詳細
調査を行ったのはイタリアにあるミラノ大学を中心としたチーム。ヨーロッパ8ヶ国(オーストリア | フランス | イタリア | オランダ | ポルトガル | スペイン | スイス | イギリス)にある二次診療施設から、2010年から2015年の6年間におけるリンパ肉腫(悪性リンパ腫)の患犬データを収集し、発症リスクに関する大規模な疫学調査を行いました。
Comazzi et al. BMC Veterinary Research (2018) 14:232 https://doi.org/10.1186/s12917-018-1557-2
リンパ腫のサブタイプ
- B細胞リンパ腫リンパ球のうち「B細胞」が悪性化したタイプ。今回の調査では全体の65.7%(950/1,446頭)。
- T細胞リンパ腫(高悪性度)リンパ球のうち「T細胞」が悪性化し、なおかつ病状の進行が早いタイプ。HG(ハイグレード)-T細胞リンパ腫とも。今回の調査では全体の27.4%(396/1,446頭)。
- Tゾーンリンパ腫リンパ球のうち「T細胞」が悪性化し、病状の進行が比較的遅いタイプ。今回の調査では全体の6.9%(100/1,446頭)。
リンパ肉腫のハイリスク犬種一覧
- ラブラドールレトリバー【発症率】5.5%
【国別リスク】スイス→3.33
【タイプ別リスク】HG-T細胞リンパ腫→2.74 - ジャーマンシェパード【発症率】4.2%
【国別リスク】スイス→3.27 - ゴールデンレトリバー【発症率】4.1%
リスク偏向なし - ボクサー【発症率】5.1%
【国別リスク】フランス→6.89
【タイプ別リスク】HG-T細胞リンパ腫→10.9 | Tゾーンリンパ肉腫→7.69 - バーニーズマウンテンドッグ【発症率】3.5%
【国別リスク】イギリス→3.25 | オーストリア→10.18 | スイス→5.26 | フランス→14.39 - ロットワイラー【発症率】3.6%
【国別リスク】ポルトガル→4.59 | スペイン→3.06 | オーストリア→5.78 | フランス→9.39 | オランダ→4.99
【タイプ別リスク】HG-T細胞リンパ腫→0.12 - ドーベルマン【発症率】2.0%
【国別リスク】ポルトガル→8.84 | イタリア→5.89 | スペイン→6.05 | スイス→7.66 | フランス→12.15 - ビーグル【発症率】1.6%
リスク偏向なし - イングリッシュコッカースパニエル【発症率】1.9%
リスク偏向なし
Comazzi et al. BMC Veterinary Research (2018) 14:232 https://doi.org/10.1186/s12917-018-1557-2
解説
ロットワイラー、ボクサー、ドーベルマン、バーニーズマウンテンドッグに関しては、過去にヨーロッパ外で行われた調査でも発症リスクが高い犬種として挙げられているので、リスクの普遍性が確認されました。
一方、ゴールデンレトリバーに関しては、アメリカや日本においてTゾーンリンパ腫の発症リスクが指摘されているものの、今回の大規模な調査では同じ傾向が確認されませんでした。閉鎖的な血統プールによって増幅された遺伝性のほか環境因子などが影響しているものと推測されています。この仮説を支持するかのように、アメリカ国内でTゾーンリンパ腫を発症したゴールデンレトリバーを対象として行われた調査では、地域によって発症リスクに格差が見られたと報告されています(Ruple A, 2017)。おそらく人医学の領域で指摘されている環境因子が影響していのでしょう。
ちなみにゴールデンリバーにおけるTゾーンリンパ腫のリスクは、日本の個体群でも高いことが確認されています。今回の調査をヒントに考えると、アメリカや日本に共通しておりヨーロッパにはない何らかの因子が関係しているはずですが、詳しいメカニズムは分かっていません。
2014年にアメリカで報告されたケースでは、Tゾーンリンパ腫と診断されてからの生存期間中央値は637日とされています(Seelig, 2014)。また494頭犬を対象とした追加調査では、なんと40%までもがゴールデンレトリバーだったとのこと。診断時の年齢中央値は10歳、主な症状はリンパ節の腫脹とンパ球増加症でした。 2016年に日本で報告されたケースでは、Tゾーンリンパ腫と診断された16頭のうち9頭(56%)までもがゴールデンレトリバーだったといいます(Mizutani, 2016)。こちらの調査における生存期間中央値はやや長く938日でした。理由は不明ながら、日本に暮らしているゴールデンレトリバーたちは進行の遅いTゾーンリンパ腫のリスクにさらされていることは間違いないようです。
ちなみにゴールデンリバーにおけるTゾーンリンパ腫のリスクは、日本の個体群でも高いことが確認されています。今回の調査をヒントに考えると、アメリカや日本に共通しておりヨーロッパにはない何らかの因子が関係しているはずですが、詳しいメカニズムは分かっていません。
2014年にアメリカで報告されたケースでは、Tゾーンリンパ腫と診断されてからの生存期間中央値は637日とされています(Seelig, 2014)。また494頭犬を対象とした追加調査では、なんと40%までもがゴールデンレトリバーだったとのこと。診断時の年齢中央値は10歳、主な症状はリンパ節の腫脹とンパ球増加症でした。 2016年に日本で報告されたケースでは、Tゾーンリンパ腫と診断された16頭のうち9頭(56%)までもがゴールデンレトリバーだったといいます(Mizutani, 2016)。こちらの調査における生存期間中央値はやや長く938日でした。理由は不明ながら、日本に暮らしているゴールデンレトリバーたちは進行の遅いTゾーンリンパ腫のリスクにさらされていることは間違いないようです。