純血犬種の遺伝的な均一性
調査を行ったのはカリフォルニア大学デービス校のチーム。2015年4月~2020年6月までの期間、主にスカンジナビア半島諸国に暮らす犬たちから集められたDNAサンプルおよびその中に含まれるSNPs(一塩基多型)をもとに異質性の度合いを計算しました。
純血種の近交係数
227犬種に属する合計49,378頭(1犬種平均217.5頭)のデータを解析したところ、補正した近交係数(=遺伝的な近さ)は平均で0.249だったといいます。以下に示した近交係数の目安と照合すると、ちょうど「親子」や「兄弟姉妹」という近親関係で見られる値と同じです。
近交係数の目安
- 親子=0.25(1/4)
- 兄弟姉妹=0.25(1/4)
- 片親だけ違う兄弟姉妹=0.125(1/8)
- いとこ=0.0625(1/16)
純血犬種の罹患率
次に調査チームはAgriaペット保険に蓄積された請求データを元にし、罹患率(一定期間にどれだけの疾病が発生したかを示す指標)が判明した162犬種のデータをまとめました。その結果、純血種全体における平均は1574/万で、ミックス犬種の平均1265/万との間に明白な開きが見られたといいます。
さらに遺伝的な近さを示す近交係数と罹患率の関係を調べた結果、近交係数が高いほど罹患率も高くなるという正の関係が確認されました。具体的な数値は以下で、3つのクラス間では統計的に有意な格差が確認されています。
さらに遺伝的な近さを示す近交係数と罹患率の関係を調べた結果、近交係数が高いほど罹患率も高くなるという正の関係が確認されました。具体的な数値は以下で、3つのクラス間では統計的に有意な格差が確認されています。
近交係数と罹患率
- 近交係数0.125未満11犬種/罹患率は1282
- 近交係数0.125~0.2566犬種/罹患率は1537
- 近交係数0.25超85犬種/1626
体重と近交係数の関連
補正近交係数と体重との関連を検証したところ、スピアマンの順位相関(r2)において「高い関連性が見られる」と判断される0.77という値になりました。
例えば体重5kgの犬の近交係数が0.25なら罹患率は1396.9、体重60kgの犬の近交係数が0.25なら罹患率は1911.8という具合に、体重があるほど罹患率が高まるという関係です。平たく言うと近交係数が大きく、体重が重い犬種ほど病気にかかりやすいとなります。 The effect of inbreeding, body size and morphology on health in dog breeds
Bannasch, D., Famula, T., Donner, J. et al., Canine Genet Epidemiol 8, 12 (2021), DOI:10.1186/s40575-021-00111-4
例えば体重5kgの犬の近交係数が0.25なら罹患率は1396.9、体重60kgの犬の近交係数が0.25なら罹患率は1911.8という具合に、体重があるほど罹患率が高まるという関係です。平たく言うと近交係数が大きく、体重が重い犬種ほど病気にかかりやすいとなります。 The effect of inbreeding, body size and morphology on health in dog breeds
Bannasch, D., Famula, T., Donner, J. et al., Canine Genet Epidemiol 8, 12 (2021), DOI:10.1186/s40575-021-00111-4
近交弱勢と雑種強勢
純血犬種で見られた0.249という近交係数は人や野生動物において遺伝疾患の発現リスクが高まるとされる値です。0.25のマウスでは健康指標が57%も減少するという推計もあります。
一般的に「近交弱勢」「雑種強勢」と言われますが、純血犬において遺伝疾患が山程確認されている理由の1つは、遺伝的近さによる疾患遺伝子の密集にあることは疑いようがないでしょう。例えば「Online Mendelian Inheritance in Animals(OMIA)」では800弱の遺伝性疾患が確認されています。
そもそも純血犬種の遺伝的多様性が失われた理由としては、ボトルネック効果(何らかのイベントにより特定生物種の個体数が激減して遺伝的多様性の低い集団ができること)だけでなくスタッドブックによる血統管理が挙げられます。少数のオス犬が多数のメス犬と交配することにより遺伝子の均一化が起こることは明白ですね。純血犬の遺伝病は人間が人為的に固定したと言っても過言ではありません。
ちなみに短頭種の罹患率と近交係数(1829/0.319)を計算したところ、非短頭種(1508/0.245)に比べて有意に高いことが併せて確認されました。これも人為的な疾患固定を示す好例と言えます。
一般的に「近交弱勢」「雑種強勢」と言われますが、純血犬において遺伝疾患が山程確認されている理由の1つは、遺伝的近さによる疾患遺伝子の密集にあることは疑いようがないでしょう。例えば「Online Mendelian Inheritance in Animals(OMIA)」では800弱の遺伝性疾患が確認されています。
そもそも純血犬種の遺伝的多様性が失われた理由としては、ボトルネック効果(何らかのイベントにより特定生物種の個体数が激減して遺伝的多様性の低い集団ができること)だけでなくスタッドブックによる血統管理が挙げられます。少数のオス犬が多数のメス犬と交配することにより遺伝子の均一化が起こることは明白ですね。純血犬の遺伝病は人間が人為的に固定したと言っても過言ではありません。
ちなみに短頭種の罹患率と近交係数(1829/0.319)を計算したところ、非短頭種(1508/0.245)に比べて有意に高いことが併せて確認されました。これも人為的な疾患固定を示す好例と言えます。