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犬向け線虫・コクシジウム駆除剤「プロコックス®」の効果と副作用

 犬の線虫(回虫・鉤虫・鞭虫)およびコクシジウム(イソスポラ属)の駆除を目的として販売されている「プロコックス®」。含まれている成分の効果から副作用までを論文と出典付きで詳しく解説します。

プロコックス®とは?

 「プロコックス®」はエモデプシド(emodepside)とトルトラズリル(toltrazuril)を有効成分とする犬向けの線虫(回虫・鉤虫・鞭虫)および原虫(コクシジウム)駆除薬。日本国内ではサスペンション(経口用懸濁液)が動物医薬品として認可されています。

エモデプシドの効果

 エモデプシドはシクロデプシペプチド系に属する駆虫薬の一種。線虫類の神経細胞と筋肉の接合部に作用し、ラトロフィリン受容体と結合して正常な電気信号の流れを乱すことで、生きていく上で欠かせない「咽頭ポンピング機能」を阻害します。その結果、線虫類は栄養素を取り込むことができなくなり、全身が麻痺して最終的には死に至ります。この成分の主な駆虫対象は犬回虫犬鉤虫犬鞭虫です。 線虫駆虫薬の一種エモデプシドの分子構造  ラットを対象とした調査では、経口摂取した場合の半減期が39~51時間、生物学的利用能は47~54%で、45~56%は代謝を受けないまま主として便を通じて体外に排出されるとされています。体内でもっとも多く分布するのは脂肪組織内です出典資料:EMA Factsheets)
 人間の皮膚を対象とした調査では、エモデプシドは投与量の0.21%しか皮膚バリアを通過しないことが確認されています。一方、ラットの皮膚を対象とした調査ではエモデプシドが8.56%通過するとされていますので、動物種によって皮膚の透過性は大きく違うようです。犬の皮膚は人間のものより薄いため、少なくとも人よりは多くの成分を経皮吸収すると考えられます。

エモデプシドの安全性・毒性

 線虫類に対して駆虫効果を発揮するエモデプシドに関しては、ラット、マウス、および投与対象動物である犬を対象とした多くの安全性(毒性・副作用)試験が行われています。文中の「NOEL」は何の影響も見られない最大投与量、「NOAEL」は有害反応が見られない最大投与量、「LOAEL」は有害反応が見られ始める最少投与量のことです出典資料:EMA Factsheets)
エモデプシドの毒性試験結果
  • 経口急性毒性ラットを対象とし体重1kg当たり2,000mg(エモデプシド2mgに相当)のプロコックス®を単回経口投与した結果、副作用や有害反応は見られず、体重や体内器官に変化は見られなかったとされています。
  • 経口亜急性毒性試験犬を対象としエモデプシドを体重1kg当たり1日0、5、10、20mgの割合で4週間に渡って経口投与した試験では、メス犬でのみ食事量の低下および体重増加の停滞が見られたものの死亡例はなかったと言います。オス犬の10mg以上グループでは嘔吐、振戦、運動失調の頻度が多くなり、メス犬の10mg以上グループでは振戦、運動失調、ふらつき、協調運動不全のほか、20mgでは健康指標の悪化が見られたそうです。この毒性試験から得られた犬におけるエモデプシドのNOAELは体重1kg当たり1日5mgです。
  • 生殖毒性ラットを対象としたエモデプシドの給餌試験では、300ppm超(エサ1kg中300mg)という高濃度で日常的に摂取した場合、母ラットの膵臓、副腎、肝臓、腎臓、骨異常、出産数減少が見られたほか、新生仔の体重増加停滞、協調運動不全、眼球の突出が確認されたといいます。複数の試験から導き出された参照値は以下です。
    ✓妊娠中のメスラットNOAEL:3.3~5.3mg
    ✓新生仔ラットNOEL:0.8mg
    ✓オスラットLOAEL:1.0mg
    ✓メスラットLOAEL:1.1mg
  • 胎仔毒性・催奇形性✓母ラットNOEL:2mg
    ✓母体胎子NOEL:0.5mg
    ✓母ウサギNOEL:5mg
    ✓母体胎子NOEL:5mg
  • 変異原性・遺伝毒性確認されていません。
  • 発がん性エモデプシドは変異原性を持たないことから、発がん性もないと考えられています。
  • 刺激性ウサギを対象とした調査で皮膚刺激性は確認されておらず、眼刺激性も弱いとされています。またモルモットを対象とした調査では皮膚感作性(アレルギー反応を引き起こしうる)は確認されていません。
  • 内分泌毒性ラットを対象とした調査では性ホルモン受容体とは反応しないものの、甲状腺ホルモンレベル(T3・T4・TSH)を上げると同時にメスではI型糖尿病に似た症状を引き起こす可能性が示唆されています。

