詳細
報告を行ったのはバージニア=メアリーランド・カレッジ・オブ・ベタリナリー・メディスンのチーム。2012年から2016年の期間、大学付属の動物病院を受診した犬と猫を対象とし、首の前面にある小さな骨「舌骨」がどの程度の頻度で障害(骨折と脱臼)を受けているかを統計的に調査しました。
その結果、猫100頭における数が0だったのに対し、犬293頭における数が9頭(3.1% | 骨折8+脱臼4)だったと言います。また1頭に関しては「他の犬に噛まれた」という外傷が記録されていたものの、残りの8頭に関しては明確な外的因子がわからず、なぜ舌骨が障害を受けたのかわからなかったとも。さらに骨折の危険因子を統計的に検証したところ、年齢、性別、体重といった項目は除外され、唯一「ジャーマンシェパードおよびそのミックス」という項目が関連因子として残ったと言います。その危険度はオッズ比で「13.7倍」というものでした。
こうしたデータから調査チームは、犬を散歩している途中に首輪を通して頚部にかかる圧力が、飼い主も知らない間に犬の舌骨障害を引き起こしているのではないかと推測しています。臨床症状として嚥下障害や呼吸困難を示している犬がいなかったことから、症状は無いものの舌骨に障害を抱えている犬は潜在的にかなりいるのではないかと見積もられています。
Prevalence
of hyoid injuries in dogs and cats undergoing computed tomography (2010)
J.D.Ruth, S.K.Stokowski, K.S.Clapp, S.R.Were, The Veterinary Medicine, dx.doi.org/10.1016/j.tvjl.2017.04.019
J.D.Ruth, S.K.Stokowski, K.S.Clapp, S.R.Were, The Veterinary Medicine, dx.doi.org/10.1016/j.tvjl.2017.04.019
解説
人間を対象とした調査では、舌骨骨折の多くは首締め(他殺)や首吊り(自殺)といった頚部への強い圧力によって引き起こされるとされています。また過去に犬を対象として行われた調査では、チョークカラーを用いてジャーマンシェパードを訓練している最中(Manus, 1965)、他の犬に噛まれた後(Pass, 1971)、人間に虐待された後(Munro, 2001)に発症したという報告があります。さらに今回の調査では、猫や小型犬における発症はほとんど見られなかったものの、体が比較的大きなジャーマンシェパードにおける発症率が有意に高いことが確認されました(3/9頭)。こうしたデータが示しているのは、「首輪による強い頚部圧迫が舌骨の骨折を引き起こしている」という仮説です。
過去に行われた調査では、犬の首輪が「眼内圧の上昇」や「虚血に起因する重度の脳浮腫」といった障害を引き起こす可能性が示唆されています。今回の調査結果を踏まえると、今後は「舌骨の骨折・脱臼」も加えないといけないでしょう。2016年の症例報告では、骨折時の症状として「舌が出しっぱなしになる」、「食餌を飲み込めない」などが報告されていますので、飼い主としては要注意です(→出典)。
犬の飼い主が首輪を用いる理由は多くの場合、「拘束具として最も優れているから」というものではなく、「昔から使われているから」とか「手っ取り早いから」といったものです。しかし首輪が原因と考えられる障害の多さを考えると、散歩をするときの拘束具に関する根本的な意識改革が必要なのかもしれません。