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太っている犬は問題行動が多くなる?

 イギリス国内で行われた統計調査により太っている犬が見せやすい問題行動の種類が明らかになりました(2017.6.19/イギリス)。

詳細

 調査を行ったのは、イギリスの複数の大学からなる共同チーム。2014年6月から8月の期間、「Channel 4」で犬に関する4回シリーズのドキュメンタリー番組が放映されたのに合わせ、2歳以上の犬を飼っている人を対象とした大規模なアンケート調査を行いました。目的は、犬の肥満と問題行動との関連性を明らかにすることです。
 オンラインで「あなたの犬は太っているか?」という質問を含めた43項目のアンケートを行った結果、最終的に11,154頭分のデータが集まったと言います。犬たちの基本ステータスは以下です。
調査対象犬の基本情報
  • オス=6,220頭(手術済み79%)
  • メス=4,934頭(手術済み87%)
  • 犬種=80種超
  • 年齢中央値=5歳
  • 体重中央値=20kg
 太っていると報告された犬の数は合計1,801頭で、全体の16.1%でした。調査チームは集められたデータを統計的に検証し、肥満に関連している因子を明確化したところ、以下のような項目が候補として浮かび上がってきたといいます。数字は「オッズ比」(OR)で、標準の起こりやすさを「1」としたときどの程度起こりやすいかを相対的に示したものです。数字が1よりも小さければ肥満に陥りにくいことを、逆に大きければ肥満に陥りやすいことを意味しています。
犬の肥満関連因子(OR)
イギリス国内における犬の肥満関連因子(オッズ比)
  • パグ=4.04
  • チワワ=2.41
  • キャバリア=2.26
  • 去勢・避妊手術済み=2.13
  • ラブラドールレトリバー=1.47
  • ジャーマンシェパード=0.52
  • グレーハウンド=0.25
 さらに調査チームは、犬たちを「太っているグループ」と「太っていないグループ」とに二分して問題行動との関係性を検証しました。その結果、「太っているグループ」においてある特有の問題行動が多く見られることが明らかになったと言います。具体的には以下で、数字はオッズ比です。
肥満犬と問題行動(OR)
犬が肥満に陥ったときに頻度が上がる問題行動一覧
  • 外を怖がる・散歩したがらない=1.82
  • 盗み食い・ゴミ漁り=1.75
  • フードガード・独占=1.61
  • 飼い主以外への攻撃性=1.24
  • 呼んでも来ない=1.21
  • 他の犬への攻撃性=1.19
Overweight dogs are more likely to display undesirable behaviours: results of a large online survey of dog owners in the UK
Alexander J. German, et al., Journal of Nutritional Science, Volume 6, doi.org/10.1017/jns.2017.5

解説

 大規模ではあるものの、今回の調査は予備的なものと考えた方がよいでしょう。例えば当調査内にあった16.1%という肥満率は、過去に報告されている「太り気味20.4%+完全な肥満38.9%=59.3%」といった数値(2010年, Courcier et al.)に比べると著しく低い値です。この事はつまり、そもそも収集されたデータがイギリス国内における犬の状況を正確に反映していないという可能性を示唆しています。調査結果の精度を高めるためには、犬の肥満の基準を「飼い主の主観」ではなく、「目が肥えた獣医師によるBCS評価」に変える必要があると思われます。 犬の飼い主はえてしてペットの肥満を認識できない  デブ犬において「フードガーディング・強い独占欲」という問題行動が多く報告されました。例えば多頭飼育しているような場合、うなったり歯をむき出したりして脅しをかけ、他の犬の分までくすねてしまうという状況が考えられます。飼い主は給餌スタイル自体を見直し、部屋を分けるとか、食事のタイミングを他の犬とずらすといった工夫が必要となるでしょう。
 「盗み食い・ゴミ箱あさり」という問題行動に関しては、十分に予防が可能だと考えられます。例えば、犬をそもそもキッチンに入れないとか、人間が食事しているときはクレートに入れるなどです。ゴミ箱を犬が容易に開けることができないドッグプルーフのものに変えるというのも有効でしょう。
 「呼んでも来ない」という問題に関しては、肥満との因果関係がよく分かりませんが、太った犬の飼い主が自分の犬を「赤ちゃん」とみなしている人の割合が20%と高かった点が気になります。また通常体型の犬の飼い主に比べ、太った犬の飼い主は「犬とベッドで一緒に寝る」割合が4割ほど高い値を示しました。ペットを擬人化しすぎて適切なしつけを怠った結果、犬がコマンドを理解できなくなったのかもしれません。あるいはもっと単純に、犬を呼ぶときも犬を叱る時も、人間の子供に対するのと同じように、名前を用いると言う初歩的なミスを犯しているのかもしれません(ジョン、こっちにおいで/ジョン!ダメでしょ!)。
 「他の犬や他の人間に対する攻撃性」(吠える・唸る・歯をカチッと鳴らして脅す)という問題行動の背景には、「回避条件付け」があるかもしれません。これは、ある特定の行動をとった後、自分にとって不快な刺激が目の前から消えたという経験をした犬が、似たような状況に陥ったとき、再びある特定の行動をとる現象のことです。オペラント条件付けで言うと「負の強化」に相当します。例えば、餌を食べている時に人間が近づいてきたため、ウゥ~とうなったところ、人間が引き下がったとします。こうした経験をした犬は「唸れば不快な刺激が消えてくれる!」と学習し、似たような状況に陥ったとき再び唸ることで問題を解決しようとします。例えば、外で見知らぬ人間や犬に出くわした時などです。太り気味の犬では「フードガーディング・強い独占欲」が多く報告されていますので、上記した回避条件付けが起こってしまう状況も必然的に多くなることでしょう。 唸ることで不快な刺激を撃退したことがある犬は以降事あるごとに唸るようになる  「外を怖がる・散歩したがらない」という項目には単純に体重が関係しているように思われます。2016年、ウエストオーストラリア大学が行った調査では、犬が太り過ぎである事が飼い主の散歩に対する動機付けを低下させてしまうと報告されています(→詳細)。太り過ぎの犬は関節に痛みを抱えていたり、運動耐性(スタミナ)が低下してすぐに息切れを起こしてしまうため、飼い主に対してあまり散歩の催促をしないものと推測されます。犬からの催促を受けなかった飼い主の心中では、「散歩しなければならない」という動機付けの感覚が弱くなり、結果として散歩の頻度が低下してしまうのでしょう。つまり犬が太っていると、犬の側でも人間の側でも散歩することに対する動機づけが弱くなってしまうのです。
 子供の親を対象とした調査でも犬の飼い主を対象とした調査でも、子供やペットの体型を正確に評価できず、太っているのに標準であると誤認するケースが多いことが報告されています。飼い主はしっかりと犬の体型を把握し、肥満に伴う健康面への悪影響とともに、時として飼育放棄の原因にもなりうる問題行動を予防したいものです。 犬の肥満 犬のダイエットの基本 犬の問題行動予防