トルトラズリルの効果

 トルトラズリルはトリアジントリオン派生物に属する抗コクシジウム剤の一種。アイメリア(ニワトリコクシジウム)やイソスポラ属(コクシジウムの一種)の核膜腔、ミトコンドリア、小胞体に作用を及ぼして呼吸やエネルギー産生を選択的に阻害すると同時に、オーシスト壁の形成を阻害することで、メロゴニー(分裂小体産生)やガメトゴニー(配偶子形成)などすべての寄生ステージに対して駆除効果を発揮します。 コクシジウム(イソスポラ属)駆除薬の一種トルトラズリルの分子構造  犬で多いコクシジウムは「Isospora canis」と「Isospora ohioensis complex」で、後者には形がよく似た「I.ohioensis」「I.burrowsiand」「I.neorivolta」が含まれます。ウマにおいては原虫性脳脊髄炎(EPM)の治療に用いられ、代謝産物であるポナズリルの一部(血清濃度の3.5%~4%)が血液脳関門を通過することが確認されていますので、MDR-1遺伝子に変異を抱えた犬種における使用は推奨されていません。具体的にはコリー(ラフ+スムース)、オーストラリアンシェパードシェットランドシープドッグ(シェルティ)などです。 フィラリア予防薬(イベルメクチン)中毒を引き起こすMDR1遺伝子の変異率調査

トルトラズリルの代謝

 トルトラズリルの代謝に関し、ラットを対象とした調査では体重1kg当たり1日20mgを単回経口投与した場合、オスでは8時間で血中最高濃度(25μg/mL)に達し半減期が23時間だったといいます。一方、メスでは24時間で血中最高濃度(36μg/mL)に達し半減期は75時間と、性別によってかなり開きがあることが確認されました。
 トルトラズリルは83~90%が168時間以内に体外に排出され、そのうち便中が84~96%、尿中が2~6%と大部分が消化管から排泄されるという特徴を有しています。また便中に排出されたトルトラズリルのうち、代謝を受けていないものが64.4~92.8%と大部分を占めている点も特徴です。なお代謝産物の代表格であるポナズリルは4.6~16.0%で、その他の代謝産物であるトルトラズリルスルホキシドは1%未満だったと報告されています。
 トルトラズリルの主な代謝経路はフェニレン部にあるメチル基のスルホ酸化およびヒドロキシル化が主なもので、体重1kg当たり1日30mgを経口投与されたラットにおいては、メスでのみトルトラズリルとその代謝産物の血清蓄積が確認されたそうです。
 人間の皮膚を対象とした調査では、トルトラズリルは0.34%しか皮膚バリアを通過しないことが確認されています。一方、ラットの皮膚を対象とした調査では5.84%が通過するとされていますので、動物種によって皮膚の透過性は大きく違うようです。犬の皮膚は人間のものより薄いため、少なくとも人よりは多くの成分を経皮吸収すると考えられます。

