詳細
調査を行ったのは、ウエストオーストラリア大学が中心となったチーム。西オーストラリア州のパースにおいて、「RESIDE」と呼ばれる統計調査プログラムに参加している人の中から、犬を飼っている629人を選び出し、飼い主と犬両方のプロフィールを明確化した上で、飼い主の散歩頻度に影響を及ぼしている要因が何であるかを検証しました。調査チームが用いたのは「ラッシー効果」という概念で、散歩する意志がある人の気持ちを補助する「後押し」(Encouragement)と、散歩する意志がない人に発破をかける「動機づけ」(Motivation)という2つの要素から成り立っています。犬が飼い主に与える「ラッシー効果」が高まれば散歩の頻度が高まり、逆に低下すれば散歩の頻度も低下するという図式です。調査の結果、以下のような関連性が浮かび上がってきたと言います。
Westgarth et al. BMC Public Health (2016) 16:1019 DOI 10.1186/s12889-016-3660-2
ラッシー効果への影響因子
- 「後押し」と「動機付け」の両方と正の関係にある✓大型犬を飼っている
✓犬への愛着が強い
✓散歩は犬にとっての楽しみであると認識してる
✓散歩は犬の健康を保ってくれると信じている
✓家族からの社会的サポートがある - 「後押し」と「動機付け」の両方と負の関係にある✓家庭内に子供がいる
✓犬の散歩係は子どもである
✓散歩に伴う障壁がある - 「動機付け」とだけ正の関係にある✓散歩をすると無駄吠えが減ると信じている
- 「動機付け」とだけ負の関係のある✓犬が太り過ぎ or 病気 or 年老いている
✓犬の散歩係はもっぱら配偶者である
✓公共の場に犬の散歩をサポートするような設備が整っている
Westgarth et al. BMC Public Health (2016) 16:1019 DOI 10.1186/s12889-016-3660-2
解説
「後押し」と「動機付け」の両方を高める要因として「大型犬を飼っている」という項目が浮かんできました。関連性の背景には、「体力のある大型犬は家の中の運動だけではあり余ったエネルギーを発散しきれない」とか、「小型犬に比べて排泄物の量が多いため、トイレと散歩を一緒にしている人の割合が多い」といった事情があるのかもしれません。
「犬への愛着が強い」ことも「後押し」と「動機付け」の両方を高める要因であると考えられます。犬への愛着が強い人は、犬にとって楽しいことや健康増進につながることに積極的に関わろうとするため、必然的に上記両方に関係している「散歩」という行動の頻度が高まるのでしょう。
「後押し」と「動機付け」の両方を低下させる要因としては、「散歩に伴う障壁がある」という項目が浮かんできました。具体的には「飼い主が他の犬を恐れる」とか「散歩中に犬が制御不能に陥る」といった内容です。こうした状況は、「他の犬に会わないよう散歩の時間を変更する」だとか、「犬にリーダーウォークを完璧にマスターさせる」といった対策によって回避できるかもしれません。
犬が太り過ぎである事は、飼い主の「動機付け」を低下させてしまうようです。太り過ぎの犬は関節に痛みを抱えていたり、運動耐性(スタミナ)が低下してすぐに息切れを起こしてしまうため、飼い主に対してあまり散歩の催促をしないものと推測されます。犬からの催促を受けなかった飼い主の心中では、「散歩しなければならない」という動機付けの感覚が弱くなり、結果として散歩の頻度が低下してしまうものと考えられます。「病気」や「加齢」とは違い、「肥満」は予防が十分に可能な側面ですので、飼い主の責任が問われると言ってもよいでしょう。
過去に行われた数多くの調査により、犬の散歩は犬だけでなく人間に対しても良い影響をもたらすことが確認されています。上記したような、ラッシー効果を高める要因と低下させる要因をヒントにしてライフスタイルをアレンジしてみたら、多少は散歩の頻度が増えるのではないでしょうか。