被毛を使ったストレスのモニタリング
動物の短期的なストレスを計測する際は唾液、尿、糞便といったサンプル中に含まれるコルチゾール濃度が指標として用いられます。それに対し長期的なストレス計測する際は、被毛中に含まれるコルチゾール濃度が指標として用いられます。これは、毛が成長していく過程で構成成分の中にコルチゾールが止まってくれるためです。こうした特性から被毛は「ストレスカレンダー」とも呼ばれています。
犬たちに「普通のペット犬」と「競技犬」(アジリティやオビーディエンス)というバリエーションを設け、夏と冬という2つのタイミングで飼い主と犬の毛に含まれるコルチゾール(ストレスホルモン)レベルを測定しました。また犬の気質を「Dog Personality Questionnaire」と呼ばれる評価票を用いて客観化すると同時に、飼い主のパーソナリティを「BIG FIVE inventory」と呼ばれる問診票を用いて客観化しました。さらに犬の首輪に動作感知モニターを組み込み、1週間にわたる活動量を常時監視しました。
その結果、夏においても冬においても人間のストレスレベルと犬のそれが連動していることが明らかになったといいます。具体的には以下のような感じです。 犬の活動量やトレーニングの頻度、犬の気質と被毛中のストレスレベルはほとんど無関係でした。一方、飼い主のパーソナリティにおいて「神経質」「開放性」「誠実性」が犬の被毛に含まれるコルチゾールレベルと連動している可能性が示されました。特に「神経質」という側面による影響が大きかったとのこと。 Long-term stress levels are synchronized in dogs and their owners
Ann-Sofie Sundman, Enya Van Poucke,et al., Scientific Reports 9, Article number: 7391 (2019)
今回、「ストレスカレンダー」である被毛を用いた調査を行ったのはスウェーデンにあるリンショーピング大学のチーム。シェットランドシープドッグ33頭とボーダーコリー25頭、およびその飼い主の女性合計58人を対象とし、動物種を超えてストレスレベルが伝染するかどうかが検証されました。犬たちに「普通のペット犬」と「競技犬」(アジリティやオビーディエンス)というバリエーションを設け、夏と冬という2つのタイミングで飼い主と犬の毛に含まれるコルチゾール(ストレスホルモン)レベルを測定しました。また犬の気質を「Dog Personality Questionnaire」と呼ばれる評価票を用いて客観化すると同時に、飼い主のパーソナリティを「BIG FIVE inventory」と呼ばれる問診票を用いて客観化しました。さらに犬の首輪に動作感知モニターを組み込み、1週間にわたる活動量を常時監視しました。
その結果、夏においても冬においても人間のストレスレベルと犬のそれが連動していることが明らかになったといいます。具体的には以下のような感じです。 犬の活動量やトレーニングの頻度、犬の気質と被毛中のストレスレベルはほとんど無関係でした。一方、飼い主のパーソナリティにおいて「神経質」「開放性」「誠実性」が犬の被毛に含まれるコルチゾールレベルと連動している可能性が示されました。特に「神経質」という側面による影響が大きかったとのこと。 Long-term stress levels are synchronized in dogs and their owners
Ann-Sofie Sundman, Enya Van Poucke,et al., Scientific Reports 9, Article number: 7391 (2019)
動物間のストレス伝染現象
動物間でストレスが伝染するという現象は数多く確認されています。
例えばプレーリーハタネズミのつがいは、ストレスを受けたパートナーに反応してストレスレベルが上昇する(:Burkett, 2016)などです。また人間においても、母親とその赤ん坊の間で毛髪中に含まれるコルチゾール濃度が連動する(:Ouellette, 2015)とか、強いストレスを抱えている教師の授業を受けた生徒のストレスレベルが高まる(:Oberle, 2016)といった事例が報告されています。
上記した例は同じ動物種の間で見られるストレス伝染現象ですが、動物種を超えて同じ現象が起こる可能性も示唆されています。例えば競技に参加している犬とハンドラーでは短期的なコルチゾール反応が連動する(:Buttner, 2015)とか、飼い主のパーソナリティや性別によって犬の唾液中のコルチゾール濃度が影響を受ける(:Schoberl, 2017) などが好例でしょう。
今回の調査では、犬と人間との間で長期的なストレスの伝染が起こる可能性が示されました。犬のストレスが人間に伝染したというよりも人間のストレスが犬に伝染した可能性の方が強いと考えられています。
例えばプレーリーハタネズミのつがいは、ストレスを受けたパートナーに反応してストレスレベルが上昇する(:Burkett, 2016)などです。また人間においても、母親とその赤ん坊の間で毛髪中に含まれるコルチゾール濃度が連動する(:Ouellette, 2015)とか、強いストレスを抱えている教師の授業を受けた生徒のストレスレベルが高まる(:Oberle, 2016)といった事例が報告されています。
上記した例は同じ動物種の間で見られるストレス伝染現象ですが、動物種を超えて同じ現象が起こる可能性も示唆されています。例えば競技に参加している犬とハンドラーでは短期的なコルチゾール反応が連動する(:Buttner, 2015)とか、飼い主のパーソナリティや性別によって犬の唾液中のコルチゾール濃度が影響を受ける(:Schoberl, 2017) などが好例でしょう。
今回の調査では、犬と人間との間で長期的なストレスの伝染が起こる可能性が示されました。犬のストレスが人間に伝染したというよりも人間のストレスが犬に伝染した可能性の方が強いと考えられています。
犬にストレスをかけないために
今回の調査で確認された現象は、簡単に言うと人間のストレスレベルが上がると犬のそれも上がるというものです。しかし犬の性別やライフスタイルのほか、季節によってもさまざまな影響を受けましたので、それほど単純な話ではありません。例えば以下のような感じです。
犬は人間に家畜化されていく過程で高い共感能力を獲得しました。私たちが想像している以上に感情の変化を直感的に捉える能力に長けていますので、不要なストレスを犬に強要しないよう、飼い主自身がなるべくストレスフリーな生活を送ることが望まれます。
被毛コルチゾールレベルに影響を及ぼす因子
- 夏でも冬でも飼い主の神経質と犬の被毛コルチゾールレベルが負の相関関係にあった
- 夏に関してはペット犬よりも競技犬のほうがコルチゾールレベルが高かった
- 夏に関してはメス犬よりオス犬のほうがコルチゾールレベルが高かった
- 総合的に言って夏よりも冬のコルチゾールレベルが高かく、この傾向は競技犬よりもペット犬において顕著だった
- 飼い主の「誠実性」と「開放性」という側面は冬においてのみわずかに正の相関関係にあった
- 夏においては飼い主の「開放性」が高いほどメス犬でコルチゾールレベルが増加したのに対し、オス犬では逆に低下した
- 冬においては飼い主の「従順性」が高いとオス犬のコルチゾールレベルが高まったがメス犬で変わらなかった
- 飼い主の「誠実性」が高いスコアだとオスでもメスでもコルチゾールが高まった
犬は人間に家畜化されていく過程で高い共感能力を獲得しました。私たちが想像している以上に感情の変化を直感的に捉える能力に長けていますので、不要なストレスを犬に強要しないよう、飼い主自身がなるべくストレスフリーな生活を送ることが望まれます。