12月25日
遊びの中で観察される模倣行動という新たな視点により、従来よりあった「犬にも人間と同じような共感能力がある」という仮説に新たな証拠が加わりました。調査を行ったのは、イタリア・ピサ大学の研究チーム。2012年8月、イタリア・シシリア島にあるドックパークにおいて、49頭(メス26頭+オス23頭/平均17ヶ月齢 )の犬を対象とした録画観察を行いました。合計50時間に及ぶ犬同士のプレイセッション(遊び交流)を解析し、飼い主に対する聞き取り調査から判明した犬同士の関係性と比べ合わせたところ、以下のような事実が判明したといいます。なお「PBOW」とは、犬が相手を遊びに誘うときに見せる特徴的なおじぎ姿勢のことで、「ROM」とはリラックスした感じで口角を引いた表情のことです。
遊び中の模倣行動
- PBOWやROMを受け取った犬では、77%の割合でその行動に対する模倣が見られた
- 模倣行動が見られたペアにおいては遊び行動が長く継続した
- 犬同士の関係性によって共感グラデーションが観察された
12月23日
恋人募集中の独身男女1,000人以上を対象としたアンケート調査により、交際期間中のペットの役割に対し、男性と女性とでは異なる意識を持っていることが明らかになりました。調査を行ったのは、アメリカ・インディアナ大学を中心とした研究チーム。2014年、男女の出会いを促進するサイト「Match.com」内の自己プロフィール欄に「ペットを飼っている」と記載してあった独身の男女1,210人を対象とし、21項目からなるアンケート調査を行いました。質問内容には、年齢、性別、飼っているペットの種類といった基本事項のほか、「初デートにペットを連れて行くか?」、「相手に飼ってほしいペットは何か?」、「ペットに対する扱い方で相手を評価するか?」など、生活の中におけるペットの位置づけに関する事項も含まれています。
得られたデータを11個の独立した変数にまとめ上げたところ、11項目中8つの項目において、女性は男性よりも付き合ってる間のペットの役割に重きを置いており、パートナーを選り好みする傾向を有していることが分かったといいます。そして猫よりも多くの世話を要する犬の方が、相手を評価する際の判断材料として強い役割を持っていたとも。
こうした結果から研究チームは、男性と女性におけるペットに対する向き合い方の違いは、進化の過程で獲得してきた男女それぞれの社会的・生物学的な役割の違いを反映しているのではないかとの推論を展開しています。その違いとはつまり、「子育て」に多くの時間を割く女性は、生まれてくる子供に対して相手の男性が提供できる「経済力」、「感情面での関わり」、「資源」などを時間をかけて吟味するのに対し、「子作り」に多くの時間を割く男性は、相手の女性が持つ「繁殖力」と「性的魅力」をパッと見で評価するという傾向のことです。
この推論が正しいとすると、女性が交際期間中のペットの役割を重んじている理由は、「ペット=将来の子供」と想定し、相手の男性がどのような関わり方をするかを横目でじっと見ているからかもしれません。また「相手の関心を引くためにペットを利用したことがある」という質問に対し、女性よりも男性の方が回答する割合が高かった理由は、男性にとってのペットが、女性に「かわいい!」と言わせて家に誘うためのマスコットキャラクターとしての側面を持っているからかもしれません。なお研究チームは、この調査はアメリカ国内で行われたものであり、即座に全世界の男女に一般化できるものではないとの但し書きを付けています。 The Roles of Pet Dogs and Cats in Human Courtship and Dating
12月21日
日本とアメリカで行われ大規模アンケート調査により、様々な犬種を遺伝的に分類した8グループがもつ、特徴的な性格傾向が明らかになりました。調査を行ったのは、日本の麻布大学・動物応用科学科のチーム。犬と身近に接している人を対象としたアンケート調査「C-BARQ」を日本とアメリカの両国で行い、日本から2,951人、アメリカから10,389人の回答者を得ました。アンケートから解析を行ったのは、以下に述べる11項目です。
C-BARQから見る性格傾向
- 見知らぬ人への攻撃性
- 見知らぬ人への恐怖
- 訓練性
- 分離不安
- 運動活性
- 非社会的な恐怖
- 同居人への攻撃性
- 見知らぬ犬への恐怖
- 見知らぬ犬への攻撃性
- 愛着
- 通行人への攻撃性
遺伝的8グループ
- スピッツ
- トイ
- スパニエル・セントハウンド・プードル
- ワーキング
- スモールテリア
- サイトハウンド・ハーディング
- レトリバー
- マスティフ
12月18日
2頭の犬を対象とした調査により、犬には他の個体に無償の施しを与える「利他行為」らしきものがあることが判明しました。調査を行ったのは、オーストリア・ウィーン大学の研究チーム。お互いの姿が見える状態の小区画を2つ用意し、一方の区画で棒を引っ張ると他方の区画でエサが与えられるという仕組みを作りました。そしてこの区画の中に2頭の犬を入れ、棒を引っ張る「ドナー犬」がどのような頻度で相方の犬に餌を施してあげるかを観察しました。実験で用意された状況は以下の5つです。