トルトラズリルの安全性・毒性

 コクシジウムに対して駆除効果を発揮するトルトラズリルに関しては、ラット、マウス、および投与対象動物である犬を対象とした多くの安全性(毒性・副作用)試験が行われています。文中の「NOEL」は何の影響も見られない最大投与量、「NOAEL」は有害反応が見られない最大投与量、「LOAEL」は有害反応が見られ始める最少投与量のことです出典資料:EMA Factsheets)
トルトラズリルの毒性試験結果
  • 経口急性毒性ラットを対象とし体重1kg当たり2,000mg(トルトラズリル40mg相当)のプロコックス®を単回経口投与した結果、副作用や有害反応は見られず、体重や体内器官に変化は見られなかったとされています。
  • 経口亜急性毒性犬を対象としてトルトラズリルを体重1kg当たり1日0、1.5、4.5、13.5mgの割合で3ヶ月に渡って経口投与した毒性試験では、最高濃度グループにおいて心臓重量の増加が見られたものの、その他の組織学的な変化や循環器系の異常は見られなかったといいます。この試験から得られた犬におけるトルトラズリルのNOELは体重1kg当たり1日1.5mgです。なおラットを対象として行われた代謝産物ポナズリルの13週間に渡る混餌試験では、食事量の減少、体重増加の停滞、血液検査値の変化といった副作用が見られたことから、NOELはエサベースでは1kg当たり150mg(150ppm)、体重ベースでは1kg当たり11.2~14.7mgと推計されています。
  • 生殖毒性ラットを対象とした調査で死産率の上昇が確認されたことから、LOELは体重1kg当たり1日0.3mgとされています。
  • 胎仔毒性・催奇形性ラットを対象とした調査により新生仔の長骨形成不全、胎児水症、口蓋裂、小眼球症のほか出産数の減少(母体内での死亡)が確認されたことから、母ラットにおけるNOELは体重1kg当たり1日3mg、胎子におけるNOELは10mgとされています。
  • 変異原性・遺伝毒性確認されていません。
  • 発がん性トルトラズリル未投与の対照グループと比較したときのリンパ肉腫の発症率に関し、オスのマウスでは2%と18%、メスのマウスでは22%と34%という増加傾向が見られたものの、過去に報告されている発症率の参照値内(0~33%)であるため、トルトラズリルが原因とはみなされませんでした。ラットを対象とした調査では、メスにおいて子宮内膜腺腫乳腺腫瘍や下垂体の過形成が確認されたことから、1mgで腫瘍のリスク、3mgで悪性腫瘍のリスクが高まるとされています。またこのリスクはホルモンバランスの乱れが原因で、ラット特有の現象ではないかと推測されています。
  • 刺激性ウサギを対象とした調査で皮膚刺激性や眼刺激性は確認されておらず、モルモットを対象とした調査で皮膚感作性(アレルギー反応を引き起こす)は確認されていません。
  • 内分泌毒性実験室レベルでは性ホルモン受容体とは反応しないため、生体内においても内分泌バランスを乱すことはないだろうとされています。

プロコックス®

 「プロコックス®」はエモデプシドとトルトラズリルを有効成分とする犬向けの線虫およびコクシジウム駆除製品。エモデプシドの駆虫対象は線虫類(犬回虫犬鉤虫犬鞭虫)、トルトラズリルの駆除対象はイソスポラ属(コクシジウム)という役割分担になっています。サスペンション(懸濁液)で、経口投与後はすみやかに消化管内に広がり、内部に生息している寄生虫に作用します。使用法は基本的に単回投与です。 【公式】プロコックス® プロコックス®の製品パッケージ

プロコックス®の使い方

  • いつから使える?使用条件は2週齢以降、体重は0.4kg(400g)以上とされています。
  • 使用頻度・期間は?基本的に単回投与です。ノミダニ駆除薬のように毎月定期的に投与するものではありませんが、2週間後の検査で駆除が確認されない場合は、最低2週間あけて最大5回までとされています。
  • 料金は?動物病院によって価格は変動しますので、詳しくはかかりつけの獣医さんにお問い合わせください。なお当製品は要指示薬ですので獣医師による診察と処方箋がないと使用できません
  • 使い方は? 使い捨てのシリンジ(注射器)を用いて口の中に直接投与し、嚥下させます。
  • 使用量は? 製品1mL中に含まれるエモデプシドの量は0.9mg、トルトラズリルの量は18mgです。エモデプシドの有効最低量は体重1kg当たり0.45mg、トルトラズリルのそれは9mgとされています。体重400~4,000gまで、200g増えるごとに投与量は0.1mLずつ増えていきます。例えば400g→0.2mL、1,000g→0.6mL、2,000g→1.1mL、3,000g→1.6mL、4,000g→2.0mLなどです。詳しくは公式サイトでご確認ください。
  • 使用上の注意は?使用する際の注意点は「用法(2週齢以降・400g以上)や用量を厳守すること」「獣医師の処方箋とともに与えること」「犬以外には使用しないこと」「使用期限が過ぎたものを使わない」などです。重度に衰弱した犬や重度の腎不全 or 肝不全を抱えている犬に投与する場合は十分気をつけるよう注意書きがされています。またMDR1遺伝子に変異を抱え、血液脳関門の透過性に異常を抱えた犬種に対する投与は「避けることが望ましい」と明記されています。

