詳細
調査を行ったのは、イギリス王立獣医大学のチーム。イギリス国内に点在している430の一次診療施設から、2013年の電子医療データ合計455,557頭分を集め、その中に含まれているジャーマンシェパードのデータを統計的に検証しました。その結果、ジャーマンシェパードは全体の2.7%に相当する12,146頭が確認され、年齢中央値は4.7歳、体重中央値はオス犬36.0kgでメス犬31.0kgであることが判明したといいます。その他のデータは以下です。
O’Neill et al. Canine Genetics and Epidemiology (2017) 4:7 DOI 10.1186/s40575-017-0046-4
多発疾患名(1,660頭)
ジャーマンシェパード全体の13.67%に相当する1,660頭分のデータをランダムで選び出して調べた所、1,053頭(63.43%)では調査期間中に少なくとも1つの疾患を発症していることが明らかになりました。オス犬とメス犬を比較したとき、統計的に有意と判断されたのは「攻撃性」だけで、メス犬が2.78%だったのに対しオス犬は6.75%という高い値を示しました。
- 外耳炎=7.9%
- 骨関節炎=5.5%
- 下痢症=5.2%
- 肥満=5.2%
- 攻撃性=4.8%
- 歯科疾患=4.1%
- 耳の疾患=3.2%
- 荷重不可=2.8%
- るいそう=2.7%
- 股異形成=2.7%
- 皮膚嚢腫=2.7%
- 皮膚疾患=2.6%
- 嘔吐=2.5%
- 強直=2.1%
- 肛門の嵌頓=1.8%
- 知覚過敏=1.6%
- 結膜炎=1.5%
- 裂傷=1.5%
- アトピー性皮膚炎=1.5%
- 肛門せつ腫症=1.4%
- 停留精巣=1.4%
- 起立不可能=1.3%
- へそヘルニア=1.3%
- 皮膚腫瘍=1.3%
- 歯周病=1.1%
- 発作性疾患=1.1%
多発疾患群(2,197頭)
全部で263個確認された個別の疾患名を分類グループに振り分けて行ったところ、全部で48のグループに大別されました。オス犬とメス犬を比較したとき、統計的に有意と判断されたのは「問題行動」だけで、メス犬が4.23%だったのに対しオス犬は8.55%という高い値を示しました。
- 筋骨格系疾患=15.2%
- 皮膚疾患=14.0%
- 口腔疾患=11.1%
- 消化器疾患=10.2%
- 問題行動=6.4%
- 肥満=5.2%
- 歯牙疾患=5.1%
- 悪性新生物=4.8%
- 外傷=4.2%
- 眼科疾患=4.0%
- 腫瘍性病変=3.6%
- るいそう=3.4%
- 肛門嚢疾患=2.3%
- 寄生虫=2.2%
死因(221頭)
調査期間中に確認された死亡例は272頭で、死亡時の年齢中央値は10.3歳でした。メス犬の寿命11.1年に対してオス犬の寿命は9.7年と短く、この格差は統計的に有意と判断されました。全体の87.2%には安楽死が関わっており、自然死は12.8%だけだったと言います。死亡原因が分からなかった個体を除いた221(81.2%)頭分のデータを調べた所、性別と死因との間に統計的な格差は見られませんでした。
- 筋骨格系疾患=16.3%
- 起立不能=14.9%
- 悪性新生物=14.5%
- 脊髄疾患=13.6%
- 腫瘍関連疾患=6.3%
- 脳疾患=5.0%
- 心臓疾患=5.0%
- 問題行動=4.5%
- 消化器疾患=3.2%
- 皮膚疾患=2.3%
- 食欲不振=1.8%
- 腹部の疾患=1.4%
- 元気消沈=1.4%
- 腎臓病=1.4%
- その他=8.6%
O’Neill et al. Canine Genetics and Epidemiology (2017) 4:7 DOI 10.1186/s40575-017-0046-4
解説
ジャーマンシェパードの死亡原因で最も多かったのは「筋骨格系疾患」や「起立不能」で、全体の31.2%占めていました。具体的な疾患の内容まではわかりませんが、多発疾患リストで2番目に来ている「骨関節炎」や、過去にスロベニアで報告された「ジャーマンシェパードは腰仙椎狭窄症を発症しやすい」といったデータがヒントになるでしょう(→詳細)。骨関節炎や腰仙椎狭窄症といった整形外科的な疾患によって歩くことができなくなり、見るに見かねた飼い主の8割が安楽死を決行するという流れが見て取れます。
