トップ犬のしつけ方屋外で必要となるしつけ犬の待てのしつけ

犬の待てのしつけ

 待てとは、飼い主の指示に従って犬が動きを止め、許可が出るまでその場でじっとしている状態のことです。犬の望ましくない行動を抑えるときにしょっちゅう使うコマンドですので、全ての飼い主の必修科目と言えます。

待てのしつけの必要性

 「待て」とは、飼い主の指示に従って犬が動きを止め、許可が出るまでその場でじっとしている状態のことです。待てのしつけは犬の衝動的な行動を予防するというとても大きなメリットを持っています。犬の突発的な動きを予防するブレーキが「お座り」だとすると、「待て」はちょうどサイドブレーキと言えるでしょう。
 例えば散歩の途中、道の向こう側から見知らぬ犬がやってきて犬が興奮したとしましょう。そんな時、お座りの指示を出して犬をいったん座らせ、さらに待ての指示を出して体をロックしておけば、自分の犬が飛びついてトラブルに発展する可能性がぐんと低くなります。あるいは横断歩道で信号待ちをしているとき、お座りと同時に待ての指示を出しておけば、目の前を通り過ぎる自転車やオートバイに興奮して車道に飛び出してしまう可能性をかなり減らせるでしょう。 犬にとってお座りはブレーキ、待てはサイドブレーキ  また待てのしつけは、我慢を要求されるような他のしつけの予行演習になるというメリットもあわせ持っています。例えばご飯が目の前にあるのに我慢しなければならない「食事のしつけ」や飼い主のいない室内で孤独に過ごさなければならない「留守番のしつけ」などです。鼻の上にビスケットを乗せたまま我慢する「鼻パク」にも応用できるかもしれません。待てのしつけでじっとしている訓練を事前に積んでおくと、上記したようなしつけがスムーズに進んでくれるでしょう。
 このように待てのしつけは、犬の衝動的な行動を抑えて事故やトラブルに発展する危険性を減らしてくれると同時に、我慢が要求されるような様々な状況における下準備としても機能してくれるのです。それでは具体的に「待て」の教え方を見ていきましょう。
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犬の待てのしつけ・基本方針

 犬の待てのしつけに際して、飼い主はまず以下のことを念頭に置きます。
してほしい行動
マテの言葉で犬がじっと動かなくなり、解除するまでそのままでいること
してほしくない行動
マテの言葉をかけても犬が落ち着かずうろうろしたり、解除前に動いてしまうこと
 してほしい行動と快(ごほうび・強化刺激)、してほしくない行動と不快(おしおき・嫌悪刺激)を結びつけるのがしつけの基本であり、前者を強化、 後者を弱化と呼ぶことは犬のしつけの基本理論で述べました。これを踏まえて犬に待てをしつける場合を考えて見ましょう。
強化
「マテの言葉で犬が腰を落としてじっとしていた」瞬間に快を与える
弱化
「マテの言葉をかけても犬がうろうろした」瞬間に不快を与える
 犬の待てのしつけに際しては強化が効果的です。
 例えば待てをしている最中に動いてしまった犬を「コラッ!」と怒鳴り付けたり叩いてしまうと、犬は「動いたらいやなことがある!」と学習し、飼い主の存在や動くこと自体を怖がるようになってしまいます。これでは犬らしい生活は送れませんし、飼い主との絆も破綻(はたん)してしまいますね。ですから犬に待てをしつけるときは、正しい行動に対してごほうびを与えて行動頻度を増やす正の強化を基本方針として進めていくことになります。
NEXT:しつけの実践

犬の待てのしつけ・実践

 基本方針を理解したところで、いよいよ実践に入りましょう。まずはしつけに入る前に「犬のしつけの基本理論」で述べた大原則、「犬をじらせておくこと」「一つの刺激と快不快を混在させないこと」「ごほうびと罰のタイミングを間違えないこと」「しつけ方針に家族全員が一貫性を持たせること」を念頭においてください。まだマスターしていない方は以下のページを読んで「すべきこと」と「すべきでないこと」が何であるかを把握しておきます。 犬のしつけの基本

しつけの準備

 実際にお座りのしつけに入る前に、以下のような準備を終わらせておきましょう。

集中できる環境を作る

 一つのことを覚えるには集中力が大切です。しつけの前には窓を閉じて外からの音を遮断し、テレビやラジオは消しましょう。気が散るようなおもちゃなどは全て片付け、犬の意識が否応なく飼い主の方に向くように無味乾燥な環境を作ってしまいます。
 犬の集中力は10分~15分ほどです。集中力がなくなってきたらいさぎよくしつけを中断してその日の夜や翌日に改めて再開しましょう。飼い主がしつけを焦って犬の感情を無視して強引に行ってしまうと、しつけ自体が犬にとっての苦痛になってしまいます。

