解説「骨をしゃぶるのが好き」
犬用ビスケットやガムが骨の形をしていたり、アニメで骨をくわえた犬の姿が描かれるなど、犬と骨とは切っても切れない関係にあります。また欧米では「施しを与える」という意味合いの慣用句として「throw a bone to dog」(犬に骨を投げ与える)という表現があるくらいです。このように、ワンセットでイメージされるほど犬が骨好きである背景には、以下に述べるような理由が関係していると思われます。
まず第一の理由は、骨の表面に付いている肉のエキスがおいしいというものです。骨格筋が付着していた骨の表面には、靭帯や腱、筋膜といったタンパク質が薄い皮膜として残っていることがあります。鼻のよい犬からすると、こうしたわずかな痕跡でも、食欲をそそられるのには十分なのでしょう。人間でいうと、「カップアイスのふたをなめる」といった行為に近いでしょうか。
第二の理由は、歯に何かが当たるのが気持ちいいというものです。顎を動かす咀嚼筋(そしゃくきん)を使ってガジガジと骨をかじっていると、頭部や口腔内の血行が促進され、それ自体が気持ち良くなってくるのかもしれません。人間でいうとちょうど、「訳もなく鉛筆を噛む」ときの感覚です。
そして第三の理由は、骨髄のにおいに惹かれているというものです。骨髄(こつずい)とは骨の内部にある組織のことであり、「赤色骨髄」と「黄色骨髄」に大別されます。前者には血液を作り出す造血組織が多く含まれ、後者には脂肪(骨脂)が多く含まれています。こうした成分が発するにおいが、犬のもったいない精神に火をつけている可能性は十分あると思われます。人間でいうと、「味の薄くなったガムを延々と噛み続ける」心理に近いのかもしれません。
このように犬の目から見た骨には、人間にはわからないさまざまな魅力があるわけです。夢中で骨にむしゃぶりついている犬の姿が次第に一般化されていき、「犬=骨好き」という強固なイメージが作られたのだと考えられます。しかし犬にとっては残念なことに、近年「アメリカ食品医薬品局」(FDA)から、「口の中や消化管を傷つける」、「便秘になる」、「腹膜炎の危険性がある」といった観点から、犬に骨を与えることは望ましくないというお達しが出されてしまいました(→Bones Are Unsafe for Your Dog)。ですから犬たちには、骨と同じ感触を持った犬用ガムや、味付きのデンタル用品などで我慢してもらうことにしましょう。
骨をしゃぶるのが好き・まとめ
- 骨の表面に付いている肉のエキスがおいしい
- 歯に何かが当たるのが気持ちいい
- 骨髄のにおいに惹かれて
動画「骨をしゃぶるのが好き」
以下でご紹介するのは、犬が骨にしゃぶりついている姿をとらえた動画です。噛みちぎった骨の破片が、頬や舌の粘膜を傷つけたり、腸管や直腸に詰まってしまう危険性があるため、生の骨を犬に与えることはあまり望ましくありません。
ハイエナやタスマニアデビルは、その強靭な顎で獲物を骨ごと噛み砕き、肉と一緒に食べてしまいます。またユーラシア大陸南西部~アフリカ大陸北部に生息するヒゲワシは、空中から骨を落として砕き、小さくなった破片を丸呑みして栄養補給します。 そして犬の祖先であるオオカミもまた、主に肋骨など細い骨を噛み砕いて食べることが確認されています。しかし最も身近な骨好き動物といえば人間でしょう。人間は鳥や豚の骨を煮込んで骨髄を含めたうまみ成分を引き出し、「鶏がらスープ」や「とんこつスープ」として堪能します。
なお2021年に行われた最新の調査では、くちゃくちゃとものをかじること自体が何らかのメカニズムを通じて犬のストレス解消につながっている可能性が示されています。誤飲事故や怪我(歯の破折・ささくれが歯茎に刺さる etc)が起こりにくいおやつやおもちゃを選び、留守番させるときや来客時など、ストレスレベルが高まるタイミングでうまく与えてください。
ちなみに犬以外にも、骨が好きな動物はたくさんいます。たとえばなお2021年に行われた最新の調査では、くちゃくちゃとものをかじること自体が何らかのメカニズムを通じて犬のストレス解消につながっている可能性が示されています。誤飲事故や怪我(歯の破折・ささくれが歯茎に刺さる etc)が起こりにくいおやつやおもちゃを選び、留守番させるときや来客時など、ストレスレベルが高まるタイミングでうまく与えてください。