日本人にとっては「自然死」が美徳とされますが、欧米の人にとっては苦しみながら生きるくらいなら、いっそのこと楽にしてあげようという考えが広く浸透しているのかもしれません。生き長らえる量よりも、生きているときの質を重んじるといった所でしょうか。 オス犬とメス犬を比較したとき、オス犬の方が問題行動が多く攻撃性が高いという傾向が見出されました。「メス犬は穏やかでオス犬はやんちゃ」といった性格表現は多くの場合逸話的なレベルを出ませんが、ジャーマンシェパードに関しては客観的なデータによって裏付けられているようです。この犬種は体が大きく噛む力も強いため、万が一攻撃されると病院送りにされることも少なくありません。特にオス犬の飼い主は、最低限しつけに関する基礎知識を備えておくことが強く推奨されます。 ケネルクラブの登録数ベースで見たとき、ジャーマンシェパードの人気は2007年の4.5%(12,116/270,707)から2016年の3.4%(7,751/227,708)といった具合に下落傾向を見せています。この現象の背景には、フレンチブルドッグ(2006年の526頭→2015年の14,607頭)を始めとした小型短頭種への偏愛があることは間違いありませんが、ジャーマンシェパードの健康に対する懸念が膨れ上がっているという可能性も否定できません。2016年、クラフツのドッグショーで腰が異常な位置にあるジャーマンシェパードが最優秀犬として選ばれたことに怒りを覚えた視聴者がケネルクラブにクレームをつけ、結果的にショーの動画をYouTubeから削除するという事態に発展した事は、多くを物語っています(→出典)。 現在、ジャーマンシェパードは「KC Breed Watch」という監視システム下に置かれ、カテゴリ3の「モニタリングと追加的サポートがとりわけ必要な犬種」とみなされています。特に懸念されているのは、かかとの位置が内側に食い込む「カウホック」(cow hock)、足首の屈曲度が強すぎる「シックルホック」(sickle hock)、後膝関節の異常な捻れといった外見上の変化です。いびつな体型をした犬がドッグショーで最優秀とみなされると、その犬を基にしてさらなる繁殖が繰り返されることになります。「トップブリーダー」とは聞こえのいい響きですが、もし世の中に「良いブリーダー」というものが存在しているのだとしたら、犬の健康を第一に考えていることが最低条件のはずです。
日本人にとっては「自然死」が美徳とされますが、欧米の人にとっては苦しみながら生きるくらいなら、いっそのこと楽にしてあげようという考えが広く浸透しているのかもしれません。生き長らえる量よりも、生きているときの質を重んじるといった所でしょうか。 オス犬とメス犬を比較したとき、オス犬の方が問題行動が多く攻撃性が高いという傾向が見出されました。「メス犬は穏やかでオス犬はやんちゃ」といった性格表現は多くの場合逸話的なレベルを出ませんが、ジャーマンシェパードに関しては客観的なデータによって裏付けられているようです。この犬種は体が大きく噛む力も強いため、万が一攻撃されると病院送りにされることも少なくありません。特にオス犬の飼い主は、最低限しつけに関する基礎知識を備えておくことが強く推奨されます。 ケネルクラブの登録数ベースで見たとき、ジャーマンシェパードの人気は2007年の4.5%(12,116/270,707)から2016年の3.4%(7,751/227,708)といった具合に下落傾向を見せています。この現象の背景には、フレンチブルドッグ(2006年の526頭→2015年の14,607頭)を始めとした小型短頭種への偏愛があることは間違いありませんが、ジャーマンシェパードの健康に対する懸念が膨れ上がっているという可能性も否定できません。2016年、クラフツのドッグショーで腰が異常な位置にあるジャーマンシェパードが最優秀犬として選ばれたことに怒りを覚えた視聴者がケネルクラブにクレームをつけ、結果的にショーの動画をYouTubeから削除するという事態に発展した事は、多くを物語っています(→出典)。 現在、ジャーマンシェパードは「KC Breed Watch」という監視システム下に置かれ、カテゴリ3の「モニタリングと追加的サポートがとりわけ必要な犬種」とみなされています。特に懸念されているのは、かかとの位置が内側に食い込む「カウホック」(cow hock)、足首の屈曲度が強すぎる「シックルホック」(sickle hock)、後膝関節の異常な捻れといった外見上の変化です。いびつな体型をした犬がドッグショーで最優秀とみなされると、その犬を基にしてさらなる繁殖が繰り返されることになります。「トップブリーダー」とは聞こえのいい響きですが、もし世の中に「良いブリーダー」というものが存在しているのだとしたら、犬の健康を第一に考えていることが最低条件のはずです。