犬の食道アカラシアの病態と症状
犬の食道アカラシアとは、口を胃を結ぶ食道の中で、食べ物が渋滞を起こしてしまった状態のことです。食道と胃の境界線に近い部分や、摂取した食べ物を胃へ送り込もうとする食道の「蠕動運動」(ぜんどううんどう)の障害を「アカラシア」といい、その結果として食道の内径が異常に大きくなってしまった状態を「巨大食道症」(Megaoesophagus)と呼び分けることもあります。
通常、食べ物が食道に入ると、表面を覆っている粘膜内のセンサーがその刺激を受け取り、迷走神経という神経を通して脳幹の嚥下中枢(えんげちゅうすう)に「食べ物が入ってきたぞ」という情報を送ります。そして情報を受け取った脳幹は逆に、「食べ物を胃に送り込め」という指令を迷走神経を通じて食道の横紋筋や平滑筋に出します。結果として生じるのが食道の蠕動運動です。食道アカラシアは、「食道~神経~脳幹~筋肉」という上記流れのどこかに障害が生じ、正常な蠕動運動ができなくなって発症します。
食道アカラシア、および巨大食道症の主な症状は以下です。先天的な異常が原因の場合は、母犬のお乳を飲んでいるときから発症します。
食道アカラシア、および巨大食道症の主な症状は以下です。先天的な異常が原因の場合は、母犬のお乳を飲んでいるときから発症します。
犬の食道アカラシアの主症状
- 吐出性嘔吐(飛ばすように吐く)
- 吸引性肺炎(食べ物が誤って気管から肺に入る)
- 肺炎に伴う呼吸困難・発熱・咳
犬の食道アカラシアの原因
犬の食道アカラシアの原因としては、主に以下のようなものが考えられます。予防できそうなものは飼い主の側であらかじめ原因を取り除いておきましょう。
犬の食道アカラシアの主な原因
- 食道そのものの病気 食道炎、食道の腫瘍、食道周辺の血管の病変など、食道そのものの病気が通過道を狭めることがあります。
- 他の病気の合併症 他の基礎疾患があり、その合併症として食道が巨大化することがあります。具体的には、筋肉の脱力が起こる重症筋無力症や多発性筋炎、アジソン病、破傷風などです。
- 犬種による遺伝的素因 好発品種は、ニューファンドランド、ラブラドールレトリバー、アイリッシュセッター、シャーペイ、パグ、グレーハウンド、ミニチュアシュナウザーやワイヤーフォックステリアなどです。
犬の食道アカラシアの治療
犬の食道アカラシアの治療法としては、主に以下のようなものがあります。
犬の食道アカラシアの主な治療法
- 基礎疾患の治療 別の疾病によって食道アカラシアが引き起こされている場合は、まずそれらの基礎疾患への治療が施されます。具体的には食道内の腫瘍を切除したり、血管の異常を外科的に修復するなどです。
- 対症療法 一般的に食道アカラシアは完治が難しい疾病(80%の犬が発症から1年半で死亡)ですので、疾患の原因を取り除くよりも、症状の軽減を目的とした治療が施されます。具体的には、食事中、頭が上を向くようにする、食後30分程度は頭が下がらないように気をつける、一度にたくさん食べさせないようにするなどです。
- 手術療法 食道の一部を切り取って短くしたり、食道を切開するという手術が施されることもあります。しかし一般的に、あまり大きな効果は期待できません。