解説「階級意識が強い」
従来の犬のしつけ本では「犬の階級意識」という説が頻繁に取り上げれてきました。簡単に言うと、「犬は家族のメンバーを群れの構成員とみなしており、自分より下か上かを厳密に審査している」というものです。犬にも階級意識があることは確かです。しかし、犬や狼のいろいろな環境における生態を観察してみると、この説が正しくもあり、時に間違っていることもわかってきます。
犬の遠い祖先は狼ですが、限られた空間の中で飼育された狼には、明確な階級意識が芽生えるといいます。Zimen(1982)、Packard(985)、Ginsburg(1987)らの研究から明らかになった内容は以下のようなものです。
だとすると、狼の観察でも見られたように、犬にも強烈な階級意識があるはずです。しかし実際は、そうした階級意識が強く、いわゆる「アルファシンドローム」のような症状を見せる犬がいる一方、成長してもずっと子犬のままで、階級意識とは無縁のまま一生を過ごす犬もいます。 こうした事実を考え合わせると、今までしつけ本の中で幅を利かせてきた「犬の階級意識説」というものが、実は犬の生活環境や性格、飼い主のしつけ方によって大きく左右される流動的なものという側面が見えてくるでしょう。つまり冒頭で述べたように、正しくもあり、間違ってもいるわけです。より詳しくは犬のランキング意識にまとめてありますのでご参照ください。
飼育オオカミの生態
- オオカミの群れは、繁殖のための最も地位の高いオスとメスの1組のつがいと、自分たちが産んだ子獣たちから構成されている。
- アルファオスとアルファメスは、攻撃的行動を用いて残りの群れのオオカミの繁殖を邪魔する。
- 群れには、メス・オスそれぞれにランキング制度がある。
- 高位のオオカミ同士の間では、順位の差がきわめて明確。
- 中間階級の成獣や子獣の間では、ほとんど差がない。
- 最も年齢の高いオオカミが階級の頂点を占める傾向がある。
- アルファオスとアルファメスの間に支配関係はほとんどないか、あっても微弱なもの。
- アルファメスは繁殖期やその前になると、群れの中の他のメスに対して、明らかに高い攻撃性を示すようになる。
- アルファオスの場合、侵入者に対しては攻撃性が強くなるが、他の群れの仲間に対してはそれほど高い攻撃性を示さない。
- 序列第二位に位置するベータオスがアルファオスに対して直接攻撃的になるということはない。
- 地位の低い狼たちは、群れの内外いずれに対しても社交的な傾向が見受けられる。
だとすると、狼の観察でも見られたように、犬にも強烈な階級意識があるはずです。しかし実際は、そうした階級意識が強く、いわゆる「アルファシンドローム」のような症状を見せる犬がいる一方、成長してもずっと子犬のままで、階級意識とは無縁のまま一生を過ごす犬もいます。 こうした事実を考え合わせると、今までしつけ本の中で幅を利かせてきた「犬の階級意識説」というものが、実は犬の生活環境や性格、飼い主のしつけ方によって大きく左右される流動的なものという側面が見えてくるでしょう。つまり冒頭で述べたように、正しくもあり、間違ってもいるわけです。より詳しくは犬のランキング意識にまとめてありますのでご参照ください。
階級意識が強い・まとめ
- 飼育されている狼には強い階級意識がある
- 野生環境に暮らす狼には階級意識が見られない
- 現代のペット犬は、「飼育されている狼」に近い
- 階級意識が強い犬もいれば、そうでない犬もいる
- 犬の階級意識は絶対的なものではなく、環境・性格・しつけによって大きく左右されるかなり流動的なもの