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犬向けノミダニ駆除製品「ネクスガード®」の効果と副作用

 犬のノミダニ駆除やフィラリア予防を目的として販売されている「ネクスガード®」シリーズ。含まれている成分の効果から副作用までを論文と出典付きで詳しく解説します。

ネクスガード®とは?

 「ネクスガード®」とはアフォキソラネル(afoxolaner)を有効成分とする犬向けのノミ・マダニ駆除製品。日本国内ではチュアブル(経口給餌式)が動物医薬品として認可されています。

アフォキソラネルの効果

 ネクスガード®の有効成分であるアフォキソラネルはイソキサゾリンに属する殺虫・殺ダニ剤の一種。動物の神経にある塩素イオンチャンネルのガンマアミノ酪酸(GABA)受容体と結合する性質を有しています。GABAは神経に対する抑制作用を持っていますので、この働きがなくなることで中枢神経が過剰興奮となって最終的に死亡してしまいます。GABA受容体は人間を含む哺乳動物も持っていますが、アフォキソラネルは無脊椎動物(特に節足動物)の受容体に特異的に結合するのが最大の特徴です。 アフォキソラネルはイソキサゾリンの化学分子構造

アフォキソラネルの危険性・副作用

 アフォキソラネルは新たに発見された成分であり、市場に出回り始めたのが2014年とつい最近のことです。摂取後は速やかに消化管から吸収され、0.01%は腎臓による代謝、30%は胆汁中に排泄されてヒドロキシルやグルクロニドといった代謝産物となって除去されると考えられています。

アフォキソラネルの毒性・安全性

 実験室レベルの調査では、アフォキソラネルがドーパミンとノルエピネフリンの細胞間輸送レセプターおよびカンナビノイド受容体タイプ1と結合する可能性が示されています。また毒性(安全性)試験はビーグルを始めとする限られた犬種を対象として行われたかなり限定的なものです。市場に出回ってから初めて、メーカーすら想像していなかった思わぬ副作用が生じてしまう危険性があります。
 なお猫を対象として10mgを月1回のペースで6ヶ月間投与したところ、肝臓の小葉中心型空胞化、胆嚢過形成、肝細胞壊死(メス)が起こったとのこと。猫の肝臓は人や犬とは酵素活性が違いますので、アフォキソラネルをうまく代謝できないものと推測されます。ネクスガードが犬専用なのはそのためです。
 ラットを対象として行われた毒性試験の結果は以下です。「NOEL」とは 毒性試験期間中に試験物質を与え続けても、動物に何の影響も認められない最大の投与量、「NOAEL」は毒性試験期間中に試験物質を与え続けても、動物に有害な影響がみられない最大の投与量という意味です。単位は体重1kg当たりで示しています。 European Medicines Agency
アフォキソラネルの毒性・ラット
  • 経口半数致死量→1g
  • 急性摂取のNOAEL→300mg
  • 慢性摂取のNOAEL→1日10mg
 投与動物は犬ですので、当然ながら犬を対象とした毒性試験も行われています。有効血漿濃度は「ネコノミ→23ng/mL」、「タマダニ→91ng/mL」、「アメリカイヌカクマダニ→110ng/mL」で、体重1kg当たり2.5mgを摂取すれば上記した基準値を達成できるとされています。
アフォキソラネルの毒性・犬
  • 子犬生後8~9週齢の子犬たちを8頭ずつからなるグループに分け、体重1kg当たり6.3mg、18.9mg、31.5mgのアフォキソラネルを月1回のペースで3ヶ月間、その後月2回のペースで3ヶ月間経口摂取させたところ、食欲、体重、血液、尿検査、血漿生化学値に異常は見られなかったといいます。また27→55→83日目における血漿濃度を調べたところ、値がほぼ同じだったことから成分は体内に蓄積しないものと推測されています。
  • コリーMDR1遺伝子に変異を抱え、イベルメクチンに感受性が高いコリーに体重1kg当たり25mg(推奨値の10倍)を投与したところ、ビーグル(7,690ng/mL)に比べて最高血中濃度が14,000ng/mLと高く、半減期も33日と長かったものの、副作用は見られなかったといいます。
  • 成犬体重1kg当たり2.5、25、100mgの割合で2週間に1度のペースで2回投与したところ、副作用がなかったという報告があります。一方別の調査では体重1kg当たり25mg(推奨値の10倍)の割合で1週おきに70日間(合計5回投与)したところ、一部の犬で尿比重が有意に低下したことから、「NOEL15mg/kg」「NOAEL25mg」と報告されています。また体重1kg当たり40、120、200mgの用量を8週(2ヶ月)明けて3回経口摂取させたところ、120と200mgグループでは24時間後に嘔吐や下痢、および最初の週で食欲不振が見られたといいます。この時の血漿濃度は21,600ng/mLでした。