ドナー犬の実験状況
- 顔なじみの犬が区画内にいる
- 顔なじみの犬が区画外にいる
- 見知らぬ犬が区画内にいる
- 見知らぬ犬が区画外にいる
- 隣に犬がいない
12月16日
イギリス国内において、心臓疾患の一種である「退行性僧帽弁疾患」(DMVD)に関する統計調査を行ったところ、やはり「キャバリアキングチャールズスパニエル」が危険因子として浮かび上がってきました。調査を行ったのはイギリスの王立獣医大学とオーストラリアのシドニー大学からなる共同研究チーム。2010年1月~2011年12月の期間、イギリス国内93の動物病院から集められた疾患データベースを基に、犬における「退行性僧帽弁疾患」に関する統計調査を行ったところ、111,967頭中、DMVDと診断された数は405頭(0.36%)、そして心雑音から当症の疑いがあると診断された数は3,557頭(3.18%)だったといいます。その他の詳細データは以下。なお「生存期間中央値」とは、患犬のうち半数の生存が認められる期間のことです。
DMVD群(405頭)
- 調査中にDMVDと判明したのは116頭(28.6%)
- 診断時の平均年齢は9.52年齢
- 追跡調査中に命を落としたのは58頭(50%)
- 生存期間中央値は25.4ヶ月
DMVD予備群(ランダム407頭)
- 調査中に疑いがあるとされたのは121頭(29.7%)
- 診断時の平均年齢は9.73歳
- 追跡調査中に命を落としたのは49頭(40.5%)
- 生存期間中央値は33.8ヶ月
12月14日
自己と他者の存在を区別する「自意識」は、従来犬にないと考えられてきましたが、新たに考案された「クンクン自意識テスト」によって、この定説が覆えされそうです。実験を行ったのは、ロシア・トムスク大学のロベルト・カゾーラ・ガティ氏。自分と他者の違いを理解する「自意識」の存在は、これまで「ミラーテスト」と呼ばれるテストによって、一部の動物に備わっていることが実証されてきました。このテストは、鏡に映った自分の姿を見て、こっそり付けられた目印を認識できるかどうかによって自意識の有無を判定するというもので、人間、ゴリラを除く大型類人猿、アジアゾウ、イルカ、カササギ、一部のアリなどがクリアしています。しかし今回の調査を行ったガティ氏が納得できなかったのは、動物界を広く見渡してみても、「鏡を覗く」という不自然な行為が、人間以外ではほとんど観察されないという点です。そこで同氏は、人類中心主義から動物中心主義へ意識を転換した「クンクン自意識テスト」(sniff test of self-recognition, STSR)を考案しました。
同氏は4頭の野良犬から尿サンプルを採取し、4つの尿と1つの無臭ダミーからなる5つの匂いサンプルを、春夏秋冬の始めに5分間だけ自由に嗅がせるという実験を行いました。その結果、すべての犬は自分自身のおしっこの匂いよりも、他の犬のおしっこの匂いの方をより長時間嗅いだと言います。またチンパンジーや人間同様、自意識は年齢と共に強くなるとも。
こうした事実からガティ氏は、犬は従来、自意識がないと考えられてきたが、それはミラーテストをクリアできなかったというだけであり、実際には自己と他者を明確に区別しているのかもしれないという可能性を示しました。また、今回採用した「クンクン自意識テスト」と同じように、動物が五感のうちのどれを多用しているかによって、自意識テストは適宜アレンジしなければフェアではないとも語っています。 Dogs (and probably many other animals) have a conscience too
12月11日
様々な口腔ケアが、歯の表面に生息する細菌数にどのような変化をもたらすかを調査したところ、繁殖予防には「歯磨き」が最も効果的であることが確認されました。調査を行ったのは岐阜大学・応用生物科学部のチーム。臨床上健康で歯周病を抱えていない20頭のビーグル(1~6歳)をランダムで4つのグループに分け、それぞれに対して以下に示すような異なる歯周ケアを行いました。文中の「スケーリング」とは、超音波を用いて歯表面の歯石を除去することで、「ポリッシング」とは特殊な機材を用いて歯の表面を滑らかにする手技のことを意味しています。
歯周ケアによるグループ分け
- Sグループスケーリングのみ
- SPグループスケーリング+ポリッシング
- SBグループスケーリング+毎日のブラッシング
- SPBグループスケーリング+ポリッシング+毎日のブラッシング
12月10日
母犬と子犬からなる野犬のグループを観察したところ、美味しい食事を目の前にした母犬は、子犬を差し置いて我先にがっつくグルメな傾向があることが明らかになりました。調査を行ったのはインド科学教育研究機関のチーム。ベンガル西部に暮らしている野犬の親子合計16組を対象とし、2011年から13年にかけて、食物を巡る母子間の抗争(POC)を観察しました。唯一人間が操作したのは、犬に与えるエサを炭水化物の代表である「ビスケット or パン」とタンパク質の代表である「生の鶏肉」とに振り分けたことです。
