」に所属するMichael McCulloch, Tadeusz Jezierski, Michael Broffman氏らは、普通の飼い犬に、肺ガンと乳ガンの患者の呼気を健常人の呼気と区別する訓練を行い、ガンの早期発見には、犬の嗅覚が有効であるという結論を得ました(→出典)。
McCulloch氏らは、普通の犬の代表として、盲導犬候補犬だったラブラドールレトリバー3頭と、一般家庭から協力してもらったポーチュギーズ・ウォーター・ドッグを用いた試験を始めた。試験に用いる呼気サンプルは、肺ガン患者55人、乳ガン患者31人、健常人83人からおのおの4~18本ほど集められ、実際の試験に際しては二重盲検法が採用さた。2~3週間の訓練期間を経て、5つのサンプル中に1つだけ含まれるガン患者の呼気をかぎ当てるというテストに臨んだところ、なんと乳ガン患者の正解率が88%、そしてガンの種類を弁別するテストにおいては98%という結果を得た。なお犬の個体による正解率に差は見られなかった。これらの結果から、「ガンの種類によって呼気に含まれる未知の揮発性物質が変わること」、および「嗅覚が特別優れているわけではない犬でも、2~3週間訓練すればガンを嗅ぎ分けることができるようになる可能性を秘めていること」、そして「犬の嗅覚がガンの早期発見に際し、確かに有効であること」、などが明らかになりました。
2011年・abcNewsの報道
アメリカのabcNEWSでは2011年4月、乳ガンを嗅ぎ分けた犬の話題が報道されています(→出典)。
2008年、イギリスに住むCarol Witcherさんは8歳になるボクサー犬、Floyd Henryと暮らしてた。ある日Floyd Henryは、Carolさんの右の乳房に鼻を押し付けてしきりにくんくんと臭いをかぎ始める。時にはCarolさんの目を見つめて何かを訴えた後、足で右の乳房を引っかくようなしぐさまで見せたとか。そうした奇妙な行動が4日間も続いたため、奇妙に思ったCarolさんが病院で検査を受けると、ステージ3の乳ガンが見つかった。彼女はすぐに化学療法と放射線療法を受け、一命を取り留めた。治療の甲斐あって、その後2年間ガンは再発しなかったそうですが、Carolさんは「生後7ヶ月の頃、シェルターから引き取って彼の命を救いましたが、今回は逆に彼が私の命を救ってくれたようです」と語っています。
2012年・読売新聞の記事
2012年4月、読売新聞ではガン探知犬マリーンの話題が紹介されています。
ガン特有のにおいを嗅ぎ分ける訓練を受けた「ガン探知犬」が、子宮ガンなど婦人科ガンをほぼ確実に判別できることを、日本医科大学千葉北総病院の宮下正夫教授らが確認した。実験に参加したのは、千葉県南房総市内の専門施設で訓練を受けた雌のラブラドルレトリバー「マリーン」(10歳)。マリーンは既に大腸ガン判別で成果を出しており、乳ガンや胃ガンについても現在実証実験が進行中とのこと。実験を担当した宮下教授は「自覚症状がない早期ガンでも嗅ぎ分けられる。犬が感じているにおい物質を特定し、早期発見の技術につなげたい」と話しています。
今回のテストでは婦人科系の疾病である子宮頸ガンや卵巣ガンなど5種類のガン患者43人の尿を用い、マリーンはすべてガンと判定。子宮筋腫など、ガン以外の婦人科疾患29人の患者の尿では、1人分を誤ってガンと判定したほかは、すべて正解した。
- ガン探知犬「マリーン」
- 日本でもっとも有名なガン探知犬「マリーン」は、セントシュガー ガン探知犬育成センターで訓練された黒のラブラドールレトリバーです。 RichFieldKawabataという犬舎にいたロイとラスカルから生まれ、元々は捜索救助犬として訓練されていました。マリーンは子宮摘発手術を受けているため分娩によって子孫を残せないことから2008年、韓国・ソウル大学の協力によってマリーンの皮膚を培養し、採取したDNAからクローン犬4匹を誕生させたという逸話もあります。 その際、生まれたクローン犬1匹についた値段は5200万円以上だったとか(→出典)。
卵巣ガンを探知する犬
卵巣(らんそう)は女性の子宮両わきに1つずつある生殖器官で、大きさは親指程度、形は楕円形です。 卵巣の表面を覆っている上皮組織(じょうひそしき)にガン細胞が発生したものを特に上皮性卵巣ガンと呼びます。卵巣ガンの罹患率は40歳代から増加し、50歳代前半でピークを迎えます。
