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犬はてんかん発作を予知できる?~患者の発するにおいだけから危険を察知

 てんかん(epilepsy)とは脳細胞のネットワーク内で起こる異常な電気活動(てんかん放電)のため、てんかん発作と呼ばれるけいれんや意識障害をきたす病気です。メカニズムは解明されていませんが、世の中にはなぜかこの「てんかん発作」を予知できる犬がいるようです。詳しく見ていきましょう!

てんかん予知犬とは何か?

 てんかん(epilepsy)とは脳細胞のネットワーク内で起こる異常な電気活動(てんかん放電)のため、てんかん発作と呼ばれるけいれんや意識障害をきたす病気です。「抗てんかん薬」というものはあるものの、てんかんの根本原因を取り除くものではなく、あくまでも発作の症状を予防したり軽減したりすることを目的としています。
 てんかんには様々なタイプがありますが、自分で発作を予知できるものはまれで、突然発作に襲われて昏倒してしまうというケースが大半です。しかし、医学的、科学的にはまったく未解明ながらも、このてんかん発作を数十秒~数時間前に予知して飼い主に警告を発するという犬が多数報告されています。以下ではこのてんかん予知犬について、現段階でわかっていることをご紹介していきます。

てんかん予知のメカニズム

 アメリカの「Epilepsy Institute」(てんかん協会)は、てんかん予知のメカニズムを解明しようと脳波計(EEG)とビデオカメラを用いて、てんかん発作が起こる直前の患者と犬をモニターしようと試みました。しかし研究資金が途中で底を付き、実際に発作が起こる前に計画が頓挫(とんざ)してしまったとのこと。 犬のてんかん予知能力に関してはほとんど研究が行われていませんが、以下では数少ないレポートの一部をご紹介します。

1993年・Andrew Edneyのレポート

 1993年、イギリスの獣医学者・Andrew Edney氏は、てんかん発作の前に犬が見せる警告行動に関し、本格的な調査を実施した人物です。てんかん発作を予告することができるとされる21頭の犬について詳しく調査した結果、以下のような特徴が浮き彫りになったといいます。
てんかん発作前に見られる犬の行動
  • 不安な表情を見せる
  • 落ち着きを失う
  • 近くにいる人に何らかの警戒を促す
  • 吠える
  • 哀れっぽく鼻を鳴らす
  • 飛び跳ねて飼い主に鼻を擦り付ける
  • 飼い主の手や顔をなめる
  • 飼い主の近くに座ったり横になることを促す
 調査を行ったEdney氏は犬の行動に関し患者を急停止させて事前に対処させるように意図しているとし、発作に襲われているときの犬の行動にはかなり一貫性があり、保護と蘇生、近くの人への警告に向けられているようだと結論付けています。
 しかしてんかん前後の犬の行動は明らかになったものの、これはあくまでも目に見える犬の反応に関する統計であり、「なぜてんかん発作を予知できるのか?」という目に見えないメカニズムに迫るものではありませんでした。

1998年・フロリダ大学のレポート

 1998年、Deborah Dalzielさん主導の下、フロリダ大学の獣医学部で行われた研究レポートがあります(→出典)。
 レポートによると、犬を飼っており、最低でも月に一度のてんかん発作に悩まされている29名のてんかん患者のうち、9頭が発作の直後、飼い主のそばにたたずんだり顔や手をなめたりして反応したとされています。さらにそれら9頭のうち、3頭がおおよそ発作の3分前に飼い主に対して何らかの警告を発したとのことです。
 「犬がてんかんを予知する」という不思議な現象は、仮説の域を出ていないものの、おおむね以下の3つの説で説明されます。
てんかん発作予知のメカニズム・仮説
  • 発作前に現れる飼い主の微妙なしぐさの変化を読み取っている
  • 発作前に脳内で発生する電気的な変化を感知している
  • 発作前に発せられる何らかの未知の化学物質を嗅ぎ取っている