アメリカでの副作用事例

 2018年、アメリカ食品医薬品局(FDA)はイソキサゾリン系のノミダニ駆除剤が一部の犬に対して神経系の副作用を引き起こすとして警告を発しました。具体的にはフルララネルを有効成分とする「ブラベクト」、サロラネルを有効成分とする「シンパリカ」、ロチラネルを有効成分とする「クレデリオ」、アフォキソラネルを有効成分とする当商品などです。症状はひきつけ、振戦(ぶるぶる震える)、運動失調(足元フラフラ)が多く、副作用が疑われる場合は速やかに報告するよう勧告しています。
 またネクスガードによって副作用が生じたとか、愛犬が命を落としたという飼い主たちがFacebook内にオープングループを作って事例報告を行っています。「Change.org」を通じて販売を禁じるような署名活動も複数あったようです(※現在は終了)。
 なお2018年1月から3月までの3ヶ月間における副作用事例(ADE)を情報開示法に基づき公開したもらったところ、アフォキソラネルを原因とするものが542もあったことが判明しています。報告が多かった症状の具体例は以下です。 Nexgard ADE report 2018
アフォキソラネルによる症状
  • 嘔吐=130
  • 元気喪失=88
  • 下痢=61
  • ひきつけ・けいれん=44
  • 食欲不振=35
  • 吐き気=30
  • そう痒症(かいかい)=24
  • 震え=16
 上記した以外にも、ネクスガードの投与が原因と考えられる落葉性天疱瘡の症例なども報告されています出典資料:White, 2018)。またアフォキソラネルを含むイソオキサゾリン系の成分は、アメリカやヨーロッパで行われた副作用事例の統計調査を通じ、哺乳動物(犬・猫・人間)に対して想定以上の毒性を発揮する危険性が指摘されています。詳しくは以下のページで解説してありますのでご参照ください。 ノミダニ駆除薬に含まれるイソオキサゾリンの危険性

日本での副作用事例

 動物医薬品データベースでは死亡例を含めたいくつかの副作用事例が報告されています。しかし製品との因果関係があやふやだったり、使用法を遵守しないいわゆる「オフラベル」の使い方が原因になった可能性もあるため、本当に副作用や死の引き金になったのかどうかはよくわかっていません。一例を挙げると「用量を守らなかった」「8週齢未満の子犬や1.8kg未満の超小型犬に使った」「使用期限の切れた古い商品や保存状態の悪い商品を使った」などです。

ネクスガード®

 ネクスガード®はアフォキソラネルを有効成分とする犬向けのノミ・マダニ駆除製品。チュアブル(経口摂取)式でノミに対しては摂取後6時間以内に効果を発揮し始め、ダニに対しては24時間以内に効果を発揮し始めるといいます。効果の持続期間はノミダニとも1ヶ月程度です。 スポットオン(滴下式)とは違って口から投与するため、吐き戻しさえなければ全量が体内に吸収されます。 【公式】ネクスガード® 犬向けネクスガードの製品パッケージ一覧

ネクスガード®の使い方

  • いつから使える?使用条件は8週齢以降および体重1.8kg以上とされています。
  • 使用頻度は?ノミダニに対する効果が1ヶ月であることから毎月の使用が望ましいとされています。
  • 使用期間は?ノミやダニは通年性で生息していますので1年中使用することが望ましいとされています。
  • 料金は?動物病院、犬の体の大きさ(体重)、体重に連動したチュアブルのサイズ、使用頻度によって合計費用は変動しますが、病院で処方される1錠の料金は超小型犬用(有効成分11.3mg/錠)なら1,300~1,700円、超大型犬用(有効成分136mg/錠)なら2,000~2,700円程度です。なお要指示薬には指定されていませんが、基本的には獣医師による診察と処方が理想とされます。
  • 使い方は?犬に粒を食べさせます。大豆由来成分を原材料とした牛肉フレーバーですので、多くの犬が自発的に経口摂取してくれます。ちなみに204頭の犬を対象とした嗜好性試験(食べてくれるかどうか)では、ビーフフレーバーのネクスガードとレバー風味の競合商品を同時に提示して、犬たちが自発的にどちらを選ぶかが検証されました。その結果、ネクスガードを食べた割合が81.4%(622錠)だったのに対し競合商品のそれは18.6%(142錠)にとどまったといいます出典資料:Carithers, 2016)【公式動画】ネクスガードのCM
  • 使用量は?体重1kg当たりに必要なアフォキソラネルの推奨量は2.5mgで、体重ごとに以下のような使用基準が設けられています。なお体重55kg以上の犬の場合は一番大きい136mg(XL)ともう1つ別の1錠を体重に合わせて与えます。
    ✓1.8kg~4.5kg未満→11.3mg(S)
    ✓4.5~11kg未満→28.3mg(M)
    ✓11~27kg未満→68mg(L)
    ✓27~55kg未満→136mg(XL)
  • 使用上の注意は?使用する際の注意点は「用法(8週齢以降+1.8kg以上)や用量(2.5mg/kg)を厳守すること」「獣医師指導のもとで与えること」「猫には使用しないこと」「2時間以内に吐き戻した場合は再投与すること」「使用期限が過ぎたものを使わない」などです。スポット(滴下)式とは違ってシャンプーやお風呂の制限はありません。なお添付文書には嘔吐、皮膚の乾燥、かゆみ、下痢、元気喪失、食欲不振といった副作用が生じる可能性が記載されています。

