ホモ接合連続領域と純血種の健康
調査を行ったのはオーストラリア・サンシャインコースト大学のチーム。純血種と疾患率の因果関係を調べるため、DNAの中で潜性遺伝疾患と関係が深い「ホモ接合連続領域」(runs of homozygosity, RoH)に焦点を絞った解析を行いました。
- RoH
- 両親から受け継いで構成される一対の染色体(相同染色体対)のうち、双方に同じ配列が連続している領域のこと。
調査対象
調査に当たっては先行調査で用いられたDNAデータが転用され、83犬種に属する392頭の遺伝情報が対象となりました。
特定の塩基配列内でRoHが占める割合(FRoH)を明らかにすると同時に、一対の遺伝子座において確認される共通の一塩基変異(SNVs)を調べ上げました。
また2011年から2016年の期間、アグリアペット保険に蓄積された被保険動物の請求データを基に受診数と契約期間を調べ、「受診数合計/契約期間合計」から疾病スコアを算出しました。上記「受診数」はワクチン接種や健康診断などルーティン以外の受診ケースに限定されており、疾病スコアの分母は最終的に10000に固定されています。
特定の塩基配列内でRoHが占める割合(FRoH)を明らかにすると同時に、一対の遺伝子座において確認される共通の一塩基変異(SNVs)を調べ上げました。
また2011年から2016年の期間、アグリアペット保険に蓄積された被保険動物の請求データを基に受診数と契約期間を調べ、「受診数合計/契約期間合計」から疾病スコアを算出しました。上記「受診数」はワクチン接種や健康診断などルーティン以外の受診ケースに限定されており、疾病スコアの分母は最終的に10000に固定されています。
調査結果
調査の結果、疾患スコアに関しては以下のような内訳になりました。数値が小さいほど「健康」、大きいほど「不健康」を意味しています。
Sankar Subramanian, Manoharan Kumar, Biology 2024, 13(8), 574; DOI:10.3390/biology13080574
疾患スコアのランク
- 1300未満:11犬種
- 1300~1600:31犬種
- 1600~1900:26犬種
- 1900超:15犬種
- SIFTスコア
- アミノ酸の置換がタンパク質合成にどの程度影響するかを予見する指標で、0.0(劣悪)~1.0(許容範囲)までの数値で表される。
疾患スコアとの相関の強さ(r)
- 遺伝的多様性=-0.42
- FRoH=0.45
- 劣悪変異数(ホモ型)=0.43
- 機能欠失変異数(ホモ型)=0.45
- 体高=0.57
- 体重=0.35
Sankar Subramanian, Manoharan Kumar, Biology 2024, 13(8), 574; DOI:10.3390/biology13080574
近親交配と遺伝的多様性の狭小化
遺伝的多様性に関し先行調査では「野生オオカミ>非純血種>純血種」という勾配が確認されています。今回の調査では遺伝的多様性と疾患スコアが「かなり(-0.42)」のレベルで負の相関、つまり遺伝的多様性が少ないほど病気になりやすくなるという関係性が示されました。
またホモ型劣悪変異およびホモ型機能欠失変異の数に関してはオオカミ>純血種との先行報告があります。今回の調査ではホモ型劣悪変異数(0.43)およびホモ型機能欠失変異数(0.45)と疾患スコアが正の相関、つまり変異数が多いほど病気にかかりやすくなるという関係性が示されました。
さらに保険会社のデータをもとにした先行調査では、近交係数(近親度)と疾患率が連動していることが示されています。こうした事実から以下のような推論を導き出せます。 純血種の繁殖において近親交配が慣習化
↓
両親のDNAの塩基配列が近いため子のホモ接合連続領域(RoH)の割合が増える
↓
RoH内に劣悪変異や機能欠失変異があると、必然的にホモ型(両親から同じ変異を引き継ぐ)になる
↓
潜性(劣性)遺伝型の疾患リスクが高まる
↓
変異が複数の疾患に関与しているにせよ、特定疾患の重症度に関与しているにせよ受診ケースが増える
↓
疾患スコアが高まる 疾患リスクに関しては先行調査で心筋症、てんかん、甲状腺機能低下症、各種の形成不全症において「純血種>非純血種」という勾配が、そしてがんの早期診断において「純血種>非純血種」という勾配が確認されています。こうした疾患の多くには先述した「潜性(劣性)遺伝」が関わっていることから、近親交配の弊害がまた一つ示されたことになります。なお疾患スコア1900超のハイリスク犬種は以下の15種です。
またホモ型劣悪変異およびホモ型機能欠失変異の数に関してはオオカミ>純血種との先行報告があります。今回の調査ではホモ型劣悪変異数(0.43)およびホモ型機能欠失変異数(0.45)と疾患スコアが正の相関、つまり変異数が多いほど病気にかかりやすくなるという関係性が示されました。
さらに保険会社のデータをもとにした先行調査では、近交係数(近親度)と疾患率が連動していることが示されています。こうした事実から以下のような推論を導き出せます。 純血種の繁殖において近親交配が慣習化
↓
両親のDNAの塩基配列が近いため子のホモ接合連続領域(RoH)の割合が増える
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RoH内に劣悪変異や機能欠失変異があると、必然的にホモ型(両親から同じ変異を引き継ぐ)になる
↓
潜性(劣性)遺伝型の疾患リスクが高まる
↓
変異が複数の疾患に関与しているにせよ、特定疾患の重症度に関与しているにせよ受診ケースが増える
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疾患スコアが高まる 疾患リスクに関しては先行調査で心筋症、てんかん、甲状腺機能低下症、各種の形成不全症において「純血種>非純血種」という勾配が、そしてがんの早期診断において「純血種>非純血種」という勾配が確認されています。こうした疾患の多くには先述した「潜性(劣性)遺伝」が関わっていることから、近親交配の弊害がまた一つ示されたことになります。なお疾患スコア1900超のハイリスク犬種は以下の15種です。
疾患リスクの高い15犬種