ごほうびを用意する

 犬をある特定の行動に対して積極的にさせるためには、何らかの快(強化刺激)を与える必要があります。以下は代表的な犬に対するごほうびです。
犬に対するごほうびいろいろ
  • おやつおやつをごほうびとして使う場合は犬がおいしいと感じるもの+カロリーの低いものを選ぶようにしましょう。与えるときは犬が満腹にならないよう、なるべく少量だけにします。
  • ほめる高い声で「よーし」や「いいこ」や「グッド」などの声をかけてあげます。言葉と同時に軽く一回なでてあげてもかまいません。ただしあまり激しくなで回してしまうと犬が興奮しすぎて集中力がなくなってしまうため、軽くにとどめておきます。
  • おもちゃおもちゃを選ぶときは、あらかじめ犬に何種類かのおもちゃを与えておいて一番のお気に入りを確かめておきます。

まずはお座りをマスター

 「待て」のしつけはお座りの体勢からスタートします。犬がまだ覚えていない場合はお座りのしつけを参考にしながらマスターさせてください。

できないと諦めない

 ネット上には「待て」のしつけに関する動画がたくさんありますが、内容を数分間にまとめるため細かい部分をかなり省略してしまっているか、すでにしつけをマスターした犬がモデルとして登場することが大半です。その結果、まるで1日もあれば犬が待てを覚えてくれるかのような錯覚を覚えてしまいます。待てのしつけができないと嘆いている人の原因はここにあるのではないかと思えるくらいです。犬にしっかりとした待てをしつけるためには、時間をかけて1歩ずつ進むことが必要です。飼い主は1週間かけて1ステップ進むくらいの余裕を持って取り組んだほうがよいでしょう。
 しつけは犬にとっても飼い主にとってもゲームでなければなりません。飼い主が一方的にかんしゃくを起こして「このバカ犬が!」などと怒ってしまうと、犬は飼い主と一緒にいる事自体を避けるようになり、何も覚えてくれなくなります。

ごほうびまで2秒待たせる

 まずは犬の正面に立ち、お座りの指示を出して腰を下ろした状態にします。リードは付けなくて構いません。これまでは座った瞬間にごほうびを与えていましたが、待てのしつけでは座った瞬間に「いいこ」と声をかけ、それからおやつを与えるまでの間に2秒間あけるようにします。犬をほめてから頭の中で2秒数え、じっとしていたらおやつを与えましょう。犬は「妙なタイムラグがあるけれどおやつをくれるならまあいいや」と考えるようになり、座った状態をキープすることができるようになります。流れはオスワリ→(犬が座る)→いいこ→(2秒カウント)→ごほうびです。 【画像の元動画】Teach a Puppy to Sit _ Teacher's Pet With Victoria Stilwell お座りからごほうびまでに2秒のタイムラグを持たせて待機に慣らせる

ごほうびまで10秒待たせる

 犬が2秒間の空白に慣れてきたら徐々にこの限界待機時間を延ばしていきます。焦っていきなり5秒とか10秒に飛ばないでください。2秒が終わったら3秒、3秒が終わったら4秒という具合に秒刻みで少しずつ時間を延ばしていきます。また待たせている間、飼い主は声を出したり動いたりせずじっと犬の目を見つめていてください。
閾値トレーニング
 閾値(いきち)トレーニングとは、犬が我慢できる限界地点を少しずつ延ばすトレーニング法です。「マテ」の場合、最初は1~2秒など極めて達成しやすい目標からスタートし、徐々に難易度を高めていきます。1秒からいきなり5分に飛び級すると犬がすねてしまいますので、あくまでも「少しずつ」をキーワードに進めていきましょう。
 規定の秒数をじっと待っていられたら「いいこ」と声をかけおやつを与えましょう。動き出したタイミングで間違ってごほうびを与えると、逆に「動くこと」を強化することになりますので注意します。流れはオスワリ→(犬が座る)→いいこ→(3~10秒カウント)→ごほうびです。1日で1秒伸ばすくらいのスローペースでも一向に構いません。じっくりと1週間~10日かけ、ゲーム感覚で犬が10秒間じっとしていられるよう訓練しましょう。 【画像の元動画】Teach a Puppy to Sit _ Teacher's Pet With Victoria Stilwell 犬がマテの途中で動いたら余計なリアクションをせず仕切り直す  犬がじれったくなって動き出してしまうかもしれません。そういう時は妙な声を出さず、ごほうびを与えないままもう一度お座りの姿勢に戻して待機時間を少し短めに設定しなおします。この時犬が「伏せ」の状態になっても構いません。犬がお座りもしくは伏せの姿勢で10秒待てるようになったら、次のステップに進みましょう。

