犬のクリプトスポリジウム症の病態と症状
クリプトスポリジウム症は、原虫であるクリプトスポリジウム(Cryptosporidium)が腸管に寄生することによって発症する寄生虫症です。原虫(げんちゅう)とは、他の動物に寄生する性質を持ち、さらに病原性を有している単細胞生物のことを指します。なおクリプトスポリジウムは従来、コクシジウムの一系統として分類されてきましたが、近年は違う系統に属する可能性が示されているため、ここではページを独立して解説します。
クリプトスポリジウムはイヌ、ネコ、ウシ、ブタといった動物のほか、人間にも感染することが確認されており、人の場合、後天性免疫不全症候群(AIDS)など、体の免疫力が低下した人において発症します。しかし日本では、1994年に神奈川県で、そして1996年には埼玉県で集団感染が発生していますので、健常者だからと言って全く無関係というわけではありません。また2010年、カナダのカルガリーで行われた調査では、ノーリードで遊べる公園に行く頻度が高ければ高いほど、クリプトスポリジウム原虫に感染する確率が高まるという結果が出ていますので、ドッグランによく行く飼い主としては予備知識が必要となってくるでしょう。
犬の場合、免疫力が弱い子犬や老犬などが、汚染された食事や糞便を口にすることで感染し、3~10日の潜伏期間を経て以下のような症状を示します。

犬の場合、免疫力が弱い子犬や老犬などが、汚染された食事や糞便を口にすることで感染し、3~10日の潜伏期間を経て以下のような症状を示します。
クリプトスポリジウム症の症状
- 下痢
- 腹痛
- 吐き気
- 食欲不振
- 脱水症状
- 倦怠感
- 微熱
犬のクリプトスポリジウム症の原因
犬のクリプトスポリジウム症の原因としては、主に以下のようなものが考えられます。予防できそうなものは飼い主の側であらかじめ原因を取り除いておきましょう。
クリプトスポリジウム症の原因
- 経口感染
原虫の未成熟な状態である「スポロゾイト」(sporozoite)に汚染された食物を口にすることにより感染します。スポロゾイトとは宿主に感染する細胞のことです。汚染食物を通じて犬の体内に侵入したスポロゾイトは腸管内にたどり着き、そこで成長して著しく数を増やし、「オーシスト」(oocyst)と呼ばれる卵を形成します。オーシストの中には4個のスポロゾイトが含まれており、体内にとどまるか糞中に乗って体外へ出ます。そしてこの糞便に汚染された食物を食べた他の動物の体内で、同じライフサイクルを繰り返して勢力を広げていきます。
犬のクリプトスポリジウム症の治療
犬のクリプトスポリジウム症の治療法としては、主に以下のようなものがあります。なおクリプトスポリジウムは、HIVに感染している人に移って症状を引き起こす危険性があるため、原虫を保有した動物を環境内に持ち込まないことが推奨されます。
クリプトスポリジウム症の治療と予防
- 対症療法 通常は自然治癒しますので、対症療法がメインとなります。具体的には脱水症状を予防するための輸液などです。
- 投薬治療 症状が重い場合はアジスロマイシンやタイロシンといった投薬が行われることもあります。しかし人間で用いられるパロモマイシンやニタゾニサイドは副作用が強すぎるため避けられます。