トップ2022年・犬ニュース一覧4月の犬ニュース4月2日

犬が見せる異常な反復行動とその危険因子

 犬が見せる異常な反復行動には目的や機能を持たない「常同行動」と破壊や自傷など不適切な目的を持つ「強迫行動」が含まれます。4千頭を超える犬たちのデータから、ヘルシンキ大学が発症の危険因子を調査しました。

犬における反復行動の危険因子

 調査を行ったのは フィンランドにあるヘルシンキ大学のチーム。国内で暮らしている犬の飼い主を対象としたアンケート調査を実施し、犬でよく見られる反復行動のリスクが何であるかを検証しました。ここで言う「反復行動」には目的や機能を持たない「常同行動」と破壊や自傷など不適切な目的を持つ「強迫行動」の両方が含まれます。
  調査の結果、反復行動歴のある1,315頭および行動歴のない3,121頭のデータが集まりました。全体ではメス54%、平均4.8歳(2.4ヶ月齢~17.9歳)という内訳です。反復行動の具体的な内容と統計的に浮かび上がってきたリスクファクターは以下に示します。ORはオッズ比のことで、標準の起こりやすさを「1」としたときどの程度起こりやすいかを相対的に示したものです。数字が1よりも小さければリスクが小さいことを、逆に大きければリスクが大きいことを意味しています。

犬における異常な反復行動

  • 移動系ぐるぐる回る・しっぽ追い・行ったり来たり・反射追い・フリーズ
  • 口腔系足噛み・脇腹吸い・特定対象噛み・フライスナッピング(虚空に向かって口をパクパク)
  • 攻撃系自傷・後半身(足・しっぽ・臀部)に唸ったり噛みつく
  • 発声系病的な吠えやクンクン鳴き
  • 幻覚系影を見つめる・光の反射を追う

反復行動のリスクファクター

  • 年齢年齢別では若齢と高齢の二峰性 犬における異常反復行動の年齢分布は若齢と高齢の二峰性を示す
  • 不妊手術の有無不妊手術済の犬を基準とした場合、未手術の犬のリスクはOR0.706
  • 運動量1日の運動量が1時間未満の犬では高いリスクを示しました。具体的には、1日の運動量が1~2時間の犬を基準とした場合のORが1.53、1日の運動量が2~3時間の犬を基準とした場合のORが1.85、1日の運動量が3時間超の犬を基準とした場合のORが2.01です。
  • 飼育頭数多頭飼いのリスクを1とした場合、単頭飼いのORは1.64となりました。
  • 飼い主の飼育歴犬を飼うのが初めてではない家庭のリスクを1とした場合、初めて迎える家庭のORは1.58となりました。
  • 家庭内の人の数家庭内における人の数が2人のときのリスクを1とした場合、1人のときのORが0.687となりました。同様に、3人以上のときのリスクを1とした場合、1人のときのORは0.672となりました。
  • ハイリスク犬種ジャーマンシェパード
    チャイニーズクレステッドドッグ
    ウェルシュコーギーカーディガン
    フィニッシュスピッツ
    スタッフォードシャーブルテリア
  • ローリスク犬種コリー(スムース)
    ミニチュアシュナウザー
    ●ロマーニョ・ウォーター・ドッグ
    ジャックラッセルテリア
    コリー(ラフ)
  • 気質・性格過活動性/衝動性スコア、注意散漫スコア、攻撃性スコアが高い場合、反復行動のリスクが高まることが明らかになりました。「攻撃性が高い」と評価された犬に関しては、「低い」と評価された犬を基準としたときのORが2.04、「中等度」と評価された犬を基準としたときのORが1.53、「ない」と評価された犬を基準としたときのORが1.33というものでした。
Aggressiveness, ADHD-like behaviour, and environment influence repetitive behaviour in dogs
Sulkama, S., Salonen, M., Mikkola, S. et al. , Sci Rep 12, 3520 (2022), DOI:10.1038/s41598-022-07443-6

因果関係の考察

 犬における反復行動の危険因子がいくつか浮かび上がってきましたが、これらはすべて関係性であって因果関係というわけではありません。もし原因と結果という関係性にあるのだとしたら、一体どのようなメカニズムが働いているのでしょうか。

犬種と反復行動

 特定の犬種と特定の強迫性行動との間に関連性が報告されています。例えばドーベルマンの脇腹吸い、ゴールデンレトリバーやラブラドールレトリバーの体舐め、ジャーマンシェパードのしっぽ追いなどです。 犬の強迫神経症  脳神経学的に強迫性障害は「CSTC」と略される皮質-線条体-視床-皮質ループが関わっており、セロトニン、グルタミン、ドーパミンといった神経伝達物質によって仲介されると考えられています。
 特定犬種と特定行動との間に密接な関連性がある場合、生育環境といった後天的な要因によって発症したと考えるより、生まれもった脳の器質的な障害と考えた方が現実的でしょう。例えば今回の調査で確認されたジャーマンシェパードなどです。行動矯正による改善は期待できませんので、治療に際してはフルオキセチン(選択的セロトニン再取り込み阻害薬に分類される抗うつ薬の1つ)やクロミプラミン(抗うつ薬として用いられる有機化合物の一種)などによる薬理学的なアプローチが優先されます。

気質・性格と反復行動

 犬に衝動性、過活動性、攻撃性が見られる場合、反復行動のリスクが高まることが明らかになりました。
 過去に行われた調査でも、強迫性行動を示す会の75%が共存する問題行動を抱えており、28%では支配欲や衝動性に起因する攻撃性が見られたと報告されています。また尻尾を追いかけるブルテリアでは攻撃性が高いとの報告もあります。さらに人医学ではOCD(強迫性障害)とADHD(注意欠如・多動症)や衝動的な攻撃性が共存しやすいとされています。
 犬と人間の発症メカニズムに共通性があると仮定すると、「抑制機能の低下」となるでしょうか。根底にあるのは脳内におけるセロトニンもしくはドーパミンの分泌異常なのかもしれません。

飼育歴と反復行動

 飼い主にとって初めて飼う犬の場合、そうでない場合に比べて反復行動の発症リスクが1.58倍になる可能性が示されました。
 反復行動は退屈だけでなくフラストレーションやストレスなどによっても引き起こされるものです。初心者にありがちな一貫性のないしつけなどが予見不能性につながり、犬の不満や不安を引き起こして、最終的に反復行動となって現れたのではないかと推測されています。「家族の構成員が多いとリスクが高まる」という関係性にも、上記予見不能性が関わっているのかもしれません。

年齢と反復行動

 若齢と高齢における反復行動リスクが高いという二峰性を示しました。
 反復行動の引き金として早すぎる乳離れや社会化の欠落が報告されていますので、若齢層におけるハイリスクは生後間もない生育環境が影響しているのかもしれません。
 一方、高齢層におけるハイリスクは認知機能の低下に伴う痴呆行動の一種ではないかと推測されています。例えば同じ場所をグルグル回り続ける「グル活」や夜中に鳴き続けるなどです。
1日の運動量が1時間未満の犬ではリスクが1.5~2倍になる危険性があります。毎日の散歩だけはなるべく欠かさないようにしましょう。犬の散歩