ネクスガード®の効果

 「Boehringer-Ingelheim」の調査チームは犬たちをランダムで7頭ずつからなる3つのグループに分け、グループ1は調査開始から2日目、グループ2は28日目、グループ3は2日目と28日目のタイミングでバベシア(B. rossi)を保有したダニに暴露し、ネクスガード®がもつ防ダニ効果を検証しました。
 グループ3にだけネクスガード®(アフォキソラネル)を与えた上で56日間におよぶ観察を行ったところ、グループ1におけるバベシア感染率が100%、2におけるそれが57.1%だったのに対し、アフォキソラネルを投与されたグループ3では0%だったといいます。またダニへの暴露から144時間後のタイミングで生息数の幾何平均を確認したところ、3つのグループにおける値はそれぞれ23.8匹、26.8匹、0匹でした。
 こうした結果から調査チームはアフォキソラネルを含む「ネクスガード®」は少なくとも28日間はバベシアからの感染を予防する効果があるとの結論に至りました出典資料:Beugnet, 2019)
 「Merial S.A.S.」の調査チームは臨床上健康な犬たちをランダムで6頭ずつからなる2つのグループに分け、一方にだけアフォキソラネル(ネクスガード®)を与えて殺ダニ効果を検証しました。試験開始前、および開始7→14→21→28日目のタイミングで50匹のマダニ(うちメスが40匹)に暴露し、暴露から12時間および24時間後におけるダニの生存数をカウントしたところ、未治療グループと比較して統計的に有意なレベルで駆除効果が確認されたといいます。また投与前に感染していたダニに対する効果は暴露12時間後のタイミングにおける駆除率が93.4%、24時間後のタイミングにおける100%でした。
 次に7→14→21→28日目における駆除率を検証したところ、暴露12間後のタイミングにおける率は未治療グループと比較してそれぞれ76.6%→41.9%→36.9%→38.5%でした。暴露24時間後のタイミングにおける駆除率は、どの評価ポイントにおいても91~100%という高いものだったとのこと。
 こうした結果から調査チームは、アフォキソラネルが24時間以内に高い確率で体にいるダニを駆除すること、およびその効果が28日間は継続するとの結論に至りました出典資料:Halos, 2014)
 「Merial S.A.S.」の調査チームは臨床上健康な犬たち24頭(9.2~28.6kg)をランダムで3つのグループに分け、1つにはネクスガード(アフォキソラネル/初日→28日目→56日目のタイミング)投与、1つにはブラベクト(フルララネル/初日にだけ)投与、残りの1つは未治療という違いをもたせてネコノミ(C.felis)に対する効果を検証しました。
 週に1回のペースで未吸血のネコノミ100匹に暴露したところ、未治療グループにおいては24時間後のタイミングにおける生存数の幾何平均が62.9~77.6匹だったといいます(基準値)。一方、ネクスガードを与えられたグループの暴露6時間後のタイミングにおける駆除率は未治療グループと比較して62.8~97.3%、12時間後におけるそれは94.1~100%でした。またブラベクトを与えられたグループの暴露12時間後のタイミングにおける駆除率は未治療グループと比較して64.7%~100%だったとも。ネコノミへの暴露から24時間後における駆除率は、84日目のブラベクト99.6%を除いてどちらの製品も100%でした出典資料:Beugnet, 2015)

