犬にスピンを教える

　犬に芸やトリックを教える際は、「犬のしつけの基本理論」で解説した「古典的条件付け」と「オペラント条件付け」の知識が絶対に必要です。まだあやふやな方は、犬のしつけの基本理論を熟読してマスターしましょう。
　簡単に復習すると以下です。

• 古典的条件付け無関係な二つの刺激を関連付けて覚えること。ごほうびや罰は必須ではない。新たに記憶させたい刺激は、生理的反応の直前に提示する。→より詳しく
• オペラント条件付けある特定の行動と快や不快を関連付けて覚えること。ごほうびや罰が必要。ごほうびや罰は、新たに記憶させたい行動の直後に提示する。→より詳しく

　犬が快感を感じるごほうびを用意します。罰は必要ありません。
　犬に直接快を与える「一次強化子」としては、犬が大好きで、かつ低カロリーのトリーツを用います。犬に間接的に快を与える「二次強化子」としては、ほめ言葉やクリッカーを用います。クリッカーに関しては犬に対する有効性が科学的に証明されていませんので、煩雑に感じる方はほめ言葉を優先的に使用して下さい。
　またごほうびの効果を高めるため、犬をやや空腹状態にしたほうがベターです。

　犬の集中力を高めるため、テレビなど余計な音を消し、おもちゃも片付けるようにします。
　また犬の集中力は10～15分程度が限度です。犬が注意散漫になってきたら、ストレスになってしまう前に、いさぎよくその日のトレーニングは中断します。

　ごほうびを手に持ち、犬をその場で一回転させます。犬の混乱を避けるため、回転方向は時計回りか反時計回りの、どちらか一方に統一して下さい。誘導する手は、犬がオスワリしてしまわない程度に低く、またフセをしてしまわない程度に高くキープします。犬が回り終えた瞬間にごほうびを与えましょう。

　犬が「ぐるっと回る」行動と「ごほうび」とを関連付け、スムーズに行動に移れるようになったら、今度は犬が回る直前に、「スピン」（spin）・「ラウンド」（round）・「回れ」など、任意の指示語を発します。犬が事前の訓練通りぐるっと回ることができたらごほうびを与えます。
　この練習を繰り返し、飼い主の「スピン」という指示語だけで犬が回るようになったら成功です。

　犬が「スピン」という指示語を完全にマスターしたら、次は指示語を発してごほうびを与える直前に「指で円を描く」など任意のハンドシグナルを出してみます。指示語とハンドシグナルを同時に教えるよりも、いったん「スピン」という指示語を完璧にマスターしてからハンドシグナルを教えた方が効果的です。犬がぐるっと回れたらごほうびを与えます。

　上記しつけを一通り終えたら、最後の仕上げとして指示語とハンドシグナルだけを出してみます。「スピン」と言ったとき、犬が自発的にぐるっと回っててくれたら成功です。「指示語だけ」、「ハンドシグナルだけ」、「場所を変えて」など、徐々にハードルを上げて試してみましょう。また、時計回りを「スピン」、反時計回りを「ターン」として、別々の行動として覚えこませることも可能です。その場合重要なのは、回転方向と指示語の結びつきを、常に統一してしつけることです。
　もし指示を出してもキョトンとして何もしてくれないようでしたら、まだ行動と指示語のリンクが足りません。指示語と行動を関連付けるに戻り、もう一度古典的条件付けをやり直します。