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太った犬をしつける時は上質なおやつを確実に与える必要あり?

 太った犬と普通体型の犬を対象とした行動観察により、デブ犬のモチベーションを高めるには「おやつの質」と「報酬の確実性」の両方に気を遣わなければならない可能性が示されました(2018.6.28/ハンガリー)。

詳細

 調査を行ったのはハンガリーにあるエトヴェシュ・ロラーンド大学のチーム。犬の肥満を引き起こしている要因が何であるかを確かめるため、「二者択一テスト」と「認知バイアステスト」と呼ばれる2つのプロトコルを用いた検証を行いました。調査対象となったのは4犬種に属する合計68頭の犬たち。太りやすい犬の代表としてはゴールデンレトリバー(8頭)、ラブラドールレトリバー(14頭)、ビーグル(21頭)、太りにくい犬の代表としてはボーダーコリー(24頭)とムーディ(2頭)が選ばれました。ボーダーコリーとムーディを除いた犬種には「通常体型」の個体と「肥満体型」の個体が含まれています。具体的なテスト手順は以下です。
二者択一テスト
 犬の前に2つの容器を置き、どちらか一方に低質なおやつ(ニンジンやオレンジ)を入れておく。もう一方の容器は「空っぽ」か「上質なおやつ(Frolicトリート)」のどちらか。犬たちをランダムで2グループに分割し、「低質 | 空っぽ」パターンか「低質 | 上質」パターンのどちらかに割り振る。実験者は常に低質なおやつが入った容器を指差し、犬に自由行動を許す。果たして犬はどちらの容器を自発的に選ぶか? 人間の指差しに従うかどうかは、他方の容器に入っている報酬の度合いによって左右される 【テスト結果】
✓犬種や体型にかかわらず、「低質 | 上質」パターンに割り振られた犬の方が、「低質 | 空っぽ」パターンに割り振られた犬よりも20回のテストを完了する割合が高かった。また回を重ねるごとに近づくまでの時間も短くなっていった。
✓「低質 | 上質」パターンの場合、犬種別ではビーグルが、体型別では太った犬の方が実験者が指さした方とは逆側にある容器(=上質なおやつが入った容器)を選ぶ傾向が強かった。
認知バイアステスト
 部屋を2つの区画に分け、一方を「おやつエリア」、他方を「おやつなしエリア」と固定して犬に記憶させる。犬がエリアと報酬との関連性をしっかりと学習した後、実験者は両方のエリアのちょうど中間(あいまいエリエ)に容器を置く。自由行動を許された犬たちは、果たしてどのような行動をとるか? 報酬が不確実なときの行動パターンで楽観的か悲観的かがわかる 【テスト結果】
✓体型別では普通体型の犬の方が太った犬よりも「あいまいエリア」に近づく確率が高かった
✓近づく確率を並べると「おやつなしエリア」<「あいまいエリア」<「おやつエリア」
✓犬種別ではムーディとビーグルがレトリバーやボーダーコリーよりも近づく確率が高かった
The behaviour of overweight dogs shows similarity with personality traits of overweight humans
Akos Pogany, Orsolya Torda, Lieta Marinelli, Rita Lenkei, Vanda Juno, Peter Pongracz, R. Soc. open sci. 2018 5 172398; DOI: 10.1098/rsos.172398. Published 6 June 2018

解説

 人間を対象とした調査では、パーソナリティのうち「神経質」「衝動性」「報酬感受性」といった側面が肥満のリスクファクターで、逆に「誠実性」と「自己制御」が肥満に対して防御的に働くとされています。
 太った体型の犬では、二者択一テストにおいて実験者の指差しを無視して逆側の容器(=上質なおやつが入った方)を選ぶという傾向が見られました。「人間の指示を無視する」という側面に着目すると、パーソナリティで言う「衝動性」が強く「自己制御」が弱いと見ることもできます。また「上質な方を選ぶ」という側面に着目すると、パーソナリティで言う「報酬感受性」が強いと見ることもできるでしょう。平たく言うと「ご馳走を目の前にした犬は、我を忘れて周囲が見えなくなってしまう」といったところでしょうか。
 太った体型の犬では、認知バイアステストにおいて「あいまいなエリアに近づきにくい」という傾向を見せました。「おやつが入っているかもしれないから近づいてみよう!」という考え方を楽天主義とすると、「確実に入っていないなら近づかない」という考え方は悲観主義と捉えることもできます。一般的に太った犬は「お腹がいっぱいになるんだったら何でもいい」という大食漢のイメージがありますが、胃袋を膨らませることではなく口当たりや喉越し(味覚神経)による快感を求める傾向が強いのかもしれません。案外、グルメなのでしょうか。ちなみに人間においては悲観的なものの見方がうつ病や肥満と関係があるとされています。
 ビーグルとレトリバーは共に太りやすい犬種として知られていますが、2つのテストでは必ずしも同じ結果にはなりませんでした。こうした違いの背景にあるのは、ビーグルが人間からある程度独立して働くように選択繁殖された嗅覚犬であるのに対し、レトリバーは人間と協調して働くように選択繁殖された猟犬(作業犬)であるという歴史的な事実だと推測されています。要するに人間と協調しやすいレトリバーは人間の指示に従いやすく、人間の指示が出されていない所には近づきにくいということです。裏を返せば、人間から独立しているビーグルは、人間の指示に従いにくく(=二者択一テストで指示された方とは逆の容器を選ぶ)、人間の指示が出されていない所にも近づきやすい(認知バイアステストであいまいエリアに近づく)となるでしょう。
 太っている犬は「上質なおやつ」に敏感で「確実に手に入らないと動かない」傾向が強い可能性があります。犬に何かをしつける際、おやつを用いるのは正攻法ですが、太った犬にしつけを施す際は「上質なおやつを確実に与える」という状況を設定しないとなかなか動いてくれないようです。報酬をランダムにする「間欠強化」を用いると、犬がいじけてモチベーションが低下してしまう可能性があるというのは困ったものですね。 太った犬は上質な報酬を確実に与えられる状況でなければモチベーションが高まらない  犬のわがままに付き合って、事あるごとにおやつを与えていると、ますます肥満が助長されてしまいますので、なるべく早い段階で「ほめる」「なでる」「おもちゃで遊ぶ」といった社会的な報酬に切り替える必要があるでしょう。幸いなのは、こうした社会的な報酬は物質的な報酬と同じくらい、もしくはそれ以上の快感を犬にもたらしてくれるということです。猫ではそうはいきませんので。 犬の肥満 犬のしつけの基本