ネクスガード®スペクトラ

 ネクスガード®スペクトラはアフォキソラネルとミルベマイシンオキシムを有効成分とする犬向けのチュアブル(経口摂取)式製品。アフォキソラネルの効果はノミ・マダニ駆除で、ノミに対しては摂取後8時間以内に効果を発揮し始め、ダニに対しては48時間以内に効果を発揮し始めるといいます。効果の持続期間はノミダニとも1ヶ月程度です。一方、ミルベマイシンオキシムの効果はフィラリア(犬糸状虫)予防および消化管寄生虫(回虫・鞭虫・鉤虫)の駆除で、それぞれの有効性は100%とされています。スポットオン(滴下式)とは違って口から投与するため、吐き戻しさえなければ全量が体内に吸収されます。 【公式】ネクスガード® 犬向けネクスガードスペクトラの製品パッケージ一覧

ネクスガード®スペクトラの使い方

  • いつから使える?使用条件は8週齢以降および体重1.8kg以上とされています。
  • 使用頻度は?ノミダニに対する効果が1ヶ月であることから毎月の使用が望ましいとされています。
  • 使用期間は?ノミやダニは通年性で生息していますので1年中使用することが望ましいとされています。
  • 料金は?動物病院、犬の体の大きさ(体重)、体重に連動したチュアブルのサイズ、使用頻度によって合計費用は変動しますが、病院で処方される1錠の料金は超小型犬用(有効成分11.3mg/錠)なら2,000~2,500円、超大型犬用(有効成分180mg/錠)なら3,200~4,400円程度です。なお動物医薬品のため、基本的には獣医師による処方箋がないと使用できません。
  • 使い方は?犬に粒を食べさせます。大豆由来成分を原材料とした牛肉フレーバーですので、多くの犬が自発的に経口摂取してくれます。【公式動画】ネクスガードのCM
  • 使用量は?体重1kg当たりに必要なアフォキソラネルの推奨量は2.5mg、ミルベマイシンオキシムのそれは0.5mgで、体重ごとに以下のような使用基準が設けられています。なお体重60kg以上の犬の場合は一番大きい180mg(XL)ともう1つ別の1錠を体重に合わせて与えます。
    ✓1.8kg~3.6kg未満→11.3mg(XS)
    ✓3.6~7.5kg未満→22.5mg(S)
    ✓7.5~15kg未満→45mg(M)
    ✓15~30kg未満→90mg(L)
    ✓30~60kg未満→180mg(XL)
     たとえば一番小さいサイズの「ネクスガードスペクトラ11.3」に含まれる有効成分はアフォキソラネル9.38mgとミルベマイシンオキシム1.88mgです。同様に22.5は18.75mgと3.75mg、45は37.5mgと7.5mg、90は75mgと15mg、180は150mgと30mgという比率になっています。姉妹商品である「ネクスガード」とは成分の含有量と対象となる犬の体重区分が異なりますのでご注意ください。
  • 使用上の注意は?使用する際の注意点は「用法(8週齢以降+1.8kg以上)や用量を厳守すること」「猫には使用しないこと」「2時間以内に吐き戻した場合は再投与すること」「使用期限が過ぎたものを使わない」などです。フィラリア予防成分「ミルベマイシンオキシム」が含まれていますので、すでにフィラリアに感染した犬およびMDR1変異を抱えたコリー(およびその系列犬種)では副作用や中毒に陥る危険性が高まります。獣医師指導のもとで与えることが鉄則です。スポット(滴下)式とは違ってシャンプーやお風呂の制限はありません。なお添付文書には嘔吐、皮膚の乾燥、かゆみ、下痢、元気喪失、食欲不振といった副作用が生じる可能性が記載されています。

