トップ2020年・犬ニュース一覧7月の犬ニュース7月16日

犬の首輪にはどのくらいの圧力がかかっているのか?

 犬の首輪はきついネクタイのようでいかにも苦しそうですが、実際にはどのくらいの圧力がかかっているのでしょうか?色々な種類の首輪を感圧センサーに取り付けた検証実験が行われました。

首輪の種類とかかる圧力

 調査を行ったのはイギリスにあるノッティンガム・トレント大学のチーム。中~大型犬の首を再現した直径31cmのポリ塩化ビニル製パイプに感圧センサーを取り付け、そこに指2本が入るくらいのきつさでいろいろな種類の首輪を装着し、犬の首にどのくらいの力がかかっているのかをシミュレーションしました。
 用いられた外力は軽くリードを引っ張る状況を再現した「40N(≒4.0kg)×5秒間」、強くリードを引っ張る状況を再現した「70N(≒7.1kg)×5秒間」、そして飼い主が強くリードを引っ張る、もしくは犬が勢いよく走り出してガツンとストップがかかった状況を再現したジャーク「141N(≒14.4kg)×一瞬」の3種類です。引っ張る方向はパイプに対して垂直で、実験に用いられた首輪の種類は以下です。
首輪の種類特徴
ウェビングカラーウェビングカラー
幅31mm×厚さ6mm
ナイロン製・パッド付き
ロールドカラーロールドカラー
直径11mm
ナイロン繊維を丸めたデザイン
スポーツカラースポーツカラー
幅38mm×厚さ4mm
ナイロン製・パッド付き
ラーチャーカラーラーチャーカラー
幅28~62mm×厚さ4mm
レザー製・中央部で幅が広がる
レザースレッドカラーレザースレッドカラー
幅27mm×厚さ5mm
レザーと繊維の混合
フラットウェビングカラーフラットウェビングカラー
幅15mm×厚さ2mm
ナイロン製・小さめ
スリップリードスリップリード
直径10mm
ナイロン製・投げ縄デザイン
チョークチェーンチョークチェーン
幅9mm×厚さ4mm
鉄製・引くと首がしまる
 シミュレーションの結果、感圧センサーでは83kPa~832kPaの力が計測されたといいます。1平方cm当たりに換算すると0.85kg~8.5kgfという値です。 さまざまな首輪によってシミュレーションした犬の首にかかるだろう圧力 Canine collars: an investigation of collar type and the forces applied to a simulated neck model
Anne Carter, Donal McNally, Amanda Roshier, Veterinary Record (2020), DOI: 10.1136/vr.105681

首輪による持続的な首絞め

 シミュレーターで計測された83kPa~832kPaという圧力はミリメートル水銀柱に換算すると622~6,240mmHgという値になります。一方、動脈血を止めるための止血帯は腕で250mmHg(=33.3kPa)、太ももで300mmHg(=40kPa)とされています。もし犬が持続的にリードを引っ張り、首輪に圧力が加わった状態が長時間続くと、頸動静脈が圧迫されて血流が止まってしまうかもしれません。
 臨床上健康な20名と開放隅角緑内障を患う患者20名を対象とし、ネクタイの装着が眼圧に及ぼす影響を検証した実験があります。結果は、きつめのネクタイを3分間装着しているときの眼圧が健常グループで平均2.6mmHg(12眼は2以上・7眼は4以上)、緑内障グループで平均1.0mm Hg(6眼は2以上・2眼は4以上)上昇したというものでした。これらの変化はネクタイを緩めて3分後の計測では消えていたとのこと出典資料:Teng, 2003)。また空気圧以外の物理圧を利用した止血帯では、圧力が局所に集中しやすくなり、血流不全に伴う障害が発生しやすくなる可能性も指摘されています出典資料:Mcewen, 2009)
 犬においても眼圧の亢進出典資料:Hallgren)や脳への血流不全による急性脳障害出典資料:Grohmann, 2013)の症例が報告されていますので、飼い主が気づいていないだけで、首輪による持続的な首絞め作用があるものと推測されます。