てんかん予知犬のメリット

 てんかん予知犬のメリットとしては、おおむね以下のようなものがあります。
てんかん予知犬のメリット
  • てんかん予防効果てんかん発作が起こる前に、犬による何らかの警告があれば、薬を飲んで発作を抑えたり、暴れて怪我をしないように安全な場所に移動したり、あるいは発作前後の自分をケアしてくれる家族や友人を呼んだりする猶予(ゆうよ)が生まれますので、てんかん患者にとっては大きな安心となるでしょう。
  • QOLの向上発作を予知するメカニズムはどうあれ、てんかん予知犬との共同生活によって患者は一様に自信を取り戻し、陰鬱(いんうつ)な気分から解放され、行動の幅がぐんと広がるというQOL(Quolity of Life=生活の質)の向上を享受できます。
  • アニマルセラピー犬が生来持っているセラピー能力(詳細は犬のアニマルセラピー参照)によりてんかん患者のストレスが軽減し、ストレス依存性のてんかん発作を低減してくれるという二次的な効果もあります。

てんかん予知犬の展望

 現在、全米で活躍しているてんかん予知犬はそれほど多くありません。この背景には、犬を訓練する際の費用や時間、そして困難さがあるようです。「Service Dogs For People with Seizure Disorders」(発作性障害を持つ人々のためのサービスドッグ)を著したDeborah Dalzielさんによると、てんかん予知犬の訓練には最低でも2年以上かかり、費用は10,000~25,000ドル程度かかるものの、補助金を出している州はほとんどないとのこと。また、てんかんを意図的に再現することが困難なため、犬の訓練が遅々として進まない、とも指摘しています。
 上記したように、「トレーニングに時間や費用がかかる」、「てんかん発作を事前に再現して訓練することが難しい」などの理由から、てんかん予知犬を次々と排出することは難しいようです。また、日本においてはその存在すら知られていないというのが現状でしょう。しかし、犬が何を手がかりにしててんかんを予知しているのかを科学的に解明し、さらにその手がかりを感知する機械を開発することができれば、てんかん患者にとって大きな希望の光となってくれます。もしこのてんかん予知機が一般に普及すれば、てんかん発作のせいで行動を制限されている患者の福祉につながるだけでなく、てんかん発作が原因だと考えられる各種の事故を減らしてくれることは間違いありません。 てんかん発作による事故
バイオミミクリーとは?
 「バイオ・ミミクリー」は日本語で「生物模倣」(せいぶつもほう)といい、自然界で生きている生物の機能を観察し、それを人間が使用する機械や道具などに応用することを指します。具体例は以下。
  • カジキの肌ミズノが2008年の北京オリンピック向けに開発した競泳用水着は、カジキの肌を参考にして水を吸収しやすい高分子を生地に埋め込んでいる。
  • ヤモリの足イギリスのマンチェスター大学の研究チームはヤモリの足にヒントを得て、0.5cm四方で100g以上のものを貼り付けることが可能な吸盤のような新素材を開発。
  • 猫の舌シャープが2011年に開発した掃除機では、内部にある回転羽根の表面に猫の舌を模した突起がつけられ、ゴミの吸着力を高めている。
 2014年に行われた実験により、特殊な機器を用いればてんかん発作を予知できるという可能性が示されました。調査の対象となったのは、てんかん発作をもつ3頭の犬。脳内に特殊な電極を差し込み、脳波を常時モニターできるようにしたところ、てんかん発作が出る前に、ある特徴的な脳波が観察されたとのこと。そしてこの脳波を特殊な機器とアルゴリズムを用いて事前に探知すれば、かなりの確率でてんかん発作を予測できるとも。いわゆる「てんかん予知犬」は、未知のメカニズムを通じてこの脳波を感知しているのかもしれません。 Forecasting Seizures in Dogs with Naturally Occurring Epilepsy