待つことと指示語をリンク

 犬がお座りや伏せの姿勢で10秒待てるようになったら、「動かずにじっとしている」状態と指示語とをリンクします。ここでは日本語の「マテ」を例に取りますが、英語の「ステイ」(stay)や「ウエイト」(wait)でも構いません。
 まずはお座りを命じて腰を下ろした状態にし「いいこ」とほめてあげましょう。今までは無言で犬を待たせていましたが、「いいこ」と言葉をかけてから2秒経過した時点で「マテ」という言葉をかけます。それから10秒数えたらおやつを与えましょう。流れはオスワリ→(犬が座る)→いいこ→(2秒カウント)→マテ→(10秒カウント)→ごほうびです。 【画像の元動画】How to Train a Dog to sit 犬が腰を下ろしてから2秒あけて「マテ」の指示を出す  座る動作の直後にかけるのは「いいこ」というほめ言葉です。この直後に「マテ」という指示語を出してしまうと犬が混乱してしまう危険性がありますので、聞き取りやすいよう「いいこ」と「マテ」の間には最低2秒くらいの間を空けるようにして下さい。

解除語を教える

 「解除語」とは「動いてもいいよ」という合図のことです。日本語の「よし」を用いた場合、日常的に頻繁に使う言葉なので犬が混乱してしまうかもしれません。ですからここでは英語の「フリー」を例に取ります。
 まずは今まで通りお座りの指示を出しましょう。犬が座った状態になったら「いいこ」と言葉をかけ、さらに2秒経過したら前のステップでやったように「マテ」と指示を出します。次に10秒カウントしている間、飼い主は犬の正面から1歩下がった位置に移動します。10秒数え終わったら「フリー」という解除語とともにごほうびを持った手を差し出し犬をこちらに呼んでみましょう。犬は「フリーという言葉が出たら動いていいんだ」という風に学習していきます。犬が手元にやってきたらおやつを与えて誉めてあげます。流れはオスワリ→(犬が座る)→いいこ→(2秒カウント)→マテ→(1歩下がる+10秒カウント)→フリー!→ごほうびです。 【画像の元動画】How to Train a Dog to sit ただ単に犬を呼び寄せるのと、静止状態から呼び寄せるのは違う  1歩の距離で5回できるようになったら、今度は2歩の距離でやってみましょう。同様にして1歩ずつ距離を伸ばし、5歩の距離まで延ばします。1日1歩伸ばすペースで1週間ほどかけても全く構いません。 【画像の元動画】The How to Teach your Dog to Stay in 3 Steps Force Free! 犬が待機している間、飼い主は犬との距離を徐々に伸ばす  犬が途中でじれて動き出しても妙な声を出さないでください。「動いたら喜んでくれた!」と誤解されてしまう可能性があります。静かにその場から移動し、もう一度お座りの指示を出し、少し短い距離に設定してやり直しましょう。

ハンドシグナルを教える

 犬の耳が不自由な場合、言葉による指示語は通じませんので動作によるハンドシグナルを教えておく必要があります。またたとえ耳が不自由でなくても、非常にうるさい交通騒音の中で犬に指示を出したいときがあります。そういう状況でもハンドシグナルが必要になるでしょう。

