犬の鼻炎の病態と症状
犬の鼻炎とは、鼻の中の粘膜に炎症が発生した状態を言います。
犬の鼻粘膜とは、鼻腔(びくう)と呼ばれる部分の内側を、まるで壁紙のように埋め尽くしている組織のことです。鼻腔には「鼻甲介」(びこうかい)と呼ばれる棚のような突起があり、粘膜の表面積を著しく増大しています。以下は人間と犬の鼻腔を断面にした時の比較図です。人間には上中下という3つの鼻甲介があるのに対し、犬では「背鼻甲介」と「腹鼻甲介」という2つしかありません。その代わり、腹鼻甲介が複雑なひだ構造をしているため、トータルの表面積では人間を圧倒的に上回っています。黒い突起が鼻甲介、赤い内貼り部分が粘膜です。水色の空間には鼻から吸い込んだ空気が通ります。
上の図で示した鼻粘膜のどこにかに刺激が加わり、炎症を起こした状態が「鼻炎」です。炎症の初期段階では、まずサラサラとした鼻水が分泌されます。この刺激が慢性化すると徐々に炎症が広がり、免疫細胞を含んだネバネバした鼻水に変わっていきます。人間でいう、いわゆる「あおっぱな」(膿性鼻漏)です。さらに炎症が進むと、鼻粘膜の上部が破壊されて「びらん」という状態へ悪化し、「あおっぱな」と鼻血が混じったようなドロドロした鼻水となります。最終段階は、慢性的な炎症による付近の骨の融解や、病原体の脳への侵入です。
犬の鼻炎の症状としては以下のようなものが挙げられます。


犬の鼻炎の症状としては以下のようなものが挙げられます。
鼻炎の主症状
犬の鼻炎の原因
犬の鼻炎の原因としては、主に以下のようなものが考えられます。予防できそうなものは飼い主の側であらかじめ原因を取り除いておきましょう。
鼻炎の主な原因
- ウイルスや真菌 ウイルスではジステンパーやケンネルコフ(アデノウイルスII+イヌパラインフルエンザ+イヌヘルペス)、真菌ではアスペルギルス、アオカビ、ライノスポリジウム、ブラストマイセスデルマチチジス、クリプトコッカスなどがよく鼻炎を引き起こします。特にマズルが長い長頭犬種では、アスペルギルス症の発症率が高いとされています。
- 寄生虫 「鼻ダニ」と呼ばれているダニの一種や、一部の線虫が鼻炎を引き起こすことがあります。
- 先天性 口蓋裂や繊毛運動障害といった先天的なハンデを持った個体では鼻炎を発症しやすくなります。
- 腫瘍 鼻の中のできものが鼻炎を引き起こすことがあります。具体的には腺癌、軟骨肉腫、骨肉腫、リンパ腫、良性のポリープなどです。鼻水や鼻血が片方の鼻だけから出ているような場合は、まず腫瘍の可能性を考慮します。
- アレルギー 体内に入ってきた異物に対して免疫系が過剰に反応する「アレルギー」によって引き起こされた鼻炎は、特に「アレルギー性鼻炎」と呼ばれます。アレルギーを引き起こす「アレルゲン」(抗原)が何であるかは、個体によってまちまちです。一般的には花粉、粉じん、煙、ガスなどが考えられますが、犬では比較的少ないとされます。それよりも、散歩中に植物の種などが鼻の穴から入って炎症を引き起こす単純なケースが多いようです。
犬の鼻炎の治療
犬の鼻炎の治療法としては、主に以下のようなものがあります。原因が多いため、治療法にもバリエーションがあります。
鼻炎の主な治療法
- 対症療法 症状が重く、犬が呼吸困難を示しているような場合は、取り急ぎネブライザーと呼ばれる吸入器を用い、鼻やのどに薬剤を噴霧して炎症を抑えます。
- ウイルス・真菌の治療 ウイルスが原因の場合は抗生物質、真菌が原因の場合は抗真菌薬が投与されます。ただし鼻腔内は細菌の種類が多いため、培養しても原因菌を特定できないことがしばしばです。そんな場合は、ブドウ球菌、レンサ球菌、ナイセリア、バチルス、大腸菌、パスツレラ菌にあたりを付けた薬剤の選択が行われます。
- 駆虫 ダニや寄生虫が原因の場合は駆虫薬が投与されます。鼻ダニに対してはイベルメクチンが著効しますが、遺伝的に受け付けない犬種(コリーなど)もいますので、獣医師と相談した上で最善策を決めます。
- 異物の除去 腫瘍や異物など、鼻の中に障害物がある場合はこれを除去するような手術が行われます。