プロコックス®の効果

 以下は各種の内部寄生虫に対するプロコックス®(エモデプシド+トルトラズリル)の効果を検証した研究論文です。両方の同時寄生が確認されている場合には便利な虫下しですが、アメリカでは認可されておらず、日本国内における流通は2017年からとつい最近です。犬に対する安全性には未知の部分がありますので、販売後に現れるポストマーケットの副作用事例にはアンテナを張っておいたほうが良いでしょう。

コクシジウムの駆除効果

 バイエルの調査チームはコクシジウムに感染した生後3~5週齢の子犬を7~9頭からなる3つのグループに分け、1つは「前顕性期投与」(感染から2~4日)、1つは「顕性期投与」(便中にオーシストが排出されてから)、1つは「未治療」という違いをもたせて便中に排出されるオーシスト(接合子嚢)の数をカウントしました。投与されたトルトラズリルは最低必要量である体重1kg当たり9mgです。
 その結果、前顕性期に投与を受けたグループでは、コクシジウムの種類に関わらず投与から12日間、便中のオーシスト数が未投与グループと比較して90.2~100%減少したといいます。また顕性期に投与を受けたグループでは9日間、便中のオーシスト数が未投与グループと比較して91.5~100%減少したとも。投与を受けたグループでは下痢頻度の減少も合わせて確認されました。ちなみに調査に用いられたコクシジウムは「Isospora canis」と「I.ohioensis-complex」です出典資料:Altreuther, 2011)

線虫類の駆虫効果

 バイエルの調査チームは線虫が寄生した犬たちを8頭ずつからなる2つのグループに分け、一方にだけエモデプシド(体重1kg当たり0.45mg)を経口投与し、駆虫効果を比較検証しました。
 投与から5~7日後のタイミングで両グループにおける体内生存数をカウントしたところ、回虫(試験数9)に関しては成虫駆虫率が100%、未成熟体駆虫率が94.7~95.7%、L4幼体駆虫率が99.3%だったといいます。また鉤虫(試験数2)に関しては駆虫率が99.5~99.8%、鞭虫(試験数3)に関しては100%だったとも出典資料:Schimmel, 2011)

自然感染群における駆虫効果

 バイエルの調査チームは動物病院を受診した一般家庭に飼われているペット犬のうち、線虫類もしくはコクシジウムもしくはその両方への感染が確認された個体を対象とし、プロコックス®単回経口投与(体重1kg当たりエモデプシド0.45mg+トルトラズリル9mg)のフィールド調査を行いました。
 その結果、10日目に便を2回採取して調べた線虫類(回虫と鞭虫/66頭)への駆虫効果は100%だったといいます。また3→7→9日目のタイミングで便を合計3回採取して調べた顕性期コクシジウム(便中にオーシストあり/37頭)への駆除効果は100%、3→5→7日目のタイミングで便を合計3回採取して調べた前顕性期のコクシジウム(便中にオーシストなし/40頭)への駆除効果は98.7%だったとも出典資料:Altreuther, 2011)
動物医薬品データベースでは、犬用の要指示薬であるにも関わらず猫の副作用(死亡)事例が報告されています。犬以外の動物に使ったり、フィラリア薬の代わりに使うなど、オフラベル(適応外)使用の安全性は確認されていませんのでご注意ください。