ネクスガード®スペクトラの効果

 イタリア・メッシーナ大学の調査チームは寄生虫媒介性の病気が蔓延する地域において、41頭の犬たちを対象とした複数の駆虫薬同時投与試験を行いました。試験開始前における保有率は消化管の内部寄生虫58.5%、ノミ58.5%、ダニ9.8%でした。
 フロントラインプラス(フィプロニル+メトプレン)およびネクスガードスペクトラ(アフォキソラネル+ミルベマイシンオキシム)を初日→28→56→84→112→140日後のタイミングで同時に投与し、合計168日間に及ぶ長期的な観察を行った結果、投与から14日目には回虫(T.canis, T.leonina, C.aerophila)が100%の確率で駆除されていたといいます。一方、虫卵に関しては鞭虫卵を1頭、鉤虫卵を9頭が便中に排出していたとも。投与試験終了時(168日後)のチェックではすべての犬の体内から線虫類が駆除されていました。最初の投与から24時間後のチェックでは外部寄生虫(ノミとダニ)がすでに95.8%駆除されており、試験開始から56~168日の間ではすべてのチェックポイントで寄生虫はゼロでした。また試験終了時に血液検査したところ、ミクロフィラリアはいなかったそうです。
 こうした結果から調査チームは、2つの駆虫薬を同時に投与しても副作用は見られず、またお互いの効果を干渉することもないとの結論に至りました出典資料:Abbate, 2018)
 メリアルの調査チームは20頭の犬たちをランダムで2つのグループに分け、一方にだけネクスガード®スペクトラを投与した上でネコノミおよび瓜実条虫に対する予防効果を検証しました。両グループを週に1回の割合でネコノミ100匹(10~33%は瓜実条虫あり)に暴露し、35日後のタイミングで生息しているノミの数をカウントしたところ、未治療のグループにおける幾何平均が47.7匹だったのに対し、ネクスガード®スペクトラを投与されたグループにおけるそれが0匹だったといいます。また70日後のタイミングで瓜実条虫の感染率を調べたところ、未治療グループが70%(7頭)だったのに対し投与グループでは0%だったとも出典資料:Beugnet, 2017)
 「Merial SAS」の調査チームは16頭の犬たちに感染性を有した鉤虫(A. ceylanicum)の幼体500匹を経口的に与え、それから17日後にランダムで2つのグループに分けて一方にだけネクスガード®スペクトラを投与して駆虫効果を検証しました。投与から7日後のタイミングで成虫の保有数をカウントしたところ、未治療グループでは幾何平均で317.8匹だったのに対し、投与グループでは2頭で感染が確認され、幾何平均は0.5匹と算定されました(※1頭は1匹、もう1頭は9匹と少数)。こうした結果から調査チームはネクスガード®スペクトラが鉤虫に対して99.9%の駆除率を有しているとの結論に至りました出典資料:Tielemans, 2017)

ミルベマイシンオキシムの危険性・副作用

 通常のネクスガードとネクスガードスペクトラの最大の違いは、後者にアフォキソラネルのほかミルベマイシンオキシムと呼ばれる有効成分が含まれている点です。フィラリアの幼虫駆除に用いられるのはマクロライド(12員環以上の大環状ラクトン)と呼ばれる薬剤で、ミルベマイシンオキシムはミルベマイシン系マクロライドに属します。
 ミルベマイシンオキシムはミクロフィラリアのみならず幼虫のL3やL4にも有効ですが成虫にはほとんど効きません。細胞膜のクロライドチャネルに作用することにより、寄生線虫類や節足動物の神経筋に麻痺を起こして死に至らしめます。またミクロフィラリアや幼虫が犬の免疫攻撃をかわすために分泌する特殊なタンパク質の量を減らすことで、防御力を低下させているという可能性も指摘されています。
 同じくマクロライドに属するイベルメクチンはMDR1遺伝子に変異を抱えた犬種において中毒を引き起こしやすいことがわかっていますが、ミルベマイシンオキシムはそれほど毒性を発揮しないようです。ラフコリー(16頭)、ビアデッドコリー(3頭)、シェルティー(40頭)を対象とし、体重1kg当たり0.25mgのミルベマイシンオキシムを月に一回のペースで半年に渡って投与したところ、ラフコリー1頭で投与直後の流涎(よだれ)が確認された以外、異常は見られなかったといいます。こうした結果から調査チームは寄生予防を目的とした投与量であればコリー種の犬にも安全に使用できる可能性が高いとの結論に至っています出典資料:Kitagawa, 1992)
 比較的安全性が高いとは言え、上記した調査では犬がそもそもMDR1遺伝子の変異を有していたかどうかが判明していません。また製品の公式添付文書ではMDR1遺伝子に変異を抱えた犬種においては中毒に陥るリスクが高いことが明記されています。具体的な危険犬種はコリー(ラフ+スムース)、オーストラリアンシェパードシェットランドシープドッグ(シェルティ)などですので、こうした犬種(もしくは犬種の血が混じったミックス犬)を飼っている方は以下のページもご参照ください。フィラリア予防薬(イベルメクチン)中毒を引き起こすMDR1遺伝子の変異率調査
ノミ皮膚炎」や「マダニ症」もあわせてご覧ください。皮膚症状だけでなく、寄生虫が保有する細菌やウイルスが重大な感染症を引き起こす危険性もあります。また「フィラリア症」についても詳しく解説してあります。