詳細
短頭種気道症候群(BOAS)とは、マズルが短くなることによって口の中の組織が余り、空気の通り道を狭めてしまう疾患。名前が示す通り、鼻ぺちゃの短頭種で多発することが知られています。
診察や診断に際しては軟口蓋の長さ、鼻喉頭や声門の形状、鼻甲介の接触部などを調べる必要がありますが、犬に鎮静や麻酔をかけなければならないという大きな難点がありました。そこでイギリス・ケンブリッジ大学の調査チームは、投薬のリスクを負わせることなく、外見だけからその犬が短頭種気道症候群を発症しやすいかどうかを見分ける基準がないかどうかを検証しました。 調査対象となったのは、鼻ぺちゃで知られるパグ(189頭)、フレンチブルドッグ(214頭)、ブルドッグ(201頭)の3犬種。2013年9月から2016年9月の期間、すべての犬に対して基本的な身体測定とソフトテープを用いた全身9ヶ所の計測を行うと同時に、呼吸機能を客観的に評価する「WBBP」(全身気圧容積脈波記録法)によってBOASの重症度を評価しました。その結果、各犬種において以下のような特徴が見られたといいます。なお「BOASインデクス」とはWBBPで得られた計測値から呼吸器系の障害を客観的にスコアリングしたもので、最も軽い0%から最も重い100%で評価されます。
Liu N-C, Troconis EL, Kalmar L, Price DJ, Wright HE, Adams VJ, et al. (2017) PLoS ONE 12(8): e0181928, doi.org/10.1371/journal.pone.0181928
診察や診断に際しては軟口蓋の長さ、鼻喉頭や声門の形状、鼻甲介の接触部などを調べる必要がありますが、犬に鎮静や麻酔をかけなければならないという大きな難点がありました。そこでイギリス・ケンブリッジ大学の調査チームは、投薬のリスクを負わせることなく、外見だけからその犬が短頭種気道症候群を発症しやすいかどうかを見分ける基準がないかどうかを検証しました。 調査対象となったのは、鼻ぺちゃで知られるパグ(189頭)、フレンチブルドッグ(214頭)、ブルドッグ(201頭)の3犬種。2013年9月から2016年9月の期間、すべての犬に対して基本的な身体測定とソフトテープを用いた全身9ヶ所の計測を行うと同時に、呼吸機能を客観的に評価する「WBBP」(全身気圧容積脈波記録法)によってBOASの重症度を評価しました。その結果、各犬種において以下のような特徴が見られたといいます。なお「BOASインデクス」とはWBBPで得られた計測値から呼吸器系の障害を客観的にスコアリングしたもので、最も軽い0%から最も重い100%で評価されます。
計測項目
- BCS=犬の体型を1~9までの数字で評価したもの
- EWR=目の幅(EW)/頭の幅(SW)
- SI=頭の幅(SW)/頭の長さ(SL)
- NGR=首周囲(NG)/胸囲(CG)
- NLR=首の長さ(NL)/体長(BL)
- CFR=マズルの長さ(SnL)/前頭長(CL)
パグ
- BCSの中央値(7)は他2犬種(フレンチブル5 | ブルドッグ6)より有意に高かった
- BOASを発症している割合(64.6%)は3犬種の中で最も高かった(フレンチブル58.9% | ブルドッグ51.2%)
- BOASを発症している個体ではEW値が有意に大きかった
- 計測値間の比率と発症との間に関連性は見られなかった
- 鼻腔狭窄に関し中等度から重度の個体は4.58倍発症しやすい
- 呼吸器に難があればあるほどBCSが大きくなる傾向が見られた
- EWRとSI値が大きくなるほど発症リスクが高まったが、評価者間の同意レベルは低かった
- BCSが1増加するととBOASインデクスは6.4%増加した
フレンチブル
- 中等度から重度の鼻腔狭窄を抱えている割合(75.4%)は3犬種の中で最も高かった(パグ65.3% | ブルドッグ44.2%)
- 発症個体ではSnL値が小さくSW、EW、NG、BL値が大きかった
- 発症個体ではCFRとNLRが小さくSIとNGRが大きかった
- オス犬の方が2.13倍発症しやすかった
- 中等度から重度の鼻腔狭窄を抱えている個体では5.65倍発症しやすかった
- 中等度から重度の鼻腔狭窄を抱えている個体ではBOASインデクスが16%増加した
- NGRが0.01増加するに伴い発症率は12%増加した
- NLRが0.01増加するに伴い発症率は7%増加した
- NGRが0.01増加するに伴いBOASインデクスは1.67%増加した
ブルドッグ
- 発症個体ではNG、SI、NGRが大きかった
- 不妊手術を受けている個体では8.1倍発症しやすい
- 不妊手術を受けた個体ではBOASインデクスが24%増加
- SIが0.01増加すると発症率は5%増加
- NGR0.01増加すると発症率は29%増加
- NGR0.71超のオス犬の場合、発症の感度と特異度はおよそ70%
- NGRが0.01増加するとBOASインデクスは2%増加
- オス犬のNGRはメス犬より有意に大きかった
- 中等度から重度の鼻腔狭窄個体ではBOASインデクスが16%増加
BOASのアナログ指標
- パグ鼻腔狭窄 | BCS | EWR | SI
- フレンチブル鼻腔狭窄 | NGR | NLR
- ブルドッグ鼻腔狭窄 | BCS | SI | NGR
Liu N-C, Troconis EL, Kalmar L, Price DJ, Wright HE, Adams VJ, et al. (2017) PLoS ONE 12(8): e0181928, doi.org/10.1371/journal.pone.0181928
解説
犬たちの身体測定をする際はソフトテープメジャーが用いられましたが、評価者間の一致率はあまり高くありませんでした。つまり計測する人が変わると計測値も変わってしまうということです。理由としては「計測中に犬が動いてしまう」、「シワが多い」、「脂肪が多い」などが考えられます。パグではEWRとSI、フレンチブルドッグではNGRとNLR、ブルドッグではSIとNGRが発症の予見因子とされていますが、計測するたびに結果が変わっていたのでは少々頼りありません。
一方、アナログ指標として最も有効と考えられているのが鼻孔の形状です。3犬種すべてに共通しているのみならず、「鎮静剤や麻酔を必要としない」、「特殊な機器を必要としない」、「シワや脂肪の影響を受けない」、「時間や場所を問わない」といったメリットがあるため、慣れれば家庭でも行うことができるでしょう。以下は今回の調査チームが用いた鼻腔狭窄の評価基準です。
鼻腔狭窄が軽症の個体におけるBOAS発症率が25%だったのに対し、中等度から重度の個体では70%にまで達したといいます。短頭種の飼い主のうち、60%は呼吸器系に問題があるにもかかわらず「問題はない」と思い込んでいるといった統計データもあります。いびきをかいて寝ている姿を「可愛い」と思うのではなく、今後は「苦しそうだなぁ」と共感してあげる必要があるでしょう。