死亡率の高い犬のホップ中毒
ホップ(勿布, セイヨウカラハナソウ, Humulus lupulus)とはアサ科に属する多年草の一種。雌花は「毬花」と呼ばれ、ビールに苦味や香りを添加する他、雑菌の繁殖を抑えて保存性を高めるなどの働きがあります。
部位に関わらず全草が犬に対して毒性を発揮することが確認されているものの、具体的にどの成分が原因になっているのかは判明していません。また犬においては悪性高熱症によく似た症状が引き起こされることから、便宜上「悪性高熱症様症候群(MHS)」と呼ばれています。
- 悪性高熱症
- 悪性高熱症とは麻酔薬によって筋硬直、高体温、頻脈、頻呼吸、横紋筋融解症、呼吸性および代謝性アシドーシスが引き起こされる病態。人間では常染色体優性遺伝することが確認されている。発症メカニズムとしては、麻酔薬によって骨格筋内にある筋小胞体からのカルシウム放出が増加し、重度の不随意的筋収縮と代謝の亢進が引き起こされることが想定されている。 MSDマニュアル
犬のホップ中毒統計
今回の報告を行ったのはタフツ大学を中心とした共同チーム。アメリカ動物虐待防止協会付属の動物中毒管理センター(APCC)およびタフツ大学カニンガム獣医学校に蓄積された電子医療記録を回顧的に参照し、2002年から2014年の期間中に「ホップ中毒」と診断された患犬たちの症例をピックアップしました。
その結果、当該期間中に71の症例が見つかり、生存例が77%(55頭)、死亡例が23%(16頭)だったといいます。性別の比率はオスが41%(29頭)、メスが59%(42頭)で、性別による死亡率格差は見られませんでした。一方、以下の項目に関しては生存例と死亡例との間に統計的に有意なレベルの格差が認められたといいます。「生存例:死亡例」の順で記載してあります。
Alexandra Pfaff, Brandy R Sobczak, Jonathan M Babyak, Therese E O'Toole, Elizabeth A Rozanski, J Vet Emerg Crit Care (San Antonio) 2021 Sep 9, DOI: 10.1111/vec.13141
その結果、当該期間中に71の症例が見つかり、生存例が77%(55頭)、死亡例が23%(16頭)だったといいます。性別の比率はオスが41%(29頭)、メスが59%(42頭)で、性別による死亡率格差は見られませんでした。一方、以下の項目に関しては生存例と死亡例との間に統計的に有意なレベルの格差が認められたといいます。「生存例:死亡例」の順で記載してあります。
「生存例:死亡例」格差
- 年齢中央値3歳(2~6歳):5歳(4.5~6.5歳)
- 脈拍数中央値(毎分)150(132~160):160(150~182)
- 来院までのタイムラグ5時間(3~8):5.5時間(3.5~7.25)
- 推定誤食量56.7g(28.3~85):70.9g(28.3~170)
Alexandra Pfaff, Brandy R Sobczak, Jonathan M Babyak, Therese E O'Toole, Elizabeth A Rozanski, J Vet Emerg Crit Care (San Antonio) 2021 Sep 9, DOI: 10.1111/vec.13141
犬のホップ中毒・予防法
診察時の主な症状は高体温(生存例39.4℃:死亡例40.3℃)と頻脈でした。統計的な計算では体温が1℃高いごとに死亡リスクが78%増加するとの結果になったことから、高体温の管理がとりわけ重要だと指摘しています。また来院してから高体温に陥った患犬も生存例で24%(13/54頭)、死亡例で6.7%(1/15頭)いたことから、誤飲誤食が疑われる場合は楽観視せず、少なくとも12時間は様子を見ることが必要だと警告しています。
生命線は早期発見・早期受診
来院までのタイムラグに関し、中央値で比較するとわずか30分ですが生存例と死亡例との間に明白な格差が見られました。また解毒治療は全体の51.5%(生存例30頭:死亡例6頭)で行われたものの、両グループ間で治療法に違いはなかったといいます。総合的に考えると、来院後の対応よりも早期発見・早期受診できるかどうかが犬の生死を決してしまうようです。
なお生存例では平熱に戻るまでに中央値で7.5時間かかった一方、死亡例では死亡するまでに中央値で10.7時間(2~30時間)かかったといいます。いずれにしても入院治療が必要になるでしょう。
なお生存例では平熱に戻るまでに中央値で7.5時間かかった一方、死亡例では死亡するまでに中央値で10.7時間(2~30時間)かかったといいます。いずれにしても入院治療が必要になるでしょう。
悪性高熱症の好発犬種
人間と同様、悪性高熱症は犬においても常染色体優性遺伝することが確認されており、骨格筋カルシウム放出チャネルであるリアノジン受容体1(RYR1)を構成しているアミノ酸の一部がアラニン→バリンに置換されることで生じると考えられています。悪性高熱症の発症報告がある犬種は以下です。
悪性高熱症ハイリスク犬種
悪性高熱症はすべての犬で発症する危険性がありますが、上記した犬種においては特に注意が必要となるでしょう。
ホップは厳重に管理を!
ホップに関しては未使用ホップ(生存例16%:死亡例12.5%)よりも使用済みのホップ(生存例60%:死亡例69%)を誤飲誤食するケースが多く見られました。また形状としてはペレットが多かったといいます。自家製ビールを作る過程で使用したペレット状のホップを、犬が誤って食べてしまうという状況が思い浮かびます。
日本国内においても、年間の製造見込数量が60kLに達しない場合には製造免許が不要となり、比較的気軽に自家製ビールを作れるようになりました(:国税庁【自家醸造】)。リーフ状もしくはペレット状のホップを用いて苦味を添加する場合、生の状態であれ使用済みの状態であれ、犬が間違って口に入れてしまう状況が想定されますので十分な注意が必要です。
ホップに含まれる揮発性物質は400種以上、
多官能チオールは少なくとも41種類以上が確認されています。煮沸した後でも高濃度で残るものもありますので、犬が絶対アクセスできないよう注意深く廃棄してください。