ヨークシャーテリアと歯周病
調査を行ったのはイギリスにあるウォルサム(WALTHAM)のペット栄養センター。12頭のメス犬から生まれた合計50頭のヨークシャーテリアを対象とし、生後37週齢から78週齢に至るまでの期間で歯周病の発症率がどのように変化するかを長期的にモニタリングしました。具体的な結果は以下です。
A longitudinal assessment of periodontal disease in Yorkshire terriers
Corrin Wallis, Ilaria Pesci, Alison Colyer, Lisa Milella, Peter Southerden, Lucy J. Holcombe and Neil Desforges, BMC Veterinary Research201915:207, doi.org/10.1186/s12917-019-1923-8
Corrin Wallis, Ilaria Pesci, Alison Colyer, Lisa Milella, Peter Southerden, Lucy J. Holcombe and Neil Desforges, BMC Veterinary Research201915:207, doi.org/10.1186/s12917-019-1923-8
歯周病検診・37週齢
37週齢(9ヶ月齢)の時点で確認された合計1,874本の萌出歯を検査した所、全体の30.5%に相当する571本が歯周病を発症していたといいます。1頭における発症歯の数は0~24本と大きな幅があり、検査を受けた49頭中48頭(98%)において少なくとも1本の歯周病が見られたとのこと。37週齢時点において、少なくとも1本歯周病を発症している平均発症率は29.6%(信頼区間95%)と推定されました。
進行度に関してはそのほとんどが初期段階に相当するPD2(アタッチメントロスが25%未満)で、例外はPD3(アタッチメントロスが25~50%)と診断された犬歯3本だけでした。
進行度に関してはそのほとんどが初期段階に相当するPD2(アタッチメントロスが25%未満)で、例外はPD3(アタッチメントロスが25~50%)と診断された犬歯3本だけでした。
歯周病検診・61週齢
生後37週齢から61週齢の間、歯周病検診の対象となった合計1,914本の萌出歯のうち、45.7%に相当する875本で歯周病の発症が確認されました。病気の進行度に関してはほとんどがPD2で、例外は53週齢の時点で1頭の犬から確認された2本の切歯だけでした。
歯の種類と発症時期
歯の種類ごとに歯周病を発症するタイミングを計算した所、以下のようになったといいます。
- 犬歯→39.6週齢
- 切歯(門歯)→43.2週齢
- 前臼歯→45.7週齢
- 後臼歯→48.2週齢
歯の側面と発症リスク
歯の側面ごとに歯周病の発症リスクを調べた所、以下のような傾向が見られました。「遠心側」はのどの奥に面した側面、「近心側」は口先に面した側面、「頬側」は頬の粘膜に面した側面、「口蓋舌側」はベロに面した側面です。
歯の各側面と歯周病
- 犬歯口蓋舌側を除き、犬歯はすべての面において他の歯よりも発症のタイミングが1.8~3.7週早かったといいます。具体的には遠心側→47.1週齢、近心側→47.4週齢、頬側→47.7週齢で、犬歯以外では48.9~51.1週齢でした。
- 切歯切歯の口蓋舌側(=前歯の裏側)は前臼歯や後臼歯と比べ1.8~1.9週ほど発症が早いことが確認されました。具体的には47.8週齢に対し、他の歯では48.2~49.7週齢でした。
- 前臼歯前臼歯の遠心側(48.9週齢)は後臼歯の遠心側(50.8週齢)に比べ1.9週ほど発症が早いことが確認されました。
歯周病検診・78週齢
78週齢検診では36頭・1,351本の歯が検診対象となり、そのうち673本(49.8%)で歯周病が確認されました。また37週齢時点における発症歯の割合が25.5%であるのに対し、78週齢時点における発症歯の割合は48.3%で、78週齢時点における発症リスクは37週齢時点におけるリスクの2.74倍と推計されました。発症歯の進行度はほとんどがPD2で、例外は1頭で確認された切歯1本だけ(PD3)でした。
歯の種類と発症率