首輪による瞬間的な局所圧迫

 首輪を左右と前方の3つに区分し、それぞれの区画にどのくらいの力が分散しているかを検証したところ、特にチョークチェーンでは前方に対する分圧が大きかったといいます。
 人医学の分野では、交通事故によりシートベルトで首元に衝撃が加わり、その後に甲状腺腫や甲状腺炎を発症した症例が報告されています出典資料:Dickey, 2003)。「しつけ」と称して犬にチョークチェーンを装着し、事あるごとにジャークと呼ばれる瞬発的な引っぱり動作を繰り返すと、甲状腺が何らかの障害を受けてしまう危険性は否定できないでしょう。

首輪による瞬間的な組織損傷

 首輪と感圧センサーの接触面積を比較したところ、首輪の種類ごとに以下のような値になったといいます。特にスリップリードやチョークチェーンでは接触面積が小さくなることが確認できます。 さまざまな種類の首輪別に見た接触面積  接触面積が小さいほど、単位面積当たりにかかる力が大きくなることは自明です。1975年、ちょうどこの現象を例証するかのように、マッセー大学を中心とした調査チームが首元に不可解な腫瘤ができた犬3頭に関する報告を行っています出典資料:Gardner, 1975)
外圧性の限局性石灰沈着症?
  • 症例15ヶ月齢のジャーマンシェパード/6週間前から首根本の左側に有痛の病変/エックス線で第5~7頚椎脇に石灰化した5×1.5cmほどの病変が確認される/飼い主への聞き取りから、訓練中に首輪を強く引っ張っていたことが判明
  • 症例26ヶ月齢のジャーマンシェパード/2ヶ月前から首の左側に腫瘤/検査により第4~5頚椎脇に2.5×1.2×0.4cmほどの病変が確認される/飼い主への聞き取りから、左側について歩くよう子犬の頃からチョークチェーンを使って訓練しており、ときには悲鳴を上げるほど強く引っ張っていたことが判明
  • 症例38ヶ月齢のグレートデン/肩甲骨前方に腫瘤性の病変があり、徐々に巨大化/飼い主への聞き取りから、服従クラスにおいてチョークチェーンを使用していたことが判明
 すべての症例において、無定形で石灰化した腫瘤が肉芽腫性の病変組織で囲まれていたといいます。限局性石灰沈着症に似たこの症状の原因は、チョークチェーンによる反復的な外圧で炎症反応と組織の過剰再建が引き起こされたためだと考えられています。

散歩装具の圧力を分散しよう!

 日本で飼育されている犬はほとんどが小型犬ですので、中~大型犬よりも首輪にかかる圧力が垂直に近づきます。当実験でシミュレーションした状況に近くなりますので、データを転用してもそれほど論理の飛躍にはならないでしょう。 体高が低い小型犬がリードを引っ張ると、首に対して強い圧力が加わる  国内では「拒否犬」が可愛いという風潮があるようですが、犬が抵抗している間、頸動静脈が大なり小なり圧迫を受け、脳圧や眼圧が亢進していると考えられます。上記したデータから類推すると、こんなことを繰り返していたら甲状腺、喉頭、頚椎が損傷を受け、甲状腺機能低下症舌骨の脱臼や骨折喉頭麻痺頚椎椎間板ヘルニア緑内障眼球脱出、脳への血流不足による脳浮腫、石灰化病変を発症するリスクが高まるのではないでしょうか。 日本国内に蔓延する「拒否犬が可愛い」という動物虐待まがいの風潮  犬の体と散歩装具との接触面積を増やしてくれるハーネス(胴輪)というアイテムがありますので、可能な限りそちらを優先して使いたいものですね。ただしハーネスの場合、犬が突然逆方向に走り出すことによる「すっぽ抜け」の事例が散発的に報告されていますので、脱走・迷子には十分ご注意ください。 犬の散歩グッズ 犬のリーダーウォークのしつけ