P.S.F.の研究報告
「Pine Street Foundation」がメーン大学・化学部の準教授Touradj Solouki氏とともに行った実験では、犬は上皮性卵巣ガンを初期の段階で嗅ぎ分けることができるという結論に至りました。
通常、上皮性卵巣ガンはCA-125と呼ばれる血液検査と下腹部の超音波検査が行われるが、初期段階における鑑別診断は困難。そこでPine Street Foundationは犬たちを訓練し、上皮性卵巣ガン患者の呼気を嗅ぐことで病気に罹患(りかん)しているかどうかを弁別できるようにした。対照群と上皮性卵巣ガン患者の呼気を用いて二重盲検テストをしたところ、訓練を受けた犬たちは97%の精度で嗅ぎ分けることができた。一方、Touradj Solouki氏がメーン大学の研究室で、ガスクロマトグラフィーを用いた科学的な検証を行った結果、上皮卵巣ガン患者の呼気中には、どうやら患者特有のバイオマーカーが存在していることがわかった。これらの実験結果から、ガスクロマトグラフィーによる科学的なアプローチと、犬の嗅覚による生物的なアプローチをうまく組み合わせれば、上皮性卵巣ガンを初期段階で識別できる「ブレサライザー」(breathalyzer=breathとanalyzerを組み合わせた造語で、呼吸解析機)を作ることも夢ではない、と期待が寄せられています。
膀胱ガンを探知する犬
膀胱(ぼうこう)は下腹部にある尿をためる袋のような器官で、ここから発生するガンが「膀胱ガン」です。70歳台での発症が多く、発生率は男性が女性の3倍、国内における死亡数はガン死亡者数の中で男性が第11位、女性は第14位です。
2004年・Church医師の報告
イギリスの開業医・John Church医師は2004年、犬を用いて尿のにおいから膀胱ガンを予知するという実験に成功し、この偉業は「CBS 60 Minutes」を始め、イギリス国内における多くのメディアで取り上げられ、さらに医学誌「British Medical Journal」にも掲載されました(→出典)。
Church医師、およびCarolyn M. Willis博士の実験に参加したのは48~90歳の膀胱ガン患者36人と18歳~85歳の膀胱ガン以外の疾病を抱えた患者、および健常者の計108人。犬は訓練士であるClaire Guestさんの特訓を7ヶ月間受けた6匹(コッカースパニエル3頭、パピヨン、ラブラドールレトリバー、ミックス)。テストにおいては、7サンプルが同時に提示され、その中に1つだけ含まれるからガン患者の尿を選ぶというものだったが、結果は54回中22回の成功で、正解率は41%。まったくでたらめにサンプルを選んだ場合の理論的な正解率は14%(1/7)であることから、犬は何らかのヒントを手がかりに膀胱ガン患者の尿を嗅ぎ分け、44%という高い正解率を出したものと考えられます。また、乾燥尿を使って訓練された犬の正解率は22%と半減したことから、犬が嗅ぎ取っているのはガン患者の尿に含まれる何らかの揮発性物質であろうと推定されています。
大腸ガンを探知する犬
大腸は盲腸、結腸、直腸からなる器官で、小腸と肛門とを結ぶ重要な消化器官です。大腸に発生するガンが「大腸ガン」ですが、多くは60歳代から70歳代で発症し、国内における罹患率(りかんりつ)は肺ガンについで第2位となっています。
2011年・GUTの記事
九州大医学部第二外科の前原喜彦教授らのグループが、大腸ガンを非侵襲的(ひしんしゅうてき=体を傷つけない)な方法で早期発見することを目的に、大腸ガン患者の呼気などをかぎ分ける実証試験を行いました(→出典)。
実験に参加したのは福岡、佐賀県内の2病院で、消化管の内視鏡検査を受けた約300人と、千葉県南房総市のセントシュガー ガン探知犬育成センターが飼育しているラブラドールレトリバー(9歳・メス)のマリーン。300人から採取した呼気と便汁とを用い、大腸ガンと判明している患者の1検体と、ガンではなかった患者の4検体を一つのセットにして、1つの正解を見つけるよう探知犬に挑戦させた。結果、呼気では36セットのうち33セット(91.6%)、便汁では38セットのうち37セット(97.3%)という精度で「正解」をかぎ分けることに成功した。