歯の種類ごとに発症率を調べた所、以下のような傾向が確認されました。「オッズ比」(OR)とは標準の起こりやすさを「1」としたときどの程度起こりやすいかを相対的に示したもので、数字が1よりも小さければリスクが小さいことを、逆に大きければリスクが大きいことを意味しています。37週齢と78週齢を比較した時、オッズ比の統計的な格差が確認されたのは切歯と後臼歯だけでした。
歯の種類と歯周病OR
- 犬歯✓37週齢→91.4%
✓78週齢→96.7%
※犬歯のオッズ比は他の歯と比べて8.6~333 - 切歯✓37週齢→32.2%
✓78週齢→77.3%
※前臼歯と比較したときのオッズ比は35.7、後臼歯と比較したときのオッズ比は3.8 - 前臼歯✓37週齢→11.1%
✓78週齢→35.0%
※後臼歯と比較した時、37週齢時点におけるオッズ比は2.6、78週齢時点におけるそれは5.5 - 後臼歯✓37週齢→4.6%
✓78週齢→8.9%
歯の側面と発症率
歯の側面ごとに歯周病の発症率を調べた所、頬側を除く全ての側面は37週齢よりも78週齢時における発症率が高いことが確認されました。その他の特徴は以下です。「オッズ比」(OR)とは標準の起こりやすさを「1」としたときどの程度起こりやすいかを相対的に示したもので、数字が1よりも小さければリスクが小さいことを、逆に大きければリスクが大きいことを意味しています。
歯の側面と歯周病OR
- 遠心側✓37週齢→9.9%
✓78週齢→18.6%
※OR=2.1 - 近心側✓37週齢→3.6%
✓78週齢→15.6%
※OR=4.9 - 口蓋舌側✓37週齢→8.3%
✓78週齢→19.3%
※OR=2.6 - 頬側✓37週齢→4.3%
✓78週齢→8.3%
※OR=2.0(非有意)
ヨーキーの飼い主の注意点
今回の調査でヨークシャーテリアが対象犬種となった理由は、小型犬においては歯石、歯肉炎、分岐部の露出、アタッチメントロス、歯周病を発症するリスクが高いと報告されているからです。
発症リスクの遺伝性
歯周病の発症リスクが高い犬種として具体的に挙げられているのはヨークシャーテリア、トイプードル(ミニチュアプードル)、ミニチュアダックスフント、コッカースパニエル、ジャックラッセルテリアなどの超小型~小型犬。逆に発症リスクが低い犬種として挙げられているのはボーダーコリー、ジャーマンシェパード、ラブラドールレトリバー、スタッフォードシャーブルテリアなどの中~大型犬です。
超小型~小型犬において歯周病の発症リスクが高まることは明らかですが、今回の調査では小型犬の中でもさらに遺伝によってリスクが変動する可能性が示されました。37週齢検診において、リスクが低い同腹仔グループでは15.8%、高いグループでは59.3%に達し、最も高い発症率を抱えていた同腹仔グループでは、その他の8つのグループと比較して発症リスクが3.2~6.6倍だったといいます。明確には解明されていないものの、何らかの遺伝性が発症リスクに影響を及ぼしているものと推測されています。
超小型~小型犬において歯周病の発症リスクが高まることは明らかですが、今回の調査では小型犬の中でもさらに遺伝によってリスクが変動する可能性が示されました。37週齢検診において、リスクが低い同腹仔グループでは15.8%、高いグループでは59.3%に達し、最も高い発症率を抱えていた同腹仔グループでは、その他の8つのグループと比較して発症リスクが3.2~6.6倍だったといいます。明確には解明されていないものの、何らかの遺伝性が発症リスクに影響を及ぼしているものと推測されています。
ヨーキーは早期発症に注意!
今回の調査では1頭で12本以上の歯周病が確認された時点で調査対象から除外されました。この基準に則り、37週齢の時点で全体の44%に相当する22頭、45週齢の時点で21頭(42%)、53週齢の時点で6頭(12%)、61週齢の時点で1頭(2%)が次々と脱落したそうです。その結果、61週齢検診の対象となったのはわずか1頭だけでした。
ヨークシャテリアの飼い主は、わずか1歳半の時点で10本以上歯周病がある状態は普通と想定しておいたほうがよいでしょう。歯周病は腎臓、肝臓、心臓といったその他の重要器官における疾患と関わっている可能性が示唆されています。できれば毎日の歯磨き、それが出来ない場合はデンタルフードやペット用の歯磨き粉などを用いて予防に努めることが望まれます。すべての歯で発症リスクがありますが、特に犬歯の外側および切歯(門歯)の裏側が危険地帯のようです。歯磨きが可能な場合は、ここを優先的に磨くようにしましょう。