犬の耳が不自由な場合

 先天的な疾患や老化などで犬の耳が不自由な場合、「待つ」という動作と何らかの視覚的なシグナルをリンクさせなければなりません。ここでは「犬の顔の前に手のひらをかざす」という動作を例に取ります。
 犬に「オスワリ」のハンドシグナル(腕を直角に曲げるなど)を出し、腰を下ろした姿勢にします。詳しいやり方はお座りのしつけをご参照ください。お座りの姿勢で2秒我慢できたらおやつを与え、軽くなでてあげましょう。2秒がクリアできたら待機時間を3秒→4秒→5秒と伸ばしていき、最終的には10秒間じっと待てるようにします。ここまでは耳が聞こえる犬とほぼ同じ手順で、流れはオスワリのハンドシグナル→(犬が座る)→(3~10秒カウント)→ごほうびです。1日で1秒伸ばすくらいのスローペースで、じっくりと1週間~10日かけ、犬が10秒間じっとしていられるよう練習しましょう。 【画像の元動画】How to Teach Your Dog to Sit _ Dog Trainingおすわりのハンドシグナルを出した後、ごほうびを与えるまでにタイムラグを設ける  犬が10秒間待てるようになったら、「オスワリ」のハンドシグナルを出して犬が腰を下ろしてから2秒経過したタイミングで、あらかじめ決めておいた「マテ」のハンドシグナル(犬の顔の前に手のひらをかざす)を1~2秒見せます。このとき「オスワリ」と「マテ」の間に2秒ほど間を置く理由は、ハンドシグナルがごちゃごちゃになるのを避けるためです。腕でマテを命じた後じっとしていたらおやつを与え、軽くなでてあげましょう。 【画像の元動画】The Secret to Teaching Your Dog COME and STAYマテのハンドシグナルとして犬の顔の前に手のひらをかざす  この作業を繰り返すことにより、耳の聞こえない犬はハンドシグナルと「じっとして動かない」という状態を結びつけて学習していきます。動き出したタイミングで間違ってごほうびを与えないよう注意して下さい。流れはオスワリのハンドシグナル→(犬が座る)→(2秒カウント)→マテのハンドシグナル→(3~10秒カウント)→ごほうびです。
 5~10回ほど練習を繰り返したら、「マテ」のハンドシグナルを出した後、飼い主は犬の正面から1歩離れた位置に移動してみます。犬が10秒間じっとしていられたら、両手を広げて犬をこちらに迎え入れてあげましょう。これは耳が聞こえる犬にとっての「解除語」に相当する「解除ジェスチャー」です。 【画像の元動画】The How to Teach your Dog to Stay in 3 Steps Force Free!犬の耳が聴こえない場合「動いていいよ」の合図は視覚的なジェスチャーで与える  1歩の距離が終わったら2歩の距離、2歩の距離が終わったら3歩の距離という具合に徐々に距離を伸ばしていき、最終的には5歩の地点まで離れます。1日1歩伸ばすペースで1週間ほどかけても全く構いません。犬がじっとしているたびに両手を広げて「解除ジェスチャー」を示しましょう。これを繰り返すことにより犬は「両手を広げたら動いていいんだ」という風に理解していきます。犬が飼い主の方に近寄ってきたらおやつを与えて撫でてあげます。流れはオスワリのハンドシグナル→(犬が座る)→(2秒カウント)→マテのハンドシグナル→(数歩離れる+10秒カウント)→両手を広げる→ごほうびです。

犬の耳が不自由でない場合

 犬の耳が不自由でない場合は、まず「待つことと指示語をリンク」までの各ステップをマスターさせておきます。犬の中ではすでに「マテ」という指示語と「じっとしたまま動かない」という動作が結びついていますので、後は「ハンドシグナル」という視覚的な情報と「マテ」という聴覚的な情報を結びつけるだけです。
 具体的には、「マテ」と指示語を出す直前に事前に決めておいたハンドシグナルを見せてあげます。例えば「犬の顔の前に手のひらをかざす」などです。出すタイミングは犬の学習が最も早くなるよう、指示語と同時ではなく「ハンドシグナル(手)→マテ(言葉)」という順序で行って下さい。犬がじっと待つことができたらごほうびを与えてほめてあげます。流れはオスワリ→(犬が座る)→いいこ→(2秒カウント)→ハンドシグナル→指示語(マテ)→(10秒カウント)→ごほうびです。 【画像の元動画】The Secret to Teaching Your Dog COME and STAYマテのハンドシグナルとして犬の顔の前に手のひらをかざす  犬が慣れてきたら、指示語を出す時の声のボリュームを少しずつ下げていきましょう。いきなりささやき声にしてしまうと犬が何をしていいのかわからなくなりますので、あくまでも少しずつ声量を下げてください。最終的な目標は、指示語を出さなくてもハンドシグナルを見ただけで犬がじっとしている状態です。こうした訓練を事前に積んでおくと、ひどい騒音で飼い主の声が全く聞こえないような状況においても、ハンドシグナルを見せることで犬に飼い主の意図を伝えることができるようになります。

