犬の急性胃炎の病態と症状
犬の急性胃炎とは、胃の粘膜に突如として炎症が生じた状態のことです。慢性胃炎では症状が1週間以上続くのに対し、急性胃炎では通常1週間以内に収まります。
急性胃炎と似た症状を示すものとしては、のどや食道に引っかかったものをゲーゲーと吐き出す「吐出」(としゅつ)や、エサや水をうまく飲み込めずに口の端からこぼす「嚥下困難」(えんげこんなん)があります。これらの症状と急性胃炎を見分けるときのポイントは、おなかを大きく伸縮させながら胃の内容物を吐き出しているかどうかという点です。胃に炎症が起こっている場合は、横隔膜や腹筋を使って胃の中身を空にしようとします。
犬の急性胃炎の主な症状は以下です。自分の吐き出した胃酸で食道が傷つき、「逆流性食道炎」を発症することも少なくありません。
犬の急性胃炎の主な症状は以下です。自分の吐き出した胃酸で食道が傷つき、「逆流性食道炎」を発症することも少なくありません。
犬の急性胃炎の主症状
- よだれを垂らす
- 突然の反復性嘔吐
- 脱水症状
- 吐しゃ物の中に血
犬の急性胃炎の原因
犬の急性胃炎の原因としては、主に以下のようなものが考えられますが、摂取してはいけないものを口に入れることが最大の要因です。予防できそうなものは飼い主の側であらかじめ原因を取り除いておきましょう。
犬の急性胃炎の主な原因
- 誤飲誤食 急性胃炎の原因として最も多いのが、食べてはいけないものを食べてしまう誤飲や誤食です。具体的には、犬が食べてはいけない食物、毒物、植物などを摂取した可能性が考えられます。ゴミ箱に頭を突っ込んで中身を食べてしまうことは特に「ゴミ胃袋」(Garbage gut)と呼ばれ、コケ、カビ、菌類、生の食べ物、残り物、猫砂などあらゆるものが胃炎の原因になりえます。
- 寄生虫 大小さまざまな寄生虫が胃炎を引き起こすことがあります。具体的には、回虫、フィサロプテラ(胃虫)などです。
- 感染症 ウイルスや細菌の感染が胃炎を引き起こすことがあります。具体的にはジステンパーです。またコロナウイルスおよびパルボウイルスと共感染している場合のサーコウイルスも原因菌として報告されています。ちなみに人間の胃疾患と関係が深いヘリコバクター菌に関しては、菌株に関わらず犬に対する病原性は確認されていません。
- 薬剤 ある種の薬が胃炎を引き起こすことがあります。具体的にはNSAIDs(非ステロイド性消炎鎮痛剤)や糖質コルチコイドなどです。
- 運動? ソリ犬や作業犬(麻薬探知犬・災害救助犬)においては作業中~作業後の急性胃炎や胃潰瘍が死因として報告されています。原因は解明されていませんが、長時間の運動による高体温が胃粘膜の急速な崩壊を引き起こすのではないかと推測されています。
- 一次疾患 何らかの一次疾患によって胃炎が二次的に引き起こされるケースがあります。例えば一昼夜食事を抜いた次の朝に現れやすい十二指腸胃逆流症(胆汁性嘔吐症)では、胆汁酸が胃粘膜の脂質を溶解してバリア機能を壊すことで胃炎が発症します。またガストリン産生腫瘍(ガストリノーマ)の場合、膵臓または十二指腸壁に発生した腫瘍が胃酸の過剰分泌を引き起こし、進行が速く治りにくい胃炎や胃潰瘍を引き起こします(ゾリンジャー-エリソン症候群)。
犬の急性胃炎の治療
犬の急性胃炎の治療法としては、主に以下のようなものがあります。多くは自然治癒しますが、症状が1週間以上続く場合は慢性胃炎へと移行します。
犬の急性胃炎の主な治療法
- 誤飲への対処 食べてはいけないものを食べてしまった場合は、犬が異物を飲み込んだ場合の処置がとられます。固形物の場合は催吐剤や内視鏡と鉗子(かんし=手術用の小さなマジックアーム)を用いた除去、液体の場合は胃洗浄や吸着剤の投与などです。
- 絶食・絶水 体力のある犬の場合、12時間の絶水と24時間の絶食を行って傷ついた胃を休めます。その後少量の水からスタートし、消化されやすい低脂肪、単一タンパク、単一炭水化物の食事が与えられます。
- 輸液 嘔吐によって失った体液を補うため、輸液が行われます。重症な場合は点滴が施されることもあります。
- 基礎疾患の治療 寄生虫や感染症などが胃炎を引き起こしている場合は、それらを体内から除去するような治療が施されます。