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グレインフリー(穀物不使用)のドッグフードによる心筋障害の証拠はあるのか?~高感度心筋トロポニン(hs-cTnI)は高値を示す

 拡張型心筋症との関連性を疑われて久しいグレインフリー(穀物不使用)のドッグフード。遺伝的な背景が異なる4犬種を対象とした調査により、特定の穀類を成分から除外したり特定の成分を含んだフードを半年以上食べ続けた犬においては、心筋の障害を示すバイオマーカー「高感度心筋トロポニン(hs-cTnI)」の値が高くなることが明らかになりました。

調査に参加した犬たち

 調査を行ったのはアメリカにある複数の大学からなる共同チーム。アメリカのFDA(食品医薬品局)が拡張型心筋症(DCM)との関連性を指摘して大騒動を引き起こしたグレインフリー(穀物不使用)のドッグフードと心臓への悪影響の因果関係を検証するため、遺伝的な背景が異なる4つの犬種を対象とした大規模な調査を行いました。
 調査に参加したのは合計188頭の犬たち。内訳は好発品種の代表格であるドーベルマンが37頭、好発が疑われる品種の代表格であるゴールデンレトリバーが43頭、疾患リスクが確認されていない品種の代表格であるミニチュアシュナウザーが22頭、同じくウィペットが86頭というものです。品評会でリクルートされたウィペットを除いた3犬種はフロリダ大学でスカウトされました。 拡張型心筋症に対する遺伝的な脆弱性を抱えた犬とそうでない犬  参加条件としては臨床上健康であることと過去6ヶ月間単一のドッグフードを給餌されていること、除外条件としては心臓に持病を抱えていることや、タウリンサプリもしくは心臓病の薬を投与されていることなどが設定されました。
 また食事内容と心臓との関係性を検証するため、犬たちに給餌されていたドッグフードは飼い主への聞き取り調査から以下に述べる4種類に区分されました。
ドッグフードの区分
  • グレインフリー小麦、米、大麦、とうもろこし、えん麦、その他の雑穀を副産物まで含めて使用していないドッグフード
  • グレイン含有副産物まで含めて小麦、米、大麦、とうもろこし、えん麦、その他の雑穀のいずれかを使用しているドッグフード
  • PLPFDA(アメリカ食品医薬品局)が拡張型心筋症との疑いが強いとして名指ししたエンドウ豆(Pea)、レンズ豆(Lentil)、じゃがいも(Potato)のいずれかを、ラベルの最初から十個目までのどこかに含んでいるドッグフード
  • 非PLPFDA(アメリカ食品医薬品局)が拡張型心筋症との疑いが強いとして名指ししたエンドウ豆レンズ豆じゃがいもを、ラベルの最初から十個目までのどこにも含んでいないドッグフード
Effect of type of diet on blood and plasma taurine concentrations, cardiac biomarkers, and echocardiograms in 4 dog breeds
Darcy Adin, Lisa Freeman, Rebecca Stepien, John E. Rush, Sonja Tjostheim, Heidi Kellihan, Michael Aherne, Michelle Vereb, Robert Goldberg, Journal of Veterinary Internal Medicine(2021), DOI: 10.1111/jvim.16075

フード間の検査値格差

 調査に参加したすべての犬たちを対象とし、一般的な健康診断と同時に心エコー検査、心電図検査が行われました。また血液を採取して血清中の高感度心筋トロポニン(hs-cTnI)と血漿NT-roBNPの濃度が計測されました。これらは心筋への障害を示すバイオマーカーの一種で、値が高いほど障害の度合いも高いと判断されます。主な結果は以下。
フード間の格差がなかった項目
  • 心雑音
  • マッスルコンディションスコア
  • ボディコンディションスコア
  • 心エコー検査所見
  • NT-proBNP
  • 全血タウリン濃度
  • 疾患遺伝子保有率(※ドーベルマンのみ)
心室性期外収縮の割合
  • PLP(10%)>非PLP(2%)
hs-cTnI中央値(ng/mL)
  • グレインフリー(.076)>グレイン含有(.048)
  • PLP(.059)>非PLP(.048)
血漿タウリン濃度の中央値(nmol/mL)
  • グレインフリー(125)>グレイン含有(104)

グレイン(穀類)と心筋障害の関係

 血清高感度心筋トロポニン(hs-cTnI)濃度が高かった28頭を対象とし、複数の病原体をターゲットとした院内検査を行いましたが、結果は陰性でした。この事実から、hs-cTnI値の上昇は感染症によるものではなく食事によるものと推測されました。
 人医学においてはhs-cTnIの増加と運動や無症候性の心障害との関係性が報告されています。またラットを対象とした調査では、心内におけるトロポニン濃度低下が心筋障害を示すとされています。さらに犬においては変性性の僧帽弁疾患の予見因子になっており、0.025ng/mLを上回ると生存率が低下するとされています。こうした事実から調査チームは、食事性のhs-cTnI増加は無症候性の心障害を示している可能性が高いとの結論に至りました。
 hs-cTnIに関しグレインフリー>グレイン含有という格差が見られた事実から「穀類を除外すること」が心筋障害と関係しており、PLP>非PLPという格差が見られた事実から「特定の成分を含むこと」が心筋障害と関係している可能性が読み取れます。なおグレインフリー群でのみ血漿タウリン濃度の上昇が見られた理由については、フードにもともと添加されていたタウリンやメチオニンが検知されたのか、心筋障害を示唆しているのかはわからないとのこと。
 犬たちは全て臨床上健康な状態でしたので、hs-cTnI増加が修正しなければならない値なのかどうかはわかっていません。またhs-cTnIが高値を示した犬の方が拡張型心筋症を発症しやすいという因果関係も証明されていません。今回の調査結果はグレインフリーやPLP(エンドウ豆・レンズ豆・じゃがいも)含有フードに不利な内容ですが、不明な部分もたくさん残されていますので「グレインフリー=悪」と思い込むのはいささか早計です。
 最後に、調査のスポンサーとして「グレイン」を成分として含んだペットフードを製造しているたくさんの企業が名を連ねている事実は言及に値するでしょう。具体的には「Nestle Purina PetCare」「Ceva Animal Health」「Hill's Pet Nutrition」「Mars」「Royal Canin」です。
グレインフリーと拡張型心筋症との関係については以下の記事でも詳しく解説してあります。経緯をまだご存じない方はどうぞ。 グレインフリーのドッグフードと犬の拡張型心筋症の関係 グレインフリーのドッグフードはやはり犬の心臓に悪い? 【2019年2月のFDA報告】グレインフリーのドッグフードと拡張型心筋症との関係性