時間と距離を伸ばす

 当ページ内で設定した「10秒」とか「5歩の距離」とは、犬がクリアしやすい仮のゴールに過ぎません。犬が慣れてきたら限界待機時間や飼い主の移動距離をゲーム感覚で少しずつ延ばしていきましょう。こうした訓練を積んでおくと、食事のしつけ留守番のしつけなどにすんなりと移行しやすくなります。 【画像の元動画】The How to Teach your Dog to Stay in 3 Steps Force Free! 待ての途中で犬が動いてしまっても、偶発的な強化を避けるため余計なリアクションはしないこと  時間や距離を伸ばす上での注意点は、解除語や解除ジェスチャーを出していないのに動いてしまった犬にごほうびを与えてはいけないという点です。ごほうびには「声を出す」「犬の方を見る」「犬を触る」といった些細なものまでが含まれます。
 犬が我慢できずに動き出してしまったら一切のリアクションを遮断し、そっぽを向いて場所を移動しましょう。そして再びお座りを指示して1からやり直します。もし動き出したタイミングで何らかのリアクションをとってしまうと、「解除指示が出される前に動くこと」に対して報酬を与えることになり、今まで待てのしつけに費やしてきた時間と労力が水の泡になります。

ごほうびを変える

 犬に待てを指示する状況は暮らしの中で頻繁に登場しますので、そのたびごとにおやつを与えていたら、犬が肥満に陥って不健康になってしまう可能性があります。ですから飼い主は「おやつ」というごほうびからカロリーを含まないごほうびに緩やかにシフトしていかなければなりません。
 練習している最中は、犬がうまく出来るごとにおやつ与えて構いません。犬がしっかり待てを覚えたら、おやつの代わりに「なでてあげる」とか「おもちゃで遊んであげる」といったごほうびをランダムで散りばめていくようにします。ただし間欠強化の原理で犬の行動を強化するため、犬の大好きなとっておきのおやつをたまにランダムで与えるようにします。そうすることで犬は、まるで万馬券を当てた人のようにその行為に病み付きになり、いい意味でやめられなくなります。

気が散る状況での待て

 待ては気が散らない静かな環境のみならず、たくさんの情報が洪水のように五感に押し寄せてくる環境においても確実に再現できなければなりません。
✅まずは部屋の窓を開け、テレビをつけた状態でやってみましょう。また今まで練習で使っていたしつけエリアを飛び出し、家の中にある廊下、キッチン、リビング、玄関など様々なエリアで待ての指示を出してみます。周囲の景色や匂いが微妙に変わっても、確実に「待て」ができなければなりません。
✅家庭内に複数人のメンバーがいるような場合は、今までしつけを行っていた人とは別の人に指示を出してもらいましょう。お父さん、お母さん、おじいちゃん、おばあちゃんなど、家族の誰が指示を出しても待てができるよう練習しておきます。
✅おもちゃがある状態で指示を出してみましょう。床におもちゃが落ちている状態は犬にとってとても気が散る状況です。こんな状況でも飼い主の指示に従って待てができるようにしておきます。 【画像の元動画】4 Things to Teach your NEW PUPPY Right Now! 犬の待ては刺激の多い屋外環境でも再現できなければ実用性はない ✅犬を首輪やリードに慣らし、リーダーウォークのしつけが終わったら、屋外環境でも待てをやってみましょう。なるべく犬の気が散らない静かな場所から始めるようにします。外の世界は室内とは比べ物にならないくらいたくさんの情報で溢れかえっています。そんな状況下でも確実に飼い主の指示に従えるよう、指示語とハンドシグナルの両方で繰り返し練習しておきましょう。
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犬の待てQ & A

 以下は犬の「待て」についてよく聞かれる疑問や質問の一覧リストです。思い当たるものがあったら読んでみてください。何かしら解決のヒントがあるはずです。

待ての訓練はいつから始める?

お座りがマスターできたら始めます。

 「待てのしつけの必要性」で説明したように、待てというコマンドは犬の突発的な動きを抑制してくれるサイドブレーキとしての役割を持っています。屋外に出て散歩デビューする前にはマスターしておきたいものです。
 ワクチン接種が終了して外に出られるようになるのは生後14週目以降ですので、生後2~3ヶ月齢くらいか始めるようにします。それより早い段階で始めてもよいですが、犬の脳がまだ成熟していませんので、衝動に対する抑制はそれほどうまくいきません。犬にとっても飼い主にとってもストレスになりますので、社会化期が終わって「お座り」を完全にマスターしたタイミングで短い時間から始めた方が良いと思います。 子犬の社会化期