その結果、母子間の抗争はエサが「生の鶏肉」のとき著明に激しくなったといいます。そしてこの抗争は、主として母犬の「がっつき」によって生み出されていたとも。 こうした事実から研究チームは、子犬の離乳が終わっている場合、母犬は生涯繁殖率を高めるために母性よりも自分の欲求を優先するという傾向を見出しました。またこの傾向は、筋肉のもとになるタンパク質を多く含んでいるなど、食事のクオリティが高いときほど顕著になるとも。さらに、犬がすんなりと人間に家畜化されたのは、集団を形成して狩りを行う「ハンタースタイル」よりも、人間のそばにくっついておこぼれをもらう「スカベンジャスタイル」に転向した方が、より質の高い食事にありけることに気づいたからではないかと推測しています。犬の家畜化は人間が犬を連れ込んで起こったのか、それとも犬の方から自発的に人間に近づいて起こったのかという点に関してはいまだに論争が続いていますが、この調査はどちらかといえば後者に味方しているようです。 Selfish mothers indeed! Resource-dependent conflict over extended parental care in free-ranging dogs
12月8日
何もない場所に飛びついてパクパク噛み付く「ハエとり症候群」と呼ばれる奇妙な症状が、投薬治療によって改善する可能性が示されました。「ハエとり症候群」(Fly Catching Syndrome, ハエ噛み行動とも)は、何もない中空に噛み付こうとする突発性の奇行。頻度は散発的~恒常的で、ジャンプのほか「口元を舐める」、「何かを飲み込むしぐさを見せる」といった随伴症状を示すこともあります。 原因に関しては様々な説が唱えられているものの、未だに確かなことはわかっていません。一例としては以下のようなものがあります。
ハエとり症候群の病因
- 視覚野に発生するてんかんの一種?
- 焦点性てんかん発作の複合?
- 強迫神経症の一種?
- 幻覚?
- 常同行動?
ハエとり症候群と病変
- 視覚野がある後頭葉のスパイク電位=8頭
- 両側性の聴覚障害=3頭
- キアリ奇形=6頭
- 脊髄空洞症=1頭
- 大脳鎌髄膜腫=1頭
こうした事実から研究チームは、ハエとり症候群には抗てんかん薬より抗うつ薬の方が奏功しやすいとの結論に至りました。ただし発生要因に関しては依然としてよくわからないとのこと。 Science Direct
12月4日
他の犬の動きを見て同じ動きを真似する「模倣学習」の能力は、年齢とともに高まることが明らかになりました。調査を行ったのは、イタリア ・ナポリ大学の生物学チーム。50頭のラブラドールレトリバーを訓練性の高さによって標準クラスと上級クラスとに分けたのち、各クラスをさらに「テストグループ」と「比較グループ」とに振り分けました。そして「テストグループ」には事前に他の犬によるお手本を見せた状態で、そして「比較グループ」には何も見せない状態で「切り株の上に飛び乗る」・「子供用滑り台に上る」などの行動を行わせました。その結果、「テストグループ」においては目標としている行動を実行するまでの時間が極めて短かったといいます。そしてその傾向は、年齢と伴に高くなったとも。
こうした事実から研究チームは、成犬による「模倣学習」は、「古典的条件付け」や「オペラント条件付け」を補助する第3の訓練手法になりうるとの結論に至りました。例えば2頭の犬を飼っている家庭においては、2頭同時に訓練するのではなく、まず一方の犬に動作をマスターさせた後、他方の犬にお手本として見せる、といった応用が効きそうです。 Conspecific observational learning by adult dogs in a training context
12月2日
老犬に多い内分泌疾患「クッシング症候群」に対する新しい投薬治療の可能性が南米を中心に検証されています。「クッシング症候群」は、腎臓の上にある副腎と呼ばれる小さな分泌器官で生成される「副腎皮質ホルモン」(コルチゾール)が過剰分泌されて発症する病気。8~12歳の老犬に多いとされています。この疾患に対する治療法はこれまで、副腎をターゲットとした薬剤による投薬治療が中心でしたが、現在南米を中心に検証されているのが、疾患原因のうち約8割を占める「下垂体の腫瘍」をターゲットとした新しい投薬治療の可能性です。
具体的に用いられるのは、ドーパミン作動性薬剤(カベルゴリン, cabergoline)や成長ホルモン阻害薬(パシレオチド, pasireotide)など。臨床試験においては、腫瘍が小さい場合に限り、腫瘍体積の縮小と副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の分泌抑制効果が認められたといいます。
従来用いられてきたミトタンといった向副腎皮質薬は、長期的に使用した場合それなりの副作用を伴うのが難点でした。こうした薬の代わりに向下垂体薬が用いられるようになれば、犬に対する負担がいくらか軽減してくれるかもしれません。 New possible Cushing’s treatments work at root cause