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犬の小型化や短頭化が脊髄空洞症の発症リスクを高めている

 キアリ様奇形や脊髄空洞症を発症しやすいとされる3犬種を対象としたMRI画像調査により、発症リスクを高めている頭の形が明らかになりました(2017.2.1/イギリスなど)。

詳細

 「キアリ様奇形」とは、大脳の後ろにある小脳や脳幹が定位置からずれて脊柱管内にヘルニアを起こした状態のことです。主な原因は、頭蓋骨の底面が縮小したり、頭蓋骨後方のスペース(尾側頭蓋窩)が小さくなることにより、内部に収める脳の大きさとミスマッチが起こることだと考えられています。ちょうど満員電車から乗客が押し出されるようなイメージです。またキアリ様奇形は、脳と脊髄を循環している脳脊髄液の流れを遮断してしまうことが多いため、脊髄内の導管を内側から圧迫する「脊髄空洞症」を併発することがよくあります。 脊髄空洞症を発症しやすいチワワ、アーフェンピンシャー、キャバリアキング・チャールズ・スパニエル  今回の調査を行ったイギリスとフィンランドの共同チームは、キアリ様奇形や脊髄空洞症の発症率が高いとされるチワワアーフェンピンシャーキャバリアキングチャールズスパニエルという3犬種のMRI画像を複数の病院から集め、犬種間の比較、および病気を発症していない同年代の健常犬との比較を行いました。
 11のライン、8の角度、3の比率からなる22の形態的特徴を選別し、チワワ99頭、アーフェンピンシャー42頭、キャバリア132頭の画像上にランドマークを設けて統計的に精査したところ、病気を抱えた犬では22項目中14項目で特異な値を示したといいます。また14項目中5項目は、発症率が高いことで知られるブリュッセルグリフォンと共通だったとも。細かな数値を解剖学的な用語に置き換えると、おおよそ以下のような意味になることが明らかになりました。
脊髄空洞症の危険因子
  • 後頭稜の減少頭蓋骨の下方にあり、脊髄を通す大きな穴である大後頭孔の後縁から、後頭隆起と呼ばれる骨の突起までの距離が短縮化している。
  • 蝶形骨湾曲後頭骨と顔面部に近い蝶形骨との軟骨結合部(蝶後頭軟骨結合)における角度が異常。
  • 頚椎湾曲第二頸椎の歯突起と後頭骨から形成される角度が異常で延髄の位置がずれている。
 3犬種は外見的に大きく異なっていたものの、頭蓋内における病的な圧力変化は概ね共通で、違うのは程度だけであるという可能性が示されました。以下は、健常な犬と脊髄空洞症を発症した犬のMRI画像を比較したものです。
脊髄空洞症(チワワ)
脊髄空洞症を発症したチワワと健常なチワワにおける脳のMRI比較画像
脊髄空洞症(アーフェン)
脊髄空洞症を発症したアーフェンピンシャーと健常なアーフェンピンシャーにおける脳のMRI比較画像
脊髄空洞症(キャバリア)
脊髄空洞症を発症したキャバリアキング・チャールズ・スパニエルと健常なキャバリアキング・チャールズ・スパニエルにおける脳のMRI比較画像  こうした結果から調査チームは、人為的な小型化や短頭化によるほんのわずかな頭蓋骨の変形が脳脊髄液の流れを変化させ、脊髄空洞症の発症や重症度に影響を及ぼしているという結論に至りました。目下の課題は、MRI画像上の複雑なランドマークを一瞬で識別し、発症リスクの高い個体を事前に診断したり、重症度を客観的に判別してくれるプログラムを開発することだとしています。
Craniometric Analysis of the Hindbrain and Craniocervical Junction of Chihuahua, Affenpinscher and Cavalier King Charles Spaniel Dogs With and Without Syringomyelia Secondary to Chiari-Like Malformation.
Knowler SP, Kiviranta A-M, McFadyen AK, Jokinen TS, La Ragione RM, Rusbridge C (2017) PLoS ONE 12(1): e0169898. doi:10.1371/journal.pone.0169898

解説

 3犬種に共通して見られた「後頭稜の減少」という特徴は、後頭部における脳の収容スペースが小さくなっていることを意味しています。後頭骨の成長不全がキアリ様奇形や脊髄空洞症の発症に関わっていることは昔から示唆されていますので、この3犬種の発症率を高めているのもこの形態学的な特性だと考えられます。
 キャバリアキング・チャールズ・スパニエルで特に顕著だった蝶形骨湾曲や、アーフェンピンシャーで特に顕著だった頚椎湾曲は、いずれも後頭骨の低形成や頭蓋骨後方の収容スペース(尾側頭蓋窩)の減少と関連していました。これらの湾曲は脳や脊髄の実質を圧迫することで、中を流れている脳脊髄液のスムーズな流れを阻害し、結果として脊髄空洞症を引き起こしているものと推測されます。これはちょうど、水が流れているホースを足で踏んづけるようなものです。行き場を失った水はホースをどんどんふくらませていきます。
 上記したような「後頭稜の減少」、「蝶形骨湾曲」、「頚椎湾曲」という危険因子を生み出しているそもそもの原因は、体の極端な小型化や顔面の極端な鼻ペチャ化です。人間における脊髄空洞症は難病に指定されており、重苦しい痛みや不快なしびれ感を引き起こすことが分かっています(→出典)。犬たちを不要な苦しみから解放するためには、犬種標準(スタンダード)の抜本的な変更を含めた倫理的な繁殖計画が必要となるでしょう。 犬種標準について