犬が途中で動いてしまいます

いきなり長時間待たせないようにしてください。

 待てを命じたのに犬が動いてしまうことがあります。原因の多くは、飼い主がいきなり長時間の待機時間を強要することです。
 待てのしつけを成功させる際は「じっとして動かない」という行動とご褒美とを結びつける必要があります。犬の脳内でこの記憶ができていないうちから長時間の待てを強要すると、「一体何をすればよいのだろう?」と不安になり、取り急ぎ飼い主のそばに近づこうとします。これが動く原因です。
 「しつけの実践」で解説したように、犬の限界待機時間は1秒刻みでゆっくりと伸ばすようにしてください。1秒がクリアできたら2秒、2秒がクリアできたら3秒という具合に、少しずつ待機時間を伸ばしていきます(閾値トレーニング)。3秒からいきなり30秒にスキップしてしまうと犬は「あれ、何か間違ったことしたかな?」と不安になり、動いてしまいます。

犬が途中で吠えてしまいます

要求吠えが癖になっているかもしれません。

 これまでの生活の中で、犬の鳴き声に対してご褒美を与えたことはないでしょうか?例えばテレビを見ている最中、犬がワンワン吠えてうるさいので抱きしめて撫でてあげるなどです。犬にこうした経験があると「鳴くとかまってくれる!」という記憶が形成され、自分に関心を向けたいときやご褒美が欲しい時にワンワンと吠えるようになります。これが「要求吠え」です。
 待てのトレーニングをしている最中、犬がワンワン鳴く理由はこの「要求吠え」かもしれません。しつけに入る前に、まずは犬の鳴き声に対する態度を統一し、要求吠えが出ないようにしましょう。一人の人間が時と場所に応じてしつけ方針をコロコロ変えたり、家族のメンバー間でしつけ方針がバラバラという状況が絶対ないようにします。詳しいやり方は「無駄吠えのしつけ」を参考にしてください。 犬の無駄吠えのしつけ

最長どのくらい待てるの?

公式な記録はありませんが数年レベルで待てるかもしれません。

 ギネス記録の中に「待ての最長記録」というものはありません。これは、記録狙いの飼い主が犬に無理強いすることによって福祉や健康が損なわれてしまう危険性があるからです。同じ理由で「最も太った犬」という項目もありません。
 その代わり「同時待ての最高記録」というものはあります。これは待ての時間ではなく参加した犬の頭数を競うもので、2005年イギリスにあるウィンザーグレートパークに627頭もの犬が集結し、一斉「待て」をクリアしました。
 公式な記録ではありませんが、世界各地で報告されている逸話的な忠犬の話を聞く限り、数年レベルで待つこともあり得るという印象を受けます。最も有名なのが日本の忠犬ハチ公でしょう。 忠犬として有名な犬

なぜ犬は待てができる?

家畜化の過程で獲得した特技かもしれません。

 自分のやりたいことや欲しいものを我慢することは「衝動抑制」と呼ばれます。この衝動抑制は、人間が犬を家畜化する過程で選択的に繁殖してきた可能性があるようです。
 日本の麻布大学が「C-BARQ」と呼ばれる犬の気質テストを行った所、「訓練性」という項目に関して犬種間で差異が見られたといいます。ここでいう「訓練性」には「飼い主に注目する」や「自発的にコマンドを待つ」などが含まれます。テストの結果、具体的には使役犬としての側面が強い「ハーディング」や「ワーキング」が高い値を示しました。 系統分岐図的に分類した8グループとC-BARQ~訓練性  このように衝動抑制を含む犬の訓練性は、選択的繁殖によって強まったり弱まったりする可能性があるようです。
 犬が家畜化されていく過程で「飼い主に注目する」とか「自発的にコマンドを待つ」といった能力が高い個体を選択的に繁殖するのは当然でしょう。ですから犬全般で見られる衝動抑制、すなわち「待て」ができる能力は、家畜化されていく過程で獲得した特技と言えるのかもしれません。
 ちなみにイギリスのJ.サーペル氏も「C-BARQ」と呼ばれるアンケート調査を通じ、アメリカ犬種協会で人気のある30犬種を対象とした比較調査を行っています。その結果、「訓練性」という項目に関して以下のような犬種差が見られたと言います。 犬にも知能差がある? AKCトップ30犬種とC-BARQ~訓練性
待てが得意な犬種(シェルティetc)と苦手な犬種(ダックスフントetc)がいるかもしれません。苦手犬種でもできないと諦めずに、ゲーム感覚で少しずつ限界時間を伸ばしていきましょう。